2020年度 技術士試験[上下水道部門]傾向と対策




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まえがき

我が国の技術への信頼性が揺らいでいる。

自動車の燃費データ偽装及び無資格者検査、製鋼における品質不足、鉄道車両の部材断面不足、基礎杭施工の杭長不足、制震・免震ダンパーの性能不足など企業の社会的責任を問われるような事件が頻発した。

しかも、これらが明るみに出てきたのは、大部分が内部通報、すなわち、技術者や社員からの良心に基づく連絡であった。「公衆の安全、健康、福利及び環境の保全」は、技術者にとって、最も基本的かつ優先すべき倫理観である。

技術士は、三大義務と二大責務を負っているプロの技術者集団である。三大義務とは、信用失墜行為の禁止、秘密保持義務、名称表示義務であり、二大責務は、公益確保の責務、資質向上の責務である。技術士は、関与する業務が社会や環境に及ぼす影響を予測評価する努力を怠らず、公衆の安全、健康、福祉を損なう、又は環境を破壊する可能性がある場合には、自己の良心と信念に従って行動すべきである。

技術立国を称する我が国の将来を担うべく、技術士を目指す技術者たちのより一層の活躍を期待するものである。

公共事業においては、技術士資格は以下のように位置付けられている。

国土交通省:特定建設業の営業所専任技術者又は監理技術者
建設部門、上下水道部門、衛生工学部門、機械部門、電気電子部門、農業部門(農業土木)、森林部門(林業・森林土木)、水産部門(水産土木)、前記のものを選択科目とする総合技術監理部門の第二次試験合格者

国土交通省:一般建設業の営業所専任技術者又は主任技術者
建設部門、上下水道部門、衛生工学部門、機械部門、電気電子部門、農業部門(農業土木)、森林部門(林業・森林土木)、水産部門(水産土木)、前記のものを選択科目とする総合技術監理部門の第二次試験合格者

国土交通省:公共下水道又は流域下水道の設計又は工事の監督管理を行う者
上下水道部門第二次試驗合格者国土交通省・環境省:公共下水道又は流域下水道の維持管理を行う者技術士上下水道部門(下水道)、技術士衛生工学部門(水質管理、廃棄物管理(汚物処理を含む))の第二次試験合格者

国土交通省:建設コンサルタントとして国土交通省に部門登録をする専任技術管理者
建設部門、上下水道部門(上水道及び工業用水道、下水道)、衛生工学部門(廃棄物管理)、農業部門(農業土木)、森林部門(森林土木)、水産部門(水産土木)、応用理学部門(地質)、機械部門、電気電子部門、前記のものを選択科目とする総合技術監理部門の技術士

国土交通省他:建設コンサルタント委託業務等の管理技術者と照査技術者
建設コンサルタントとして国土交通省に部門登録をする場合の車と共通で、法による登録を受けている者

国土交通省:地質調査業者として国土交通省に登録する場合の技術管理者
建設部門(土質及び基礎)、応用理学部門(地質)、前記のものを選択科目とする総合技術監理部門の技術士

国土交通省:都市計画における開発許可制度にもとづく開発許可申請の設計者の資格
建設部門、上下水道部門、衛生工学部門第二次試験合格者で宅地開発に関する技術に関して二年以上の実務経験者

国土交通省:宅地造成工事の技術的規準(擁壁、排水施設)の設計者
建設部門第二次試驗合格者

さらに、国土交通省では委託業務の発注方式で、技術提案(プロポーザル)方式が増加してきており、委託業務全体に占める割合は70~80%になってきた。このプロポーザル方式では、管理技術者・照査技術者・担当技術者が所有すべき資格として、技術士資格が挙げられており、それ以外の資格に比べて2倍程度の得点が与えられ、有利に評価されている。

この傾向は年々顕著になってきており、標準型プロポーザル方式のほか、簡易公募型プロポーザル方式、課題集中型簡易公募型プロポーザル方式など、多岐にわたる方式が試行され実際に運用されてきている。これらの多様なプロポーザル方式に対応していくためには、技術者が技術士を保有していることが必須の要件であり、その保有者数が多いほど委託業務の特定に有利になることは明らかである。

本書は、多くの技術者が技術士資格を取得するための参考図書としてまとめたものである。執筆にあたっては、地方公共団体、社団法人、コンサルタント、道路会社、鉄道会社、水処理会社、メーカー、技術士事務所などで活躍中の経験豊富な技1関わった。読者が技術士試験に合格され、更なる活躍をされんことを期待する。

