ケースで学ぶ管理会計 -ビジネスの成功と失敗の裏には管理会計の優劣がある-




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はじめに

ビジネスの成否の裏には管理会計の優劣がある一少々大袈裟かもしれませんが、これは1つの真実ではないかと思っています。

それを確信させてくれたのは、京セラの創業者であり、経営破綻した日本航空再建の立役者である稲盛和夫氏の言葉です。稲盛氏は、日本航空の再上場から間もない2012年10月30日に開かれた日経フォーラム世界経営者会議において、非常に興味深いことをおっしゃっています。

稲盛氏はそこでリーダーがやるべきこととして4つのことをあげ、それを日本航空の再建においても実行したというのです。その4つとは以下のとおりです。第1は、組織の目指すべきビジョンを高く掲げること。第2は、組織のメンバーとビジョンを共有すること。第3は、人間性を高め、フィロソフィを組織に広めること。そして第4が、全社員が参加できる管理会計システムを構築することです。「このような文脈でトップの口から「管理会計」という言葉が出るのはあまり例がありません。しかも、ビジョンや人間性、フィロソフィなどと同列で語っています。そして、それを世界経営者会議という場で述べているのです。

実際、本書でも取り上げているとおり、京セラにおいても日本航空の経営再建においても、管理会計が重要な役割を果たしています。他の企業においても、なかなか表には出てきませんが、やはりビジネス成否の裏には管理会計の優劣があると思うのです。このような問題意識から生まれたのが本書です。

元となっているのは、『週刊経営財務』(税務研究会)において2012年1月から同12月まで連載した「これからの管理会計を語ろう」と、同じ<2013年2月から同9月まで連載した「これからの管理会計を語ろう!ケーススタディ編」です。今回、ケーススタディを中心に再構成し、必要な加除修正をして本書を作成しました。テーマごとにまとめた各章には、複数のケースとそれらに関連する理論の解説を付けました。

理論解説の部分はあくまでも「関連理論」の解説ですので、ここを読まなくても各ケースは十分に理解できると思います。通り一遍以上のことは書いたつもりですが、場合によっては必要に応じて参照していただく程度でも構わないかもしれません。各ケースには若干の前後関係がありますが、章単位では基本的にそれぞれ独立しています。ですから、必ずしも頭から読まず、関心のあるところだけをつまみ食いしていただいてもよろしいかと思います。

たかが会計ですが、されど会計です。特に、管理会計はマネジメントのための会計です。各ケースをとおして、ビジネスの成否の裏には管理会計の優劣があるということを感じ取っていただければ幸いです。

もう1ついっておきたいのは、管理会計に大企業も中小企業もないということです。財務会計であれば、非上場企業の方はほとんど関心がないかもしれません。なぜならば、財務会計は開示のためのルールだからです。不特定多数の人に情報開示の義務を負う上場企業でなければ、そんなものは何の飯のタネにもならないというのが本音でしょう。

しかし、管理会計は違います。管理会計はマネジメントのための会計です。中小企業であろうと、人が何人か集まるところに起こる管理上の問題は大企業とほとんど変わりません。それは、大企業から中小企業までコンサルティングをしている筆者の実感です。ケースで取り上げているのは、ほとんどが名の知れた大企業ばかりですが、中小企業にとっても大いに参考になるところがあるはずです。

最後になりましたが、本書の出版を快く引き受けてくださった同文舘出版の青柳裕之氏にお礼申し上げます。また、連載中ずっとお世話になり、単行本化に際しても全面的に協力してくださった税務研究会『週刊経営財務』編集長の金平伸一氏に感謝いたします。そして、ケースとして取り上げさせていただいた各企業およびその関係者の方々に感謝するとともに、私の一方的な解釈にもとづく内容についてはご容赦いただければ幸いです。

2014年9月 コンサルタント・公認会計士
金子智朗

金子 智朗 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2014/9/27)、出典:出版社HP

目次

第1章 業績評価指標と組織のあり方
CASE1 長年赤字だった企業が1年で黒字に 管理単位の最小化とBSC 的業績評価の成功例
黒字化が課題のコンサルティング会社
まず組織に手を付ける
ペイナウと業績重視の評価システム
5つの指標で大胆にボーナスが増減
ポイントは管理単位の細分化と利益責任の明確化
業績評価指標の重要性
成功ストーリーの前提条件

