今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本




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はじめに

『事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きているんだ!!』(連続テレビドラマ『踊る大捜査線』より)

2000年代に人気の高かった警察ドラマの中で、織田裕二さん扮する青島刑事がたびたび口にする決めぜりふです。これは、管理会計に求められることに通じています。

管理会計は「現場」、つまり会社の中で実際に使われてはじめて価値が出る会計です。一方で、管理会計に関するセミナーや書籍は、理論を扱ったものが大半という現実があります。前述のセリフに照らすと、会議室=「理論」はある程度は必要ですが、本当に向き合うべきは、現場=「会社の中の実務」だとわたしは考えています。

なぜそうかといえば、わたし自身が十数年前に、管理会計の理論と実務のあいだに立ちふさがる壁に苦しんだ経験があるからです。監査法人から事業会社に移って管理会計の担当となったわたしは、管理会計を理解したいと思い、セミナーや書籍に手がかりを求めました。しかし、実務にそのまま使えるようなものは残念ながら見つかりません。会計のプロである公認会計士のわたしがこれだけ困るということは、世の中にはもっと悩んでいる会社や人がいるのではないかと思い至りました。

これが、管理会計の専門家になったきっかけです。本書は、管理会計実務に関するセミナーを書籍化したものです。セミナーのアンケートで、管理会計の中級以上の方からは「わかりやす過ぎる」という声をいただくこともあります(苦笑)。したがって本書は「管理会計がすでにわかっている方」よりも、「わかっていない方」により向いています。

例えば、「財務会計の知識はある程度あるが、管理会計はよくわからない」「これから社内で管理会計を作っていくので、効果的に進めたい」「予算作成について口を挟む関係者が多すぎて、なかなか前に進めない」という方が、「何から始めたらよいのかがわかった」「どう見直せばよいかイメージできた」と管理会計を「今から始める」「見直す」ことをゴールにしています。

管理会計が何なのか、何をしたらいいのかわからずにもがいていた十数年前のわたしに、この本を贈ります。手探りの日々のなかで議論に付き合い伴走してくれた上司と同僚、執筆の機会をいただきました中央経済社の坂部さま、そして応援し続けてくれる家族に心から感謝します。

平成30年 小寒の日に
梅澤 真由美

梅澤 真由美 (著)
出版社 : 中央経済社 (2018/3/14)、出典:出版社HP

本書の使い方

1 管理会計全般を理解したい方は「第1章 管理会計とは」から順番に読み進んでください。
2 主に予算管理について知りたい方は、「第2.3章 予算」「第4章 月次分析」「第5章 予測」を中心に読んでください。
3 管理会計を活用して各部門の業績管理を行いたい方は、「第6章 部門別 PL」「第7章 KPI」を中心に読んでください。
4 管理会計の業務の構築や改善に取り組みたい方は、「第8章 仕組みづくり」「第9章 コミュニケーション」を中心に読んでください。

各節の最後に「まとめ」があります。管理会計は「実務での実践」がすべてですので、この「まとめ」も「実務で何をしたらよいのか」という「実践」 の視点で書いています。「アクションリスト」として、また重要な点の復習用として活用してください。

梅澤 真由美 (著)
出版社 : 中央経済社 (2018/3/14)、出典:出版社HP

CONTENTS

第1章 管理会計とは
第1節 管理会計とは
1 管理会計と「天気予報」の意外な共通点
2 管理会計の目的は業績改善
3 制度会計に比べて深く広い管理会計
(1) 一般的な比較:管理会計は社内向けでルールがない
(2) 実務面からの比較:管理会計は対象範囲がとても広い
(3) まとめ:管理会計は優先順位付けが重要

第2節 「実務」としての管理会計
1 実務の管理会計は3段階ある
2 管理会計は予算管理から始めよう
3 年間スケジュールを理解するのが大事
(1) 予算管理の主なイベントは3つ
(2) スケジュールは先取りして、連動させる

第2章 予算のつくり方<準備編>
第1節 予算の位置づけと種類
1 予算の位置づけを理解しよう
(1) 予算は到達したい目標である
(2) 予算は2つの要件をバランスよく達成すべき

2 予算には社内用予算と社外用予算の2種類がある
(1) 社外向け予算と社内向け予算
(2) コツの1:限られた項目だけをわかりやすく変化させる
(3) コツの2:2種類両方をすべての人に公開しない
(4) コツの3:報告時にはどちらの予算なのかを必ず明示する
(5) コツの4:2つの予算はつくりやすいほうからつくる

3予算の成果物は損益計算書と前提資料

第2節 予算作成の流れ
1 予算作成は準備編と本番編の2ステップ
2 2つのアプローチを併用しよう
(1) トップダウンとボトムアップ
(2) それぞれのメリットとデメリット
3 準備編はトップダウンで

