ビジネスコンプライアンス検定のおすすめ参考書・テキスト(独学勉強法/対策)




ビジネスコンプライアンス検定の概要

コンプライアンス経営のために必要な知識、活用能力を客観的に証明するのがビジネスコンプライアンス検定です。ビジネスコンプライアンス検定の級はBASIC WEBテスト、初級、上級での3種類がありますが、ここでは初級と上級のおすすめテキストをご紹介します。ビジネスコンプライアンス検定の勉強法、合格への早道としては主催団体がだしているカリキュラムが参考になります。

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【初級】ビジネスコンプライアンス検定のおすすめ参考書・テキスト

1. 「初級ビジネスコンプライアンス―「社会的要請への適応」から事例理解まで」(東洋経済新報社)

まずは初級で公式でもおすすめとされている参考書です。第1部でコンプライアンスの基本論・総論、第2部でビジネスコンプライアンスと法・ルールが取り上げられており、初級ではほぼ必須となる項目が整理され∑網羅されております。

2. 「ビジネスコンプライアンス検定初級問題集」(サーティファイ)

サーティファイ コンプライアンス検定委員会
出版社: 株式会社サーティファイ、出典:amazon.co.jp

公式の初級問題集となります。「ビジネスコンプライアンス検定初級問題集」を終えた辺りで最後の全体の復習として利用できます。試験要項 (認定基準、出題形式、出題範囲等)の確認も含め、過去4回の問題の正答と解説もついており、時代の流れと変わっていくコンプライアンスの基礎を学ぶことができます。

 

【上級】ビジネスコンプライアンス検定のおすすめ参考書・テキスト

3. 「企業法とコンプライアンス 第3版」 (東洋経済新報社)

郷原 信郎
出版社: 東洋経済新報社; 第3版 (2017/10/13)、出典:amazon.co.jp

次に上級で公式でもおすすめとされている参考書です。企業にとって重要な法律ないし法分野として、会社法、独占禁止法、金融商品取引法、知的財産法、労働法の5つを取り上げ、「企業法としての体系」を重視しつつ、趣旨・目的との関係を中心に解説されており、また新版では最新のコンプライアンスの基本論(環境変化への適応としてのコンプライアンス)を第5章に追加してあります。

4. 「ビジネスコンプライアンス検定上級問題集」(サーティファイ)

サーティファイ コンプライアンス検定委員会
出版社: 株式会社サーティファイ; 2版 (2008)、出典:amazon.co.jp

最後に公式の上級問題集となります。上記「企業法とコンプライアンス」を終えた辺りで最後の全体の復習として利用できます。試験要項 (認定基準、出題形式、出題範囲等)の確認も含め、過去4回の問題の正答と解説もついており、時代の流れと変わっていくコンプライアンスの基礎を学ぶことができます。

【初級】合格までのカリキュラム – 勉強方法

約20時間での勉強時間での配分となります。

時間 項目 初級対策テキスト/問題集
1 第1部 コンプライアンスの基本論・総論
1 コンプライアンスの基本
第1部 第1章
2 第1部 コンプライアンスの基本論・総論
2 コンプライアンスの基本的手法
第1部 第2章
3 第1部 コンプライアンスの基本論・総論
3 コンプライアンス違反に関する責任
4 法令その他のルールの基本的役割
第1部 第3章、第4章
4~12 第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール
1 国の組織や統治の基本原理・原則を定める根本規範
2 事業活動におけるコンプライアンス
第2部 第1章、第2章
13 第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール
3 消費者に対するコンプライアンス
第2部 第3章
14 第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール
4 従業員に対するコンプライアンス
第2部 第4章
15 第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール
5 インターネットとコンプライアンス
第2部 第5章
16 第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール
6 刑法とコンプライアンス
第2部 第6章
17~20 全体の復習 問題集

 

