やさしく学ぶ 第一級陸上特殊無線技士試験 改訂2版




まえがき

光は、太陽や星の光として,人が目から直接感じることができるため、有史以来,さまざまな研究の対象にされ、イギリスのニュートン(I.Newton,1642-1727)をはじめ,多くの学者がかかわってきました。

それに対して、電波は人が直接感じることができませんが,電磁気に関するさまざまな現象と議論をまとめたイギリスのマクスウェル(J.C.Maxwell,1831-1879)の理論によって,はじめて人に意識されるようになりました。1888年,ドイツのヘルツ(H.R.Hertz,1857-1894)によって,電波の存在が実証され,1895年,イタリアのマルコーニ(G.Marconi,1874-1937)が無線電信の実験に成功し,電波の実用化に第一歩を踏み出しました。

1912年に豪華客船タイタニック号が遭難したときに無線電信が使われています.現在,多くの人が毎日のように電波を利用していますが,まだ100年ほどしか経過していません.

電波は1秒に3×108m](30万km)進みます。電波は直進し,拡散性があり,通信,放送,無線航法など多くの分野に利用され,人命の安全確保にも大きく貢献しています。

有線通信では混信は発生しませんが,無線通信においては複数の人が同じ周波数の電波を使うと混信が発生しますので,自分勝手に自由に電波を使うことはできません。そのため、国際的,国内的にも約束事が必要になってきます。国際的には1906年に国際無線電信連合が設立され、国内的には1915年に無線電信法が制定されました。その後,無線電信法は,1950年に電波法となり現在に至っています。

無線従事者資格も時代とともに変遷しています。現在の無線従事者資格は、「総合無線従事者」「海上無線従事者」,「航空無線従事者」,「陸上無線従事者」,「アマチュア無線従事者」の5系統に分かれており,全部で23種類あります.そのうち、特殊無線技士と呼ばれる資格は,海上が4資格,航空が1資格,陸上が4資格の合計9資格です。陸上特殊無線技士の4資格は、「第一級~第三級陸上特殊無線技士」と「国内電信級陸上特殊無線技士」です。

本書は「第一級陸上特殊無線技士」の国家試験に合格できるようにまとめたものです。「第一級陸上特殊無線技士」の有資格者は,陸上の無線局の空中線電力600W以下の多重無線設備(多重通信を行うことができる無線設備でテレビジョンとして使用するものを含む)で30MHz以上の周波数の電池術操作が可能です。国家試験の試験科目は、「無線工学」との2科目で,毎年の受験者は約1万人程です。

特殊無線技士は一番受験者数が多い資格ですが、その合格率は概ね30%程度です士の中では低い合格率ですが,「無線工学」と「法規」に関する基本しっかりと学習し、過去問を繰り返し解けば合格に近づきます。

本書は基本的な事項を解説した後、理解の確認ができるような練習問題を掲載しています。練習問題は,過去に出題された問題から厳選していますので、解けるようになる。繰り返しチャレンジしてみてください。

改訂2版では、最新の国家試験問題の出題状況に応じて,問題の追加・変更を行っています。それに合わせて、本文のテキスト解説だけでなく、問題の解説についても見直しを行い、わかりにくい部分や計算過程についての解説を増やしています。

第一級陸上特殊無線技士試験の講習会の講師を長年担当していますが、受講生の合格率を見てみると,ある程度理解して計算問題が解ける人の合格率は高く、逆に,過去問の暗記のみで試験に臨んだ人の合格率はそれほど高くありません。暗記だけに頼らず,ぜひ実際に手を動かして計算問題を解いてみてください。計算問題が解けるようになれば合格率は高くなります.