第3節 予算作成の準備
1 まず「発射台」をつくる
2 概略版損益計算書をつくる
3 経営者と共有する
(1) 経営者向けのフォーマットを用意する
(2) 経営者と双方向でコミュニケーションする

第3章 予算のつくり方<本番編>
第1節 情報を集める
1 各部からの情報収集用のフォーマットを工夫する
(1) 金額欄が空欄の損益計算書は NG
(2) 項目ごとのフォーマットを使おう

2 各部門独自のフォーマットを転用する
(1) 活動実態に合った予算を作成できる
(2) 一方、事業に対する理解が大幅に必要になる

3 スケジュールを共有しよう

4 予算項目を効果的に分担しよう
(1) どの部門に数字を出してもらうか
(2) 責任を明確化する

5 予算数字の計算方法は2種類ある
(1) 乗算型
(2)加算型

第2節 集計する
1 予算のフォーマットは月別損益計算書
2 年度合計の数字を月別に按分する
3 予算の勘定科目は社内利用されるものを選ぶ
(1) 管理会計か制度会計か
(2) 作成したものを組み替える

第3節 数字を確認する
1 2つのチェック方法を併用する
(1) 「ロジックチェック」で、数字の正しさをまず確認する
(2)「ストーリーチェック」で、経営者からの見え方を確認する

2 「ロジックチェック」の具体的な方法
(1) 変動費は%で、固定費は金額で比較する
(2) まとまりから個別の流れで見る
(3) 半期、四半期の配分にも目を配る

3 「ストーリーチェック」の具体的な方法
(1)「少しの余裕」を攻略する
(2) 正しい予算の定義は、会社とビジネス次第で異なる

4 チェック用フォーマットで効率的に作業する
(1) フォーマットで必要な情報を一元管理する
(2) 方針をはっきり決めてチェックする

5 チェック後の対応はその後を左右する
(1) 経営者と事前に話してもらうよう各部門長にお願いする
(2) 各部門が主張する前提を整理し、言語化する

第4節 経営者の承認をもらう
1 最終版は保管しよう
2 各部門へ結果を共有しよう

第4章 月次決算分析のしかた
第1節 月次決算分析の概要
1 比較から始める月次決算分析
(1) 勘定科目での比較をしよう
(2) 「比較を制する者は管理会計を制する

2 月次決算分析に力を入れるべき3つの理由

3 比較の原則
(1) 比較対象は前期と予算
(2) 「主体的」な比較を目指す
(3) 比較が成立するための2つの条件
(4) 累計期間は単月の積み上げでしかない

4 フォーマットを工夫する
(1) フォーマットの例
(2) 月次分析の報告は経営者目線で準備する

第2節 前期比較
1「ありもの」の仕組みを活用する
(1) 補助科目と部門コードを活かす
(2) 出来事カレンダーをつくっておく
2 差異の性質ごとに調べ方を変える

第3節 予算実績比較
1「ありもの」の仕組みを活用する
2 差異の性質ごとに調べ方を変える
3 予算実績比較には限界がある

梅澤 真由美 (著)
出版社 : 中央経済社 (2018/3/14)、出典:出版社HP

第5章「四半期予測のしかた
第1節 予測の位置づけ
1 予測は「大学入試の模擬試験」と同じ

2 予測は予算達成の確実性を上げるツール
(1) 予測を行う目的
(2) 現実的な着地見込み

3 予測を使って予算との距離を計る
(1) 予算との比較で次の行動を考える
(2) 実績との比較で行動計画をチェックする

4 予測と修正予算はまったくの別モノ
(1) 修正予算はあくまで予算
(2) 予算と予測の違いを明らかにする

5 予測の作成は四半期ごとに
(1) 予測にとって大事なこと
(2) 四半期ごとが合理的な理由
(3) 頻度をもっと高くするには

第2節 予測作成の進め方
1 予測の作成は、予算作成の「本番編」だけ

2 予測作成実務のポイント・その1~「(1)情報を集める」から「(3)数字を確認する」まで~
(1) 年度予測の中身は実績と予測が混在する
(2) 「差分方式」の予測作成が実務では効率的
(3)「階段チェック」で予測特有のエラーを防ぐ
(4)「 ストーリーチェック」にて、経営者の視点で確かめる

3 予測作成実務のポイント・その2~「(4)経営者の承認をもらう」~
(1) 予算より弾力的に運用可能
(2) フォーマットも予算とできるだけ共通に
(3) 予算を達成するための行動アイデアを集めておく
(4) 前提が異なる複数のシナリオを検討する
(5) ニーズを踏まえて経営者へ伝える

第3節 予測実績比較の意味
1 予測と実績を比べることで計画を修正する

第4節 予測実績差異の意味
1 予測実績差異からは膨大な情報が得られる
(1) 実績側の原因は経理部門とともに対応する
(2) 予測側の原因は予測精度向上の大きなヒント
2 差異への対応で予測の価値が決まる

