電気回路論 (電気学会大学講座)




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序言

電気学会は,1888年に創立された学者,技術者および電気関係法人の会員組織であり,そのおもな目的は「電気に関する研究と進歩とその成果の普及を図り,もって学術の発展と文化の向上に寄与する」ことにある.創立120周年を機に活動の範囲を一段と広げようとしている。

電気学会は上記の目的を出版を通して達成するために,大学講座シリーズをはじめとする図書出版を企画し,その多くが大学,高専等の教科書として使用されている.また,これらの図書は教材として多様な職場の社会人に読まれており,電気主任技術者,エネルギー管理士または情報処理技術者等の資格を取得するのに役立てられ、技術者の養成に預かっている。

一方,科学技術の進歩に伴い、新しい技術分野が次々に生まれ,また従来分野を横断した学術的知識が技術者に要求されるようになっている。これを反映して,大学工学部の講義科目とその内容,時間配分は,多様化の傾向にある。

電気学会では,技術の進歩と教育方法の改編に対処することを編修方針の一つとしており,例えば,全国の大学の電気工学および関連学科の講義科目,内容,時間数を分析し,さらに当会発行図書について実際に講義に使用されている先生方のご意見を拝聴するなどして,今日の講義科目に適した教科書の制作,または改訂を行っている。

さらに,産業界からの要望に応えて、現場技術者,研究者にすぐ役立つような内容の専門技術書を時宜を得て発行することにも努力している。

電気工学,さらには電子工学の成果は、今日あらゆる産業,技術に取り入れられ,その発展に寄与しているといっても過言ではなかろうしたがって,電気・電子工学の知識の学習と更新は,それを専攻する学生および技術者のみならず,他の各種技術分野に携わる人達にとっても不可欠である.一方,電気・電子技術者にとっては関連技術分野の知識の学習がますます必要とされてきている.すでに電気学会の教科書,図書で学んだ人達の数は数百万人におよんでおり,当時の学生で今日,各界の指導者として活躍されておられる方も多く,一つの伝統を生むに至っている。

以上のような目的と背景のもと、組織的に制作された叡知の所産である本書の内容が,読者にいかんなく吸収されて能力養成の一助となり,「ひいては,我が国技術の発展に一段と資することを願って止まない次第である。

の終りに,数々の貴重なご意見、資料のご提供を賜った大学および高専等の先生をはじめ、関係者各位に厚く御礼申しあげると共に,編修制作の推進に当たられた役員,編修委員,執筆委員諸氏に深謝の意を表するものである.また,実務に携わって努力されてきた職員諸氏の労を多とし合わせて感謝の意を表するものである.

2008年5月
社団法人 電気学会
出版事業委員会

平山 博 (著), 大附 辰夫 (著)
出版社 : 電気学会 (2008/5/1)、出典:出版社HP

3版改訂にあたって

本書は,1951年の初版発行以来,1970年の「改訂版」の発行,2002年の「2版改訂」を経て,今回の「3版改訂」に至っている.今回の改訂においては,時代の流れにつれて陳腐化した部分の削除や,説明不足の部分の改良に加えて,全体を構成する各章のつながりや位置づけを最初の部分(第1章)で明確にすることに注意を払った.さらに,各章の末尾の演習問題の更新も併せて行った.

第1章では,回路を構成する3種類の基本素子(R,L,C)の定義および回路解析の基本となるオームの法則とキルヒホッフの法則を導入し,それに基づいて電源と抵抗だけから成る直流回路の解析法を説明している.

第2章では,正弦波交流電源で駆動された単純なRLC回路の定常状態を三角関数を用いて解析する手順について説明する.また,異なる周波数の正弦波を重ね合わせたひずみ波交流(周期波)の扱い方についても説明を加えている.

第3章では,交流回路の電圧/電流を複素数で表示し,さらに直流回路における抵抗を複素数値をとるインピーダンスに置き換えることによって、交流回路の定常解析の問題が複素数の四則演算に帰着されることを示す。引き続き第4章では,交流回路のさまざまな現象を複素数の四則演算に基づいて解析する方法を説明している。

第5章では,グラフ理論に基づく回路方程式の定式化の手順を体系的に整理するとともに、一般線形回路網の諸性質に関してわかりやすく単純な説明を導入した。さらに、トランジスタを含む線形能動回路についても簡単な解説を加えた。

第6章では,本書の他の章で扱っている「回路解析」の問題とは逆に、与えられた周波数特性を持つ一端子対回路を実現するという「回路構成」の問題を扱っている.

第7章では,電気を特定の情報を表す信号として利用することを想定して(一方の端子対が入力信号に,他方の端子対が出力信号に対応する),二端子回路の基本的性質を論じている。これとは異なり,第8章では,電気をエネルギーとして利用することを想定して,周波数がで位相の異なる交流起電力を重ねた多相交流の問題を扱っている。

第9章では,まず単純な回路の過渡現象の工学的意味を説明したうえ3000とに,ラプラス変換に基づく演算子法による一般的な過渡現象解析の手順を説明している.

