公式ガイド ファシリティマネジメント




はじめに

日本のファシリティマネジメントの位置づけ

ファシリティマネジメント(以下、FM)が日本に紹介されて早30年が経過した。日本は、世界のなかでもFMの取り組みが最も早かった国の1つである。その間、日本経済はさまざまな局面を乗り越えながら進展を遂げてきた。FMもまた同様に、ファシリティ(施設とその環境)を最適化し、経営戦略に活かす経営理論として幅広く認識され浸透し進化してきた。

本書は、1994年(第2版:1998年)の『ファシリティマネジメント・ガイドブック』(日刊工業新聞社)、2003年の『総解説ファシリティマネジメント』(日本経済新聞社)、そして2009年の『総解説ファシリティマネジメント追補版』(日本経済新聞出版社)に続く、2018年発刊の最新のFMの公式ガイドである。

米国のIFMAをはじめとして海外には、数々のFM関連団体が存在する。しかし、関連団体が公式に発刊するFMの概念や業務体系をまとめた包括的な案内となる書籍は存在しない。その意味で本書は、日本におけるFMの業務体系を解説した貴重な文献である。

本書のねらいと活用してほしい読者層

日本では、経営改革のために、多くの企業や団体が、チェンジマネジメントに挑戦し続けている。それに呼応してFMでは、地球環境保全、保有から活用へのCRE対応が進展しており、さらに、FMの国際標準化(ISO41000s)、IoTそしてAIなどFMのICT化に取り組もうとしている。そのような、先進の知見とグローバルな動きを網羅し、すべての企業や団体等のFM業務に役立つ考え方や進め方を整理し、体系化したのが本書である。

本書のねらいの第1は、FMを導入もしくは展開することで、FMの効果を実現するための解説書の役割である。第2は、後述する認定ファシリティマネジャー資格試験のための学習範囲を提示した唯一の教本となるということである。

したがって、本書を活用していただきたい読者としては、まず企業や団体等の経営に携わる方々があげられる。FMは経営基盤であり、FMを担う組織に対する権限委譲は、トップマネジメントのリーダーシップに拠るものだからである。

当然ながら、FMに携わっている方々と、これからFMを始めようとする方々も読者の対象である。さらに、外部にあってFMをサポートするコンサルタントや建築設計者、建設業、不動産業、ビル管理業、家具などの関連メーカー、情報技術関係等の方々が、顧客のニーズを理解するために活用していただきたい。

また、認定ファシリティマネジャー資格試験を受験する方々が本書を活用し、知識や技能を深めていただくことを期待する。

本書の構成と活用法本書は、全体で4部構成、16章立てである。第1部「経営とFM」の第1章~第3章は、経営者の方々にも読んでいただくことを意図している。第1章は、FMの定義とFMの概要をまとめている。第2章は、FMの必要性と経営効果について論いる。第3章は、経営の外部環境として、具体的に地球環境、事業継続性、国際標準、企業財務、企業不動産、情報通信技術などとFMの関係について詳述している。

第2部「FMの業務」の第4章~第10章は、FMの業務について具体的に記述しており、FMの実務家に精読していただきたい。第4章では、FMの体系を論じており、FMの標準業務サイクルを解説する。第5章は、標準業務サイクルを回すための仕組みとして、一元的にFMを実行するための統括マネジメントの方法について述べる。

第6章は、FM戦略・計画として、経営との関係から導かれるFM戦略の論策および計画立案プロセスを示す。第7章は、計画案から実行されるプロジェクト管理の方法について、第8章は運営維持の具体策について、そして第9章は、これら実施業務の評価について、品質・財務・供給の観点から論じている。第10章では、これらの一連の評価業務から導かれる改善方針の考えについて述べる。

