助産師国試対策スキルアップブック




監修の序

本書は助産師国家試験合格のための本である。これが第一義である。国家試験合格のための大原則は,過去問のパターン分析と予想である。しかし,そのための知識の蓄積には苦痛を伴う。そこで,本書は助産師にとって必要不可欠な知識を系統的にかつ平易な文章で構成した。つまり,本書を読み進めるだけで過去10回分の助産師国家試験のエッセンスを身につけることを可能にした。

このような着想で発行した本書であるが,今回3年ぶりに改訂を行った。この間の社会情勢の変化につれ,助産学も大きく変化した。診断基準の改訂や統計データの更新はもとより,法律の改正もあれば治療法も変化した。本書はこれらの変化を吸収して,可能な限りup to dateな情報を網羅するよう努力した。

たとえば,一般的に用いられている社会用語である“性同一性障害”は,“性同一性”と言う表現も“障害”という表現も差別偏見を助長する恐れがあることから,新たな診断基準(DSM-5)によって“性別違和”に変更になっているため,これを踏襲した。

ところで,近年はLGBT(lesbian, gay, bisexual, transgender)に関わる環境も徐々に変わり始め,家庭裁判所で“性別取扱い変更の審判”を受けることで戸籍上の性が変更可能となっている。また,渋谷区などの地方自治体による“同性パートナーシップ証明書”の交付や,戸籍上の女性しか入学を認めていなかったお茶の水女子大学が2020年からはtransgenderの学生を受け入れると発表したのは記憶に新しい。したがって,助産師は今後,LGBTも仕事の一環として対応しなければならなくなってきたわけで,まさにその領域の現状は多様性に富む仕事に変化しつつあるといえるだろう。

国家試験対応の話からやや脱線したが,私の産婦人科医として働いてきた40有余年のキャリアは,すべて助産師の方々の優しくも厳しい支援によって支えられたものと言っても過言ではない。かかる意味からも,助産師の本質的な仕事“ヒューマン・リプロダクション・サポーティング”は,種の保存に直接的に関わる神々しいものである。

某テレビ局で放送中の沖田×華原作「透明なゆりかご」は,新たな生命を考えさせられる点で久々の佳作と言えるが,さまざまな問題点を包含するその内容は,我われリプロダクションに関わる医療人に大きなテーマを投げかけていると感じるのは私だけではないだろう。

本書が,助産師を目指す諸姉に熟読され,国家試験合格の礎となることを切に願うものである。最後にくどいようだが,本書は助産師国家試験用のテキストである。助産師となった後,臨床現場で用いるであろう「産婦人科診療ガイドライン」とは,趣が若干異なることは予めご了解いただきたい。

2018年9月
元・日本医科大学女性生殖発達病態学・教授
可世木 久幸

可世木 久幸 (監修)
出版社: 海馬書房; 第3版 (2018/10/1)、出典:出版社HP

本書の構成と利用法

本書は,助産師国家試験の過去問を徹底的に分析し,国試に必須な事項を出題基準に準拠し,最新データでまとめたものです。国試に出題されていない内容でも,出題基準に掲載されていて,今後出題が予想される事項に関しても解説しました。ただし,すべてを網羅するとなると長大になってしまうため,必要最低限の内容にとどめてあります。

本書は「です・ます調」の平易な文章で表記するとともに,図・表・写具はもちろん,随所にイラストを挿入して理解を容易にし,読み通すことのできるテキストにしました。国家試験で問われた事項はキーワードとして赤字で示しました。付属の赤シートでマスキングして,記憶の確認にお役立てください。また,今後出題が予想される事項は太字で示してあります。

とりわけ重要な事項は[SKILL UP]として各項および各セクションごとにまとめました。国試直前の総まとめや,通読する時間のない方は,この[SKILL UP]をしっかり記憶してください。本文では解説しきれなかったことや,付加的な情報については[参考]として掲載しました。知識の拡充にご活用ください。

本文中に掲載した写真あるいは胎児心拍数図などのタイトルに表示してある(助産師国試●回午後■)は,第●回助産師国家試験の午後問題■番に出題されたことを示しています。また,(医師国試▲回D◆)は,第▲回医師国家試験のD問題◆番に出題されたことを示しています。

本書は3年ごとの改訂を予定していますが,助産師国試に関わる診断基準の改定や法律の改正,統計データの更新等があれば,弊社のホームページ上(http://www.kaibashobo.co.jp/)で逐次公表していく予定です。

