入門マルチメディア[改訂新版]




1 ディジタル情報

文字やグラフィックス、映像、音楽など、さまざまな情報がディジタル化して届けられることが当たり前になっている。たとえばテレビ放送はアナログ放送から地上ディジタル放送へと移行し、映画や音楽などといったコンテンツも、ディジタル化され、Blu-ray DiscやCD、あるいはネットワーク経由で配信されるようになった。

ディジタル化が進んだ背景として、アナログにはない利便性を備えていることがあげられる。わかりやすい例の1つがディジタルカメラである。フィルムを使う従来のカメラは、撮影したあと、プリントショップなどに現像とよばれる処理を依頼しなければ、撮影した内容を見ることはできなかった。しかしディジタルカメラであれば、ディジタルデータとして写真の内容がメモリに記録され、本体の液晶ディスプレイやパーソナルコンピュータを使って、すぐに内容を見ることができる。このような利便性から、カメラの世界はアナログからディジタルへと一気に移行していった。

ネットワークを利用して、離れた場所にある端末や機器に情報を瞬時に伝送できることもディジタル化の大きなメリットであるといえる。たとえばパーソナルコンピュータとインターネットを利用すれば、ディジタル化したテキストやファイルを即座に遠く離れた人にメールなどで送ることができる。また、店頭においてさまざまな情報を提供するディジタルサイネージもネットワークと組み合わせることによってリアルタイムに情報を表示することが可能である。さらに、ICカードによる即時決済や、コンビニエンスストアの店頭に置かれたキオスク端末でのチケットの購入なども、ユーザと企業がネットワークを介して、ディジタル化された情報をやり取りしているのである。

このように、現代社会では、ディジタル化とネットワークがきわめて大きな役割を果たしている。

日々接している情報のほとんどがディジタルデータとして提供される時代になった。Webサイトで提供されているニュース、映像や音楽などのコンテンツ、さらには人と人とのコミュニケーションにもディジタルが介在している。このディジタル化で社会はどう変わっているのだろうか。

その恩恵を受けているデバイスの1つがスマートフォンである。無線通信によりネットワークに接続することが可能であり,時間と場所を選ばず,Webサイトに接続して必要な情報を参照したり、あるいは撮影した写真を即座にほかの人と共有したりするなど、ディジタルのメリットを生かしたさまざまなベネフィットを生み出している。

ディジタル端末の利用

スマートスピーカ
人間が問いかける内容を高精度に認識し、些大な学習データとコンテンツ配信サービスと連携させることで、ユニークな答えを返してくれる。対話を楽しむだけでなく、音楽の再生やスケジュール管理を会話のなかで達成している。

キオスク端末
コンビニエンスストアに設置されたキオスク端末は、各種チケットや物販プリペイドカードの販売、各種代金の支払いなど、さまざまなサービスを提供している。

スマートフォン
通話だけでなく、さまざまなコンテンツを楽しむための末として活用されている。

アプリの利用
ICカード型電子マネー対応の携帯末に専用アプリを入れて利用する。定期券や、かざすとロックが解除されるコインロッカー、オフィスの入出管理、タイムカードの記録などに応用されている。

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2 コンテンツ配信

コンテンツのディジタル化は、それを利用するために必要となるデバイスにも大きな影響を与えている。たとえばテレビは放送されている番組を視聴するだけでなく、ネットワーク経由で配信されている数々のコンテンツを視聴する機能を備えているものがある。ディジタル化された映像コンテンツをネットワーク経由で配信するサービスが続々と登場しており、それを視聴するための機能を搭載することで新たなベネフィットを生み出そうとしているのである。

テレビ番組を録画するための機器もディジタル化によって大きく変わりつつある。録画に使われるレコーダの多くはHDDを搭載し、テレビ番組をディジタルデータとして保存している。また外部に録画した番組を持ち出したい場合には、やはりディジタルデータとしてDVDやBlu-Ray Discにコピーする。録画した番組をネットワーク経由でスマートフォンで見ることができる機能を備えたレコーダもあるが、これもテレビ番組をディジタル化して録画しているからこそ実現できるしくみである。

ディジタル化されたコンテンツを流通させるためのインフラが整備されたことも見逃せないポイントである。2000年以降,光ファイバに代表されるブロードバンド回線が普及したことに加え、最近ではモバイル向けの通信サービスの高速化も積極的に進められている。こうしたネットワークを利用すれば、高品質な映像や音楽など、大容量のディジタルデータを高速かつ安価に配信できる。昨今ではコンテンツをデバイスにあらかじめ保存するのではなく、必要なときにリアルタイムにネットワーク経由でダウンロードするといった閲覧方法も浸透している。

このように、デバイスの変化やインフラの整備とともに、ディジタル化された コンテンツは私たちのライフスタイルに大きな変化をもたらしている。

映像の場合

ネットワークに対応したテレビ
液晶テレビは単にテレビ放送を受信するだけでなく、ネットワークに接続することでインターネット上で提供されているコンテンツを楽しめる製品が増えている。

