言語聴覚士のための臨床実習テキスト 成人編




序文

言語聴覚士の養成教育において、臨床実習は重要な役割を担っている。特に最終学年で実施される総合臨床実習は、病院・施設等で言語臨床を行う言語聴覚士となる上で特に重要な位置を占めている。

臨床実習実施上の一つの基準として、臨床実習指導者、養成校教員向けには一般社団法人日本言語聴覚士協会が2004年に作成し、2010年に改訂した「臨床実習マニュアル」がある。しかし、臨床実習に参加する養成校の学生に焦点を当てた教科書は、これまでに刊行されていないのが現状であった。臨床実習が効果的に実施されるためには、学生が明確な目的・目標意識をもって実習に参加することが必要であり、また臨床実習指導者も養成校における臨床実習の内容や到達目標の確立、そして養成校の方針に賛同し、後進の育成に努めるという倫理的視点と自らの資質向上の視点から指導することが必要である。

本書は、臨床実習に出る学生を対象に、実習で十分な成果を上げてもらうことを願い企画したものである。実習に臨むにあたり必要となる最低限の知識と、実習の成果報告として採用されている症例報告書の作成について重点的に取り上げた。具体的には、実習の概要、目的や各領域の基礎的知識を解説した後に、領域別に代表的な障害について見本症例を用いたケーススタディを展開し、症例検討、評価と報告書の作成手順などを掲載し、臨床実習に結び付けられるような内容とした。また、成人領域の実習と小児領域の実習とでは異なる側面があるため、姉妹本『言語聴覚士のための臨床実習テキスト(小児編)』とともに二分冊とした。

本書(成人編)では、情報収集に関してそれぞれの項目のもつ目的を丁寧に説明している。また、ケーススタディは失語・高次脳機能障害や摂食・嚥下障害にとどまらず、耳鼻咽喉科領域の音声障害や聴覚障害にも紙面を割き、言語聴覚士が担当する分野を網羅するよう努めた。

本書は、多くの言語聴覚士の力をお借りして完成した。お忙しい中ご協力いただいたことに御礼を申し上げます。実習に関する基本的知識の各章は、その道の第一人者の先生方にご執筆いただいた。学生の皆さんにとってはしっかりと理解していただきたいところである。またケーススタディは、臨床現場の最前線で活躍する先生方にモデルケースとその報告書の作成例を提供いただいた。本書をご活用いただき、限られた時間の中で行われる実習をより充実した内容で実施できるように貢献できれば幸いである。

細心の注意を払い編纂したが、不十分な点が残ることと考えている。いったん世に出し読者の皆さんの評価を受け、よりよい実習書にしていきたいと願っている。

2017年4月
編著者
深浦順一
為数哲司
内山量史

深浦 順一 (著), 爲数 哲司 (著), 内山 量史 (著)
出版社: 建帛社 (2017/5/1)、出典:出版社HP

目次

第1章 臨床実習の概要
1臨床実習の目的
1.臨床現場で求められている水準
2.実習の内容とそれを通して得られるもの
3.実習に臨むにあたって

2臨床実習の種類と目標.
1.観察実習
2.臨床評価実習
3.総合臨床実習

第2章 情報収集の項目と方法およびその解釈
1基礎情報
1.一般的情報
2.医学的情報

2現症に関する情報
1.観察によって得られる情報
2.質問紙による情報取集
3.他職種からの情報収集
4.検査により得られた結果からの情報
5.ベッドサイドにおける情報収集の一例

3国際生活機能分類(ICF)
1.障害のとらえ方とICFの特徴
2.生活機能について
3.障害と各レベルの関係(マイナスをプラスの中に位置づける)
4.「している活動」と「できる活動」
5.生活機能と因子(健康状態・環境因子・個人因子)
6.合生活機能の関係(相互依存性と相対的独立性)
7.目標設定について

第3章 言語聴覚療法の評価・診断の知識
1失語症領域
1.評価・診断の目的と留意点
2.評価の分析における留意点
3.評価の過程における留意点
4.結果の分析における留意点
5.問題点の抽出における留意点
6.合併することの多い障害との鑑別診断

2高次脳機能障害領域
1.はじめに
2.学術用語としての高次脳機能障害
3.行政的定義による高次脳機能障害
4.高次脳機能障害の評価法および診断の留意点.

3発声発語障害領域
A音声障害
1.評価・診断の留意点
2.評価の流れ
3.評価・診断の実際
4.治療と再評価
B成人構音障害
1.運動障害性構音障害
2.器質性構音障害(舌癌術後)

4摂食・嚥下障害領域
1.評価の目的と意義
2.スクリーニング検査の適応と留意点
3.嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査の適応と留意点
4.摂食嚥下機能・障害の総合評価

5成人聴覚障害領域(高齢者)
1.高齢期難聴の基礎知識
2.聴覚リハビリテーションにおける言語聴覚士の役割
3.評価
4.訓練

6評価・診断のまとめ方(ケースレポートのまとめ方)
1.評価・診断の整理
2.記載すべき内容
3.書き方の留意点

第4章 ケーススタディー
1失語症領域
Aブローカ失語
Bウェルニッケ失語
C全失語
D伝導性失語

2高次脳機能障害領域
A脳外傷後の高次脳機能障害
B遂行機能障害
C記憶障害
D社会的行動障害(病因不問、非言語性コミュニケーション障害含む)
E注意障害
Fアルツハイマー型認知症(レビー小体型認知症との鑑別)

3構音障害領域
A一側性上位運動ニューロン性(UUMN)構音障害
B運動低下性構音障害(パーキンソン病)
C失調性構音障害
D混合性構音障害(ALS)

4摂食・嚥下障害領域
A偽性球麻痺性嚥下障害
Bワレンベルグ症候群による嚥下障害
C頭頸部癌術後の嚥下障害
D神経難病の摂食・嚥下障害

5耳鼻咽喉科領域
A音声障害(ケース1筋緊張性発声障害(過緊張性発声障害))
B音声障害(ケース2声帯結節)
C成人聴覚障害

6生活行為向上マネジメント症例
A ICFを用いたリハビリ後の社会参加の例1
B ICFを用いたリハビリ後の社会参加の例2

深浦 順一 (著), 爲数 哲司 (著), 内山 量史 (著)
出版社: 建帛社 (2017/5/1)、出典:出版社HP