管理会計の基本




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まえがき

本書は、管理会計をこれから勉強しようという方、勉強ははじめたがどのように勉強していいか迷っている方のために書いた入門書です。

会計は、一般的に財務会計と管理会計に分類されます。財務会計は、IFRS(国際財務報告基準)に代表される決算書作成基準の裏付けとなる理論的な考え方です。法律の裏付けがあるため、制度会計と呼ばれます。財務会計に関しては、会計基準として整備され、関連書籍も多く、ヒジネススクールなどでも独立した講座として多く存在しています。みなさんがよく耳にする、貸借対照表、損益計算書の読み方などは、財務会計になります。

しかし、管理会計は「これが管理会計だ」という体系が確立されていません。なぜなら、管理会計は、企業経営を推進するときにいろいろと工夫して活用する業績管理ツールとして発展してきたからです。たとえば、製造部門では、製品の原価計算と原価削減、ソフトウェア開発では、開発原価の把握と削減に活用されます。営業部門では、営業所の業績の把握と評価に使います。本社では、必要人員の見積り、次期の目標利益を達成する必要売上高の算定などの判断に使えます。また3年から5年の中期計画や次期の予算策定にも、基礎データを提供します。このように、管理会計は、過去分析によるデータだけでなく、将来予測に使えるデータを提供することに存在価値があるのです。

管理会計を理解するときは、知識を体系化して考えるよりは、会社数字をいかに経営に活かすかという視点で考えたほうが、その意義が見えてきます。そのため管理会計に関連する本は、管理会計というタイトルを使わずに「経営に活かせる会計」とか、「儲ける会計」というように読者にわかりやすいタイトルを付ける傾向があります。私も「計数感覚がハッキリわかる本」、「計数感覚ドリル」というようなタイトルの管理会計の本を書いています。しかし、本書は、管理会計の勉強をはじめる方のための本として、「管理会計は、このような順番で勉強してください」というような体系や方向性を示したいと考えました。数多くある類書は、話題性を重視しており、体系的な内容を示していないことが多いのです。本書を管理会計の基礎固めの入門書として役立てていただきたいと考えています。

本書では、管理会計を理解するために、3つのテーマを重視しています。3つのテーマとは、以下の通りです。

1損益分析と業績管理(損益分岐点分析と変動損益計算書の活用)
2原価管理(原価計算の基本)
3意思決定(短期利益計画と中期経営計画への活用)

これらのテーマは、経営において欠くことができないテーマです。新しいテーマではありませんが、管理会計を基本から勉強する方にとっては、必ず理解してほしいテーマです。財務会計でも重視される分野なので、財務会計を少しでも勉強したことのある方なら、関連付けて学ぶことで理解が早まるでしょう。

読者のみなさんから、この本に出会ってよかったと思っていただけるように全力で書きました。ちょうど、東日本大震災があった真っ只中での執筆でした。新しい日本の復興に向けた活動にも管理会計の考え方が役立ちます。たとえば、震災の損失を知るのに、機会損失という考え方(第5章)が役に立ちます。これらは、損害賠償の請求をするときの損害額に算入する必要があります。

復興のための本当の原価を知るために、間接費の配賦を工夫するABC(活動基準原価計算)も重要です(第4章)。また、今後、安全を担保するために本部で発生する間接費は大きくなることが考えられます。さらに、原発事故が、「安全のためのコスト、特に固定費を節約して、利益を追求してきた結果だ」とする意見もあります。固定費を使2意味を本書ではかなり説明しているので、注目してください(第2草、第3章)。最後に5か年の中期計画の立て方(第6章)を説明します。
企業の計画見直しには、必須の考え方です。

なお、本書の中で、どの部署の人に特にどんなことを学んでほしいかを図にまとめましたので参照してください。この本で、管理会計の基本をシッカリ勉強して、現実に起こっていることを冷静に判断できる計数感覚と、企業発展のための業績管理に役立つ計数感覚(計数活用法)を、自分で発見し、実感できるセンスを磨いてください。

2011年6月事務所にて
千賀秀信

千賀 秀信 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2011/6/30)、出典:出版社HP

目次

まえがき
「見える化」目次

第1章 管理会計で数字を見ると、経営の本質が浮かび上がる
1-1経営者、管理者に必要な会計
→財務会計と管理会計の違いを知ろう

1-2財務会計は過去会計、管理会計は未来会計
→財務会計と管理会計が扱う内容

1-3ホテルで飲むコーヒーの原価率は?
→計数感覚で経営を考える方法を学ぼう

1-4コストダウンで利益は増えるのか?
→間違ったコストダウンとかけるべきコスト

1-5利益が出ていれば、それでいいのか?
→利益志向の落とし穴

1-6管理会計の3つのテーマ
→この本で取り上げる管理会計の内容

実践コラム
塵も積もれば固定費となる

第2章 損益分岐点分析で管理会計入門
2-1コーヒー店の損益分岐点分析
→損益分岐点を事例で理解しよう

2-2経営安全率と損益分岐点比率
→利益を生みだす売上高とは何か?