本書の企画・出版は、鹿島出版会のご協力で実施に至り、特に、同社の橋口当には大変お世話になった。深く感謝の意を表す次第である。本書の執筆と対術士のインフォーマルな集まりである「CEネットワーク」により行われた。

2020年2月

CEネットワーク (編集)
鹿島出版会 (2020/2/27)、出典:出版社HP

目次

まえがき
本書の構成と利用方法

1.技術士第二次試験制度について
[平成31(2019)年度技術士試験の概要について] [今後の技術士試験の在り方について]

2.本書の利用方法
必須科目
選択科目

3.令和2年度の出題予想
必須科目
選択科目:上水道及び工業用水道
選択科目:下水道

4.実務経験証明書
5.口頭試験

第二次試験(必須科目)記述式試験の対策
1.上下水道全般[キーワード体系表] 地球規模
国内規模
事業規模

[出題問題及び予想問題] 設問-1事業継続・早期復旧
設問-2地球温暖化
設問-3大規模災害対策(地震)
設問-4大規模災害対策(豪雨)
設問-5計画的・効率的維持管理(アセットマネジメント)
設問-6ICT活用
設問-7広域化・共同化
設問-8上下水道事業に共通する課題とPPP/PFI事業

第二次試験(選択科目)記述式試験の対策
2.上水道及び工業用水道[出題問題・情報源・出題予想] [キーワード体系表] 水道施設計画
凝集・沈殿
ろ過・膜ろ過
高度処理
消毒技術
配水池
管路
地下水
水質

[専門知識を問う問題] 設問-1地下水利用における水質障害・汚染の種類と対策
設問-2凝集沈殿池の処理の仕組みと運転における留意点
設問-3配水管における残留塩素濃度の変化と対策
設問-4配水池の役割と設計時の留意点
設問-5水道施設におけるクリプトスポリジウム等対策
設問-6老朽化した水道管路施設の更新計画
設問-7漏水防止対策
設問-8浄水処理使用される凝集剤 [応用能力を問う問題] 設問-1管路診断の業務手順と留意点
設問-2浄水場におけるスラッジの脱水効率の改善
設問-3送・配水管の破裂や漏水事故の原因と対策
設問-4凝集剤としてポリシリカ鉄の導入
設問-5配水管路ブロック化の利点と留意事項
設問-6水道施設の省エネルギー対策
設問-7貯水池の富栄養化対策 [問題解決能力及び課題遂行能力を問う問題] 問題-1安全・快適な水道水を供給するための課題
設問-2水道施設の再構築計画を立案するための課題
設問-3水道事業の広域化に関する課題と技術的提案
設問-4水需要量の減少時代における水道事業の課題

3.下水道[出題問題・情報源・出題予想] [キーワード体系表] 下水道計画
管きょ計画
雨水対策
管きょ工事
処理場・ポンプ場計画
水処理方式
汚泥処理方式
管きょの維持管理
処理場の維持管理
資源利用

[専門知識を問う問題] 設問-1下水の排除方式(分流式・合流式)の特徴
設問-2管渠更生に用いられる自立管・複合管の特徴と適用工法
設問-3下水処理における硝化反応の概要と特徴
設問-4汚泥濃縮方法(機械濃縮と重力濃縮)の概要と特徴
設問-5下水道BCPの目的及び計画策定における留意点
設問-6下水道管路施設の耐震工法の概要と特徴
設問-7水質指標のBODの意味と特徴及び測定方法
設問-8嫌気性汚泥消化の原理とエネルギー利用面での留意点 [応用能力を問う問題] 設問-1浸水対策整備のための雨水管理総合計画策定
設問-2標準活性汚泥法へのし尿・浄化槽汚泥受け入れ検討
設問-3水処理・汚泥処理施設の更新における新技術の導入
設問-4下水処理場におけるバイオマスの利活用
設問-5官民連携(PPP/PFI手法)の種類と効果及び導入手順
設問-6下水道未普及解消のためのコストキャップ型下水道
設問-7水位周知下水道の検討手順及び留意事項
設問-8下水処理場のエネルギー最適化の検討 [問題解決能力及び課題遂行能力を問う問題] 設問-1既存施設を活用した高度処理の導入計画策定
設問-2計画的・効果的な管きょの老朽化対策
設問-3下水汚泥の広域利活用の課題と解決策
設問-4雨水管理総合計画策定と浸水対策の立案

