センサの原理と応用




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まえがき

センサは人間にたとえれば五感に相当するものであり,外界の情報を取得するために,光,音,熱,圧力,匂いなどの物理量・化学量を電気信号に変換する機能を有するデバイスである.近年の半導体技術,集積化技術の著しい進展にともなって、工場での生産ラインの自動化,飛行機・列車・自動車などの輸送機の制御,建物の安全などの安全管理システム,精密診断のための医療診断機器,日常生活の利便化を図る器具など,現代社会のいたるところにセンサ技術が使用されている.

センサによって捉えられた計測信号またはデータが何を意味するのかを解釈するためには,センサの出力信号を得る過程における原理を把握することが大切である.これを怠れば取得された計測データの解釈において誤りを犯す恐れがあり,特に医療診断等におけるこのような誤りは許されない.

センサの機能はセンサを構成する材料の性質や,材料において発現する物理現象を利用することにより実現される.したがって、センサの原理を理解するためには、学問的背景としての固体物理学(Solid State Physics)に基づいた原理の説明が必要となる.

本書は以上のような考えに基づいて、センサの原理を解説するとともに,その応用について述べるものである.しっかりとした学問的基礎に基づいて原理を把握しておけば,広い応用問題に直面した場合にも十分に対処してゆけると考え,原理の基礎を理論的に詳しく解説することを心がけた.大学2,3年次の学生対象の教科書としているため、できるだけ平易に解説しているが,さらに深く理論的説明を求める意欲的な読者のために“補遺”の章を設けた.

センサの応用を理解してもらうために、各章の適所にセンサの応用例を記述した.センサを応用して特定の目的を果たすように計測信号の取得法を工夫し、データ処理することによって適切にシステムとして組み上げられた“センサ応用システム”の代表的な例を第8章にまとめた.

本書を読むにあたって、量子力学の基礎事項,電気回路論,交流理論をすでに学んでおられることが望ましい.しかしこれらの知識をもたない読者も根気良く読めば理解できるように配慮している(必要箇所に参考書を示している).高度な内容を直観的に理解しやすくするように,図を多く用いる構成とした.このように,本書は理学と工学のバランスに配慮しながらセンサの解説をした機械系・電子情報系の学部向けの教科書であり,同時にセンサの開発・応用を始める人たちのための基礎的な解説書となるばかりでなく,センサの原理と応用に関心をもつ一般の人々にとって学習の一助になることを願っている.

本書は京都工芸繊維大学において十数年間,担当している「センサ工学」の講義録に基づいたものである.この大学に私を呼び,暖かく迎えて,私の研究生活を快適なものにしてくださった元京都工芸繊維大学教授串山正工学博士に感謝の意を表します.

本書をまとめるにあたって,種々のお世話をいただいた森北出版(株)の吉松啓視氏はじめ多くの方々に感謝申し上げるとともに,参照した書籍の著者に厚く御礼申し上げます.LATEXによる編集の際に,多大の協力を頂いた京都工芸繊維大学教授藤田真作工学博士と呉海元工学博士に感謝いたします.
2002年1月

京都にて
塩山忠義

塩山 忠義 (著)
森北出版

目次

第1章 緒言
1.1 センサの定義
1.2 センサの分類
1.3 信号の検出
1.3.1 ブリッジ法
1.3.2 オペアンプ(Operational amplifier)
1.3.3 共振回路
1.4 単位と物理定数
演習問題

第2章 光センサ
2.1 外部光電効果を利用した光センサ
2.2 内部光電効果を利用した光センサ
2.2.1 光導電効果形センサ
2.2.2 光起電力効果形センサ
2.3 イメージセンサ
2.3.1 MOS構造
2.3.2 MOSFET
2.3.3 MOS形イメージセンサ
2.3.4 CCD形イメージセンサ
2.4 光センサの応用例
演習問題