第3部「FMの知識」は、第11章~第15章から成っており、認定ファシリティマネージャーやFM関連事業に携わる方々に、FM関連の知識を深めるために読んでいただきたい。第11章は、人間性関連の知識としてファシリティ利用者について、第12章はワークプレイス関連の知識として、働き方改革に見るワークスタイルとワークプレイスについて論じている。第13章は、不動産取引関連の知識としてオフィスビル賃借契約や不動産の売買などについて記述され、第14章では施設関連の知識として、建物および建物建設の知識と大規模改修などについて解説する。第15章は、これらのFM業務全般に関わる関連法令などについて記載する。

第4部「広がるFM」は、地方自治体、大学や病院などに加えて、研究施設、生産施設、物流施設、商業施設、文化施設、インフラマネジメントなど、さまざまな分野に広がるFMについて述べている。

FM推進連絡協議会 (編集)
出版社: 日本経済新聞出版社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

ファシリティマネジャー資格制度について

1997年7月にJFMAが実施事務局となり、JFMA、NOPA、BELCAの3団体(FM資格制度協議会)が認定する民間資格として、最初のFM資格試験が実施された。この制度の目的は、FMに携わる方々の知識・技能の向上に寄与し、社会全般のFMの高度化を図るものであり、毎年実施している。

この試験に合格し、登録した人たちはCFMJ(CertifiedFacilityManagerofJapan=認定アクマネジャー)として、FMを専門的に遂行する資格を得たことになり、わが国のFMを大きく別進させる、動力となっている。2017年9月末時点では、累積受験合格者は14,000人を超えている。本書は、「W識習得の公式ガイドであり、この認定ファシリティマネジャー資格試験のための教本でもある。

本書発刊の経緯と謝辞

2003年の『総解説ファシリティマネジメント」(日本経済新聞社)、そして2009年の部イマネジメント追補版](日本経済新聞出版社)が出版されて以来、本書発刊までに9年の年月を経ている。

日本は2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災などを経験し、さまざまな厳しい局面を乗り切ってきた。経営課題解決の一助として、FMのニーズが拡大するなか、多くの執筆者、編集者、協力者を得て、本書を発刊するに至った。

最後に、本書発刊に至るまで、執筆編集の協力や貴重な助言をいただいた多くの方々に深く感謝の意を表する次第である。

2018年 FM推進連絡協議会

FM推進連絡協議会 (編集)
出版社: 日本経済新聞出版社 (2018/1/26)、出典:出版社HP

目次

第1部経営とFM

第1章 ファシリティマネジメントとは
1.1ファシリティマネジメントとは
1.2ファシリティとは
1.3FMの目的と機能
1.3.1FMの目的
1.3.2FMの機能
1.3.3FMの標準業務サイクル
1.4ファシリティマネジャーとは
1.5経営と経営を支える機能分野
1.6経営基盤としてのFM
1.7FMのレベルと実施段階
1.8FMの歩み

第2章 ファシリティマネジメントの効果
2.1経営環境とFMの必要性
2.1.1「人口減少化
2.1.2グローバル化
2.1.3ICTの進化
2.1.4地球環境保全
2.1.5災害に対応する強靭化
2.2.企業経営とFMの必要性
2.3企業経営から見たFMの効果
2.3.1変化への対応
2.3.2成長の支援
2.3.3収益性の向上
2.3.4人と場の活用
2.3.5社会への貢献
2.3.6安全・安心の確保

第3章 経営環境とファシリティマネジメント
3.1地球環境とFM
3.1.1地球環境保全
3.1.2地球温暖化防止
3.1.3省エネルギー
3.1.4廃棄物の削減
3.1.5ライフサイクルマネジメントと長寿命化
3.2BCMとFM
3.2.1リスクマネジメント
3.2.2BCMの認証ISO22301
3.2.3ファシリティマネジャーの役割
3.2.4BCMのマネジメントレビューとモニタリング
3.2.5BCPにもとづく定期訓練
3.2.6外部コンサルティングの活用
3.3FMの国際標準化
3.3.1ISO41000シリーズ
3.3.2ISO55000シリーズ
3.4企業財務とFM
3.4.1企業財務とFMの関わり
3.4.2投資活動とFM
3.5CRE、PREとFM
3.5.1CREとFM
3.5.2企業財務とCRE戦略
3.5.3PREZFM
3.6ICTとFM700
3.6.1ICT進化の経緯
3.6.2ICTの基本キーワード
3.6.3ワークスタイルを支えるICT
3.6.4ファシリティにおけるIoT活用
3.6.5FMの業務への展開

