アクチュアリー試験 合格へのストラテジー 損保数理
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監修者のことば
アクチュアリー試験の受験者の声を聞くと、大半の人は、基礎科目の中では損保数理が最も難しいといいます。同科目の合格率が相対的に低い年度も多いので、その限り、実態として試験が難しいという傾向もたしかにありますが、話を聞くと、そのことよりも、そもそも教科の内容自体が難しく感じられるとのことです。
この難しい科目に対して受験指南書を書くということ、これもまた実に難しいことです。この科目は、教科内容の実態からして実につかみにくいところがあります。科目全体としては、実務で使われている数理そのものを紹介しているわけではないですし、かといって、何か古典的な「損保数理」なる学問分野があってそれを学ぶという科目でもありませんそれでも試験はもちろん毎年着実に実施されているので、「試験問題の世界」もまた漠と存在しています。
そこで本書の著者たちは、すばり受験者本位の道を選びました、実務本位だとか学問本位だとかではなく、受験科目として見たとき、ことがらをどのように捉えれば十分なのかを追求しました。そのため、本書に見られる解説はしばしば「大胆」です。「合格」という目的ははっきりしていますから、「試験問題の世界」の中で、個々のことがらをどのように理解するとよいのかを大胆に示しています。
私は監修者として、その大胆な解説のほとんどをそのままでよしとしました、第一に、それらは、これまで実際に合格してきた数多くの受験者の知見を反映したものであり、その実績から、「試験問題の世界」における的確な解説といってよいだろうと考えました。第二に、本書が成るには、損保数理実務の最前線にいる人も含め、多くの協力者がおり(本書「はじめに」の中の謝辞参照)、原稿がかなりできあがった段階で、協力者たちの目により「これはさすがに実務とは乖離がある」といったところには修正が加えられました。
そして第三に、何よりそうした解説は、本音であり、活き活きとしており、そのよさをなくしたくありませんでした。本書内の表現をどうするかについての議論の多くは、監修者も参加しているあるチャットツール上で行われたために拝見できましたが、その議論は実に真摯で闊達であり、監修者は、著者たちから直接問われた質問にはもちろんお答えしましたが、それ以上の口出しをする必要はありませんでした。
総じて、本書は、徹頭徹尾、受験者本位の本です。上で言及した「大胆」な解説はその典型です。最難関科目といわれる損保数理ですが、読者におかれては、この実に受験者本位の本書から、ぜひとも合格への糸口をつかんでください。
2019年4月 岩沢宏和
推薦のことば
日本アクチュアリー会の資格試験の受験生にとってよい本ができました.この本は、損保数理について初めて学ぶ人でも損保数理に親しみを持てるように工夫されています.損保数理とどのように付き合っていけばよいのかを丁寧に教えてくれています。損保数理を学ぶ人は、損保数理の教科書と併せてこれを読むことで、試験合格への道しるべを得ることができるでしょう.それというのも、この本を書いた人たちが、自分たちが悩み、考え、理解したことを惜しみなく書き出してくれているからです。こんな本は他にありません。
この本の著者たちが属しているアクチュアリー受験研究会では、会社の先輩から習うのではなく、自分たちが勉強して理解したことをお互いに教えあっています。始めた頃は戸惑うことがあっても、仲間と教えあうことで実力がつき、試験を受け合格通知を受け取る頃にはすっかりアクチュアリー資格試験のプロになっています。そんな人たちがこれまで切磋琢磨し仲間内で蓄積してきたノウハウをまとめたのがこの『アクチュアリー試験合格へのストラテジー』シリーズです。
私が損保会社の社員として日本アクチュアリー会正会員となった頃は、アクチュアリーという資格が理数系の学生の間でこれほど人気になるとは思っていませんでした。損害保険業界の中でも限られた人だけが扱ってきた「損保数理」ですが、いまや毎年1000人もの人が受験するようになりました。
損保数理の分野では、生保や年金とは異なった世界が開けています。生保や年金は個人のライフサイクルにおけるタイミングのリスクを平準化したり、資産形成の支援をしたりという働きをします。それに対し、損保は事故が発生するかしないか、発生したら損害がどれくらいになるのかという問題を扱います。確率論によりさまざまなリスクの計測を行い実業に活かしていこうというチャレンジをしているのです。