【上級】合格までのカリキュラム – 勉強方法

約40時間での勉強時間での配分となります。

時間 項目 上級対策テキスト/問題集
1 コンプライアンスとは何か 序章第1節
1.5 司法との関係
2 社会的要請と法令との関係
2.5 司法と違法行為の実態に関する日米の違い
3 日本の経済社会の現状に適合したコンプライアンスの在り方
4 コンプライアンスによる問題解決の前提 序章第2節
5~6 企業法と憲法・民法・刑法 第1章第1節
7~8 企業法の体系 第1章第2節
9~11 会社法 第2章第1節
12~13 独占禁止法 第2章第2節
14~15 金融商品取引法 第2章第3節
16~17 知的財産法 第2章第4節
18~19 労働法 第2章第5節
20~23 コンプライアンスと民法各論
24 フルセット・コンプライアンスの5要素と相互関係 第3章第1節
25 コンプライアンス問題に関する事実解明と分析 第3章第2節
26~27 内部統制の法制化への対応 第3章第3節
28 個人情報保護法 第3章第4節
29 公益通報者保護法 第3章第5節
30~33 事例問題・裁判例と解説 第4章第1節第2節
34~40 全体の復習 問題集

公式での配分は初級で20時間、上級で40時間ですが、この辺りはお仕事や学業で時間がなかなか取れない場合など土日でまとめて4,5時間やるような配分でもよいかもしれません。

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目次 – 企業法とコンプライアンス 第3版

はじめに

相次ぐ企業の事件、事故等の不祥事のたびに出てくるのがコンプライアンスという言葉。そ れは、通常「法令遵守」にそのまま置き換えられる。経営者の謝罪会見での言葉も、決まって「法令遵守が不十分だった。今後は法令遵守を徹底して再発防止に努めたい」というものだ。「法令遵守の徹底」が企業不祥事防止の特効薬のようにみなされ、社内外で法令遵守研修が開かれ、コンプライアンス担当者が「法令規則違反」に目を光らせる。社内にはヘルプラインが設置されて「法令規則違反」の密告が奨励される。そのため、コンプライアンス違反に問われることを恐れる社員は萎縮し、社内には事なかれ主義が蔓延し、閉塞感が漂う。しかし、いくら「法令遵守」を徹底しても企業不祥事は後を絶たない。「果たしてこれで良いのだろうか」「コンプライアンスは本当に企業にプラスになっているのだろうか」と疑問に思う人も多いが、なかなか公然とは口にできない。

このような状況の中で、私は、2005年7月、『コンプライアンス革命』と題する著書を公刊し、「法令遵守」から脱却して「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスに転換していくことを訴え、事実の解明、原因究明と是正措置、背景にある構造的問題への取組みを中心とする「フルセット・コンプライアンス」を提唱した。その考え方は少しずつではあるが企業社会に浸透しつつあるように思える。

「法令遵守」を否定することは決して「法令」を軽視することではない。企業が「社会的要請」を把握し、コンプライアンス方針を明確化するためには、法の趣旨・目的と社会の価値観との関係を正しく認識する必要があり、そのためには、企業活動に関する法を体系的に理解すことが不可欠である。

本書は、このような考え方をベースとするコンプライアンスの基本書・実務書として、大部分を私が書き下ろしたものである。

まず、コンプライアンスの前提として、憲法・民法・刑法の基本法、そして企業にとって重要な法律ないし法分野として、会社法、独占禁止法、金融商品取引法、知的財産法、労働法の5つを取り上げ、「企業法としての体系」を重視しつつ、趣旨・目的との関係を中心に解説することに主眼を置いた。そして、フルセット・コンプライアンスの具体的手法を解説し、その中でとりわけ重要となる「事実調査」と「コンプライアンス環境問題の把握と対応」の基本的な手法について詳述した。

本書は、「コンプライアンス経営の推進者・主体者として日々の業務課題の解決に取り組み、具体的な事例について解決手段や対応策を意思決定できる人材」、さらには「コンプライアンス経営の根幹となる高度な法律知識と実践的な価値判断基準を有する人材」を養成することを目標としている。サーティファイのコンプライアンス検定委員会が主催する「ビジネスコンプライアンス検定 上級」は、本書の内容の理解と応用を試すもので、本書は、同検定試験の公式テキストともなっている。なお、第3版では、最新のコンプライアンスの基本論(環境変化への適応としてのコンプライアンス)を第5章に追加した。

