大学課程 電気回路〈1〉




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第三版への序文

初版発刊以来30年を経たが,その間多数の読者に恵まれて,このたび第三版を世に送る運びとなったのは誠に幸せなことである.

電気回路理論は工学を支える大きな柱であるが,不幸にしてこれに向けられる時間は,学科目の過密化のため,近年窮屈になってきた.しかも一方では,専門に進む場合の階梯として,教科書の内容は一層の充実が求められている.このような事情に鑑み、通読の容易さや教材選択の便宜などのため,第三版では,やや進んだ内容と思われる節,小節等に大まかな目安として◇印を付けた.また,式の他重要事項にも番号を付けて、引用を密にした.これらを利用して,志望の専門に応じ,あるいは興味に任せて,随意に抜き読み,拾い読みをして戴ければ幸いである.

第三版も,これまでと変りなく,普通に交流理論といわれる分野を主な対象とし、自学自習ができることを目標としているが,今回の具体的な改訂としては,フェーザの定義を明確にしたこと,グラフの数式的議論を強化したこと,三相回路の理論を新しい構成にしたこと,演習問題を補強したこと等が挙げられる.さらに,全巻にわたって削除と補筆を行い、説明を平易にして、勉学が一層容易になるよう努めた.第三版では,時代の変化に対応すべく,新たに西が著者に加わった.なお,最終稿は大野が執筆した.

終りに,本書初版の刊行に際して共編の労を執られた故熊谷三郎大阪大学名誉教授,並びに榊米一郎名古屋大学名誉教授,尾崎弘大阪大学名誉教授に厚く謝意を表する.

1999年2月
大野克郎
西哲生

大野 克郎 (著), 西 哲生 (著)
出版社 : オーム社 (1999/3/1)、出典:出版社HP

第一版のはしがき

電気回路は,読者諸君が大学で学ぶ専門課目としては,恐らく最初のものであろう.したがって,今後の勉学に影響するところが大きいから,懇切な講義が行なわれるはずだと思う.しかし,ここで諸君におすすめしたいのは,できれば電気回路を独習されたいということである.大学で学ぶべき最も大切なことは,個個の課目ではなくて、自ら学ぶ方法を学ぶということであろう.その練習をするには,電気回路はやさしすぎず,難しすぎず,ちょうど手頃な課目ではないかと考える.その意味で本書では,なるべく天下り的な事項を避け,記述を論理的にし,また説明を多様にするように努めたつもりである.このために数式などの引用がいくらか多くなった感があるが,引用番号を忠実にたどれば,勉学上よい効果が得られると思う.読者諸君が本書を、受身の立場でなく,できれば自ら読了して理解し,さらに高度の回路理論あるいは興味ある分野の勉強に積極的に進まれることを期待している.

昭和43年5月
大野克郎

大野 克郎 (著), 西 哲生 (著)
出版社 : オーム社 (1999/3/1)、出典:出版社HP

目次

電気回路を学ぶ前に

第1章 抵抗回路
1.1 抵抗とオームの法則
1.2 直流電圧源
1.3 抵抗における電力
1.4 抵抗の接続
1.5 直流電流源と直流電圧源
演習問題

第2章 回路素子とその性質
2.1 各種の回路素子
2.2 回路素子における電力とエネルギー
2.3 回路と微分方程式
演習問題

第3章 正弦波と複素数
3.1 交流
3.2 複素数
3.3 正弦波のフェーザ表示
演習問題

第4章 交流回路と記号的計算法
4.1 インピーダンスとアドミタンス
4.2 電力
演習問題

第5章 直並列回路
5.1 簡単な直並列回路
5.2 等価回路
5.3 共振回路
演習問題

第6章 相互インダクタンスと変成器(変圧器)
6.1 相互インダクタンス
6.2 回路としての変成器(変圧器)
6.3 理想変成器(理想変圧器)
演習問題

第7章 回路の方程式
7.1 回路のグラフとキルヒホッフの法則
7.2 回路の方程式のたて方
7.3 インピーダンス行列とアドミタンス行列
7.4 グラフの数式的表現と回路の方程式
演習問題

第8章 回路に関する諸定理
8.1 重ね合わせの理
8.2 回路の双対性
8.3 相反定理(可逆定理)
8.4 等価電源(等価電圧源及び等価電流源)の定理
8.5 補償定理
8.6 供給電力最大の法則
8.7 電力の保存則
演習問題

第9章 二端子対網とその基本的表現法
9.1 二端子対網
9.2 アドミタンス行列(Y行列)
9.3 インピーダンス行列(Z行列)
9.4 縦続行列
9.5 ハイブリッド行列(H行列)
9.6 S行列
9.7 諸行列間の関係
9.8 Y-A変換
9.9 完全四端子網
演習問題

第10章 二端子対網の伝送的性質
10.1 二端子対網における入力、出力,及び伝達インピーダンス
10.2 伝送量
10.3 双曲線関数
10.4 反復パラメータ
10.5 影像パラメータ
10.6 フィルター
10.7円線図
演習問題

第11章 能動及び非相反二端子対網
11.1 能動二端子対網
11.2 理想ジャイレータ
11.3 電気機械結合二端子対網
演習問題

第12章 三相交流回路
12.1 三相電源
12.2 平衡三相回路
12.3 不平衡三相回路
12.4 三相電源の表現
12.5 回転磁界
12.6 対称座標法
演習問題

演習問題略解

索引

大野 克郎 (著), 西 哲生 (著)
出版社 : オーム社 (1999/3/1)、出典:出版社HP

電気回路を学ぶ前に

電気回路は,何種類かある回路素子(circuit element)をいくつかつなぎ合わせてできたものである.回路素子の中には,電池とか,抵抗とか,すでに読者におなじみのものがあり,本書でも順を追って現れるが,電気回路の理論では回路素子の本質には必ずしも立ち入らないで,回路素子の接続点における電位(electric potential)や電流(electric current)などを問題にする.

すなわち,回路素子の性質は分かっているものとして,それらから組み立てられた回路がどのように働くかを主として問題にする.電気回路に関しては,回路の構造が与えられたときに,その性質を調べる回路解析の分野と,回路についてある性質が要求されたとき,これを満足する回路を求める回路構成(合成)の分野とがある.

後者は本書の第2巻においてその初歩が取り扱われるが,1,2巻を通じて前者が主な対象とされる.なお,本文中の小活字の部分は参考事項あるいはやや詳細な議論である.この部分は読み飛ばすことができるが,一応目を通す程度でも全般の理解の助けとなるであろう.

電気工学に関連する諸分野,特に電力、通信,電子,情報,制御等の分野においては,電気回路が大きな役割を担っているので,これらの分野に携わる人々は電気回路の理論を基礎的教養として身につけて置くことが大切である.さらに,電気回路の理論が電気工学以外の科学の諸分野に広く係わりを持っていることにも留意すべきである.

このようなことは,電気回路の知識が進めば追々に判ることなので、お話し的な前置きはこの辺で止めて、早速電気回路そのものの勉強に取り掛かろう.

大野 克郎 (著), 西 哲生 (著)
出版社 : オーム社 (1999/3/1)、出典:出版社HP