例題と演習で学ぶ 電気回路(第2版)




【電気回路を理解するためのおすすめ本 – 電気主任技術者試験などの参考書にも!】も確認する

まえがき

電気電子工学や情報通信工学を専攻しようとする学生にとって,電気回路は,電磁気学と並ぶもっとも大切な基幹となる科目です。電気回路は,現代の先端的なエレクトロニクス関連科目のような派手さはありません.古典中の古典ともいうべき、とても地味な科目です.しかし,その重要度と応用発展の可能性から考えますと,格段に高い価値をもった学問といえるでしょう.

本書は,大学低学年の,この分野を初めて学ぼうとする学生を対象にして書かれたものです。重要ないくつかのポイントを確実におさえながら,電気回路の基礎を,体系的に理解できるように,いろいろな工夫をしました.

電気回路は、中学や高校で学んだ数学や物理をベースにして、順を追って学んでいけば、本来は、無理なく理解できる教科です.しかし,初学者にとって,電気回路をマスターすることは、少し辛い作業のようです。そのハードルは必ずしも低くありません。どうしてでしょうか?一つには,小さいころに乾電池に豆電球や模型モーターをつないで遊んできた皆さんにとって、今までの常識とは少しかけ離れたいくつかの概念を勉強しなければならない点が挙げられます。

たとえば,乾電池は1.5[V]の電圧を供給してくれる小さな電力供給装置です。しかし,これを電流を供給してくれる装置,すなわち電流源として考えるには、ちょっと努力が必要です。もう一つには、複素数や行列といった数学をひんぱんに使う点があるからだと思います.電気回路の勉強も終わりになったころになって、「複素数をいっぱい使ったのだけれど,果たして,複素数は何のために必要だったのだろう?」と疑問に思う学生は少なくありません。このように、導入部においていくつかの理解のつまずきが重なると,途中で挫折してしまうこともあります。何よりも,勉強する意欲がそがれてしまいます.

本書は、筆者が、立命館大学の電気電子工学科において,1年生および2年生の学生に対して講義を行った経験に基づいて書かれています。学生との質疑応答やアンケート結果を十分に踏まえ,以下のような工夫を行いました。

(1) 内容を精選しました。学ぶべきことは多いのですが、重要度の高い項目を,学生が納得し余裕をもって勉強できるようにしました.学生にとって負担の重い部分は割愛しています。

(2) 15週の1セメスターに合うように、全体を14章で構成しました。各章の内容が、90分程度の一回の講義で,ゆったり勉強できるようにしています。

(3) 基本的ではあるものの、学生が十分に納得しにくい項目に対しては、紙面を十分に割いて解説しました。たとえば,先ほど述べた電流源の概念や,交流用に複素数を導入することの必要性が挙げられます。三相交流回路の仕組みについても,丁寧に説明を加えました。

(4) 確実にマスターしなければならない項目に対しては,囲みをつけ,予習・復習の便宜を図りました。

(5) 考え方の流れが理解しやすいように,複数の図を組み合わせて説明する方法を随所に採用しました.

(6) 問題の解答は、読者が自習しやすいように、丁寧に記載しました.

この本は、前述しましたように,電気回路の基礎的な内容について書かれています。2端子対回路,ひずみ波交流,過渡現象,あるいは分布定数回路等の,やや高度な項目については,この本の続巻である「例題と演習で学ぶ続・電気回路」で説明します。この本と併せてご覧ください。この本が,電気回路の要点を,皆さんが納得して理解できる一助となりますと幸いです.

最後になりますが,本書の出版の機会を与えてくださり,また執筆に関しまして数々のアドバイスを頂きました,森北出版株式会社の富井晃さんに深く感謝致します。

2011年1月 著者

■ 第2版の発行にあたって
第1版の発刊以来6年が経過し、幸いにも多くの読者に恵まれ,貴重なご指摘も頂いて参りました。このたび、よりわかりやすい電気回路の書を目指して,さまざまな改良を加え,第2版を世に送ることとなりました。第2版の内容は,実質的に第1版の内容と変わっておりません。

しかし,2色刷にして、図や表,さらに本文中の重要項目が、より明瞭に、また理解しやすくなるように工夫しました。やや複雑な内容の部分につきましては説明を随所に補い、文章の表現や技術用語を全面的に吟味し直しました。講義の教科書として、また自学自習の書として、十分にその役割が果たせるように努めました。

第2版の改訂にあたりまして、数々のアドバイスを頂きました森北出版の千先治樹さんに、感謝致します。

2017年9月 著者

服藤 憲司 (著)
出版社 : 森北出版 (2017/11/29)、出典:出版社HP

目次

1章 直流回路の要素
1.1 乾電池と豆電球の回路
1.2 電流
1.3 電圧と電位
1.4 電力と電力量
1.5 オームの法則
演習問題

2章 直流回路の解析
2.1 乾電池の直列接続と並列接続
2.2 抵抗の直列接続
2.3 抵抗の並列接続
2.4 直列回路における分圧の法則
2.5 並列回路における分流の法則
2.6 キルヒホッフの法則
演習問題

3章 電圧源と電流源
3.1 電池の内部抵抗
3.2 定電圧源と定電流源
3.3 電気回路の線形性
3.4 重ね合わせの理
3.5 テブナンの定理
3.6 ノートンの定理
3.7 最大電力の法則
演習問題

4章 正弦波交流の基礎
4.1 正弦波交流の表現法
4.2 回転運動と正弦波曲線
4.3 正弦波交流の位相
4.4 平均値と実効値
4.5 交流の発生 演習問題

5章 交流の複素数表示
5.1 複素数の基礎
5.2 複素数の指数関数表現
5.3 複素数の四則演算
5.4 共役複素数
5.5 回転オペレータ
5.6 正弦波交流の複素数表示
演習問題

6章 基本素子の交流回路
6.1 抵抗Rのみの回路
6.2 インダクタンスLのみの回路
6.3 キャパシタンスCのみの回路
6.4 インピーダンス
演習問題

7章 組み合わせ素子の交流回路
7.1 RL直列回路
7.2 RC直列回路
7.3 RLC直列回路
7.4 並列回路とアドミタンス
演習問題

8章 交流の電力
8.1 瞬時電力
8.2 有効電力
8.3 皮相電力,無効電力と力率
8.4 電力の複素数表示
演習問題

9章 共振回路
9.1 直列共振回路
9.2 Q値(尖鋭度)
9.3 並列共振回路
演習問題

10章 回路方程式
10.1 交流のキルヒホッフの法則
10.2 枝電流法
10.3 閉路電流法
10.4 節点電位法
10.5 Y-Δ変換
10.6 交流ブリッジ回路
演習問題

11章 交流回路の定理
11.1 重ね合わせの理
11.2 テブナンの定理
11.3 ノートンの定理
演習問題

12章 相互誘導回路
12.1 自己誘導
12.2 相互誘導
12.3 直列接続したインダクタンスの合成
12.4 電源と負荷をもつ相互誘導回路
演習問題

13章 三相交流電源と結線方法
13.1 Y結線による三相交流の表現
13.2 Δ結線による三相交流の表現
13.3 電源のY-Δ変換
13.4 負荷のY-Δ変換
演習問題

14章 対称三相交流回路
14.1 Y結線電源-Y結線負荷
14.2 Δ結線電源-Δ結線負荷
14.3 三相電力
演習問題

演習問題解答

付録
A.1 三角関数
A.2 マクローリン展開
A.3 クラメールの公式

参考文献
索引

服藤 憲司 (著)
出版社 : 森北出版 (2017/11/29)、出典:出版社HP