電子ファイリング検定A級指定テキスト「文書管理と情報技術ADVANCE」




はじめに

本書は一般社団法人日本経営協会が実施している「電子ファイリング検定」のA級指定図書です。「電子ファイリング検定」は、本会が平成10年度から平成24年度まで実施してきた「電子化ファイリング検定」を引き継ぎながら、ICT(情報通信技術)の最新の動向やオフィスにおける近年のデジタル化の一層の普及を反映して、より時代の要請に即した検定になるようにその改訂を行なったものです。

「電子化ファイリング検定」という旧名称は、かつてオフィスにおける電子文書の多くが紙の文書をスキャナーなどによって電子化したもの、つまり電子化文書、であったからことから命名したものです。しかし、最近ではそもそも最初からコンピュータでデジタル情報として作成された電子文書(これをボーンデジタルと言います)が大部分を占めるようになりました。このように電子文書の出自や作成方法が大きく変化し、それに伴って電子文書の内容の多様化やその利用方法の深化が急速に進展しました。

こうした傾向を取り入れる形で「電子化ファイリング検定」を検討しなおして「電子ファイリング検定」と名称を改めるとともに、その指定図書を改訂いたしました。「電子ファイリング検定」のA級では、電子文書を対象とするファイリングの概念を各組織に適用し、それをシステムとして実現し運用する際にリーダーとしての役割を果たすことのできる人材の養成を目指しています。

紙媒体から電子文書に移行することによって、ファイリングのすべてのプロセスがデジタル技術で構成されることになります。大きな変化はそれだけではなく、ファイリングの規模や用途がデジタル技術によって格段に広がり、活用の精度も飛躍的に高まります。超大量に蓄積されたデジタル情報がビッグデータと呼ばれ、さまざまな分野で新たな応用分野を切り開いていることは周知の事実です。電子ファイリングの影響力が従来とは比較にならないほど大きなものになった結果、個人情報や著作権の適切な扱いなどの課題が深刻度を増してきたという懸念もあります。

一方、デジタル化が進展しても変化しないこともあります。それは電子的媒体であろうとなかろうと、中におさめられたコンテンツとしての情報や文書を管理することの目的です。

第一の目的は広い意味での法令や規則の順守です。コンプライアンス(法令順守)という概念は経営にとって新しい要請ではありませんが、情報が一瞬のうちに全世界で共有されるインターネット時代には、すべての組織構成員が明確なコンプライアンス意識を持って、法令や規則を守りながら組織の目標を達成する必要があります。電子ファイリングは、コンプライアンス意識を具体的に形あるものにして経営に生かすうえで、必須の要件の一つと言えます(このことに関連する議論は「内部統制」という概念で体系的に整理されています)。

第二の目的は情報や文書を公開して共有することによる、皆さん一人ひとりの業務の高度化・効率化の推進があげられます。例えばインターネットの普及は皆さんの業務環境に大きな変革をもたらしました。代表的な変化は情報共有による知識の劇的な増大でしょう。これと同様なことを皆さんが属する組織の中でも行なうことができ、またそれが求められています。すなわち、皆さんが仕事で作成した電子文書をきちんと保存し、登録・公開し、その意味を共有し、相互に活用することです。これが適正に行なわれれば皆さんの業務に過去の資産や同僚のノウハウを生かすことが可能になり、業務の質を飛躍的に向上させることができます(「ナレッジマネジメント」と呼びます)。皆さんが日々の業務で創り出す情報には情報資産として大きな価値があるのです。

第三の目的は、皆さん一人ひとりの業務遂行の質の向上を通じて、組織全体の経営の質を高めることです。電子文書の適正な管理によって自組織や内外の経営環境を迅速かつ正確に把握することができ、その結果として先見性のある優れた経営判断に結びつけることができます。

さて、本書で「電子ファイリング検定A級」に必要な知識と技術を具体的に学びますが、ここでその知識の全体像を示しておきます。情報技術の進展は目覚ましく、勉強したばかりの知識・技術がすぐに陳腐化してしまうことも少なくありません。現代人は常に勉強し続けなければならないのです。「立ち止まっているためには全力で走り続けなければならない」というパラドックス的なエピソードが『鏡の国のアリス』に書かれていますが、現代の情報技術は140年前の寓話を現実のものにしてしまいました。

このような環境では、知識や技術の全体像を静的に厳密に定義することはなかなか困難です。次の図にも多少のあいまいさがありますが、B級では電子フアイリングに関する基礎的な部分を勉強し、A級では電子ファイリングの主要な部分のすべてをカバーすると理解してください。本書は、A級に求められる知識・技術のうち、B級の指定図書には書かれていない部分について解説しています。したがって、A級の検定を目指す皆さんにはB級の指定図書もあわせて理解していただく必要があります。