CASE2 マトリクス組織で売上増大 クライアント志向の組織と売上の二重計上がカギ
売上増加の打ち手
チーム制では難しい
マトリクス組織へ
顧客志向の組織
画竜点睛の管理会計のカタチ
財務会計と常に一致している必要はない

CASE3 商社系 SIベンダーの失敗 競争型組織と協調型組織
SIビジネスの特性
売上増大が課題のSIベンダー
安直な事業部制が問題
トータル・サービスの提供がカギ
競争型組織と協調型組織

関連理論の解説1-1 カタチの重要性
管理会計には管理会計のカタチがある
人は見えているもので判断する
掛け時計を掛けろ
人は採点基準通りに行動する
会計基準も採点基準
100 回口にする大義名分よりも1つの正しい採点基準

関連理論の解説1-2 バランスト・スコアカード
普段の仕事の目線に落とし込む
「4つの視点」はなぜこの4つか
失敗パターン1:整合性の欠如
失敗パターン2:絞り込みの欠如
KPIは定量的であれ
成果尺度とパフォーマンス・ドライバ
パフォーマンス・ドライバの設定にはジャンプが必要
独自のストーリーと感度分析が競争力につながる
戦略マップ

関連理論の解説1-3 事業部間取引
事業部制と内部取引価格
部品Xに市価が存在する場合
市価が存在しない場合
安易な内部取引価格は競争力を奪う
あくまでもバーチャルであることを心得よ
競争型か協調型か

第2章 管理単位の細分化と非細分化
CASE4 JALの復活を支えた管理会計 アメーバ経営の導入
JAL 復活の理由は「管理会計」
アメーバ経営とは
「時間当たり採算」に見られるシンプル・マネジメント
尖閣問題での象徴的な出来事
JAL におけるアメーバ経営の真髄
勝手にコストが下がっていく

CASE5 京セラ アメーバ経営の本質 顧客価値志向、自律、それを支えるフィロソフィ
アメーバ経営のリスクは本当にリスク
アメーバ経営の本質は「顧客志向」
時間当たり採算から見て取れる「価値志向」
「自律」がなければ成り立たない
すべてを支えるフィロソフィの存在
魂なきアメーバ経営はうまくいかない

CASE6 グーグルの“生態系モデル” 管理単位を細分化しないからこその強さ
グーグルの事業内容
売上の95% は広告事業
細分化して損益を管理しない
生態系モデルから得られる示唆

CASE7なぜウォークマンは iPod に敗れたか 大企業になったソニーと生態系のアップル
デジタルハブ戦略から生まれたiPod
音楽業界を説き伏せる
社内がバラバラのソニー
消費者はモノではなくコトを求めている
損益計算書は1つだけ

関連理論の解説 2-1 配賦について考える
ケース1:内製・外注の意思決定
ケース2:共有コピー機の費用負担
ケース3:部門別損益管理
配賦に潜む落とし穴
配賦を無批判に受け入れるのは危険

関連理論の解説 2-2 ABC(Activity Based Costing)
従来の配賦計算
従来の方法はドンブリ計算
間接費をまとめず、個々に配賦基準を選択
ABC による計算1 なぜここまで違ったのか
ABMでさらにコスト削減

関連理論の解説2-3 ABC は間接費配賦の決定打か?
コスト・ドライバの測定が大変
全コスト集計の呪縛
すべて黒字である必要はない
ABC における「正しいコスト」
配賦は政策的であって構わない

関連理論の解説 2-4 「いかに配賦するか」よりも「何を配賦するか」
部門別損益管理
予算超過額を分離する
本当の問題の所在はどこだ
逆の流れの“負担金方式”
本社費の妥当額を定めているのと同じ

第3章 コスト・マネジメント
CASE8 日本航空はなぜ破綻したか 変動費中心型と固定費中心型
変動費と固定費のどちらが支配的か
売上高が増加する局面での特徴
売上高が減少する局面での特徴
ローリスク・ローリターン vs ハイリスク・ハイリターン
日本航空はなぜ破綻したか
日本航空からの教訓

