汚水・排水処理―基礎から現場まで




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はじめに

本書は、化学の知識や排水処理の知識がほとんどない人が、初めて工場の排水担当者となったことを想定して、排水処理技術とその基礎となる化学についてのかりやすく解説したものである。化学の解説を行った理由は、排水処理に化学の知識は不可欠だからである。化学的現象の大部分は核の周囲の電子の数と配置によって生ずるため、ある程度これらに関する知識があれば、排水処理技術がより一層豊かに理解できると筆者は考えている。

本書を書くきっかけとなった理由は、筆者が、長い間、工場の排水担当者から多くの質問や相談を受けてきたことによる。質問の内容は、化学や排水処理技術の基本的な知識がないことが原因であることが多かったと思う。また、排水処理技術に関しては、これまでに何冊も出版されているが、それらはすべて一定の化学や排水処理の知識や技術が前提となっており、ある程度の専門家を前提としているように思える。このような現状から、より基本的なところからの解説書が必要であると以前から考えていた。

本書はこのような目的に達するように心掛けて執筆し、一定の目的を達成できたのではないかと考えている。各内容については、過去の公害防止管理者試験の問題を掲載し、現実に即した内容でさらに理解できるように構成してある。そして、解説に目を通すことによって理解をなお一層深めることができる。なお、銅、亜鉛、溶解性鉄および溶解性マンガンは「有害物質」ではないが、処理技術が有害物質と類似しているところがあるため、本書では同一の節にまとめて記載した。

また、数多く現場の読者から質問があり、これらを整理したものを各章の終わりに記載し、回答を試みた。質問者が排水担当の初心者であることから質問内容が抽象的であることはやむを得ないところである。本来、このような質問に正確に答えることはできないものであるが、質問者が初心者であるところから、あえてこのような質問にも回答を行ったものであるしたがって、回答も抽象的、一般的にならざるを得ない、多くの読者の参考になればと考えている。

本書は、排水処理技術について広範な内容になっているため、個々の内容は深くないが、読者の皆さんが本書によってさらに詳しく勉強するきっかけとなれば幸いである。

2009年7月
著者しるす

三好 康彦 (著)
出版社 : オーム社 (2009/8/1)、出典:出版社HP

目次

第1章 汚水・排水処理のための化学の知識
1.1 原子の構造
原子の構造(原子核、中性子、陽子、陽イオン、陰イオン、原子番号)
電子軌道と電子配置

1.2 周期表
族と周期
典型元素
遷移元素
金属元素と非金属元素

1.3 化学結合
電子配置と原子の性質
イオン結合
共有結合
金属結合
配位結合
水素結合
ファンデルワールスカ

1.4 酸化数

1.5 原子量、分子量およびモル
原子量および分子量
モル(mol)と気体の体積
モルと化学計算

1.6 溶液の性質
溶液の一般的性質
溶液の濃度
溶解度
溶解度の温度依存性
溶質、溶媒の性質と溶解度

1.7 酸とアルカリ
水溶液の酸性、アルカリ性
酸と塩基
酸と塩基の強さ
酸と塩基の当量
アルカリ性と水素イオン
(H*)濃度

1.8水の特異性
水分子の構造
水の性質

1.9 酸化および還元
定義
酸化・還元に関係する事例
酸化当量と還元当量

1.10 元素の起電力系列

1.11 電解質と解離
解離
電解質を含む水の電気分解
イオンの活量
OH-とOHラジカルおよびCN”

1.12 化学反応
可逆反応・不可逆反応・平衡
平衡定数と質量作用の法則

1.13 溶解度積と沈殿
溶解度積の概念
共通イオン効果
土壌中アルミニウムの溶出計算事例

1.14 錯体とキレート
錯体の構造
金属キレート化合物
身近な金属キレートの事例

1.15 ベンゼンの記号および結合
ベンゼンの記号
結合

1.16 BODおよびCOD
BODの定義
BODの試料作成
CODの定義
COD試験における過マンガン酸消費量の酸素相当量(mg/ml)
BODとCODの関係
環境基準とBODおよびCOD
実務上のQ&A

第2章 汚水・排水処理技術の重要ポイント
2.1沈降分離
沈降速度式
沈降速度分布

2.2水面積負荷または表面積負荷

2.3自由沈降と干渉沈降

2.4越流負荷

2.5傾斜板による分離促進

2.6凝集分離
凝集の原理
凝集剤の種類と凝集方法
適用範囲

2.7浮上分離
自然浮上
加圧浮上

2.8ろ過
清澄ろ過
ろ過抵抗
ろ過の種類
ろ過速度およびケーキ比抵抗
汚泥脱水テスト

2.9脱水機
真空ろ過機
フィルタプレス
ベルトプレス(ロールプレス)
スクリュープレス
遠心脱水機
多重円盤形脱水機
脱水率などの比較

2.10汚泥処理・処分
焼却処理
湿式燃焼
コンポスト
焼却灰の処分

2.11活性炭吸着
活性炭吸着の特徴
吸着等温線
吸着装置
再生

2.12中和
中和剤
中和曲線
金属イオンを含む中和
中和装置

2.13汚水・排水処理における酸化と還元
酸化と還元電位
酸化剤
還元剤

2.14イオン交換
イオン交換の原理
イオン交換体の種類と特徴
イオン交換樹脂の選択性
イオン交換容量
イオン交換樹脂量計算方法

2.15膜処理法
分離膜と種類
精密ろ過膜法
限外ろ過膜法
ナノろ過膜法
逆浸透膜法
活性汚泥装置
(膜分離活性汚泥法)への適用

2.16イオン交換膜電気透析
原理
実用の現状
実務上のQ&A

第3章 生物処理技術の重要ポイント
3.1浄化に関係する生物
好気性微生物
嫌気性微生物

3.2活性汚泥処理法
概要
基本フローシート
活性汚泥法で使用してる用語
管理項目
計算事例
汚泥排出
供給空気量
各種の活性汚泥法
バルキングの一因と対策
ばっ気槽の著しい泡の発生と対策

3.3生物安定池
生物酸化池(Oxidation Pond)
嫌気性池(Anaerobic Pond)
通気性安定池(Facultative Stabilization Pond)

3.4生物膜法
生物膜法の特徴
散水ろ床法
回転円板法
接触ばっ気法

3.5嫌気性生物処理法
嫌気性生物処理の原理
適用および維持管理上の特徴
装置の種類と構造
UASB装置と特徴

3.6生物的脱窒素法
生物酸化池法
活性汚泥法による方法
硫黄酸化
細菌による方法
嫌気性アンモニア酸化法(Anammox法)

3.7生物的説リン法
原理
維持管理の特徴

3.8窒素とリンの生物的同時除去法
実務上のQ&A

第4章 有害化学物質処理技術の重要ポイント
4.1重金属物質処理技術
カドミウム

6価クロム
水銀
亜鉛
溶解性鉄
溶解性マンガン

4.2無機物質処理技術
ヒ素
セレン
シアン
ベンゼン
フッ素
ヘキサン抽出物質
フェノール類
窒素(NH3、NO2、NO5)
リン
ホウ素

4.3有機塩素化合物の処理技術
PCB
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機塩素系化合物
ダイオキシン類

4.4農薬処理技術
有機リン化合物(パラチオン、メチルパラチオン、EPN、メチルジメトン)
そのほかの農薬(チウラム、シマジン、チオベンカルブ)
ジオキサン

実務上のQ&A

参考文献
索引

三好 康彦 (著)
出版社 : オーム社 (2009/8/1)、出典:出版社HP