第2部FMの業務

第4章 FMの体系
4.1FMの標準業務
4.1.1FMの標準業務の展開
4.12FMの標準業務の8ユニット
4.2FMの目標
4.2.1FMの目標とは
4.3FMの目標管理
4.3.1目標管理の考え方
4.3.2FMの目標管理

第5章 統括マネジメント
5.1統括マネジメントとは
5.2FM組織体制の構築
5.2.1FMの権限と責任の確立
5.2.2FMの組織体制の構築
5.2.3ソーシング戦略と体制
5.3FM組織の運営
5.3.1各業務を俯瞰する統括業務
5.3.2FM組織の自己評価と学習・成長の推進
5.4FMの財務管理
5.5一元的なデータ管理
5.5.1FM関連情報の一元的なデータ管理
5.5.2データベースの活用
5.5.3情報システムの活用
5.6標準と規程の策定と運用
5.6.1FMの標準
5.6.2FMの規程
5.6.3FMの標準と規程の運用

第6章 FM戦略・計画
6.1FM戦略・計画
6.2FM戦略
6.2.1FM戦略の業務
6.2.2FM目標、FM課題とFM施策
6.2.3FM施策立案のための調査分析手法
6.2.4ベンチマーキングとシナリオプランニング
6.3中長期実行計画
6.3.1中長期実行計画とは
6.3.2中長期実行計画の業務プロセス

第7章 プロジェクト管理
7.1プロジェクト管理とは
7.2プロジェクト管理のプロセス
7.3プロジェクト管理の業務と体制
7.3.1プロジェクト管理の共通業務
7.32プロジェクトの計画における業務
7.3.3プロジェクト管理の体制
7.4プロジェクトの進め方と実施
7.4.1プロジェクトの進め方
7.4.2実施の段階

第8章 運営維持
8.1運営維持
8.1.1運営維持とは
8.1.2ファシリティマネジャーの役割
8.1.3運営維持の業務内容
8.2運用・サービス
8.2.1運用・サービスとは
8.22ファシリティマネジャーの役割
8.2.3運用・サービス業務の共通項目
8.2.4設備・エネルギー・安全の運用管理
8.2.5ワークプレイスの運用管理
8.2.6業務支援サービス
8.27生活支援サービス
8.3維持保全
8.3.1維持保全とは
8.32点検、保守の業務
8.3.3保全の業務
8.3.4建物の劣化診断
8.3.5保全情報とLCM支援システム
8.4運営維持とアウトソーシング
8.4.1アウトソーシングの位置づけ
8.4.2運営維持の戦略的なアウトソーシング
8.4.3性能発注方式と仕様発注方式
8.44アウトソーシングのプロセスとSLA・KPI
8.4.5サービス提供者との契約方法
8.4.6運営維持業務におけるSLA・KPI
8.4.7SLA・KPIの構築
8.4.8SLAの運用
8.4.9SLA運用の関連事項

第9章 評価
9.1FMの目標管理と評価
9.1.1目標管理における評価技術の位置づけ
9.2FMの品質評価
9.2.1品質評価の考え方
9.22品格性評価
9.2.3快適性評価
9.2.4生産性評価
9.2.5安全性評価
9.26耐用性評価
9.2.7環境性能評価
9.2.8満足度評価
9.3FMの財務評価
9.3.1FMの財務評価と企業財務
9.3.2ファシリティコスト評価
9.3.3施設資産評価
9.3.4施設投資評価
9.3.5ライフサイクルコスト評価
9.4FMの供給評価
9.4.1施設面積の供給評価
9.4.2施設利用度評価
9.4.3サービスの供給評価