第5節 月次決算分析での予測実績比較
1 予測実績差異の分析は、決算数値が締まる「前」に
2 月次分析での経営者用への報告は視点を絞る

第6章 部門別損益計算書のつくり方・活かし方
第1節 部門別損益計算書はなぜ必要か
1 部門別損益計算書は、作ったあとの「使う」が大事
2 状況の正しい理解と当事者意識の向上
3 意思決定、順位づけ、ベンチマーキング

第2節 部門別損益計算書の形式
1 「同類」と「異類」の2種類がある
2 部門分けは事業の実態に即して行う
3 共通費の配賦は、配賦基準とグループ単位で決まる
4本社費の配賦にはリスクがある
(1) コストの配賦は「責任の配賦」につながる
(2) 全員が納得する配賦基準はない

第3節 部門別損益計算書の扱い方
1 予算では、部門別損益計算書の作成は必須ではない
(1) 本当に必要なツールなのか
(2) 部門単位が多ければ作成したほうがいい
2 部門別損益計算書はしっかり月次決算分析しよう
3 予測では、部門別損益計算書作成の必要性は低い

第7章 KPIのつくり方管理のしかた
第1節 KPIの見つけ方・使い方
1 KPIとは
2 KPI には財務的 KPI と非財務的 KPI がある
3 KPI の特性を正しく理解しよう

4 KPIの効果は、分担と進捗管理を可能にすること
(1) 分担
(2) 進捗管理

5 コミュニケーションを通じて KPI を見つけよう
(1) 財務的KPI
(2) 非財務的 KPI

6 戦略次第で KPIは変わる
(1) 戦略や業務に合致したものを選ぶ
(2) ある外資系 IT 会社の例

7 KPIを効率よく管理する
(1) 1つのKPIは1つの部門で管理する
(2) シンプルに定期的にデータを提供する

第2節 KPIの扱い方
1 予算でのKPIへの落とし込みはとても重要
2 KPIの月次決算分析は予測との乖離幅次第
3 KPI の予測には力を入れるべき
4 KPIには、「ストック型」と「フロー型」の2つがある

第8章 管理会計の仕組みづくり
第1節 管理会計の仕組みづくりの方針
1 管理会計の仕組みは3つの要件を満たすべし
(1) スピードと正確性
(2) 依頼者とそのニーズ

2 仕組みが抱える課題はどの会社でも似ている

3 課題に対する解決の方向性を持つ
(1) データが手元にはなく、システムの中にある
(2) 実績数値と将来数値ではデータの形式が異なる
(3) 提出するときの形式やフォーマットが決まっていない

第2節 具体的な仕組み
1 会計システム、データベース、報告用資料の3ステップで 構成しよう

2 データベースは設計が大事
(1) データベース化すべきものを特定する
(2) データベースの中身の数字を決める
(3) データベースの形式が効率を大きく左右する
(4) データベースの更新方法まであらかじめ決めておく

3 報告用資料はデータベースと切り離す

4 実務の効率化の鍵はフォルダとファイルが握る
(1) ファイルの置き場所が誰でもすぐにわかる
(2) 何のファイルなのかがすぐわかる

5 管理会計システムは必須ではない
(1) 管理会計システムの類型と特徴
(2) エクセルでの構築が現実的なことも

6 制度会計と管理会計はシンプルな関係に
(1) 原則として一致が好ましい
(2) 不一致調整のルールをつくる

第9章 管理会計のコミュニケーション
第1節 管理会計に必要なコミュニケーション
1 コミュニケーションの役割はインプットとアウトプット
(1) 「インプット」としてのコミュニケーション
(2) 「アウトプット」としてのコミュニケーション

2 実務の悩みは「あいだ」に存在する
(1) 実績と予算の「あいだ」の悩み
(2) 事業と会計の「あいだ」の悩み

3 解決の鍵は「相手」にある
(1) 管理会計が相手にもたらすメリットを明確にする
(2) Win-Winの関係を徐々に目指す

第2節 経理部門の巻き込み
1 敵ではなく最強の味方
2 会計知識と会計システムの協働運用を期待する
3 早期化と正確化というメリットを届ける

第3節 各部門からの協力と情報収集
1 各部門とのコミュニケーションが管理会計を支える

2 いつ、何を聞くかを明確に持つ
(1) 大から小を意識して情報収集する
(2) イベントの合間では、すかさず「改善」
(3) 突発的な依頼は関係構築のチャンス

3 各部門との協力関係を築くための3つのポイント
(1) 経営者との関係性を活用する
(2) 各部門のやり方を尊重する
(3) 管理会計部門の裁量を活かす

第4節 経営者への報告
1 「時間」を使わせない
2 「頭」を使わせない
3 「気」を使わせない

梅澤 真由美 (著)
出版社 : 中央経済社 (2018/3/14)、出典:出版社HP