和食検定 基本編




はじめに

世界中、どこの国にもその風土や自然環境に根ざした食文化があります。そして、その食文化に誇りを持ち、祝祭日、記念日や大切なお客様が来られたときには、丹精を込めて食事をつくり、心からのおもてなしをすることは世界共通の風俗習慣です。

幸いにも、山海の自然に恵まれ、長い歴史を持つ日本では、豊かな地域色と食材を基に、調理技術の向上とともに素晴らしい食文化が培われてきました。加えて、世界中の食材や食品が導入され、とりわけ洋食の影響を受け、和食も独特な進化を遂げています。

今や世界中の人々が異国を旅する時代となり、訪れる国の文化伝統に触れて、感動し、また次の目的地へと移動しています。日本を訪れる外国人の数も、政府の観光政策により年間目標3000万人に拡大しつつある中で、和食の人気度は、興味関心事のつねにベスト3にあげられております。

しかしながら、我々日本人がどれだけ和食のことを知り、どれだけ人々に説明できるでしょうか。洋食が普及した昨今、若い人々の和食離れも起きています。他国民と同じように、日本人が日本人として世界に出て行ったときには、和食文化の素晴らしさを誇りを持って紹介できるようにしたいものです。自国の伝統文化に誇りを感じる日本人は、外国人からも国際人としての日本人として評価され尊敬されます。

従って、和食に携わる業界人のみならず、世界に立ち向かうすべての日本人が、自国の伝統文化、とりわけ和食文化に興味関心を抱き、コミュニケーションの一つ、また話題の一つとして取り組んでもらいたいと思います。こうした願いを基に、和食検定を立ち上げました。

和食の理解、そしてその接遇は、そのほとんどが先人の自らの学びの中で培われ、長い年月の中で伝承されてきました。それなりに洗練されたものがあり、尊重すべきものですが、一方において、時間を掛けてじっくりと人を育てる時代も過ぎ、効率的な人材育成が必要とされる時代となってきています。これまでに培われてきたノウハウを、次世代に正しく効率的に多くの人々へ継承するためには、実務知識の文章化、そして体系化が必要になってきます。

和食検定は、必要とされる基本知識と専門知識、実務の技術を体系的に学ぶために、以下を三大目的とし、入門編・基本編・実務編に大別し、編集しております。

(1)和食文化の正しい理解と継承
(2)日本古来のおもてなしを中心とした業界人のレベルアップ
(3)日本文化の魅力を国内外に発信できる人材の育成

入門編は、和食文化についての基本的な事柄を解説しています。幅広く内外の若い人々や一般の人々を対象に、日本語と英語を併記して和食学習への導入教材となるものです。基本編では、日本料理に関する理解と食材や食事作法などの知識を深めます。これは業界の新入社員を含め、この業界を目指す学生、また業界関係者に限らず、和食への造詣を深めたいという社会人一般の方々も対象とした内容にしています。

実務編は、和食接遇の実務経験を1年以上有し、その経験をベースに部下を指導、育成しながら、マネジメント意識を育む段階に入った方々を主な対象とした内容です。接遇のポイント、着物の知識や和室での振る舞い、これにマネジメントの基本知識を学びます。

試験では、その習得度により入門編は3級、2級、1級、基本編と実務編は2級と1級とにレベル分けがされています。また、接遇実務者であれば現場で、一般の方であれば国内外で外国人の方とコミュニケーションをはかる際に、日本が誇る文化としての和食を正しくお伝えできるように、それぞれの編に英語での学習を組み込んであります。

和食の捉え方としては、多面的な見方があり解釈もさまざまで、実務の面でもそれぞれにやり方や考え方がありますが、本書は多くの業界有識者の知識や知恵を頂戴し、業界関係者の人材育成、そして一般の方々の啓蒙、さらに国際文化交流の一助となることを念願し、まとめています。自己啓発の一つとしてご活用ください。

なお、本書制作にご協力いただいた方々に感謝するとともに、和食に造詣の深い方々のご指摘、ご意見を頂戴できれば幸いです。

2016年3月
一般財団法人日本ホテル教育センター
理事長石塚勉

日本ホテル教育センター (編集)
出版社: 日本ホテル教育センター (2011/10/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