「第一級陸上特殊無線技士」を取得するための勉強は、将来,さらに上級の「第二級陸上無線技術士」「第一級陸上無線技術士」などの資格を取得されるときのステップにもなりますので十分学習して資格を取得されることをおすすめします。

本書が皆様の第一級陸上特殊無線技士の国家試験受験に役立てば幸いです。

2018年7月
吉村和昭

吉村 和昭 (著)
出版社: オーム社; 改訂2版 (2018/8/25)、出典:出版社HP

目次

1編 無線工学

1章 多重通信システムの概要
1.1電波とは
1.2電波の速度
1.3電波の周波数と波長
1.4電波の周波数と波長による名称と用途
1.5マイクロ波による通信
1.6多重通信方式
1.7PCM通信方式
1.8マイクロ波通信におけるデジタル通信とアナログ通信の比較
1.9パケット交換方式

2章 基礎理論
2.1直流回路
2.2交流回路
2.3フィルタ
2.4抵抗減衰器
2.5分布定数回路と給電線
2.6デシベル
2.7半導体
2.8ダイオード
2.9トランジスタ
2.10電子管
2.11電子回路

3章 変復調
3.1アナログ変調
3.2アナログ復調
3.3デジタル変調
3.4デジタル復調
3.5符号誤りと誤り訂正

4章 無線送受信装置,多重通信システム
4.1FM送信機
4.2FM受信機
4.3雑音
4.4多重通信方式
4.5衛星通信

5章 中継方式
5.1ヘテロダイン中継方式
5.2検波(再生)中継方式
5.3直接中継方式
5.4無給電中継方式
5.52周波中継方式

6章 レーダー
6.1パルスレーダー
6.2レーダー方程式とパルスレーダーの性能
6.3レーダーの表示形式
6.4パルスレーダー特有の電子回路
6.5CWレーダー

7章 空中線系
7.1アンテナの長さと電波の波長
7.2アンテナのインピーダンス,指向性,利得
7.3基本アンテナ
7.4各種アンテナ
7.5給電線と整合

8章 電波伝搬
8.1電波の速度と電波伝搬
8.2VHF,UHF,SHF電波の伝搬
8.3自由空間中における電界強度
8.4自由空間基本伝送損失
8.5受信機の入力電力
8.6平面大地上の電波伝搬
8.7電波の屈折
8.8幾何学的見通し距離と電波の見通し距離
8.9不均一大気中の電波伝搬
8.10電波の回折
8.11フェージング
8.12フェージングの軽減法

9章 電源
9.1電源回路
9.2電池と蓄電池
9.3無停電電源装置

10章 測定
10.1指示電気計器
10.2分流器と倍率器
10.3テスタ
10.4周波数カウンタ(計数形)
10.5マイクロ波電力の測定
10.6マイクロ波の電圧定在波比の測定
10.7標準信号発生器
10.8オシロスコープ
10.9スペクトルアナライザ
10.10ビット誤り率の測定
10.11アイパターン
10.12増幅器の電力利得の測定

2編 法規

1章 電波法の概要
1.1電波法の目的と電波法令
1.2用語の定義

2章 無線局の免許等
2.1無線局の開設と免許
2.2無線局の免許の欠格事由
2.3無線局の免許の申請と審査
2.4予備免許の付与
2.5予備免許の工事設計等の変更
2.6工事落成及び落成後の検査
2.7免許の付与,免許の有効期間と再免許
2.8免許状の訂正と再交付
2.9免許内容の変更
2.10無線局に関する情報の公開等
2.11電波の利用状況の調査等

3章 無線設備
3.1無線局の無線設備
3.2電波の型式と周波数の表示
3.3電波の質
3.4送信設備の一般的条件
3.5受信設備の一般的条件
3.6付帯設備の条件
3.7人工衛星局の条件
3.8無線設備の機器の検定

4章 無線従事者
4.1無線設備の操作
4.2主任無線従事者
4.3無線従事者の資格
4.5無線従事者免許証

5章 運用
5.1目的外使用の禁止(免許状記載事項の遵守)
5.2混信等の防止
5.3擬似空中線回路の使用
5.4通信の秘密の保護
5.5無線局の通信方法及び無線通信の原則及び用語等
5.6無線電話通信の方法
5.7非常通信
5.8非常時運用人による無線局の運用

6章 業務書類等
6.1備付けを要する業務書類等
6.2無線局検査結果通知書
6.3無線業務日誌

7章 監督等
7.1公益上必要な監督
7.2不適法運用等の監督
7.3一般的監督(無線局の検査)
7.4基準不適合設備
7.5電波利用料
7.6罰則

参考文献
索引

吉村 和昭 (著)
出版社: オーム社; 改訂2版 (2018/8/25)、出典:出版社HP