第3章 温度センサ
3.1 電気抵抗の温度変化を利用したセンサ
3.1.1 金属の電気抵抗の温度依存性
3.1.2 半導体の導電率の温度依存性
3.1.3 白金測温抵抗体
3.1.4 NTCサーミスタ
3.1.5 PTC サーミスタ
3.2 ゼーベック効果を利用したセンサ
3.2.1 熱電対
3.2.2 半導体のゼーベック効果
3.3 温度センサの応用例
演習問題

第4章 化学センサ
4.1 ガスセンサ
4.1.1 酸化物半導体ガスセンサ
4.1.2 電界効果形センサ
4.1.3 接触燃焼式ガスセンサ
4.1.4 電解形ガスセンサ
4.2 湿度センサ
4.2.1 熱伝導式湿度センサ
4.2.2 セラミック湿度センサ
4.3 イオンセンサ
4.3.1 pHセンサ
4.3.2 ISFET
4.4 バイオセンサ
4.4.1 グルコースセンサ
4.4.2 尿素センサ
4.4.3 DNAチップ
4.5 化学センサの応用例
演習問題

第5章 機械量センサ
5.1 圧力センサ
5.1.1 機械式圧力センサ
5.1.2 圧電効果形圧力センサ
5.2 ひずみセンサ
5.2.1 金属ひずみゲージ
5.2.2 ピエゾ抵抗素子
5.2.3 Siダイアフラム形圧力センサ
5.2.4 SAWひずみセンサ
5.3 ガス圧センサ(真空計)
5.3.1 水銀マノメータ
5.3.2 ピラニ真空計
5.3.3 電離真空計
5.4 変位センサ
5.4.1 直線形ポテンショメータ
5.4.2 差動トランス
5.4.3 光電式ロータリエンコーダ
5.4.4 容量変化形変位センサ
5.5 機械量センサの応用例
演習問題

第6章 磁気センサー
6.1 常電導磁気センサ
6.1.1 ホール(Hall)素子
6.1.2 磁気抵抗素子
6.2 超電導磁気センサ: SQUID
6.2.1 DC SQUID
6.2.2 RF SQUID
6.3 磁気センサの応用例
演習問題

第7章 超音波センサ
7.1 厚み縦振動
7.1.1 圧電基本式
7.1.2 変位
7.1.3 アドミッタンス
7.2 超音波の性質
7.2.1 指向性
7.2.2 音響パワーの減衰
7.2.3 反射率・透過率
7.3 超音波センサの応用
7.3.1 超音波探傷
17.3.2 超音波による視覚障害者歩行補助
17.3.3 超音波医療診断
17.3.4 超音波センサによる障害物検知
7.3.5 超音波による流速計測
演習問題

第8章 センシング技術(センサと計測技術)
8. 1ドプラ式速度計測
8. 2レーザジャイロ
8.3 X線CT(X-ray computed tomograph)
8.4 MEG(Magnetoencephalograms
8.4.1 SQUID
8.4.2 MEGの構成
8.5 MRI(Magnetic Resonance Imaging)
8.5.1 NMR(Nuclear Magnetic Resonance)
8.5.2 MRIの構成
8.5.3 画像形成
8.6 センシング技術の応用例
演習問題

第9章 半導体補遺
9.1 n形,p形半導体
9.2 エネルギバンド・ギャップ
9.3 式(2.1),(2.2)の証明
9.4 MOSFETの基本特性

第10章 超電導現象補遺
10.1 BCS理論
10.1.1 Cooper対と電子間引力
10.1.2 Meissner効果
10.2 Josephson効果
10.2.1 Josephson電流
10.2.2 磁場の効果
10.2.3 交流Josephson効果
10.3 SQUID
10.3.1 式(6.19)の導出
10.3.2 RF SQUIDの出力特性

参考文献

演習問題略解

索引

●電気抵抗および抵抗器の記号について

塩山 忠義 (著)
森北出版