[速報! 2021年度施行]介護事業者・介護福祉関係者必携! 改正介護保険早わかり (2021年度からの介護保険はこうなる)




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はじめに

第201回通常国会(2020年)は、新型コロナウイルスの感染拡大 にともなう対応に振り回されたといっていいでしょう。しかしながら、日本および世界を揺るがす混乱の中、実はわが国の社会保障に大きな影響を与える法律がいくつか成立しています。

たとえば、年金制度の機能強化を目的とした「国民年金法等の一部を改正する法律」、高齢者の就業機会の確保などを目的とした「雇用保険法等の一部を改正する法律」などが見られます。そして、6月5日に成立し、6月12日に公布されたのが、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」です。「社会福祉法等」となってはいますが、介護保険法や老人福祉法など10本以上の法律にまたがる一括法となっています。

財務省などが建議した改革の多くは見送り。だが…..ご存じのとおり、介護保険法は2014年以降、3年に一度の事業計画期に合わせて改正が行われています。今回も、2017年の改正から3年後にあたる節目として制度の見直しが行われたわけです。ただし、介護保険制度の見直しを議論していた社会保障審議会・介護保険部会の取りまとめ(2019年12月)では、財務省などが建議していた改革案の大半が「見送り」となりました。

たとえば、ケアマネジャーのケアプラン作成に利用者負担を求める(現在は無料)という案も出ていましたが、改正法には反映されませんでした。先の介護保険部会で、「制度利用を躊躇させ、重度化などを進める恐れがある」といった意見が出されたことによるものです。そのため、介護現場や保険者(市町村)の立場からすると、「何が変わるのか」が見えにくいというのが、今回の改正法の特徴です。

・介護保険を大きく変える「土台」という位置づけ
しかし、今改革の中心となる社会福祉法の改正などをじっくり見直すと、やや長い目で見たときに、今回の法改正を土台として介護保険制度が大きく変わっていくという兆しを伺うことができます。いい換えれば、2021年度あるいは2024年度の介護報酬・基準改定などにさまざまな影響を与える可能性があるわけです。

その時に慌てて現場の体制などを見直しても、なかなか追いつかないということになりかねません。そこで、今回の法改正全般について、介護保険の立場から精査することを中心テーマとしつつ、本書を執筆することにしました。介護現場の方々、あるいは保険者としての実務に携わっている方々に少しでもお役に立てればと考える次第です。ちなみに、介護保険制度については、2019年にも法改正が行われています。また、新型コロナの影響で、新たな予算措置なども数多くほどこされることになりました。そうした直近の状況についても、できるだけ反映させたつもりです。

介護保険のスタートから20年、大きな曲がり角に立つ制度について、本書を通じてしっかり見据える機会となれば幸いです。

2020年6月21日
介護福祉ジャーナリスト 田中元

contents

はじめに
今回の社会福祉法等の改正が介護保険事業等にもたらす影響
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧

Part 1 地域福祉に関する包括的な支援体制の整備
1 地域共生社会に向けて地域住民の責務を規定
2 地域共生社会に向けた国と自治体の責務
3 包括的支援体制のための新しい事業の枠組み
4 今回の社会福祉法改正の介護保険への反映

Part 2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
1 複数の法律にまたがる支援事業を一体的に実施
2 生活課題を抱える人の社会参加を支援する
3 地域住民の参加・交流の機会を確保する資源整備
4 対応困難ケース等での計画的な「伴走型支援」

Part 3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
1 重層的支援体制整備事業に際しての計画策定
2 地域福祉計画にも包括的支援体制を明記
3 重層的支援体制に向け開催できる会議を規定
4 重層的支援体制のための新たな交付金を設置

Part 4 地域福祉を担う社会福祉連携推進法人
1 社会福祉連携推進法人が創設された背景
2 社会福祉連携推進法人の具体的な業務
3 社会福祉連携推進法人の認定を受けるための条件
4 社会福祉連携推進法人の果たすべき義務

Part 5 認知症施策の総合的な推進
1 今改正の土台となる認知症施策推進大綱
2 認知症の予防・診断・介護方法等の調査研究
3 認知症の本人への支援をさらに明確に
4 認知症の人の尊厳保持と地域での共生を目指す
5 介護保険事業計画でも認知症施策の事項を拡充

Part 6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
1 深刻化する従事者不足に国が打ち出してきた施策
2 介護保険事業計画に人材確保などを追加
3 老人福祉計画でも人材の確保などを追加
4 介護福祉士資格の取得方法で経過措置を延長

Part 7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
1 有料老人ホームの届出などを簡素化
2 有料老人ホームについて自治体間の連携を強化
3 介護保険事業計画に高齢者住まいの定員も
4 有料老人ホームの質を向上させる取り組み

Part 8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
1 地域支援事業と高齢者保健事業の一体的実施
2 高齢者の健診・介護情報を3事業で共有可能に
3 介護保険等関連情報の施策立案等への活用
4 介護保険等関連情報の匿名性などを守る規定

Part 9 介護保険等関連情報をめぐるしくみの充実
1 介護保険をめぐる情報はどこまで連結・拡充?
2 介護保険等関連情報に新たな項目が追加
3 介護保険等の情報に関するその他のしくみ
ここもチェックしよう! 新型コロナで大ダメージ 介護サービス現場への支援はどうなる?

Part 10 介護サービスに関する「お金」のこと
1 「給付と負担」の見直しはほとんどが見送りに
2 月あたり負担限度額は現役並み所得層を細分化
3 施設等の補足給付の見直しについて

巻末資料
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱

今回の社会福祉法等の改正が 介護保険事業等にもたらす影響

2020年6月5日に可決、成立し、同月12日に公布された改正社会福祉法等(右 ページ)は、下記のような点で、介護保険事業等にさまざまな影響を与えます。

・地域福祉の推進に際して「地域共生社会の実現」を目指す
介護保険事業者に対し、地域共生社会をになう「住民主体の取り組み」との 連携強化などを運営基準等で定めたりすることが考えられる。

・重層的支援体制など包括的支援体制の強化が図られる
地域における「包括的支援体制」の枠組みの中で、介護保険事業者が「制度 の枠組みを超えた課題」への対応を求められる可能性も。

・社会福祉連携推進法人を認定するしくみが誕生
中小規模法人が単体で進めるには難しい課題(人材確保など)が増える中で、 法人間連携によって課題解決を図るという流れが強化されるか?

・「共生」と「予防」をテーマとした認知症施策の総合的な推進
認知症ケアにおいて、認知症カフェやチーム・オレンジなど住民主体の活動 との連携を基準で定めたり、報酬上の評価とする可能性も。さらに「予防」に 向けた取り組みとの連携が制度上で定められることも。

・介護保険事業計画に「現場業務の効率化」に関する項目を追加
国が示す「生産性向上に資するガイドライン」などに沿った「現場業務の効 率化」について、事業者側の積極的な取り組みを要件とした補助金の拡大や運 営基準上での規定などが定められる可能性も。

・有料老人ホームやサ高住などへの市町村の関与を強化
サ高住等入居者へのサービス提供を行う事業者に対して、市町村が情報連携 を求めるケースが増えてくることも考えられる。

・介護保険等関連情報の連結を強化するためのしくみ
介護保険の新 DB (CHASE)へのデータ提供を進めるために、介護報納上 加算要件等によりインセンティブを強化することが想定される。