これならわかる回路計算に強くなる本 (電気徹底攻略シリーズ)




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まえがき

この本は、教科書のように、かしこまった本ではない.教科書は,なるべく簡潔に,そして厳密に正しく,といったことを目標に書かれているようである.したがって、読んで分かりにくい.本書はこれとは逆に,あまり厳密な記述ではないが,読んで分かりやすく,ここが大切だということを重点に,幾分おしゃべり気味に書いたつもりである.

高校で電気の勉強をした人,あるいは,電験3種・2種の勉強をしている人で,回路計算をしていて,どうもここの所は分かり難い,という所があると思う.例えば,相互インダクタンスMの前の土の符号はどう決めるか,とか,電源も負荷も△の,いわゆる△-△結線の三相回路では、キルヒホッフの電圧則の式をいくつ立てたらよいか,といったことを確信を持って説明できる人は割に少ないのではないだろうか.本書は,このような問題について,大げさにいえば、その極意を説明したいと思って書いたものである.

本書の前半は、直流回路・交流回路・三相回路といった,電気の勉強をした人にとってなじみが深い基礎的なテーマである.これに対して後半は、ベクトル軌跡・四端子回路・対称座標法・過渡現象・進行波などの,どちらかというと取りつき難いやや高級なテーマである.

前半のテーマは基礎的なもの,といっても,いろいろ問題がある,極端な話,オームの法則でも,不平衡三相回路になるとうまく使えない人が多い.電圧・電流あるいは電力の士というのは分かり難いものである.それは,正方向の考え方がシッカリしていないからである、正方向を理解することは大切である.本書では,一番最初に瞬時値の考え方を説明している.瞬時値の計算が,直流・交流・ひずみ波・過渡現象などの計算に一貫して基礎になっているからである.そこで,まず,正方向の考えを説明している.

とにかく,基礎的なことでも、いや基礎的なことだからこそ、理解を深めておかねばならないことが多いのである.前半では,基礎的なことで、大切なポイントを説明したつもりである.なお,1章の「回路計算の基礎」はやや抽象的なところもあり,分かりにくい面もあるので、読み進んだあとで、改めて読み直して戴くのも良いかと思われる.

後半のやや高級なテーマは,例えば,対称座標法はどうも取りつき難い,という人のために,その取りつき難い壁を取り払いたいと思って書いた.ベクトル軌跡・四端子回路・ひずみ波・対称座標法・過渡現象・進行波などが苦手な方も,本書を辛抱して読めば,必ず理解できると信じています.

回路計算を理解し,自由に計算できるようになるには,計算練習が必要である.頭の中で計算方法を思い浮べているだけでは上達しない.是非,鉛筆を持ち,自分で考えて,計算練習をして戴きたい、問題を解くにはいろいろな方法がある.いろいろな方法で解いてみるのは,有意義なことである.いろいろ変った方法で計算する内に,この問題は、この方法が一番早く,うまく解けるといった,最適の方法が見つかるものである.

本書では,相当丁寧に解答を書いたつもりである.解答を見ないで問題を解くべきであるが、最低のやり方でも、必ず問題を読み,解答を見て計算してみて戴きたい.また,細かいことで恐縮であるが,本書では,見開いた2頁で,記述内容をある程度まとめたつもりである.特に、文章と図とを離さないようにした.文章を読み、頁をめくって図を見て、また、文章を読み直す,といったことがないようにし、読みやすい本にすることを心掛けた.

以上、良いことばかりを並べたが,不備な点も多々あるかと思います.疑問がある点はご質問いただき,また,不備な点はご指摘いただければ幸いと思います.

昭和63年3月
紙田公

紙田 公 (著)
出版社 : 電気書院 (1988/4/1)、出典:出版社HP

目次

1 回路計算の基礎
1・1 数学をどう使うか
1・2 ディメンションは有力な武器
1・3 回路計算の根元は瞬時値の計算
1・4 正方向をきめないと回路計算はできない
1・5 -Ldi/dtか上di/dtか(逆起電力の正方向)
1・6 足すか引くかは正方向できめる
1・7 等価ということ
1・8 電圧源と電流源
1・9 双対性とは
1・10 電力と交流の平均値と実効値
1・11 答はこのように吟味しよう

2 直流回路の計算
2・1 オームの法則でも間違えることがある
2・2 並列合成抵抗の勘違い
2・3 分圧・分流計算を活用しよう
2・4 △-人変換の思い出し方
2・5 キルヒホッフの法則の式はいくつ必要か(法則の使い方)