2-3損益分岐点を図でイメージできるようになろう
→図表を描きながら、シッカリ理解しよう

2-4短期利益計画に応用する
→費用、売上高、利益の関係をシミュレーションしよう

2-5変動費と固定費の見分け方、考え方
→変動費、固定費の本質を理解しよう

2-6固定費と変動費がハッキリしないときの考え方
→準変動費と準固定費に惑わされないように

2-7勘定科目別データがないときの損益分岐点の求め方
→高低2点法と最小2乗法

実践コラム
営業現場に役立つ損益分岐点分析の活用法

第3章 変動損益計算書の活用法
3-1変動損益計算書を作ってみよう
→コーヒー専門店(カフェクローバー)のケース3-2

3-2変動損益計算書は、付加価値計算書だ
→付加価値のとらえ方を理解しよう

3-3変動損益計算書で見えてくる経営の姿
→付加価値分析を理解しよう

3-4業種別の付加価値(限界利益)の違いを理解しよう
→製造業、流通業(小売、卸)の特徴は?

3-5営業所管理で活用できる変動損益計算書
→固定費、変動費の分類を工夫して業績管理に活用する

第4章 原価管理のポイントを理解しよう
4-1原価計算と原価の関係を理解しよう
→製品原価の集計だけではない原価計算の広さを知ろう

4-2経営の流れと原価計算の位置付け
→製造業の原価計算を概観しよう

4-3原価計算の分類
→原価計算の対象は何か

4-4原価計算を実際に行なってみよう
→総合原価計算と個別原価計算の違いを理解しよう

4-5直接原価計算の考え方
→変動損益計算書の原点は、直接原価計算

4-6活動基準原価計算(ABC)の考え方
→間接費(共通費)の配賦をいかに行なうか

実践コラム
価格設定の手法あれこれ

第5章短期的意思決定に役立つ考え方
5-1機械式洗車は600円、手洗い洗車は1,600円。
→この差は何か?中原価とは何かを改めて考えてみよう

5-2原価割れでも注文を受けるべきか?
→決め手は原価の見方と限界利益

5-3時給はどうやって決めるのか?
→人時生産性と労働分配率がポイント

5-4増員したい!そのとき営業所長はどう提案すべきか?
→増員で増えるコストを回収できる売上予算を計画しよう

5-5次期の利益計画(予算)はどんな手順で作るのか?
→必要売上高を求める公式で考えよう

実践コラム
業績管理の5つのステップ

第6章 戦略的意思決定に役立つ考え方
6-1キャッシュフロー重視時代の「利益の役割」とは何か
→利益とキャッシュフローの役割の違いを理解しよう

6-2営業キャッシュフローのとらえ方を理解しよう
→間接法のとらえ方をマスターしよう

6-3営業キャッシュフローを予想する
→間接法の項目を予想する

6-4現在価値という考え方を理解しよう
→現在の100万円と2年後の110万円のどちらを選ぶ?

6-5資本コストとは何か
→収益性の目標は、資本コストを参考にする

6-6投資の採算を判断する方法(時間価値を考慮しない方法)
→事例で見る投資の収益性と安全性

6-7投資の採算を判断する方法(時間価値を考慮する方法)
→正味現在価値(NPV)と内部利益率(IRR)を理解しよう

6-8キャッシュフローの予測と採算判断(事例で総まとめ)
→5年間限定のプロジェクトを採用するかどうかの判断をする

6-9予想貸借対照表をイメージで理解しよう
→図で見る年間の財務3表の変化

6-10企業価値が向上するという意味
→将来のフリーキャッシュフローを増大させること

実践コラム
企業価値を高めることの問題点〜起業を図る新たな視点の提案〜

INDEX

千賀 秀信 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2011/6/30)、出典:出版社HP

本書の構成を「見える化」しました!

本書は、第1章から第6章まであります。管理会計の3つのテーマを6章に分けて解説しています。2章以降は、3つのテーマの詳細説明で、以下のような構成になっています。

・3つのテーマと各章の関係

第1章は、管理会計全般にわたるテーマを解説しています。
1損益分析と業績管理(損益分岐点分析と変動損益計算書の活用)・・・第2章、第3章
2原価管理(原価計算の基本)・・・第4章
3意思決定(短期利益計画と中長期の経営計画への活用)・・・第5章、第6章

千賀 秀信 (著)
出版社 : 日本実業出版社 (2011/6/30)、出典:出版社HP