各組織固有の事情や経営方針を反映した知識・技術など、「電子ファイリング検定」だけでなく実務を通じて初めて獲得できる部分も少なからずあることでしょう。もちろんその場合も「電子ファイリング検定」で学んだことがらが、組織に依存した知識・技術を習得するうえでも大いに役立つはずです。

本書を勉強して検定に合格した皆さんに、各組織の中核的なメンバーとなって電子ファイリングのさらなる高度化を実現していただけるよう期待しています。

2019年4月
一般社団法人日本経営協会
檢定事務局

一般社団法人 日本経営協会 (著)
一般社団法人 日本経営協会 (2016)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
第1章 経営と情報管理
1-1 組織経営と文書・記録管理の役割
1-1-1 組織経営における情報の役割
1-1-2 情報管理と文書・記録管理
1-1-3 説明責任のための文書・記録管理
1-1-4 企業の説明責任(アカウンタビリティ)
1-1-5 コンプライアンスと文書・記録管理
1-1-6 リスクマネジメントと文書・記録管理
1-1-7 ナレッジマネジメントと文書・記録管理
1-1-8 文書・記録管理による経営の高度化
1-2 官公庁の文書・記録管理
1-2-1 国の行政機関・独立行政法人等の文書管理
1-2-2 地方自治体の文書管理
1-3 管理の対象となる文書の考え方
1-3-1 法定書面の管理
1-3-2 マネジメントサイクルを活用した保管・保存
1-3-3 業界ごとの文書・記録管理の推奨モデル

第2章 トータル・ファイリングシステムの電子化
2-1 電子化されたトータル・ファイリングシステムの全体像
2-1-1 作成から伝達
2-1-2 保管と活用
2-1-3 保存
2-1-4 保存から処分へ
2-2 システムの全体像
2-2-1 記録媒体
2-2-2 紙で保存した情報との統合管理
2-2-3一般業務および業務システムとの関係
2-2-4 e文書化の実際
2-3 文書の配送、配布
2-3-1 EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)
2-3-2 DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)
2-3-3 追跡記録の取得監査
2-4 保管文書の活用とトータル・ファイリングシステム
2-4-1 保管文書の活用のために
2-4-2 保管データの形式
2-4-3 探すために必要な情報(メタデータ)
2-4-4 電子ワークフローによるメタデータ入力の強制
2-4-5 電子文書の構造化
2-4-6 文書の版(バージョン)管理
2-4-7 電子文書のアクセス記録
2-4-8 電子文書を保管する仕組み
2-4-9 文書管理システム(Document Management System)
2-4-10 バックアップの種類と特徴
2-4-11 バックアップ運用の考慮点
2-5 保存する文書の維持
2-5-1 保存文書の真正性の維持
2-5-2 保存文書の見読性の維持
2-5-3 保存文書の検索性の維持
2-5-4 電子署名を付与した文書保存の課題
2-5-5 電子署名の延長
2-5-6 保存文書の棚卸
2-5-7 保存環境のマイグレーション
2-5-8 保存業務の委託
2-5-9 紙原本文書と電子台帳の運用
2-6 クラウドサービスの活用
2-6-1 クラウドサービスの種類
2-6-2 クラウドサービス活用の注意事項
2-7 電子文書の処分
2-7-1 文書の処分方法
2-7-2 文書処分のルール
2-7-3 電子文書の廃棄の注意点
2-7-4 電子文書の廃棄作業
2-8 プロジェクトの推進
2-8-1 電子化したトータル・ファイリングシステムの構築
2-8-2 プロジェクト推進の観点から

第3章 国際的な動向
3-1 国際的な標準化団体
3-1-1 ISO:国際標準化機構
3-1-2 IEC:国際電気標準会議
3-1-3 ANSI:米国規格協会
3-1-4 IEEE:米国電気電子技術者協会
3-1-5 ITU-T:国際電気通信連合電気通信標準化部門
3-1-6 W3C:ワールドワイドウェブ・コンソーシアム
3-1-7 書類の主な国際標準
3-2 電子文書とISO
3-2-1 ISO/IEC15408
3-2-2 ISO/IEC27001
3-3 電子記録マネジメント
3-3-1 電子記録マネジメントとは
3-3-2 電子記録マネジメントの構成要素と要求事項
3-3-3 電子記録マネジメントへのアプローチ
3-3-4 電子記録マネジメントに関する標準
3-3-5 海外の電子文書管理の動向
3-4 日本の電子文書の現状と課題
3-4-1 現状
3-4-2 課題

参考問題
参考図書
電子ファイリング検定の概要

一般社団法人 日本経営協会 (著)
一般社団法人 日本経営協会 (2016)、出典:出版社HP