本書がコンプライアンスに関する社内教育やビジネスコンプライアンス検定の公式テキストとして活用されることを通して、「社会的要請への適応」をめざすコンプライアンスの浸透に資するものとなることを期待している。

郷原 信郎

上記「ビジネスコンプライアンス検定」に関しては、下記のHPに詳細が紹介されている。
◆サーティファイのホームページ: https://www.sikaku.gr.jp/co/

郷原 信郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社; 第3版 (2017/10/13)、出典:出版社HP

企業法とコンプライアンス 第3版――目次

はじめに

【序章】
第1節 コンプライアンスと法令遵守、企業の社会的責任(CSR)、内部統制
1. コンプライアンスとは何か
(1) コンプライアンスという言葉をどう理解するか
(2) CSR論との関係
(3) 企業の社会貢献(メセナ)との関係
2. 司法との関係
3. 社会的要請と法令との関係
4. 司法と違法行為の実態に関する日米の違い
(1) 日米の司法制度の違い
(2) 違法行為の実態の違い
5. 日本の経済社会の現状に適合したコンプライアンスの在り方
第2節 コンプライアンスによる問題解決の前提
1. 法令についての基本的・体系的理解
2. 事実関係の調査・分析能力
3. 内部統制論の知識・理解
4. 公益通報者保護法への対応

【第1章】企業法の基本的・体系的理解
第1節 企業と憲法・民法・刑法
1. 企業と憲法
2. 企業法としての民法
(1) 民法の基本原則
(2) 企業活動と民法
3. 企業法としての刑法
(1) 刑法の基本原則
(2) 企業活動に関する刑法の適用の特殊性
(3) 刑法の基本原則と企業犯罪
(4) 法人処罰
第2節 企業法の体系
1. 企業法の重要5法の法体系全体における位置づけ
(1) 会社法
(2) 金融商品取引法
(3) 独占禁止法
(4) 労働法
(5) 知的財産法
2. 企業法の重要5法の相互関係
(1) 会社法と金融商品取引法
(2) 会社法と労働法
(3) 独占禁止法と金融商品取引法
(4) 独占禁止法と知的財産法
(5) 独占禁止法と労働法
(6) 知的財産法と労働法