3 正弦波交流電圧・電流の計算
3・1 ベクトルは正弦波交流の瞬時値を表している
3・2 ベクトルの加減算は瞬時値の計算である
3・3 複素数の重要公式
3・4 2を使えば直流計算と同じ
3・5 交流と直流の計算はどこが違うか
3・6 交流計算の手順
3・7 交流計算では正方向が大切である
3・8 電位差はどの経路で計算してもよい
3・9 電位差計算には地図ベクトルが便利
3・10 絶対値計算の近道
3・11 位相差の求め方

4 交流電力の計算
4・1 電力計算方法のいろいろ
4・2 電力の計算と正方向
4・3 電力はどちらに向かって流れるか
4・4 I^2Rを活用しよう
4・5 なぜ無効電力に+-があるのか
4・6 VIとVIとはどう違うか
4・7 電力は算術的,無効電力は代数的足し算

5 交流計算の諸手法
5・1 相互インダクタンスM
5・2 Mの±は極性符号と正方向できまる
5・3 MのV-Y変換と±
5・4 重ねの理のポイント
5・5電圧・電流は電源に置き換えられる
5・6 補償の理は重ねの理で考える
5・7 断線も重ねの理で考える
5・8 鳳・テブナンの理と等価電源
5・9 切ってテブナンの理を使う
5・10 鳳・テブナンの理はなぜ成り立つか
5・11 アドミタンスが便利な場合
5・12 回路の条件を求める問題

6 平衡三相回路
6・1 平衡三相回路
6・2 馴れると便利なオペレータa
6・3 中性線は有っても無くても同じ
6・4 平衡三相回路は人一人に変換できる
6・5 三相電力の式
6・6 電力がらみの問題は電力保存則を活用する
6・7 電力計の指示は、こうして計算する

7 不平衡三相回路
7・1 単純なムームなら至極簡単
7・2 オームの法則を正しく使おう
7・3 人-人はミルマンの出番
7・4 キルヒホッフの法則ならほぼ万能
7・5 電源のムース変換
7・6 和が0になるベクトルの応用

8 ベクトル軌跡
8・1 ベクトル軌跡の概要と解法の種類
8・2 図形の方程式による方法
8・3 指数関数による方法
8・4 逆図形などの図形による方法

9 四端子回路と四端子定数
9・1 電源側電圧・電流を求める式(四端子定数)
9・2 四端子定数の求め方
9・3 基本回路の四端子定数
9・4 四端子定数の性質
9・5 縦続接続は行列が便利
9・6 四端子定数を逆に使うには
9・7 分布定数回路の四端子定数

10 ひずみ波交流
10・1 ひずみ波形
10・2 基礎は瞬時値,計算は正弦波交流を活用する
10・3 平均値・実効値は面積を考えよ
10・4 ひずみ波形は高調波に分解できる
10・5 高調波の式からの平均値・実効値の計算
10・6 ひずみ波交流の電力
10・7 ひずみ波もベクトル計算ができる
10・8 三相回路のひずみ波
10・9 三相回路の第3・5・7高調波
10・10 フーリエ級数への展開

11 対称座標法
11・1 対称座標法は、どういうときに使うか
11・2 2線短絡電流を分解する
11・3 不平衡電圧・電流は、すべて対称な成分で表せる
11・4 対称分の公式はこうして記憶する
11・5 対称座標法による計算の原理
11・6 対称分回路とインピーダンス
11・7 変圧器では零相電流はどう流れるか
11・8 対称座標法を絵で解く
11・9 対称座標法をやたらに使うな

12 過渡現象
12・1 過渡現象とはどういうものか
12・2 RL:E回路で過渡現象を考える
12・3 微分方程式の解き方
12・4 再びRL:E回路について
12・5 RC:E回路の過渡現象
12・6 初期条件は大切である
12・7 Cの放電と正方向の考え方
12・8 直並列回路や状態変化を考える
12・9 重ねの理,鳳・テブナンの理も使える
12・10 RLC回路の過渡現象
12・11 Rが小さいときの近似値(LC回路)
12・12 交流でも計算の筋道は同じ

13 進行波(分布定数回路の過渡現象)
13・1 分布定数回路と進行波
13・2 進行彼の性質
13・3 反射波と透過波
13・4 反射係数と透過係数
13・5 開放端と接地端での反射
13・6 各種変異点の問題
13・7 相互サージインピーダンス

解答

紙田 公 (著)
出版社 : 電気書院 (1988/4/1)、出典:出版社HP