入浴検定 公式テキスト お風呂の「正しい入り方」




はじめに

本書を手に取っていただき、ありがとうございます。きっと「お風呂」という言葉に何かを感じていただけたのでしょう。

日本人は無類のお風呂好きと言われています。さまざまな調査を見ても、多くの人がほぼ毎日お風呂に入っていることが分かっています。他の国で、自宅に湯船を持ち、毎日お風呂に入っている民族はいないとされています。私たちはお風呂で気持ちや体の調子が良くなることを経験的に知っているのです。実際に、様々な医学研究でお風呂の健康や美容、疲労回復への効果が実証されてきています。

一方、お風呂で体調を悪くしたり、中には亡くなる方もいます。みなさんも、お風呂に入ってかえって疲れた、という経験があるでしょう。厚生労働省研究班の調査では、年間に1万9千人の人がお風呂で亡くなっていると報告されています。実際、毎年有名人も何人か入浴中に亡くなっており、その都度お風呂の危険性が報道されます。近年、交通事故で亡くなる方が年間4千人前後なので、比較するとその数の多さが分かります。

風呂はとても良い生活習慣なのに、長らくお風呂の医学研究をしている者にとってはとても残念なことです。お風呂に関わる事故の多くは正しい入浴法で防げるのではないかと考えています。しかし、巷には多くの玉石混合の情報があふれているものの、正しい入浴法を伝えることを目的とした書籍はほとんどありませんでした。

今回、満を持して入浴検定公式テキスト「お風呂の正しい入り方」が発刊されとなりました。この本は「入浴検定」の公式テキスト用に執筆されたものではありますが、日本人の古くて新しい常識としての「入浴法」を楽しく学ぶことができる教科書です。安全な入浴法はもちろん、気になる症状に合わせた入浴法や、より健康になる、美しくなる入浴のコッ、ちょっと人に自慢できるお風呂のうんちくが学べます。本書が検定の受験勉強用に、またみなさんの普段の生活
でお風呂を活用した健康づくりに役立つことが筆者の喜びです。

私は大学時代にキックボクシングの選手で、人生初の海外旅行は、本場タイのジムへの修行でした。特殊な経験だったせいか、その時に外国と日本の価値観の違いに衝撃と感動を強く覚え、大学を卒業したら世界各国を廻るような仕事をして人生を過ごしたい・・と真剣に考えたものでした。

ところが、そんな私の野望はある時、一瞬で挫折しました。日本以外の国では一日の締めくくりに温かいお風呂に入れない、ということに気づいたのです。冗談のような話なのですが、まだ二十歳そこそこの若者であった時も、私にとって温かい風呂に入ることは、日常においてそれほど欠かせないものだったのです。

それから時を経て、縁あって、正しい予防医学の意識と知識を世に広めることを、
人生の仕事としています。

人は身体を常に正しく同じ状態に保つために、細胞のDNAにプログラミングされた代謝反応を繰り返しています。これを「ホメオスターシス(恒常性)」といいますが、それが崩れると、いわゆる「病気」の状態となります。

ホメオスターシス維持にもっとも重要な要素の一つが、「血流」といえます。本文でも触れたように、血は身体の細胞に必要なもの全てを運ぶからです。そしてその血液をコントロールするもっとも重要なシステムが「自律神経」です。

日本人の日常生活のリズムに自然に組み込まれている入浴は、この血流と自律神経をダイレクトに、そして無理なくコントロールできる卓越した手段です。よく「食事」「身体活動(運動)」「休養(睡眠)」の3つの手段が「健康のトライアングル」といわれますが、私はここに「入浴」を付け加え、「健康のスクエア」にすべきと考えます。

正しい予防医学の啓発に人生を捧げる私ですが、偶然にも私の曾祖母(北里ゆう:日本初の看護師長)の従弟である北里柴三郎博士は、日本で初めて「予防医学」を唱えた人でした。

そして柴三郎翁の伊豆の別荘には、「北里さんの千人風呂」と親しまれた、日本初の温泉プールがありました。温泉療法を活用した日本初のクアハウスでもあり、交流があった上流階級の人々が健康管理を兼ねて訪れ、後日の伊東温泉の隆盛のキッカケにもなったそうです。

日本人は生まれた直後に「産湯」に入り、80歳まで生きたとしたら約1万時間はお風呂場で過ごし、そして死んだ後は「湯灌」を行って、人生を締め括ります。すなわち、健康面でなく日本人としての生き方、文化面でも、お風呂は密接な関係を持つのです。

本書は、現在は「世界で日本人だけが毎日行う宝の習慣」である入浴について、健康、美容、医療、リスク管理、歴史、文化の全てを網羅した、史上初の「お風呂パーフェクトBOOK」です。

日本入浴協会 理事 古谷暢基 博士(医学)

早坂 信哉 (著), 古谷 暢基 (著)
出版社: 日本入浴協会; 第1版 (2017/6/27)、出典:出版社HP

目次

はじめに
この本の使い方(合格のためのインフォメーション)
答えられますか?検定対策チェックポイント

第0章 お風呂と「日本人」

日本人の幸せをつくる宝の習慣「お風呂」
日本人の心身の健康維持はお風呂が担ってきた
お風呂の7大作用

第1章 お風呂と「健康・美容」の基本

日本の長寿世界一の秘密はお風呂効果?
たったの10分で体温が1度上がる方法
血液は人の命に必要なものをすべて運んでいる
お風呂が血流を上げるメカニズム
血流が上がればほとんどのことは解決する
健康・美容達人になるには自律神経の知識を会得せよ
たった1℃を境にガラリと変わる
高齢者と子供とお風呂