【第2章】 企業法として重要な5つの法
第1節 会社法
1.総論
(1) 会社とは何か
(2) 会社法について
(3) 会社の種類
(4) 株式会社の特色
2. 会社の設立
(1) 会社の設立の意義
(2) 会社の設立の種類
(3) 会社の設立の手続
(4) 引受担保責任と払込担保責任の撤廃
(5) 定款
(6) 出資に関する規制
3. 会社の機関
(1) 総論
(2) 会社法下での会社の機関
(3) 株主と株主総会
(4) 執行機関
(5) 監査監督機関
4. 資金調達
(1) 会社の資金調達方法
(2) 株式
(3) 株式の発行
(4) 自己株式の取得と処分
(5) 自己株式の消却
(6) 単独株主権、少数株主権
(7) 単元株、株券不発行の原則
(8) 新株予約権
(9) 社債、新株予約権付社債
5. 会社の計算
(1) 「会社の計算」の必要性
(2) 資本金
(3) 剰余金分配にかかる統一的な財源規制
(4) 剰余金の分配方法
(5) 分配可能額を超えて剰余金配当を行った取締役等の責任
(6) 計算書類の作成、承認
第2節 独占禁止法
1. 独占禁止法の基礎的概念
(1) 目的規定
(2) 競争の概念の相対性と多様性
2. 独禁法違反の概要
(1) 不当な取引制限
(2) 私的独占
(3) 事業者団体の競争制限行為
(4) 不公正な取引方法
3. 企業結合規制
(1) 実体面
(2) 手続面
(3) 公取委ガイドライン
4. 独禁法の制裁・措置の概要
(1) 排除措置
(2) 課徴金
(3) 刑事罰
(4) 行政調査権限と犯則調査権限
第3節 金融商品取引法
1. 旧証券取引法から金融商品取引法へ
2. 金融商品取引法の基礎的概念
(1) 目的規定
(2) 金商法の「有価証券」
(3) 有価証券の取引の特徴
(4) 金商法による規制の概要
3. 不公正取引の禁止
(1) 不正取引行為の禁止の包括規定
(2) 風説の流布の禁止
(3) インサイダー取引の禁止
(4) 相場操縦の禁止
4. 違反行為に対する制裁
(1) 刑事罰
(2) 課徴金
第4節 知的財産法
1. 知的財産法の概要および知的財産法と企業との関わり
2. 特許法
(1) 知財戦略の重要性
(2) 組織
(3) 職務発明規定
(4) 情報の記録と管理
(5) 知財戦略の展開
(6) 発生した問題の解決手法
3. 商標法
(1) 商標法の保護対象
(2) 商標保護の展開
4. 不正競争防止法
5. 発生し得る問題
(1) 他社の保有する知的財産権の侵害
(2) 自己の保有する知的財産権の濫用
(3) 誤認惹起行為等
6. 知的財産権をめぐるコンプライアンス違反の予防策
(1) 意識づけ
(2) 仕組み
(3) 体制
7. 独占禁止法と特許との関係
第5節 労働法
1. 労働条件の決定の枠組み
(1) 労働契約・就業規則・労働協約の関係
(2) 労働基準法などの強行法規
(3) 労働契約法
(4) 労働条件の決定の二つの構造と経済社会の変化
2. 労働者の採用に関連する問題
(1) 採用
(2) 労働契約の期間
(3) 平等原則
(4) 非典型雇用における問題
3. 労働者の団結権に関連する問題
(1) 労働組合
(2) 団体交渉
(3) 労働協約
(4) 争議行為
(5) 不当労働行為
4. 労働条件
(1) 賃金
(2) 労働時間
(3) 休憩・休日・時間外労働
(4) 休暇・休業・休職
(5) 女性・年少者
(6) 安全衛生・労災補償
5. 労働関係をめぐる様々な問題
(1) 労働契約の変更
(2) 服務規律違反による懲戒
6. 労働契約の終了
(1) 解雇
(2) 辞職
(3) 定年制
7. 労働契約の終了時の問題
(1) 競業避止義務
(2) 秘密保持義務
8. 労働紛争の処理
(1) 労働紛争処理制度
(2) 労働審判

【第3章】 コンプライアンスの基本的手法
第1節 フルセット・コンプライアンスの5要素と相互関係
1. フルセット・コンプライアンスの5要素
(1) 方針の明確化
(2) 組織の構築
(3) 予防的コンプライアンス
(4) 治療的コンプライアンス
(5) 環境整備コンプライアンス
2. フルセット・コンプライアンスの各要素の相互関係
第2節 コンプライアンス問題に関する事実解明と分析
1. 犯罪・違法行為の事実解明
(1) 自主的調査と当局の調査・捜査への協力
(2) 自主的調査の態勢
(3) 自主的調査の基本方針とその手法
2. 「コンプライアンス環境問題」の把握と対応
(1) 問題の把握
(2) 問題への対応
第3節 内部統制の法制化への対応
1. 内部統制の法制化に至る経緯
2. コンプライアンスを目的とした内部統制
(1) COSOフレームワーク
(2) COSOの構成要素①統制環境
(3) COSOの構成要素②リスクの評価
(4) COSOの構成要素③統制活動
(5) COSOの構成要素④情報と伝達
(6) COSOの構成要素⑤監視活動
第4節 個人情報保護法
(1) 個人情報保護法の制定の背景
(2) 個人情報保護法の目的
(3) 個人情報保護法の特徴
(4) 個人情報保護法の基礎的概念
(5) 個人情報の取得・利用に際してのルール
(6) 個人データに関するルール
(7) 保有個人データに関するルール
(8) まとめ
第5節 公益通報者保護法
(1) 公益通報者保護法の概要
(2) 公益通報者保護法の特徴

郷原 信郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社; 第3版 (2017/10/13)、出典:出版社HP