最後に

CEネットワーク (編集)
鹿島出版会 (2020/2/27)、出典:出版社HP

本書の構成と利用方法

1.技術士第二次試験制度について
上下水道部門ほか、総合技術監理部門以外の全ての部門について、令和元年度から試験制度が大幅に改正された。詳細が、日本技術士会ホームページに掲載されているので、原文を以下に引用する。「平成31年度技術士試験の概要について」と、「今後の技術士試験の在り方について(平成28年12月22日科学技術・学術審議会技術士分科会)」であり、後者の考え方を踏まえて前者の制度改正に至っている。

「平成31年度技術士試験の概要について」には、以下に引用した以外に、各部門別の選択科目の編成の変更が一覧表で示されている。上下水道部門では、従来、部門内の選択科目が、上水道及び工業用水道、下水道、水道環境の3科目となっていたが、水道環境が廃止された。以下では、一覧表は割愛している。

「今後の技術士試験の在り方について」には、現状認識、第一次試験、技術部門・選択科目、総合技術監理部門、CPD、普及拡大・活用促進等に関しても述べられているが、以下の引用では割愛している。

改正の要点は、以下のとおりである。
・必須科目(上下水道一般)が、択一式から記述式に変更
・選択科目の「問題解決能力を問う問題」が「問題解決能力・課題遂行能力を問う問題」に変更
・必須科目、選択科目における、概念、出題内容、評価項目が明確化

・評価項目には、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)が明確化
専門的学識、問題解決、マネジメント、評価、コミュニケーション、リーダーシップ、技術者倫理、継続研さん

・解答の文字数、試験時間、配点の変更
必須科目:40点(2時間、600字3枚)
選択科目:60点(3時間30分、600字6枚)

2.本書の利用方法
必須科目
必須科目は、100点中40点の配点であり、準備にまず取り組みたい科目である。令和元年度から、従来の択一式から記述式に改正された。「技術部門」全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力を問う問題である。本書では、令和元年度の出題と、上下水道を取り巻く今日的状況を踏まえて予想テーマを選択し、作問して解答を掲載している。

論文としての解答例から体系表を作成し、明記している参考文献等から有効な情報を追記すると、読者独自の体系表が作成できる。体系表は、全体像を階層的に把握することが可能で、上位下位関係、原因と結果の関係、トレードオフ関係等を表現できる。その体系表をブラッシュアップすると、解答例の論文の暗記に止まらず、他の読者と差別化した独自の解答を作成でき、高得点に結びつく。

選択科目
配点は、「問題解決能力及び課題遂行能力」を問う問題が30点、「専門知識及び応用能力」を問う問題が30点である。「専門知識及び応用能力」では、「専門知識」が10点、「応用能力」が20点と思われる。

したがって、まず準備に取り組むのは、30点の「問題解決能力及び課題遂行能力」とすることが望ましい。それは、求められる資質能力(コンピテンシー)が、必須科目と技術者倫理を除いて一致している点もある。「出題問題・情報源」一覧表には、平成27、28、29、30、令和元年度の出題を、情報源である関係省庁発刊の報告書等と対比してまとめている。

受験者が入手可能な情報から出題されていることが理解できる。日常業務では読まない中央省庁等からの報告書も、受験勉強を機会に気を付けて読むと、考え方に幅と奥行きが生まれる。技術士として必要な心構えであり、合格後も是非続けることを勧める。

発刊年度から年数が経過している報告書からも出題されているが、最近発刊された報告書で未出題のものは特に要注意である。「専門知識」を問う問題では、改定されたばかりの設計指針からの出題のほか、過去の出題も確認する必要がある。「専門知識」を問う問題については、令和元年度出題と予想問題について解答例を記載した。

600字1枚で解答する問題であるが、4題中から1題選択して解答する必要があり、本書の掲載例のほか、出題予想をして10題程度は用意しておく必要がある。上工水、下水道別に後で詳述する。「応用能力」を問う問題についても、令和元年度出題と予想問題について解答例を記載した。本書の解答例を参考に、水道分野、下水道分野で最近取り組まれているテーマについて解答例を4題程度は用意しておく必要がある。

600字2枚で解答する明題であるが、2題中から1題選択して解答する必要があり、選択幅が狭い。2」令和元年度の出題では、(1)調査・検討すべき事項と内容、(2)業務遂行手順・留音占・工夫占、(3)関係者との調整方策、の記述が求られている。この設問は、来年度以降でも同様と考えられる。該当業務の実務経験がないと記述が困難である。上下水、下水道別に後で詳述する。

