基礎からわかる水処理技術




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はじめに

「21世紀は水の世紀」といわれる。これは、1995年に当時世界銀行の副総裁であったイスマル・セラゲルディン氏が「20世紀の戦争は石油をめぐる戦争だった。21世紀の戦争は水をめぐる戦争になるであろう。」と発言したことが発端とされている。背景には、水不足が世界的な人口増加の影響もあって深刻な問題となり、水資源獲得のための争いが世界各地で頻発する、あるいは水資源確保のための国際的な協調が大きな課題になるとの予想がある。

利用可能な水を確保するためには、取水源となる水域の水環境を良好な状態に保つとともに、水の効率的な利用を推進することが重要である。水環境を良好な状態に保つためには、水環境に流入する水を汚染しないことが原則であり、水処理技術が重要な役割を担う。また水の効率的な利用のためには、一度利用した水を処理して再利用することが有効な手段であり、水処理技術が必須である。

一方で、水は利用用途に応じて必要となる水質が異なる。例えばトイレ用水は、消毒がなされていて使用者が不快に感じない程度に浄化されていればよいとされ、必ずしも飲める水である必要はない。つまり、すべての水を飲料水レベルに処理することは、エネルギーやコストの浪費で「もったいない」ことであって、適切な処理方法を選定して利用用途に必要な処理を施せばよい。水処理技術は本書で紹介したように多種多様なものが実用化されているが、これらを目的に応じて適切に実施することは水環境の保全、ひいては利用可能な水の確保という観点からも非常に重要である。

本書は、2000年8月の初版以来14刷を数えた「水処理技術絵とき基本用語」を基とし、最新の技術や社会の動向をふまえて各種の新しい情報を加筆・修正し、「基礎からわかる水処理技術」としてまとめたものである。執筆は、環境保全設備を提供している株式会社タクマの技術者グループ「タクマ環境技術研究会」が担当した。水処理に関心を持たれた一般読者の方々にも理解しゃすいよう、また関連分野の技術者や学生の参考となるよう、図や絵を用いてわかりやすく記載するとともに平易な解説とし、さらに資料を充実させている。本書により水処理についての理解が進み、その重要性を感じていただく際の一助になればと願っている。

なお、タクマ環境技術研究会編でオーム社の「絵とき基本用語」シリーズとして発刊されている「ごみ焼却技術絵とき基本用語」、「大気汚染防止技術絵とき基本用語」、「絵とき下水・汚泥処理の基礎」も併せてご覧いただければ幸いである。
2015年2月 芝川重博

タクマ環境技術研究会 (編集)
出版社 : オーム社 (2015/2/25)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 水質汚濁~公害から水環境への歴史~
1.1 水質汚濁の歴史
1.2 水質汚濁の発生源
1.3 排水の性状
1.4 水質汚濁の状況
1.5 水の流れと水質汚濁
1.6 水環境保全に係わる法体系
1.7 行政と水質汚濁の防止対策
1.8 水質汚濁防止技術の発展
1.9 水環境に係わる課題

第2章 水処理設備の概要~命の水を守る施設~
2.1 上水道施設(厚生労働省)
2.2 下水道施設(国土交通省)
2.3 し尿処理施設(環境省)
2.4 最終処分場浸出水処理施設(環境省)
2.5 農業集落排水事業(農林水産省)
2.6 清掃工場汚水処理設備(環境省)
2.7 産業排水処理設備(民間)
2.8 浄化槽設備(国土交通省、環境省)
2.9 脱臭設備

第3章 物理・化学処理法~基本技術からハイテクまで~
3.1 沈降分離
3.2 凝集分離
3.3 浮上分離
3.4 ろ過
3.5 膜分離
3.6 RO膜(逆浸透膜)分離
3.7 活性炭吸着
3.8 イオン交換
3.9 酸化分解
3.10 消毒
3.11 電気透析

第4章 生物学的処理法〜ミクロの決闘〜
4.1 活性汚泥法
4.2 生物膜法
4.3 担体法
4.4 嫌気性処理法
4.5 硝化脱窒法
4.6 生物学的脱リン法
4.7 アナモックス法
4.8 土壌処理法

第5章 有害物質の処理技術~環境汚染の救世主~
5.1 有害物質の概要
5.2 カドミウム、鉛廃水の処理
5.3 6価クロム廃水の処理
5.4 水銀廃水の処理
5.5 シアン廃水の処理
5.6 ヒ素・セレン廃水の処理
5.7 農薬廃水の処理
5.8 PCB廃水の処理
5.9 有機塩素化合物・ベンゼン廃水の処理
5.10 ふっ素・ほう素廃水の処理
5.11 アンモニア・アンモニア化合物・亜硝酸化合物・硝酸化合物廃水の処理

第6章 下水処理設備の概要~第4のライフライン~
6.1 下水道の状況
6.2 下水道の体系
6.3 下水道の施策
6.4 下水の処理
6.5 下水高度処理
6.6 下水汚泥処理
6.7 今後の下水道

第7章 汚泥処理~よみがえる不死鳥~
7.1 汚泥処理の状況と目的
7.2 濃縮
7.3 消化
7.4 脱水
7.5 コンポスト
7.6燃料化
7.7 返流水対策

第8章 汚泥焼却・溶融設備の概要~火の鳥とマグマ~
8.1 汚泥焼却・溶融の状況
8.2 焼却プロセス
8.3 溶融プロセス
8.4 熱回収プロセス
8.5 排ガス処理プロセス
8.6 灰の処理処分
8.7 創エネルギー型汚泥焼却システム

第9章 し尿処理設備の概要~し尿処理の歩み~
9.1 し尿処理の歴史・体系
9.2 し尿処理方式の変遷
9.3 高負荷脱窒素処理法
9.4 浄化槽汚泥対応型し尿処理方式
9.5 汚泥再生処理センター
9.6 下水道放流型し尿処理方式

第10章 埋立浸出水処理設備の概要~地下水を守れ~
10.1 廃棄物の処理、処分
10.2 最終処分場の機能
10.3 最終処分場からの浸出水
10.4 浸出水処理設備
10.5 微量汚染物質の処理
10.6 浸出水処理設備の維持管理

第11章 低炭素・循環型社会への貢献~水処理は資源の宝庫〜
11.1 水処理施設で発生する「資源」
11.2 処理水の有効利用
11.3 汚泥の有効利用
11.4 汚泥のエネルギー利用
11.5 その他のエネルギーの有効利用
11.6 有効成分の回収

第12章 水質と関連法規~水の羅針盤~
12.1 水質の表示・計量に関する基本事項
12.2 分析の方法
12.3 環境基準:人の健康に係わる水質項目
12.4 環境基準:生活環境に係わる水質項目
12.5 環境基準項目の後続グループ
12.6 水質汚濁防止法
12.7 下水道法
12.8 最近問題となっている水質

参考文献
索引

タクマ環境技術研究会 (編集)
出版社 : オーム社 (2015/2/25)、出典:出版社HP