和食検定実施要領

第1章 料理
1和食文化の理解I
(1)日本料理の変遷
1)神話や伝説の時代
①食べ物の起源とは
②日本料理はいつ生まれたか
③箸の起源について

2)縄文時代

3)弥生時代・古墳時代
①稲作の浸透
②中国から見た日本の食生活.
③調味料と乾燥果実

4)飛鳥時代・奈良時代
①肉食禁止令による日本食文化の確立
②中国から箸が伝来
③塩、酢、醤

5)平安時代
①料理好きな光孝天皇
②大饗料理の誕生
③延喜式の誕生と包丁の流行

6)鎌倉時代
①質素な食による健康体と食事習慣
②精進料理の誕生

7)室町時代.
①包丁式の確立
②米食の一般化と本膳料理の誕生
③茶道、茶懐石の誕生

8)安土桃山時代
9)江戸時代
10)明治時代以降

(2)日本料理の概要
1)日本料理の定義
2)精進料理
3)本膳料理
4)懐石料理(茶懐石)
5)会席料理

6)専門料理
①鰻
②天ぷら
③すし
④河豚
⑤すき焼き
⑥しゃぶしゃぶ
⑦焼き鳥
⑧すっぽん(鼈)
⑨弁当

7)郷土料理

(3)日本料理の特徴
1)神人共食という祖先の宗教観
①四季の恵み豊かな風土
②神人共食とは
③稲作文化とのかかわり
④日本料理の主な調理法
⑤料理、器を目でも愛でる
⑥外来食がいつしか日本の専門料理に

2)日本の風土とのかかわり
暦について

3)定式
①陰陽五行説
②走り・旬・名残
③切り方(包丁文化)
④盛り付け
⑤献立

2日本料理の食材
(1)四季を味わう
1)春の食材と料理
2)夏の食材と料理
3)秋の食材と料理
4)冬の食材と料理
5)季節を問わず使われる食材

(2)味を深める
1)料理とだし、調味料
①だし
②調味料

2)料理とあしらい

(3)言葉を楽しむ
1)料理名と語源
①吸い物・汁物
②造り
③煮物
④焼き物
⑤蒸し物
⑥揚げ物
⑦和え物
⑧珍味・その他
⑨禅寺での隠語

2)調理上の用語

3日本料理のしきたり
(1)歳時に親しむ
1)正月のおめでたい料理
①「正月」とは
②門松
③注連飾り
④鏡餅
⑤お節料理
⑥お屠蘇
⑦雑煮

2)冠婚葬祭の料理(お祝い、儀式の料理)

3)歳時と年中行事
①お食い初め
②七五三
③長寿の祝い
④お盆
⑤中秋の名月(お月見)
⑥大晦日

4)五節供(五節句)にちなんだ料理
①人日
②上巳
③端午
④七夕
⑤重陽

(2)いわれを知る
1)縁起物
①松竹梅
②紅白
③蝶
④熨斗
⑤鶴亀
⑥末広
⑦吉祥文字
⑧出世魚
⑨鰹
⑩福寿草
⑪馬尾藻
⑫七福神
⑬福笹と熊手
⑭招き猫
⑮盛り塩
⑯榊
⑰奇数
⑱南天

2)その他
①水引
②三方
③紙掻敷の折形
④左上位
⑤四君子
⑥一膳飯
⑦影膳(陰膳)

3)「ハレ」と「ケ」

第2章 接遇
1和食文化の理解Ⅱ
(1)日本料理のおもてなし
1)以心伝心
2)「いただきます」と「ごちそうさま」
3)喜心・老心・大心とは

(2)日本料理の器
1)陶磁器
①器の形による分類
②焼き物の作成工程
③焼き物の種類による分類
④産地による分類
⑤手法、技法による分類
⑥釉薬による分類
⑦装飾による分類

2)漆器
①代表的な塗り物
②漆器の手法
③お膳と漆器
④漆器の扱い方

(3)日本料理と著
1)著の歴史

2)著の種類
①ハレの箸とケの箸
②割り箸
③取り箸と手元箸
④料理箸
⑤茶事用の箸.
⑥塗り箸について

3)箸袋(関東)・箸紙(関西)
4)箸置き
5)箸使いとタブー

(4)日本酒の知識
1)日本酒の成り立ち
①日本酒(清酒)とは
②歴史
③原料
④製造工程

2)酒の種類と特徴
①酒税法
②特定名称酒
③呼び名と味わいの特徴

3)日本酒をおいしく飲むために
①味の基準
②温度による味わい
③季節を感じさせる酒

(5)日本茶の知識
1)日本茶の種類と特徴
①日本茶の歴史
②お茶の種類
③日本茶の分類

2)おいしい淹れ方
①水について
②湯の温度と抽出時間
③湯の量
④茶葉の量
⑤淹れ方の留意点
⑥それぞれのお茶の淹れ方

2食事作法
(1)日本料理店での食事作法
1)和食をいただく前に
①TPOにあった服装
②予約
③食事中に中座しないために
④コート類について
⑤携帯電話はマナーモードに
⑥子供連れの配慮