初級 ビジネスコンプライアンス 第2版: 「社会的要請への適応」から事例理解まで

はじめに

近年、企業不祥事や事故によって、会社の社会的信用が著しく損なわれ、場合によっては破綻にまで追い込まれるケースが後を絶ちません。そうした数々の事件の影響により、社会全体に、不祥事を起こさないためにはひたすら法令を遵守することが大切だという誤解が生み出され、企業活動ひいては経済社会そのものが萎縮してしまっています。「コンプライアンス」=「法令遵守」という考え方のもとで、「何が何でも法令に違反しないこと」に意識が向けられすぎているのです。

しかし、経済活動、企業活動は、おとなしくじっとしていることでは成り立ちません。そして、いくら上から下へ「法令を遵守せよ」「違法行為をするな」と命令しても、問題の根本的な解決にはなりません。不祥事を起こさないよう身を縮め続けてばかりいては、経営は成り立たなくなるでしょう。また、問題を解決しないまま放置すれば、身を縮めるのをやめて再び動きはじめたとたんに、不祥事が起こることになるのは目に見えています。問題を解決するには、コンプライアンスを「法令遵守」ではなく、「社会的要請への適応」ととらえることが必要です。

「法令遵守」を否定することは、決して「法令」を軽視することではありません。企業活動に関係する法令を体系的に理解することは「社会的要請」を把握するのに不可欠です。コンプライアンスを正しくとらえ、法令を基本的かつ体系的に理解することで、個々の社員の力を組織のパワーに変えることができるのです。

本書は、「ビジネスコンプライアンス検定」上級編テキスト『企業法とコンプライアンス』に続き、初級編公式テキストとして作製したものです。従来の「倫理法令遵守」を中心とするコンプライアンスの考え方から、「社会的要請への適応」へと大幅な改訂を加えました。そして、企業活動に関係する法令の基礎的かつ体系的な理解を得るべく、第2部「ビジネスコンプライアンスと法・ルール」において企業法の各論にも力を加えています。このテキストを学ぶことを通して、「社会的要請への適応」を貫徹し、この困難な状況から飛躍する企業が増えていくことを期待しています。

鄉原 信郎

郷原 信郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社; 第2版 (2019/5/24)、出典:出版社HP

初級 ビジネスコンプライアンス 第2版――目次

はじめに

第1部 コンプライアンスの基本論・総論

第1章 コンプライアンスの基本
【1】 コンプライアンスとは
【2】 コンプライアンスと法
【3】 日本におけるコンプライアンス

第2章 コンプライアンスの基本的手法
【1】 フルセット・コンプライアンスの5要素
【2】 各要素の相互関係
【3】 コンプライアンスによる問題解決の前提
【4】 コンプライアンス環境マップ

第3章 コンプライアンス違反に関する責任
【1】 コンプライアンスと制裁・責任
【2】 社内規程違反
【3】 法令違反
【4】 各種法令違反に対する刑事罰制度
【5】 行政上の制裁措置
【6】 その他の行政上の不利益的措置

第4章 法令その他のルールの基本的役割
【1】 法令その他のルールとは
【2】 法令の制定過程
【3】 法令の構造
【4】 コンプライアンスに関連する法令(企業法)

第2部 ビジネスコンプライアンスと法・ルール

第1章 国の組織や統治の基本原理・原則を定める根本規範
【1】 憲法

第2章 事業活動におけるコンプライアンス
【1】 民法
【2】 会社法
【3】 独占禁止法
【4】 著作権法
【5】 特許法
【6】 商標法
【7】 不正競争防止法
【8】 金融商品取引法
【9】 個人情報保護法
【10】 名誉権、プライバシー権、パブリシティ権
【11】 環境法

第3章 消費者に対するコンプライアンス
【1】 消費者基本法
【2】 消費者契約法
【3】 特定商取引に関する法律(特定商取引法)
【4】 割賦販売法
【5】 製造物責任法
【6】 消費生活用製品安全法

