公認心理師必携テキスト 改訂第2版




【公認心理師試験のおすすめ参考書・テキスト(独学勉強法/対策)】も確認する

改訂第2版 はじめに

2018年4月に出版しました本書の初版は、おかげをもちまして大変好評をいただきました!

そもそも「受験そのものを諦めていたけれど、この本に出会って(懐しい先生方の写真も掲載されていて)やる気になり、合格できた!」という嬉しい便りもいただきました。振り返れば本書の最初の企画は2017年の公認心理士法の施行に伴って立案されました。当時は、もちろん類書はなく、試験でどのような出題がされるかも皆目見当がつきませんでした。そのため2016年から厚生労働省において約10回にわたって開かれた「カリキュラム等検討会」を全て傍聴したり、主要学会や職能団体が発表しているカリキュラム案等、参考にできるものは全て参照しました。

その結果、やや遅れ気味だった本書の編集最終段階を待っていてくれたかのように発表された、出題基準(ブループリント)にほぼ沿った構成にすることが可能になりました。出版した当時は「類書がたくさん出されるだろう」と思っていましたが、シリーズものや試験対策本は出版されても、本書のような本格的かつ体系的に最新情報を盛り込んだ一冊もののテキストは、今日に至るまで出版されていません。そして、いよいよ第1回、第2回と試験が実施されると、事例問題はともかく、知識問題に関してはそのほとんどが本書の記述範囲から出題されていたと言っても過言ではありません。また、今後の傾向として事例問題であっても見解が可愛いがちな「臨床的判断」を求める問題よりも、「事例に関連する知識」を求める傾向が強まっています。

初版出版以来、いくつかの誤植や誤表記に関するご指摘もいただき、増刷を重ねるごとに修正してきました。今回それらを含め、さらに重複した記述をカットし、最新の情報を加えました。また、各方面からのご要望にお応えして、索引を充実させて内部参照を丁寧に案内しました。予想事例問題は、すでに過去問がたまってきていますので、その意義はなくなったと考えて削除し、その分、テキストの記述を増やしました。これらにより、事典としての利便性もぐっと高まったと思います。また、内容的にも今回の改訂によって、より出題基準にマッチした「深く広い」知識が得られるものとなったと確信しています。

初版の序に書きましたように、「不完全な人間が、同じく不完全な悩み苦しむ人をどのように専門家として支援できるのだろうか」という問いは絶えません。「人の心が人の心を支える」ということの尊さと難しさを今日まで感じなかったことはありません。そのためにはやはり支援者側は「祈りをこめて学び続け」「勇気と誠意を持って実践する」という他はないでしょう、その祈りは、今回の改訂に携わった執筆陣の中で今も絶えることなく続いています。

ぜひ本書を心理支援の専門家としての最初の乗り越えるべき「ハードル」への補助具として活用していただき、その後に続く本格的な専門家への道の道標として、末長くご利用いただければ幸いです。また、国家試験対策としては、同じく学研メディカル秀潤社刊の「国家試験問題解説集」と併用していただくことでより一層の「知の定着化」がはかられると思います。

最後になりましたが、本書の改訂に多大なる貢献をいただきました学研メディカル秀潤社の黒田周作氏、瀬崎志歩子氏、須川真由美氏、合田敬子氏に重ねて感謝して、序の言葉とさせていただきます。

2020年春
編集責任 福島哲夫(大妻女子大学教授・成城カウンセリングオフィス所長)

福島 哲夫 (編集), 尾久 裕紀 (編集), 山蔦 圭輔 (編集), 望月 聡 (編集), 本田 周二 (編集)
学研プラス (2020/3/23)、出典:出版社HP

初版 はじめに

公認心理師は、新たに国家資格化された「心の問題の専門家」である。そして、この資格は「汎用性」と「統合性」を期待された資格である。すなわち保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働をはじめとする各分野で活躍し(汎用性)、そのためには対象者の特性や状況に応じて様々な種類の支援ができなくてはいけない(統合性)言葉をかえて言うならば、「対象と問題と関係に応じて、アセスメントを踏まえて、柔軟に対応できる専門家」として期待されていると言っていいだろう、そして同時に、「対象者の痛みに寄り添い、より安全で肯定的な変容を促す専門家」としても期待されている。

しかし、この期待に応えるのは簡単ではない、不完全な存在である人間が、同じく不完全な悩み苦しむ人をどのように専門家として支援できるのだろうか。そもそも人は不完全であるし、この世界には不条理が絶えない、さらに近年、テクノロジーの発達に反比例して、世界中に不条理性と分断・孤立化が増している。地球温暖化、戦争、政治・経済等々を通じてその様相は否定しがたくわれわれに迫りつつある。そして、心理支援を志す私たちも、その私たちの前に登場する個々の人々も、このような世界的な苦しみと無縁ではありえない、とくに現代人の「孤独感」は、たとえ表面上は取り繕えたとしても、深刻なレベルまで深まっていると感じる。