2)身だしなみについて
①髪の毛
②香水
③メイク
④装身具(アクセサリー)
⑤靴
⑥懐紙

3)席に着いたら
①姿勢よく座る
②足元
③バッグの位置

4)おしぼりについて

5)ナプキンの使い方
①ナプキンの意味
②ナプキンを取るタイミング
③ナプキンの使い方
④ナプキンの置き方

6)和食を楽しむために
①日本料理の特徴
②サービスする人への配慮

7)食事中に気を付けたいこと
①食事のスタート
②してはならない格好
③会話について

8)作り手へのマナー
①熱いものは熱いうちに
②好き嫌い
③アレルギー
④タバコ
⑤わからないことがあったら

9)飲み物の作法
①乾杯と献杯
②日本酒のお酌
③お茶

10)器の扱い方
①手に持ってよい器
②いただくとき
③蓋物の扱い.
④食後の器への配慮

11)美しく見えるいただき方
①一口でいただける大きさを考える
②食べる順序
③音
④口元

12)美しい箸使い
①割り箸の扱い
②箸袋の扱い
③箸と箸置き
④箸の取り上げ方と置き方
⑤箸の持ち方
⑥箸と器の扱い

13)和食店でのコース料理の作法

14)その他の料理の作法
①盛り合わせになった料理
②鍋料理
③その他専門料理
④お弁当

(2)異文化の食事作法
1)文化の違いによる作法の違い
①ナイフとフォークの文化
②スプーンの文化
③箸の文化
④手食の文化

2)西洋料理の食事作法
3)中国料理の食事作法
4)韓国料理の食事作法
5)インド料理の食事作法

第3章 和食基礎英語
1和食基礎英会話
(1)英語は怖くない
(2)接客の基本フレーズ
(3)役に立つ基本的なフレーズ
(4)電話による応対

(5)入店からお見送りまで
1)ご案内
2)ご注文
3)料理の提供
4)クレーム&トラブル
5)会計
6)お見送り

2和食基礎単語集
必須英単語
参考英単語

和食検定・基本編練習問題/解答
第1章料理
第2章接遇
第3章和食基礎英語
解答

参考文献
索引

日本ホテル教育センター (編集)
出版社: 日本ホテル教育センター (2011/10/1)、出典:出版社HP

実施要領

1検定試験の趣旨
2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録され、和食は世界的に注目を集めている。その中で、日本の持つ固有の食文化やおもてなしの精神の素晴らしさを再認識し、和食と和食文化を普及、教育、改善、保護、継承していくための努力が広く求められている。また、2013年に訪日外国人旅行客が1000万人を超え、観光庁のビジット・ジャパン・キャンペーンの取り組みに沿って、海外の方々へ正しい知識を広めていくことも重要な課題の一つである。日本の観光資源に対する関心の高まりを受けて、接遇の現場においても、日本の伝統的な食を通した国際文化交流の窓口としての努力を始める必要がある。

本検定制度は、日本の食文化を正しく理解し、正しく伝えるための基礎知識の普及と、和の食文化を継承、発信していくために必要な専門知識と実務知識の理解度を測るものである。具体的には、

(1)和食文化の正しい理解と継承
(2)日本古来のおもてなしを中心とした業界人のレベルアップ
(3)日本文化の魅力を国内外に発信できる人材の育成

以上の3点を目的としている。和の食文化に対する興味、関心を高め、その普及と継承への意識を向上し、また業界の人材育成に寄与するため、多くの関係者の協力を得ながら、一般財団法人日本ホテル教育センターが実施する。

2検定試験の特徴

(1)和食の基本知識から和食接遇に関する実務知識を幅広く習得できるように配慮した。
(2)和食に関する基本知識、和食接遇に関する現場での実務知識、キャリアアップに向けた専門知識を3つの大きな柱とした。
(3)和食検定初級レベルは和の食文化のベースとなる基本的な知識を習得するための学生、外国人、一般の方を対象としている。
(4)和食検定基本レベルは和食に興味、関心を持つ一般の方から実務経験者までを対象としている。
(5)和食検定実務レベルは実務経験者を対象としている。
(6)公式テキストである入門編(初級レベルに準拠)、基本扁(基本レベルに準拠)、実務編(実
務レベルに準拠)ともに、英語で和食や日本の文化を紹介するための学習を組み込んだ。
特に基本的な知識を学ぶ入門編は日英併記版とした。
(7)和食検定試験は、一般財団法人日本ホテル教育センターが認可する制度である。