映像配信サービス
インターネット上で映像放送コンテンツを配信するサービス。無料のものや月額定額制を採用するものなど、さまざまなサービスが提供されている。

外出先での録画番組の視聴
Blu-Rayレコーダなどと連携することにより、スマートフォンを使って外出先から番を録画したり、録画した番組などを持ち出して視聴できるアプリが登場している。

ユーザ投稿サービス
誰でも動画を投稿し間覧できるサービス。従来のように情報を使うためのインターネットから、ユーザ参加型のメディアへと変化してきている。

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3 コミュニケーション

ディジタル化は私たちのコミュニケーションにも大きな影響をもたらしている。わかりやすい例をあげると、電子メールを使えば,作成したテキストの内容を即座に相手に送り届けることができ、郵便のように相手の元に届くまでのタイムラグを気にする必要がない。

また、コミュニケーションとして、短いテキストメッセージをリアルタイムに 送信するインスタントメッセンジャなどとよばれるカテゴリのサービスが続々と登場している。短いテキストでのやり取りのため、メールよりも迅速に意思疎通がはかれるとして、パーソナルユースだけでなくビジネスの現場においても広まりつつある。

さらに、音声や映像によるコミュニケーションのための機能を備えていることも、この種のサービスの大きな特徴になっている。音声や映像は、ディジタル化することでネットワークを通じて即座に相手に届けることができる。この利点を活用し、音声や映像によるリアルタイムコミュニケーションの実現を可能にしている。

コミュニケーションそのものを多様化するサービスも広まっている。従来のコミュニケーションは一対一で行うものが多かったが、ブログやSNSを利用すれば、一対多や多対多でのコミュニケーションが可能である。

このようなコミュニケーションの変化は、スマートフォンの普及によりもたらされた側面が大きい。従来のネットワークを介したコミュニケーションでは、パーソナルコンピュータが中心的な存在であったが、気軽に持ち運べるスマートフォンは,必要なときに即座に取り出して使うことができる。さらにパーソナルコンピュータと同様に,アプリを導入することでさまざまな使い方が可能になる特性を生かし、コミュニケーションのための機能を標えた複数のアプリを、用途や状況に応じて柔軟に使い分けることができる。

人と人だけでなく、人と企業との関係性も変えつつある。多くの企業でSNSを利用した情報発信が行われるようになったほか、それまで電話で行っていた顔客からの問い合わせにチャットを利用するケースも多い。

コミュニケーションの手段は大きく変化しつつあり、その影響は社会のさまざまな領域で現れはじめている。

サービスの例

SNSサービス
「LINE」は、1対1または特定のグループでの通話や、画像・動画などの共有、「スタンプ」とよばれるイラストを使いメッセージをやりとりすることができる。

グループウェア
ネットワークによる情報の共有や利用を目的としたサービスで、スケジュールの確認や会議室の予約、共同での文書作成などができる。

インスタントメッセンジャ
特定の議題や話題ごとにグループ化して表示する機能があるものがあり、業務にチャットを利用する11ケースが増えている。

SNSサービス
「Twitter」は、「つぶやき」とよばれるメッセージを投稿することで、不特定多数への情報 発信や意見交換ができるサービスである。「フォロー」とよばれる機能を使うことで、特定のユーザの発言をチェックすることができる。

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筆者
出版社: 画像情報教育振興協会; 改訂新版 (2018/3/27)、出典:出版社HP

contents

1 マルチメディアの特徴
1-1 アナログとディジタル
1-1- 1 アナログとディジタルの違い
1-1-2 ディジタル化
1-1-3 0と1で表現されるディジタルデータ
1-1-4 情報の保存性
1-1-5 情報の管理
1-1-6 情報の捜索
1-2 マルチメディアを構成する要素
1-2-1 文字
1-2-2 画像
1-2-3 動画
1-2-4 音声
1-3 ヒューマンインタフェース
1-3-1 双方向性(インタラクティブ)の特徴
1-3-2 双方向性の例
1-3-3 ユーザーインタフェース
1-3-4 マルチインターフェース
1-3-5 バーチャルリアリティ
1-4 人間の感覚
1-4-1 視覚
1-4-2 聴覚

2 ディジタル端末
2-1 マルティメディアを扱う端末
2-2 コンピュータの構成
2-2-1 コンピュータ
2-2-2 ハードウェア
2-2-3 CPU
2-2-4 記憶装置
2-2-5 入出力装置
2-2-6 インタフェース
2-3 オペレーティングシステム
2-3-1 ソフトウェア
2-3-2 オペレーティングシステム
2-4 ポータブル記録メディア