最後の第10章では,伝送線路に沿って回路定数が一様に分布しているとみなした分布定数回路を対象として,その定常状態と過渡現象の解析法を論じている。

大学や高等専門学校の教育課程における「電気回路論」を広く解釈すれば,直流・交流理論から過渡現象まで,また集中定数回路から分布定数回路まで,回路解析から回路構成論まで,さらにトランジスタの線形モデルに基づく能動回路の理論までの内容にわたっている。本書は,これらの内容のほとんどをカバーしており,電気回路の基礎としてのいわゆる「交流理論」は第4章までに十分説明されている.第5章以下で「は、より高度な内容に関して各章が独立して完結するように記述されているので,教科書として利用される個々の先生方が独自の教育方針に沿って必要な部分だけを抜粋していただければよいと思われる.

今回の改訂によって、本書がいままで以上に,学習者にとってよりわかりやすく役に立つものとなることを望む次第である。

2008年5月
著者

平山 博 (著), 大附 辰夫 (著)
出版社 : 電気学会 (2008/5/1)、出典:出版社HP

目次

第1章 電気回路の基礎
1.1 概説
1.2 キルヒホッフの法則
1.3 電気回路の素子
1.4 直流回路の基礎
1.5 直流の電力および電力量
1.6 直列回路
1.7 並列回路
1.8 ホイートストンブリッジ
1.9 消費電力最大のための負荷抵抗
1.10 回路の定常状態と過渡現象
1.11 問題

第2章 交流電圧・電流・電力
2.1 正弦波電圧・電流
2.2 ひずみ波交流(周期波)
2.3 抵抗素子の交流特性
2.4 インダクタンス素子の交流特性
2.5 静電容量素子の交流特性
2.6 RLC直列回路の交流特性
2.7 正弦波電圧・電流と電力
2.8 ひずみ波電圧・電流と電力
2.9 問題

第3章 交流回路の複素計算法
3.1 正弦波の複素数表示
3.2 インピーダンスとアドミタンス
3.3 電力の複素数表示
3.4 ベクトル図
3.5 ベクトル軌跡
3.6 問題

第4章 交流回路
4.1 交流回路の基礎
4.2 直列回路と並列回路
4.3 RL直列回路とRL並列回路
4.4 RC直列回路とRC並列回路
4.5 RLC直列回路とRLC並列回路
4.6 並直列回路
4.7 はしご形回路
4.8 相互誘導回路
4.9 ブリッジ回路
4.10 問題

第5章 一般線形回路網
5.1 概説
5.2 回路の接続関係のグラフによる表現
5.3 キルヒホッフの法則とテレヘンの定理
5.4 基本カットセットと基本ループ
5.5 双対グラフと双対回路
5.6 回路方程式の定式化
5.7 双対性
5.8 相反定理
5.9 テブナンの定理とノルトンの定理
5.10 電力とエネルギー
5.11 能動線形回路
5.12 問題

第6章 一端子対回路re
6.1 概説
6.2 RLC一端子対回路
6.3 リアクタンス一端子対回路
6.4 RL一端子対回路
6.5 RC-端子対回路
6.6 逆回路
6.7 定抵抗回路
6.8 問題

第7章 二端子対回路
7.1 概説
7.2 インピーダンスパラメータ
7.3 アドミタンスパラメータ
7.4 Hパラメータsen
7.5 Gパラメータ
7.6 Fパラメータ
7.7 基本的な二端子対パラメータとその相互変換
7.8 影像パラメータ
7.9 反復パラメータ
7.10 二等分定理
7.11 問題

第8章 三相交流
8.1 概説
8.2 対称三相交流
8.3 対称Y形起電力とY形負荷
8.4 対称Y形起電力と△形負荷
8.5 対称込形起電力とY形負荷
8.6 対称△形起電力と△形負荷
8.7 三相交流回路の電力
8.8 対称座標法
8.9 インピーダンスの対称座標変換
8.10 三相交流電源電圧
8.11 対称分による電力表示
8.12 対称三相交流による回転磁界
8.13 問題

第9章 回路の過渡現象と演算子法
9.1 総説
9.2 RC直列回路の過渡現象
9.3 演算子法による過渡現象解析の概要
9.4 演算子法の理論
9.5 基本RLC回路の過渡現象解析
9.6 ラプラス変換の公式
9.7 問題

第10章 分布定数回路
10.1 分布定数回路の基礎方程式
10.2 正弦波交流における分布定数回路
10.3 特性インピーダンスおよび伝搬定数
10.4 端条件による電圧・電流分布
10.5 位置角
10.6 分布直列インピーダンスおよびアドミタンスの測定
10.7 有限長線路の等価二端子対回路
10.8 反射および透過
10.9 分布定数回路の過渡現象解析
10.10 無ひずみ(無損失)線路の過渡現象
10.11 RC線路の過渡現象
10.12 問題

問題解答
引索

平山 博 (著), 大附 辰夫 (著)
出版社 : 電気学会 (2008/5/1)、出典:出版社HP