「問題解決能力及び課題遂行能力」を問う問題についても、令和元年度出題と予想問題について解答例を記載した。本書の解答例を参考に、水道分野、下水道分野で、解決が必要な大きなテーマ、解決策が未確立の大きなテーマ、について解答例を各4題は準備しておく必要がある。600字3枚で解答する問題であるが、2題中から1題選択して解答する必要があり、選択幅が「応用能力」を問う問題と同様に狭い。

そして、令和元年度の出題では、(1)多面的観点からの課題、(2)重要課題1つの複数の解決策、(3)解決策に生じるリスクとその対策、の記述が求められている。この設問は来年度以降でも同様と考えられる。出題予想が重要である。上工水、下水道別に後で詳述する。

「キーワード体系表」は、上工水と下水道では出題傾向に応じて異なるまとめ方となっている。上工水では、9つの技術分野に関する技術士試験に必要な基礎情報をキーワード体系表にしている。これは、キーワードから主な出題元となる水道施設設計指針や水道維持管理指針を検索できるようにするためである。

下水道では主に、過去に出題されたまたは今後出題が予想される問題を10の技術分野に分類して、解答論文を作成する際に使用するキーワードを体系表にしている。これは、下水道の出題が主に、国土交通省から発刊されるマニュアルやガイドライン等に絞られているため、深く狭い情報提供を行おうとしたためである。

下水道のキーワード体系表から解答例を作成(文章化)する例を以下に示すが、解答例(文章)を暗記するのではなく、体系表で記述内容を理解して文章作成の練習を行うことが合格への近道である。

[キーワードを用いて文章作成する例] 下線部がキーワード体系表(p.137)に記載したキーワードである。キーワード体系表で理解しておくと文章化は容易である。問題膜分離活性汚泥法のプロセス構成上及び処理機能上の特徴を説明するとともに、下水道施設に適用する場合の設計上の留意点を述べよ。[H25出題]

解答例
1.プロセス構成上の特徴
最初沈殿池、最終沈殿池、消毒施設は必要ない。反応タンクのMLSS濃度が高いため、余剰汚泥は反応タンクから直接引き抜いて脱水する事が可能であり、この場へ、汚泥濃縮タンクが省略することが出来る。流入水量変動に対応するため、流量調タンクが必要である。膜の保護のため、前処理施設として、微細目スクリーンが必要である。

2.処理機能上の特徴
鳥終沈殿池における固液分離の制約がないため、反応タンク内MLSS濃度を高く保持でき、短時間で処理を行うことができる。処理水中にSSは検出されず、透明度が高い処理水が得られる。SS性BODが含まれないため処理水BOD濃度も低い。処理水中に大腸菌群はほとんど含まれない。SRTが長いため硝化反応が起こりやすい。

3.設計上の留意点
1ろ過膜:精密ろ過膜の透過流束は水温が低下すると小さくなるため、冬季に流入水温が相当低下する事が予想された場合には、設計透過流束に余裕を見込む。
2反応タンク:無酸素タンクと好気タンク間の開口は、酸素持ち込みを防止するために必要最小限にする。外部からの異物混入を防止するために、覆蓋をする。
3前処理施設:生物反応タンク流入前に、1mm目程度の微細目スクリーンを設置する。

4.令和2年度の出題予想
テーマに関する設問は、平成19~24年度においては、課題(影響)と技術的対策であった。今和元年度の試験では、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に対応して、設問が具体化された。2題とも同じ設問であり、今後も同、設問になると考えられる。必須科目に関する配点は40点であり、設問も4問に細分化されている。

設問を正しく理解して解答する必要がある。(1)では「上下水道共通の課題」であることが必要である。人口減少・財源不足、施設の老朽化、自然災害の多発など、上下水道に共通する大きな視点でとらえる必要がある。(3)では、「((2)で記述した複数の)解決策に共通して生じる」、そして「リスク」であることが求められている。

解決策1つ毎に異なるリスクではなく、複数の解決策に「共通した」リスクである。総合技術監理の5管理(経済性、人的資源、情報、安全、社会環境)の視点が効果的である。「課題」が経済性に関する内容ならば、安全や社会環境の視点からのリスクを考える等である。上下水道事業者の視点ではなく、住民、防災部局、民間事業者等の視点からリスクを考えるのも有効である。「リスク」とは、現状においては顕在化していない危険因子である。現状において顕在化している危険因子は「リスク」ではなく、「課題」であることを理解して記述する必要がある。

CEネットワーク (編集)
鹿島出版会 (2020/2/27)、出典:出版社HP