可世木 久幸 (監修)
出版社: 海馬書房; 第3版 (2018/10/1)、出典:出版社HP

目次

第1章 婦人科領域

1 性と生殖の形態・機能
A 発生と形態
B 女性性器の形態
C 男性性器の構造
D 性周期と調節機序

2 ライフサイクル各期における健康課題
A 身体変化の特徴
B 性役割とジェンダー

3 ライフサイクル各期に生じる 主な疾患
A 成熟期の疾患
B 更年期の疾患
C 老年期の疾患

4 性感染症
A ウイルス感染症
B 細菌感染症
C 外陰膣カンジダ症
D 膣トリコモナス症
E 疥癬

5 不妊症
A 女性側原因
B 男性側原因

6 家族計画
A 家族計画
B 避妊法

第2章 産科領域

1 妊娠の生理
A 受精の機序
B 胎児
C 胎児付属物

2 妊娠による変化と妊娠の管理
A 生殖器の変化
B 全身の変化
C 妊娠の管理

3 母子の健康に影響を与える因子
A 栄養
B 生活
C 嗜好
D 薬物
E 放射線

4 分娩の生理と管理
A 分娩
B 分娩の3要素
C 正常分娩の経過
D 分娩機転
E 分娩の管理

5 妊娠期の異常
A 妊娠疾患
B 妊娠持続期間異常
C 着床異常
D胎児性異常妊娠
E 胎児付属物性異常妊娠
F 偶発合併妊娠

6 分娩期の異常
A 娩出力の異常
B 產道の異常
C 胎児の異常
D 胎児付属物の異常
E 胎児に起因する難產
F 児頭骨盤不均等
G 軟產道強靭
H 軟產道損傷
I 弛緩出血
J 産科ショック
K 子癇

7 産科的処置
A 産科麻醉
B 帝王切開
C 吸引分娩
D 鉗子分娩
E 子宫底庄出法
F 陣痛促進薬

8 産褥と産褥期の異常
A 産褥の生理
B 産褥の管理
C 性器の異常
D 産褥熱
E 静脈血栓・塞栓症
F 乳腺の異常
G 産褥期精神病

9 母乳育児
A 乳房の構造
B 乳汁分泌
C 母乳荣養
D 授乳
E 人口栄養

第3章 新生児~思春期

1 新生児の特徴
A 新生児の分類
B 新生児のケア
C 新生児の神経学的評価法
D 新生児の生理
E 新生児の睡眠と感覚系

2 新生児の異常と疾患
A 新生児の異常徴候
B 新生児マススクリーニング
C 新生児の疾患
D 低出生体重児

3 先天異常
A 常染色体異常
B 性染色体異常
C 遺伝子疾患
D 胎内感染

4 乳幼児の特徴と疾患
A 乳児期の身体特徴
B 発育指数と肥満
C 神経系の発達
D 乳幼児の発達
E 乳児期の感染症
F 乳幼児突然死症候群

5 小児期~思春期の疾患
A 小児期の疾患
B 思春期の疾患

6 予防接種
A 定期接種と任意接種
B 生ワクチンと不活化ワクチン

第4章 助産概論

1 助産概論
A 助産師とは
B 助産師と倫理
C 助産の変遷
D 母子保健の変遷
E 持続可能な開発目標
F ケアの理念

2 性と人権
A リプロダクティブ・ヘルス
B リプロダクティブ・ライツ
C 性と生殖に関する健康教育

3 生命倫理
A 生殖補助医療
B 出生前診断
C 着床前診断
D 非侵襲的出生前遺伝学的検査

第5章 母子保健

1 母子保健統計
A 出生
B 再生産
C 乳児死亡
D 妊産婦死亡
E 死産
F 周産期死亡
G 子ども虐待による死亡事例等の検証結果について
H 助産師の就業状況

2 母子保健行政
A 母子保健法
B 少子化対策プラスワン
C 健やか親子21
D 乳児家庭全戸訪問事業
E 次世代育成支援対策推進法
F 労働基準法
G 障害者総合支援法
H 児童虐待防止法
I 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
J 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律
K 育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
L 男女共同参画基本計画
M 届出に関する法律

3 地域母子保健活動
A 母子保健活動の拠点
B 母子保健活動の連携
C 子育ての自助グループ

第6章 助産管理

1 助産師の業務
A 助産師の定義
B 助産師の法律上の業務
C 出生証明書と出生届
D 助産師の秘密保持義務

2 助産所の管理・運営
A 助産所の定義と名称
B 助産所の開設等
C 助産所管理
D 助産所の構造と設備
E 嘱託医および嘱託医療機関
F 助産所の広告

3 助産管理
A 助産所業務ガイドライン
B 出張助産
C 院内助産と助産師外来
D 複数助産師による分娩介助

4 助産師および助産業務に関連する法律
A 個人情報保護法
B 生活保護法

5 助産業務における安全対策
A 周産期医療体制
B 医療事故と医療過誤
C リスクマネジメント
D PDCAサイクル
E 感染予防・管理
F 產科医療補償制度
G 災害対策
H 感染性廃棄物

和文索引
欧文索引

可世木 久幸 (監修)
出版社: 海馬書房; 第3版 (2018/10/1)、出典:出版社HP