CASE9 サウスウェスト航空の強み 固定費マネジメントのポイント
2つの固定費
サウスウェスト航空はなぜ低コストか

CASE 10 トヨタの後悔から学ぶ教訓 管理すべきは稼働率
リーマンショック後のトヨタ

CASE11 「忙しい」が口癖の営業マン 活動分析によるコスト削減
商談に費やす時間はわずか16%
非付加価値活動削減の打ち手
0.9人は削減できない
生産性が低い原因はスキル不足
練習しないことはできない

金子 智朗 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2014/9/27)、出典:出版社HP

関連理論の解説 3-1 CVP分析と損益分岐点
利益を出すために必要な個数
損益分岐点の公式
変数は場合によって使い分ける
売れ残りは想定していない

関連理論の解説 3-2 安全余裕率
安全余裕率の式の意味
実務上の意味
なぜ変動を考慮するのか
予算管理に活かす

関連理論の解説 3-3 形骸化している予算管理
予算管理は予算編成と予算統制から成る
予算編成も形骸化している
管理できるものだけを管理させる
費用を管理可能性で分ける
脱予算経営という考え方
目標が固定的であることも問題
組み合わせるのが現実的

第4章 合理性を超えた先にある競争力
CASE12 サムスン電子の強さの秘密 経済合理性の罠
好調続くサムスン電子と苦戦する国内メーカ
巨額投資を続けるサムスン電子
経済合理性が邪魔をする
サムスン電子はなぜ常識破りなのか
経済合理性の罠に陥るサラリーマン

CASE 13 相次ぎ破格の買収を仕掛けるソフトバンク 合理性を踏まえて合理性を超える
ソフトバンクの業績を加速する2つの買収
合理性の先にあるイノベーション
合理性を超えることと無謀は違う

関連理論の解説 4-1 投資を利益で評価できるか
利益で見るとどうなるか
利益は事実の断片
利益は平均的情報

関連理論の解説4-2 リスクがとりにくい NPV法
平均値発想からダイナミックな発想へ
合理的ゆえにリスクがとれない
だからベンチャー・キャピタルは成功しない
ポートフォリオで考えるべき

第5章 会計は誰のためにあるか
CASE14 押し売りと化す顧客維持型マーケティング 顧客価値は本当に顧客にとっての価値か
花屋さんの売上を増やす2つのアプローチ
陳腐化する手段
押し売り化する顧客維持型マーケティング
IT のツールになり下がった CRM
「顧客価値」は本当に「顧客の価値」か

CASE15 株主重視は本当か “人件費前利益”という考え方
従業員満足度が最優先のサウスウェスト航空
従業員満足度は生産性も高める
ポスト資本主義という考え方
財務会計のカタチでは人は報われない
「人件費前利益」という考え方

関連理論の解説 5-1 顧客志向の管理会計
なぜ製品・サービス別に利益を管理するのか
利益の源泉は何か
20対80の法則
顧客別に損益を管理
顧客別コストをどう把握するか

第6章 会計業務のあり方
CASE 16 月次決算と年次決算の擦り合わせに丸3日 “財管一致”は必要か
月次決算と本決算が合わない
“財管一致”のウソとホント
常に財管一致はあり得ない
財管不一致が問題となる場合
“管財組替”があるべき姿

CASE17 世界でただ1つの会計センターを実現したオラクル IFRS が加速する経理業務のオフショア化
グローバル企業オラクルの課題
シングル・インスタンスをインドに
大幅なコスト削減と決算早期化
GSI実現の3つのカギ
管理会計の比重を増すために
IFRS + XBRL +クラウド=財務会計業務のオフショア化

CASE18 経理部の廃止を宣言した社長の真意 これからの経理部門の役割
会計に対するトップの本音
管理会計の担い手たれ
スマイルカーブ化する会計業務
“作業”からの解放と人材教育がカギ

関連理論の解説 6-1 IFRS 時代の管理会計
IFRS になったら経営は大混乱?
グローバル・マネジメントの共通言語としての意義
自社の価値観にもとづく管理会計のカタチを
ルールはグローバルでもやり方はローカルでいい
見えなくなったものを補う
新たに見えるようになるものを活かす
VBM などの手法の活用も

索引

金子 智朗 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2014/9/27)、出典:出版社HP