このような状況において、支援者側は「祈りをこめて、学び続け」「勇気をもって実践する」よりほかに手立てはない、最新の理論、心理学に限られない諸学問、そして何より目の前の悩み苦しむ人から学び続け、支援者側がリスクテイクしながらも支援し続けなくてはならない、このような「祈りながらの学びと実践」の態度と必要性を本書の行間から感じ取っていただけたなら幸いである。

今回、第一線の編集委員と執筆者陣に恵まれて、本書を上梓できたことは、このうえない幸せと表現するほかない。また、本書の編集委員、執筆陣のほとんどが、狭義の「臨床」をはじめとする実践活動に勤しんでいる現役の専門家たちである。このような執筆陣の「臨床的姿勢」、そして「祈り」を感じながらお読みいただければ焼倖である。

とくにこの度、出版間近になってブループリント(国家試験出題範囲とそのキーワード)が公表された関係で、急な加筆と照合をお願いした執筆者・編集委員には厚く感謝したい、集中的に急ぎの加筆作業に取り組んでいただいた山蔦圭輔先生、本田周二先生、なかでもブループリントとの照合作業に特別ご尽力いただいた山蔦圭輔先生に重ねて深く感謝したい、おかげでブループリントに示された国家試験出題範囲を完全に網羅した、本邦初のテキストとなった。

本書はカラー刷りで、写真や図表も豊富に取り入れた。なかにはユーモラスなものも、必ずしも必須ではないものもある。これらはすべて、読者諸氏の理解と記憶の助けになることをめざして、あるいは「楽しく読める」ことをめざしての、あえての挿入である。ぜひとも楽しみながら、画像記憶や情動記憶とともに内容の理解と記憶を進めていただきたい。最後に、学研メディカル秀潤社の皆様、とくに編集部の黒田周作氏、坂本暁子氏に心より感謝の意を表したい。

2018年4月
編集責任 福島哲夫(大妻女子大学教授・成城カウンセリングオフィス所長)

福島 哲夫 (編集), 尾久 裕紀 (編集), 山蔦 圭輔 (編集), 望月 聡 (編集), 本田 周二 (編集)
学研プラス (2020/3/23)、出典:出版社HP

目次

1章 公認心理師としての職責の自覚
1.公認心理師の役割/福島哲夫
2.公認心理師の法的義務と必要な倫理/金沢吉展
3.支援を要する者などの安全性の最優先と利用者中心の立場/金沢吉展
4.守秘義務と情報共有の適切性/金沢吉展
5.保健医療、福祉、教育そのほかの分野における公認心理師の具体的な業務
①保健医療分野における具体的な業務/西野入篤
②福祉分野における具体的な業務/平野貴大
③教育分野における具体的な業務/鍋谷聡子
④司法・犯罪分野における具体的な業務/村尾泰弘
⑤産業・労働分野における具体的な業務/種市康太郎

2章 問題解決能力と生涯学習
1.自己課題発見と解決能力/福島哲夫
2.生涯学習への準備/福島哲夫

3章 多職種連携・地域連携
1.多職種連携、地域連携による支援の意義とチームにおける役割/古田雅明
2.実習における関係者の役割分担と、チームの一員として参加すること/古田雅明
3.医療機関における「チーム医療」の体験/古田雅明

4章 心理学・臨床心理学の全体像
1.心理学の成り立ち/本田周二
2.人の心の基本的なしくみと働き(心の理論)/本田周二
3.臨床心理学の成り立ち/山蔦圭輔
4.臨床心理学の代表的な理論/山鳥圭輔
5.研究倫理/山鳥圭輔

5章 心理学における研究
1.心理学における実証的研究法/本田周二
2.質的データを用いた実証的な思考法/福島哲夫

6章 心理学統計法
1.統計に関する基礎的な知識/紺田広明
2.心理学で用いられる統計手法/紺田広明

7章 心理学に関する実験
1.実験の計画立案/本田周二
2.実験データの収集と処理/本田周二
3.結果についての適切な解釈と報告書の作成/本田周二

8章 知覚および認知の心理学
1.人の感覚・知覚などの機序とその障害/井上和哉
2.人の認知・思考の機序とその障害/井上和哉

9章 学習および言語の心理学
1.経験をとおして人の行動が変化する過程/生駒忍
2.言語習得の機序/生駒忍

10章 感情および人格の心理学
1.感情に関する理論や感情喚起の機序/望月聡
2.感情が行動に及ぼす影響/望月聡
3.人格の概念と形成過程/望月聡
4.人格の類型や特性など/望月聡