生保や年金やその他の分野でアクチュアリーの仕事をしたいと思っている人にとっても、損保数理の知識は役に立ちます。これまで生保数理独特の記号や年金の集団として表現していた計算が、確率論的に個別のリスクの変動を捉えるように変わってきているからです。
アクチュアリーも進化しています。生保から生じた数理的な技術が、損保における確率論的なアプローチを包含し、金融工学の分野に拡大し、統合的なリスク管理へと発展し、現在はデータサイエンスにおける確率統計の知識として活用されるようになりました。それぞれの分野に優劣があるわけではなく、社会経済を支える数理技術として領域が拡大していっているのです。
アクチュアリーは実学です。これを勉強する人たちは、資格をとることもさながら、現実の世界でリスクに対処するための技術を学ぶのです。この本を手に取った方が、資格試験の勉強を通じて損保数理をおもしろいと感じていただけたらと願っています。
2019年4月 海老﨑美由紀
はじめに
多くの皆様のご支援もあって、『アクチュアリー試験合格へのストラテジー』シリーズも「数学」、「生保数理」に続いて、第3弾「損保数理」を世にお送りすることができることとなりました。これまでアクチュアリー受験研究会をはじめ、かかわってくださった皆様に多大なる感謝の意を表したいと思います。
アクチュアリー試験の難しさは、1次試験の数学系試験がどれも難しいのですが、その中でも私は特に「損保数理」に苦戦しました。落ち続けて5回目の受験で合格することになりましたが、その過程で「損保数理」に愛着もわきましたし、アクチュアリー受験研究会では「過去問ワークブック」を作り上げて、公式や過去問を分析し、毎年自分の実力を高めて、合格にいたることができました。
一生分の積分計算を「イヤ」というくらいしたといっても過言ではありません。実際その後の年金関係の業務では全然出てきませんが、仲間と一緒に取り組んだ受験時代は良い経験を得られたと思っています。「生保数理」は保険商品を設計したりその仕組みに触れたりする部分が多く、勉強のモチベーションもわきましたが、「損保数理」は実務で出てくる部分もありますが、先進的な理論的な問題も多く出題されること、そしてそれらを理解するための教材があまり多くないことも、難しさを高めている部分の一つだと思います。
この「損保数理」に苦しんでいるときに、日本アクチュアリー会の追加演習講座で岩沢宏和先生の講義を受ける機会があり、その講義スタイルに感銘を受けて質問をたくさんさせていただきました。自分が落ち続けたこともあるのですが、合格まで毎年のように追加演習講座に参加させていただき、楽しい時間を過ごしました。
合格の後も、岩沢先生の趣味の関係でもお付き合いさせていただいたり、アクチュアリー受験研究会にご協力いただいたりしたこともあり、この『アクチュアリー試験 合格へのストラテジー』シリーズの出版元である東京図書の清水さんをご紹介いただきました。本書は、私のように数学が苦手な「損保数理」の初学者が最初に手に取る一冊として、合格までのステップ、過去問を解くために必要な公式・知識を網羅した必須公式集、公式を理解して定着させるための必須問題集で構成しています。
本書のみで「損保数理」に合格することは難しいのですが、試験の全範囲を対象に作られた参考書は初めてだと思います。勉強を進めていくにあたって最低限必要な知識を習得することを目指しました。一冊まるまるやりこんでいただくことが、合格の最低条件となります。この本の問題を短時間ですべて解けるようになっても、本試験では40点レベルだと思ってください。
後程でも記述しますが、ものすごい計算量の試験です。その計算量をものともせずに合格するには、圧倒的な演習量が必要になります。教科書の練習問題、過去問や他の問題集なども含めてトレーニングを続けていくことが必要です。未出問題を見極めて自分自身で対策していくことも重要です。ここまで行けば合格が見えてくると思います。
岩沢先生との出会いがなかったら、「損保数理」に合格することも、『アクチュアリー試験 合格へのストラテジー』シリーズの出版そのものがなかったと思います。今回監修も快く引き受けてくださった岩沢先生には言葉で尽くしきれないほど、感謝しております。重ねて御礼申し上げます。