第4章 従業員に対するコンプライアンス
【1】 労働法
【2】 公益通報者保護法

第5章 インターネットとコンプライアンス
【1】 電子商取引に関する法律
【2】 不正アクセス禁止法
【3】 プロバイダ責任制限法
【4】 特定電子メール法

第6章 刑法とコンプライアンス
【1】 刑法

ビジネスコンプライアンス検定の概要

郷原 信郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社; 第2版 (2019/5/24)、出典:出版社HP

PART 1 第1部
コンプライアンスの基本論・総論
CHAPTER 1
第 1 章 コンプライアンスの基本

【1】 コンプライアンスとは
1 「コンプライアンス」という言葉の意味
我が国では、コンプライアンスの訳語として、「法令遵守」が用いられることが多くなっています。これは、complianceの訳である「法令などを遵守すること」をそのまま短縮したものです。このような訳語がよく使われるようになったのには、「自由競争と法令遵守の組み合わせですべてが解決する」という考え方が影響しているのではないでしょうか。最近の経済構造改革、規制緩和の流れの中で、企業は自由に活動すればいい、自由に競争すべきだという考えが強くなり、「企業の目的は法令に反しない範囲で利潤を追求することなのだ」と単純に割り切る考え方が広まったのです。この考え方自体は、間違ってはいません。明確なルールがある社会の中で、そのルールの範囲内でベストを尽くした人や組織がベストのリターンを得ることができるというあり方は合理的といえます。
しかし、後で述べるように、日本の成文法制度・司法制度のもとではその考え方が妥当しません。しかも、「法令遵守」という言葉が独り歩きしたことによって、コンプライアンスに対する誤解が生じています。「法令さえ守ればよい」「どんな細かいことでも法令に反してはならない」とする考え方がそれです。
そうした中で、「コンプライアンスは法令遵守ではない」という言葉が聞かれるようになってきました。これは、先の「法令さえ守ればよい」という考えに対して、「企業は法令を遵守しているだけでは不十分である。それ以上のもの、社内規則、社会規範、企業倫理すべてを遵守することが求められている」とするもので、「法令」に加えて「企業倫理(経営倫理)」を守らなければならないとする考え方です。この考えでは、コンプライアンスは「法令遵守」と「企業倫理遵守」の両方ととらえ、「倫理法令遵守」という言葉で表されます。この考え方も、何かを「守る」「遵守する」という意味では、コンプライアンスを「法令遵守」とする考え方と同様です。

これらの考え方に対し、コンプライアンスを「遵守」という意味で理解すること自体を疑問視し、「法令」の背後に存在する「社会の要請」に着目する考え方があります。
本来、コンプライアンスという言葉は、「法令」のみに限定して使用されるものではありません。
また、コンプライアンスには、「遵守」という日本語に含まれる「文句を言わずにひたすら素直に守る」というイメージとも異なる意味合いがあります。例えば、医療の世界では、患者に医薬を正しく服用させることを、服薬コンプライアンスといいます。
さらに、complianceの派生元であるcomplyは、語源をさかのぼると「充足する」「調和する」という意味を持っています。
したがって、コンプライアンスは「外部からの要請を充足することで外部との調和を図ること」を意味すると考えるべきなのです。
なぜなら、企業は、社会の中にあって社会とともに成長していくべき存在です。企業は、社会からの要請を敏感に感じ取り、それに柔軟に応えていくことによってはじめて、社会と一体となって発展していけるのです。そのためには、あらかじめ定められた「法令」を無条件に「遵守」するのではなく、なぜその法令が定められているのか、その背後にある「社会的要請」をくみ取り、応じていかなくてはならないからです。
「法令」は何らかの「社会的要請」を満たすために定められています。「法令」を遵守するのはもちろんですが、それ自体に意味があるのではないのです。「法令」の背後にある「社会的要請」に応じることが重要なのです。