11章 脳・神経の働き
1.脳神経系の構造と機能/山田一夫
2.記憶・感情などの生理学的反応の機序/山田一夫
3.高次脳機能障害と必要な支援/望月聡

12章 社会および家族・集団に関する心理学
1.対人関係や集団における人の意識や行動についての心の過程/本田周二
2.人の態度や行動についてのさまざまな理論/市村美帆
3.家族や集団および文化が個人に及ぼす影響/市村美帆

13章 発達心理学
1.誕生から死に至るまでの生涯における発達と各発達段階の特徴/外山美樹
2.認知機能の発達や感情・社会性の発達/外山美樹
3.自己と他者の関係性の在り方と心理的発達/外山美樹
4.発達障害など、非定型発達についての基礎的な事項や考え方/外山美樹
5.高齢者の心理社会的課題と必要な支援/外山美樹

14章 障害者・障害児心理学
1.身体障害、知的障害および精神障害/佐藤美幸
2.障害者・障害児の心理的特徴や必要な支援/佐藤美幸

15章 心理的アセスメント
1.アセスメントに有用な情報(生育歴や家族の状況など)とその把握の手法/山蔦圭輔
2.心理検査の種類、成り立ち、特徴、意義および限界/山蔦圭輔
3.心理検査の適用および実施、解釈/城月健太郎
4.生育歴などの情報、行動観察および心理検査の結果の統合と包括的な解釈/藤井靖

16章 心理に関する支援
1.代表的な心理療法やカウンセリングの歴史、概念、意義および適応/鍋谷聡子
2.訪問や地域支援の意義/萩原豪人
3.心理に関する支援を要する者の特性や状況に応じた適切な支援/福島哲夫
4.良好な人間関係のためのコミュニケーション能力/種市康太郎
5.心理療法やカウンセリングの適用の限界/福島哲夫
6.プライバシーへの配慮/萩原豪人

17章 健康・医療心理学
1.ストレスと心身の疾病との関係/山本賢司
2.医療現場における心理社会的課題と必要な支援/山本賢司
3.さまざまな保健活動において必要な心理社会的支援/山本賢司
4.災害時などに必要な心理に関する支援/山本賢司

18章 福祉心理学
1.福祉現場において生じる問題とその背景/平野貴大
2.福祉現場における心理社会的課題および必要な支援/平野貴大
3.虐待、認知症に関する必要な支援/平野貴大

19章 教育・学校心理学
1.教育現場において生じる問題とその背景/佐藤史緒
2. 教育現場における心理社会的課題と必要な支援/佐藤史緒

20章 司法心理学(犯罪心理学を含む)
1.犯罪,非行,犯罪被害および家事事件に関する基本的事項/嶋田洋徳、田部井三貴
2. 司法・犯罪分野における問題に対して必要な 心理的支援/嶋田洋徳、田部井三貴

21章 産業・組織心理学
1. 職場における問題に対して必要な心理的支援/尾久裕紀
2. 組織における人の行動/尾久裕紀

22章 人体の構造と機能および疾病
1. 心身機能と身体構造およびさまざまな疾病と障害/矢野広
2. 心理的支援が必要な主な疾病/矢野 広

23章 精神疾患とその治療
1. 代表的な精神疾患/尾久裕紀
2. 向精神薬をはじめとする薬剤による心身の変化/尾久裕紀
3. 医療機関との連携/尾久裕紀

24章 関係行政論
1.公認心理師法一公認心理師の法的責任/野村和彦
2.保健医療分野に関する法/野村和彦
3.福祉分野に関する法/野村和彦
4.教育分野に関する法/野村和彦
5.司法・犯罪分野に関する法/野村和彦
6.産業・労働分野に関する法/野村和彦

25章 力動論に基づく心理療法の理論と方法
1.力動論に基づく心理療法の理論と方法/福島哲夫

26章 行動論・認知論に基づく心理療法の理論と方法
1.行動論・認知論に基づく心理療法の理論と方法 /山蔦圭輔

27章 心の健康教育に関する理論と実践
1. 心の健康教育に関する理論と実践/山鳥圭輔

付録
公認心理師試験出題基準(令和元年版)
公認心理師法(平成二十七年法律第六十八号)
公認心理師法第42条第2項に係る
主治の医師の指示に関する運用基準について

福島 哲夫 (編集), 尾久 裕紀 (編集), 山蔦 圭輔 (編集), 望月 聡 (編集), 本田 周二 (編集)
学研プラス (2020/3/23)、出典:出版社HP