本書は、教科書・参考書・過去問とアクチュアリー受験研究会のWEBに投稿された情報を参考に、朝日生命の平井卓哉さん、かんぽ生命の玉岡一史さんとともに、企画段階から含めると1年弱の時間を掛けて完成させることができました。特にメインとなる公式集・必須問題集等の製作にはかなりの困難とご苦労があったと思います。お二人の努力と熱い想いがなかったら決して完成させることはできなかったでしょう。ありがとうございました。
また、推薦のことばと合わせて、損保の実務家・元保険計理人としてもアドバイスをいただいた、海老﨑美由紀さんには、大変お世話になり、感謝しております.難しい言葉・用語を一言で表すのが素人にはなかなか難しい中、的確な表現や説明のアイディアをご教示いただきました。そして、いつもアクチュアリー受験研究会を支えてくださって、今回校正や計算チェックと資料提供等で多大なるご協力をいただきました、RGA再保険の北村慶一さん、りそな銀行の車谷優樹さん、アクサ生命の李嘉衣さん、あずさ監査法人の島本大輔さん、損保ジャパン日本興亜の相馬直樹さん、sanstarさん、日新火災の河村権雄さん、Masafumi.Sさん、かんぽ生命の庭本康治さんはじめ、アクチュアリー受験研究会の皆様には多大なるご協力をいただいており、本当にありがとうございました。
私が落ちた回数より少ない回数で合格できる受験生が増えればその分、世に活躍するアクチュアリーが多く早く登場することになると思いますので、アクチュアリー会の活性化にも少なからず貢献できるプロジェクトだなと思って、意義深く楽しく進めることができました。一番苦労した科目である「損保数理」を出版して、悩める世の「損保数理」受験者の助けに少しでもなりたい、という想いにご協力いただいたすべての皆様に、深く感謝申し上げます。
受験生に役立つありとあらゆる情報を紙面の限り詰め込んだ本書が「損保数理」受験生の最初の一冊としてお役に立てることを祈っております。なお、頑張っているアクチュアリー受験生のためになる本づくり、という企画に賛同いただき、3作にわたって、多大なるご支援とご協力をいただきました東京図書の清水さんには言い尽くせないほどの感謝をしております.清水さんがいなかったら本シリーズは生まれておりません。重ねて御礼申し上げます。
2019年5月
アクチュアリー受験研究会代表 MAH
目次
監修者のことば
推薦のことば
はじめに
第I部アクチュアリー試験「損保数理」受験ガイダンス
第1章 アクチュアリー試験「損保数理」概要
1.1 試験範囲について
1.2 教科書について
1.3 過去問の分類と試験範囲の関係について
1.4 試験の形式と試験時間からの考察
1.5 アクチュアリー試験「損保数理」の沿革
1.6 過去問分析
1. 7教科書の各章ごとの概要とモチベーション
1.8 過去問のうち今では範囲外と思われる内容
第2章 アクチュアリー試験「損保数理」勉強の進め方
2.1 初学者にとってどんな試験か
2.2 1年間のスケジュール
2.3 基礎固め
2.4 教科書 +a の取り組み
2.5 過去問への取り組み
2.6 初学者が合格するための戦略
2.7未出問題対策
2.8 正誤問題対策
2.9 自作の模擬試験
2.10 当日の対策
第Ⅱ部 アクチュアリー試験「損保数理」必須公式集
第3章 初級編
3.1 確率・統計の予備知識と回帰分析
3.2 損害保険料率の基礎知識
3.3 クレームの分析
3. 4 支払備金
第4章 中級編
4.1 経験料率
4. 2クラス料率
4. 3 積立保険
4. 4保険料算出原理
第5章上級編
5.1 危険理論
5. 2 再保険
5. 3リスク評価の数理
Tea Time アク研初期メンバーの合格体験記
アクチュアリー受験研究会の魅力
第Ⅲ部アクチュアリー試験「損保数理」必須問題集
第6章 初級編
6.1 確率・統計の予備知識と回帰分析
6.2 損害保険料率の基礎知識
6.3 クレームの分析
6.4 支払備金
第7章 中級編
7.1 経験料率
7.2 クラス料率
7.3 積立保険
7.4 保険料算出原理
第8章 上級編
8.1 危険理論の基礎
8. 2 再保険
8.3 リスク評価の数理
付録A 損保数理のための数学公式集
A.1 基礎公式
A.2 確率分野公式
A. 3統計分野公式
A.4 モデリング分野公式
付録B 生保数理の復習 期始払年金現価率とは
付録C 電卓の使いこなし術(損保数理編)
参考文献
索引