コラム退院後、家族でできる赤ちゃんの沐浴法佐々木恵

第2章 お風呂と「予防医学」

人が「疲れる」メカニズム
疲労回復の効率を上げる入浴法
お風呂と肩こり、腰痛、頭痛
お風の入り方によっては悪化する頭痛もある?
花粉症にお風呂が効く!
アトピーは洗い過ぎず、熱過ぎず
睡眠と入浴のメカニズム、意外な3つのポイント
お風呂と風邪
入浴に関する死亡事故の予防と対策
入浴に関する死亡事故を防ぐ十か条

コラム日本のお風呂のルーツ、アジア伝統医療における入浴療法古谷暢基

第3章 お風呂と「スキンケア」の基本

スキンケアはお風呂の原点
皮膚の基本構造とは
「お風呂スキンケア」=「表皮のケア」
美肌の3大要素とお風呂
間違った入浴法はかえってお肌のうるおいを失わせる
古い時代の日本の石鹸は「和ハーブ」から
石鹸の使い方を誤ると、かえって皮膚が荒れる原因に
現代における石鹸・シャンプーとの「正しい付き合い方」
入浴スキンケア八か条

コラムうるおいキープの鍵は入浴にあった!お風呂上がりのスキンケア小西さやか

第4章 「お風呂とダイエット&ボディメイクの基本」

「太る(肥満)システム」は、実はたったの一つしか無い
「インスリン・システム」をお風呂でコントロールしてダイエットする方法
「痩せるシステム」と、お風呂前後の体重の増減の真実
「半身浴」と「全身浴」、どちらがダイエットにいいの?(「体重が減ること=体脂肪が減ること」とは限らない)
即効性はないが、お風呂はダイエットに優秀なコンテンツ
「むくみ」が消えるお風呂の静水圧作用
運動における組織回復・成長とお風呂
運動療法やトレーニングへの活用
お風呂と血流と女性ホルモン

コラム入浴の効果、主観評価と客観評価梅田幸嗣

第5章 お風呂の泉質

「日本の水道水」の身体への影響
「一番風呂も身体に良い」に変える方法
温泉とは?
温泉が効く「しくみ」
温泉のなかのエリート「療養泉」と成分
生活に採り入れやすい薬湯(植物湯)
薬湯の効能と種類
入浴剤のルーツと歴史
現代の入浴剤の目的・成分は実はバリエーション豊か
入浴剤の実践的活用法
入浴剤の一覧表

コラムかっては日本と同じ入浴習慣があったヨーロッパの温泉事情早坂信哉

第6章 お風呂の「歴史」

「入浴大国」を生み出した地理環境
「風呂」の語源と「湯」
湯の語源は、禊が目的の「ゆあみ」から
現在の温浴スタイルのルーツ
仏教と温室経
天皇のバスタブと毎朝の入浴儀式
施浴の広まり
石風呂、伊勢風呂、釜風呂、石焼き風呂
銭湯の始まり
銭湯が無かった江戸で急激な成長を遂げる
湯女風呂と混浴…
戸棚風呂から現代入浴スタイルの元祖に
事業用のインスタント銭湯「据え風呂」と「五右衛門風呂」
銭湯と農村の共同風呂から現代の「家風呂へ」

コラム「斎む」「忌む」「籠る」、そして冬至の柚子湯石上七鞘

模擬試験
日本入浴協会について
参考文献

早坂 信哉 (著), 古谷 暢基 (著)
出版社: 日本入浴協会; 第1版 (2017/6/27)、出典:出版社HP

この本の使い方 合格のためのインフォメーション

本書は日本入浴協会「入浴検定」の公式テキストです。

1入浴検定の問題数は0問です。
23択(4択)問題が13~1問、穴埋め問題が7~8問、○×問題が2~3問、筆記問題が6~7問の割合で出題される傾向があります。
3検定テキストの濃い文字色の場所から、9割以上が出題されます。
4検定テキストの各章、各項からはバランス良く出題されるようにしています。
5検定テキストの模擬試験からも高い確率で出題されます。
6合格基準となる正答率は30%前後です。
7筆記問題は配点が高く、部分点もかなり考慮されます。必ず何かを書くようにしてください。
8まずは全体を見渡し、簡単に答えられる問題、時間がかからない問題などを先に確実に潰していくことが、高得点をとるコツとなります。

なお、検定合格を目指す方々が本書を活用する際には、「単に検定試験問題の正解率を高めること」だけを目的とした利用の仕方ではなく、正しい理論と知識がしっかりと身につくような学び方をしていただきたく思います。同時に本書はあくまでテキストの体裁をとっておりますが、検定試験をお受けにならない方々にも傍らに置いていただき、知識・見聞を広めるため、気軽に楽しく読める書としていただければ幸いです。

早坂 信哉 (著), 古谷 暢基 (著)
出版社: 日本入浴協会; 第1版 (2017/6/27)、出典:出版社HP