3 スコンテンツ制作のためのディア処理
3-1 ファイルフォーマット
3-1-1 ファイルとファイルフォーマット
3-1-2 ファイルの関連付け
3-1-3 ファイルの圧縮
3-1-4 ファイルのアーカイブ
3-2 文書の作成
3-2-1 文字コード
3-2-2 文書を扱うアプリケーションソフトウェア
3-3 画像の処理
3-3-1 色
3-3-2 解像度
3-3-3 画像を扱うアプリケーションソフトウェア
3-3-4 画像のファイル形式
3-4 映像や音声の編集と再生
3-4-1 動画ファイルの再生
3-4-2 動画の編集
3-4-3 音声データ
3-4-4 音声の録音と編集
3-4-5 MDI
3-5 3次元CGの作成
3-5-1 モデリング
3-5-2 レンダリング
3-6 Webページの作成
3-6-1 コンセプトメイキング
3-6-2 Webページのレイアウト
3-6-3 スクリプト言語の利用
3-6-4 Webページの制作ツール

4 インターネットと通信
4-1 インターネットのしくみと役割
4-1-1 インターネット
4-1-2 インターネットの歴史
4-1-3 パケット交換方式
4-1-4 インターネットプロトコル
4-1-5 IPv4とIPv6
4-2 インターネット接続
4-2-1 インターネットの利用に必要なもの
4-2-2 複数のコンピュータの接続
4-3 ブロードバンドネットワーク
4-3-1 FTH
4-3-2 CATV
4-4 モバイル通信
4-4-1 外出先などでのインターネットの利用
4-4-2 携帯電話の通信方式の変遷
4-4-3 モバイル通信
4-4-4 公衆無線LAN

5 インターネットで提供されるサービス
5-1 www (World Wide Web)
5-1-1 DNS
5-1-2 Webブラウザ
5-1-3 URL
5-1-4 プラグイン
5-1-5 Cookie
5-2 コミュニケーションサービスやツール
5-2-1 電子メール
5-2-2 アカウント
5-2-3 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)
5-2-4 ブログ
5-2-5 さまざまなコミュニケーションサービス
5-3 インターネット上で提供されるサービス
5-3-1 検索エンジンサイト
5-3-2 クラウドサービス

6 インターネットビジネス
6-1 オンラインショッピング
6-1-1 オンラインショッピングのしくみ
6-1-2 オンラインショッピングの実例
6-2 金融サービス
6-2-1 ネットバンキング
6-2-2 電子マネー
6-2-3 オンライントレード
6-2-4 さまざまな金融サービス
6-3 コンテンツ配信
6-3-1 コンテンツ配信のしくみ
6-3-2 配信されるコンテンツ
6-4 広告とマーケティング
6-4-1 ネットマーケティングの重要性
6-4-2 インターネット広告
6-4-3 ネットマーケティングー
6-4-4 広告の配信

7 ディジタルとネットワークで進化するライフスタイル
7-1 情報家電
7-1-1 家電のディジタル化の歴史
7-1-2 ホームネットワーク
7-1-3 家庭におけIoT
7-2 テレビと映像コンテンツ
7-2-1 ディジタル放送とは
7-2-2 ディジタル化がもたらすメリット
7-2-3 テレビ視聴のためのデバイスの進化
7-2-4 テレビ向けサービスの拡充
7-2-5 テレビ番格の録画環境の変化
7-2-6 インターネット上でのテレビ番組の配信
7-2-7 新たな形態のセットトップボックス
7-3 サービスロボット
7-3-1 実用化が進む家庭用ロボット
7-3-2 人間の代わりとしてのロボット
7-4 ゲーム機の変化

8 社会に広がるマルチメディア
8-1 ICカード
8-1-1 ICカードのしくみ
8-1-2 不正利用の防止策としての期待
8-1-3 NFC
8-2 街角のマルチメディア
8-2-1 ICタグ
8-2-2 キオスク端末
8-2-3 街角ビジョン
8-3 交通
8-3-1 カーナビゲーションシステム(カーナビ)
8-3-2 ITS
8-4 医療と福祉
8-4-1 電子カルテ
8-4-2 医療データベース
8-4-3 高齢者および障がい者のための福祉
8-5 学術と文化
8-5-1 ディジタルアーカイブ
8-5-2 電子図書館
8-5-3 機関リポジトリ
8-6 行政と政治
8-6-1 マイナンバー制度
8-6-2 電子政府,電子白治体

9 セキュリティと情報リテラシ
9-1 セキュリティ
9-1-1 セキュリティリスク
9-1-2 ワンクリック詐欺
9-1-3 SSL/TLSサーバ証明書
9-1-4 情報漏えい
9-1-5 認証
9-2 個人情報の保護
9-2-1 個人情報保護の重要性
9-2-2 個人情報保護法
9-2-3 ブライバシーマーク制度
9-3 知的財産権
9-3-1 知的財産権
9-3-2 著作権法
9-3-3 ディジタルデータなどの法的保護
9-3-4 ©️(マルシーマーク) 著作権表示

index

筆者
出版社: 画像情報教育振興協会; 改訂新版 (2018/3/27)、出典:出版社HP