第10章 改善
10.1改善とは
10.1.1FMの改善とは
10.1.2ファシリティマネジャーの役割
10.2改善と経営戦略、FM戦略・計画との関係
10.2.1経営戦略との関係
10.2.2FM戦略・計画との関係
10.3改善方針の立案
10.3.1供給目標における改善方針の立案
10.3.2品質目標における改善方針の立案
10.3.3財務目標における改善方針の立案
10.4改善の仕組みづくりとFM監査
10.4.1統括マネジメントにおける改善(内部監査)
10.4.2第三者の監査による改善(FM監査)

第3部 FMの知識

第11章 人間性関連の知識
11.1人間性関連の知識について
11.2人の感情、意欲に関係する知識
11.3知識創造に関連する知識
11.4エルゴノミクス
11.5アフォーダンス
11.6多様性への対応

第12章 ワークプレイス関連の知識
12.1ワークスタイル関連の知識
12.1.1ワークスタイルとワークプレイス
12.1.2ワークスタイル変革とFM
12.2ワークスタイルの変遷
12.2.1欧米のワークスタイルとは
12.2.2日本のワークスタイルとは
12.2.3ワークスタイル変革の流れ
12.2.4イノベーションを生むワークスタイルへ
12.3知識創造型のワークスタイル
12.3.1知識創造のプロセス
12.3.2知識創造行動
12.4ウェルビーイングと健康経営
12.4.1ウェルビーイングとは
12.4.2健康経営とは
12.4.3ABWとウェルビーイング
12.4.4ウェル認証とワークプレイス
12.5ワークプレイスづくり関連の知識
12.5.1ワークプレイスづくりの今日的視点
12.5.2ワークプレイスの変遷
12.5.3ワークプレイスとワークステーション
12.5.4ワークプレイスとユニバーサルデザイン
12.5.5ワークプレイスとレコードマネジメント
12.6ワークプレイスづくりの知識
12.6.1ワークプレイスづくりのプロセス
12.6.2ワークプレイスづくりにおける各種計画

第13章 不動産取引関連の知識
13.1不動産とFM
13.2不動産の賃貸借
13.2.1物件の選定プロセス
13.2.2物件の契約
13.2.3入居工事
13.2.4運営維持
13.3不動産の取得と処分
13.3.1物件の選定プロセス
13.3.2不動産売買契約、検収、登記
13.3.3不動産の処分(売却)
13.3.4不動産取得と処分に関する重要用語

第14章 施設関連の知識
14.1建物関連の知識
14.1.1建物の変遷
14.1.2土地、建物の知識
14.1.3構造計画
14.1.4設備計画
14.1.5内装計画
14.2建物建設プロジェクトの知識
14.2.1建物建設の業務
14.2.2建物建設の計画
14.2.3建物建設の実施
14.3大規模改修関連の知識
14.3.1大規模改修とは
14.3.2大規模改修の計画
14.3.3大規模改修の実施

第15章 FM関連の法令と指針等
15.1FM関連の法令と指針等
15.1.1建築関係
15.1.2品質・環境関係
15.1.3情報・不動産活用関係
15.1.4健康・労務関係
15.1.5組織・財務関係
15.1.6運営維持関係
15.2制度・規格・指針等
15.2.1制度
15.2.2規格
15.2.3指針等
15.3主なFM関連の法律の通称と正式名称

第4部 広がるFM

第16章 各種施設のFM
16.1各種施設のFM総論
16.1.1事業(ビジネス)の理解
16.1.2利用者と管理対象
16.1.3FMの役割と課題
16.1.4期待される成果
16.2官庁施設のFM
16.3地方自治体のFM
16.4医療施設のFM
16.5教育施設のFM
16.6研究施設のFM
16.7生産施設のFM
16.8物流施設のFM
16.9商業施設のFM
16.10宿泊施設のFM
16.11図書館のFM
16.12美術館のFM
16.13水族館のFM
16.14インフラのマネジメント

索引

FM推進連絡協議会 (編集)
出版社: 日本経済新聞出版社 (2018/1/26)、出典:出版社HP