3検定試験の名称および本部

(1)名称 和食検定
(2)検定本部
一般財団法人日本ホテル教育センター
和食検定本部
〒164-0003東京都中野区東中野3-15-14
TEL(03)3367-5663
FAX(03)3362-5940

4検定試験の内容および範囲
(1)内容
和食文化の基本知識、和食接遇における実務知識習得の目標達成度を測定する。
(2)範囲
初級レベルはマークシート方式による4択問題とし、100問を超題する。
基本レベル、実務レベルはマークシート方式による4択問題とし、合計200開を出題する。
(3)認定基準
初級レベルは1級、2級、3級ともに共通問題を使用し、全体の正解率による認定級を設ける。基本レベルと実務レベルは、それぞれ1級、2級ともに共通問題を使用し、「2級」は各区分の正解率が60%以上、かつ全体の正解率が65%以上。「1級」は各区分の正解率が80%以上、かつ全体の正解率が85%以上とする。

それぞれのテキストでの学習内容

実務編テキスト:和食サービスから店舗運営までの専門知識と実務知識を学び指導力を培います。
基本編テキスト:和食の実務に必要とされる基本的な知識を体系的に幅広く学び、プロとしての意識を高めます。
入門編テキスト:和食を生み出した日本の食文化についての初歩的な知識を日英併記版で解説します。

5受験対象者および評価基準

(1)初級レベル
①受験対象者希望者全員
②評価期待基準
a.和食と和食文化の成り立ちに関する初歩的な知識を持っている。
b.身近な食の慣習や食習慣などの意味合いを理解している。
c.和食の特徴を理解し、和の食文化継承への高い意識を持っている。
d.英語による和食文化発信の重要性を理解している。

(2)基本レベル
①受驗对象者希望者全員
②評価期待基準
a.日本料理の基本的な歴史、概要を理解している。
b.日本料理の特徴を理解している。
c.日本料理の食材の知識を持っている。
d.日本料理のしきたりを理解している。
e.日本料理に欠かせない器や日本酒などの基本知識を持っている。
f.会席料理の食事作法を理解している。
g.異文化の食事作法を理解している。
h.接遇に必要な基本英語、食材や料理の単語の知識を持っている。

(3)実務レベル
①受験対象者基本レベル1級または2級の認定を受けた方
②評価期待基準
a.日本料理の接遇の基本を理解している。
b.着物に関する基本的な知識を持っている。
c.和室に関する基本的な知識を持っている。
d.時間帯や顧客などによる様々な対応の基本を理評している。
e.接客用語を理解している。
f.安心安全に繋がる基本的な知識を持っている。
g.店舗運営に関する基本的な知識を持っている。
h.接遇や食文化を説明するために必要な英会話の知識を持っている。

6受験の手続き

試験は以下の手続きにより行われる。
(1)定期試験日
年2回、2月、10月に実施する。
実施団体には、事前に受験マニュアルを送付し試験案内を行う。

(2)試験会場
原則として検定本部が指定した場所とする。

(3)試験時間
初級レベル:60分基本レベル/実務レベル:90分

(4)出願方法
財団HP(www.jec-jp.org)でご参照いただくか、あるいは和食検定本部までお問い合わせください。

(5)受験者の心得
・日本料理の接遇に焦点を当てた試験である以上、おもてなしの精神を有する受験者であることが絶対条件である。よって、受験にあたり、服装や身なりにおいても、試験官によってふさわしくないと判断された場合は受験できないものとする。
・受験に必要なものとして、筆記用具(鉛筆またはシャープペンシルHB以上のもの・消
しゴム)と受験票を用意すること。
・指定された時間前に着席して筆記試験を待ち、約10分間の説明後、試験が開始される。解答は、選択肢の中から選び、その番号を解答用紙に鉛筆で黒く塗り潰すマークシート方式。間違った番号を選択した場合は、丁寧に消しゴムで消さないと重複解答と見なされ、間違いと判断される。
・交通事情等により、著しく時間を変更せざるを得ないケースが生じた場合、検定本部の指示により時間変更を行うことがある。

日本ホテル教育センター (編集)
出版社: 日本ホテル教育センター (2011/10/1)、出典:出版社HP