2 CSR論との関係
CSR(Corporate Social Responsibility)論とは、「企業が果たすべき社会的責任」と訳され、企業は社会的存在として、最低限の法令遵守や利益貢献といった責任を果たすだけではなく、市民や地域、社会の顕在的・潜在的な要請に応え、より高次の社会貢献や配慮、情報公開や対話を自主的に行うべきであるという考えのことです。
先進国では社会が豊かになるにつれて、経済的成長以外のさまざまな価値観が育まれ、企業評価として、法律や制度で決められた範囲に限らず「より良い行動」をすることが望ましいとする傾向が生まれています。そして、企業がこうした社会的要請に応えることによって、社会的行動の不足や欠落が招くリスクを回避するとともに、社会的評価や信頼性の向上を通じて経済的価値を高めることができると認識されるようになってきているのです。
典型的なCSR活動としては、「地球環境への配慮」「適切な企業統治と情報開示」「誠実な消費者対応」「環境や個人情報保護」「ボランティア活動支援などの社会貢献」「地域社会参加などの地域貢献」「安全や健康に配慮した職場環境」などがあります。
したがって、コンプライアンスを「法令遵守」とする考えに基づけば、コンプライアンスはCSRより「狭い」概念として、CSRに含まれるものであり、コンプライアンスを超えたCSRの固有の領域が存在することになります。
また、コンプライアンスを「倫理法令遵守」とする考えに基づいても、コンプライアンス領域の広さが異なるだけであって、CSRはコンプライアンスを超えたものであることに変わりはありません。

これらの考え方によれば、企業が社会的責任を果たしていくというCSRは企業経営全体、すなわち企業の「意思決定」にかかわるものであり、コンプライアンスはそのうち、法令や倫理を遵守するという部分のみを意味するものになります。この場合、法令を遵守しない経営上の「意思決定」や、企業倫理に反する内容の経営上の「意思決定」をするということは、健全な事業を営む企業であればあり得ないので、コンプライアンスは、経営上の「意思決定」とは別のものだということになります。結局、コンプライアンスは、企業として当然やらなくてはならないことにどれだけ真剣に取り組みコストをかけるかという、事業遂行上の「コスト」の問題ということになるのです。
これに対し、コンプライアンスを「社会的要請への適応」と理解する考え方によれば、「企業が果たすべき社会的責任」としてのCSRは、コンプライアンスとほとんど重なることになります。この考え方においては、コンプライアンスは経営上の「意思決定」と深くかかわります。企業は社会的要請に応えていくことによって収益を確保し、社会で活動することができるのであり、健全な事業を営んでいる企業にとって、コンプライアンスの問題と経営とを切り離すことはできないからです。企業として、法令に適応していくことを通して「社会的要請に適応していくこと」は、重要な経営上の「意思決定」の問題だということです。

3 メセナとの関係
メセナ(mécénat)は、フランス語で「文化の擁護」を意味します。企業におけるメセナとは、企業が資金を提供して文化、芸術活動を支援することで、日本では、本業に余力のあったバブル期に特に流行しました。代表的なものに、財団などを通じた資金的バックアップや、企業が主催するコンサートやオペラの公演、スポーツなど各種イベントの開催などがあります。
コンプライアンスやCSRが企業の責任に関する領域についての考え方であるのに対して、メセナは企業の責任の範囲外の問題について社会に貢献するための活動です。
したがって、企業がコンプライアンスやCSRを怠れば、社会的批判や非難を受けることもあり得ますが、メセナは、企業がそれを行うことによって社会的評価を受けることはあっても、行わなかったからといって非難されることはありません。
この点において、メセナとコンプライアンスは大きく異なります。

【2】コンプライアンスと法

1 司法とコンプライアンス
コンプライアンスを「法令遵守」とする考えに基づくと、コンプライアンスの問題は司法の問題となり、最終的解決は司法制度によることとなります。そうすると、司法制度による解決を図った場合にどのような結果になるのか、すなわち、法的責任が発生するかどうかと、それに対する司法の判断が重要な問題となります。そして、法令に定められていないことは、コンプライアンスとは切り離されることになります。この考え方では、企業の目的は法令に違反しない範囲で利益を図ることになり、この考え方を推し進めていくと、企業は法令に反しない限り何をしてもよいことになってしまいます。

郷原 信郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社; 第2版 (2019/5/24)、出典:出版社HP

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