フリーター、税理士になる!
はじめに
税理士試験は難関と言われる国家試験の一つです。働きながら取得する人の平均取得期間は6~8年だといわれています。8年かけて合格できる人は良いほうで、途中で諦めてしまう人もたくさんいます。
私は,税理士試験の勉強を始めたとき,学歴なし、貯金なし,職歴なしのトリプルゼロ状態でした。税理士試験を受けるといったら,笑われました。それでも,すべての科目を一発合格し,簿記の教科書をはじめて開いたときから、5年で税理士になることができました。法人税法の全国公開模試では全国2位を得点しました。
決して,私が要領が良かったとか,頭が良かったというわけではありません。それでも,私が合格することができたのは,税理士試験に合った勉強法を取ることができたからだと思っています。
この本には、私が実践してきた「勉強法」,「テクニック」,「メンタル管理」のすべてを詰め込みました。
そして,少しばかり,私の受験物語も入れさせてもらいました。巷にあふれる合格体験記のように,スマートでもなく,かっこよくもなく,書いているときは冷や汗が止まりませんでした。
でも,受験生の多くは,私と同じように,迷いながら,悩みながら,泥臭く進み続けて、合格を手にしていくのだと思います。
私の5年間の記録が、あなたの進む道を少しでも照らせれば幸いです。
入江日和
目次
プロローグ「○○した」から「税理士試験に合格した、
・私が税理士になった理由
・独学は不利ではなかった
・努力する必要はない
・合格する文脈をつくる
コラム1試験概要をチェックしよう
コラム2受験資格を手に入れよう
第1章 簿記論・財務諸表論に「独学合格」する方法
・簿記論・財務諸表論は独学合格できる!
・独学合格の戦略を考えよう
・簿記論・財務諸表論「逆算」勉強法
ライバルに差をつけるテクニック
第2章 簿記論・財務諸表論の独学攻略ノウハウ
・計算問題を攻略しよう
・理論問題を攻略しよう
第3章 税法科目に「一発合格」する方法
・税法に一発合格する方法
・必勝!「半独学」スケジュール
・税法理論必勝法
・あした役立つプチテクニック
コラム3会計事務所の選び方
第4章 ゆる&ラク!勉強を続けるためのテクニック
・「がんばらない」のが継続のコツ
・短期合格のための時間管理術
・整理・整頓なんて必要ない!「解けたBOX」活用術
・ゆる〜く合格!ラクちん勉強術
・厳選!税理士受験グッズ
コラム4忘れ物をしてしまったら?
第5章 本試験~合格後までに考えたこと
・本試験当日に向けて
・税理士にならないという選択肢
・意外と大変!税理士登録
・税理士として働く
第6章 フリーターが税理士になるまで、
・税理士を目指したきっかけ
・簿記検定を受験することになる
・運命の出会いと上京
・税理士試験に挑む
プロローグ 「○○した」から「税理士試験に合格した」
私が税理士になった理由
私は引きこもりでした。高校を中退した後,何をするでもなく夜に起きて昼に寝る生活を2年続けました。その後,通信制高校を20歳で卒業。芸大に進学するも、1日行っただけでまた中退しました。芸大中退後就職するでもなく、地元のスーパーで働きながら、一人暮らしをしていました。地方だったので時給は810円。
お給料から家賃を引いて、毎月残るのは4,5万円。ダブルワークをしたくても、パート先で社会保険に入っていて、副業禁止だと言われていたので,これ以上収入を増やすこともできない。
「このままではいけない….。」焦燥感と不安で押しつぶされそうな日々でした。それでも,具体的に何をやればいいのか,どう頑張ればここから抜け出せるのかわかりませんでした。そんなとき,スーパーの店長に言われたのです。
「資格でも取ったら?」
その日のうちに、本屋に行って日商簿記2級の参考書を買いました、そこから5年経った今,私は税理士として働いています。東京に引っ越しもして、勉強を通じて知り合った人と結婚もしました。
勉強を始めて5年経った今の私は、5年前の自分からは全く想像のつかなかった場所に立っています。
今から5年後も,今の自分からでは想像もできない場所まで到達できたら良いなと思っています。今,この本を読んでくれているあなたの5年後も,今とは全く違うところに立っている可能性もあると思うのです。
「出会い」と「可能性」
当時,この一言は、私にとって衝撃でした。そうか,資格か!!と思ったのです。目の前がパッと開けたような,暗いトンネルを抜けて光が差したような,雷に打たれたような経験でした。
私のテンションの上がり具合に,資格の取得を勧めた高橋店長はちょっと引く。ぐらいでした(笑)。
今でも高橋店長には本当に感謝しています。
人と出会うことで,自分が思ってもみなかった自分の可能性が発掘されるかもしれません。また,自分も誰かの可能性に気づけるかもしれません。
人と出会って,素直に意見を受け入れるということはとても大事です。
独学は不利ではなかった
「資格でも取ったら」と店長に言われた日から5年で,私は次の次取得しました。簿記論・財務諸表論までは独学で取得しました。
独学
2012年6月日商簿記2級
2013年2月全経簿記上級
2013年4月証券外務員1種
2013年5月FP3級
2013年11月日商簿記1級
2013年12月ITパスポート
2014年1月FP2級
2014年8月税理士試験簿記論・財務諸表論
進学
2015年8月税理士試験法人税法
2016年8月税理士試驗消費税法
2017年8月税理士試験相続税法
お金がなかったので,独学以外の選択肢がなかったのです。しかし、やってみてわかったことは「独学は不利ではない」ということでした。むしろ,簿記の勉強というのは、独学でどんどん進んでいける人が最強なのです。
なぜなら,簿記力を身につけるために一番必要なのは「反復・継続」からです。難易度の高い問題や,閃きの必要な問題より,基本的な問題を落とさないということが一番大事なのです。そのためには,毎日,コツコツ,基本トレーニングを続けていくべきなのです。そして、基本トレーニングというのは一人でしかできないことなのです。
税法科目の勉強に入ってから,専門学校に通い始めましたが,通学と通信を組み合わせ,「本当に必要なときだけ学校に行き,あとは自宅で勉強をする」という「半独学」にて勉強をしました。
独学に少し通学を加えることで,両方の勉強法のいいとこ取りで,最大の成果を出すことができたのです。いつ学校に行くか,いつ学校に行かないかということはかなり計算してスケジュールを組んでいました。
その結果,全国公開模試では上位1%以内に入ることができたのです。全国公開模試で5%に入っていれば,本試験で何が起こっても落ちることはありません。
模試で30%に入ると合格ラインと言われていますが、それではまだまだ落ちる可能性があります。確実に合格をつかみたいなら,本試験の合格ラインと同じく,上位10%を目指した勉強をするべきなのです。
上位10%はかなり厳しい数字だと思いがちですが、税理士受験生のうち、実際に合格できるレベルまで試験範囲を勉強してきているのは10人中3人くらいです。その3人の中で1位になれば良いのです。
税理士試験は、隣の人に勝てば受かるのです。そう考えると,少し肩の力が抜けてくる気がしませんか?
努力する必要はない
努力って、長く続きませんよね。はっきり言って、私は努力ができない人間です。最近太ってしまって、ダイエットをしようと思い禁・おやつ生活が。していたのですが、3日と持たずマカロンを食べてしまいました。
私が勉強を続けることができたのは、努力しなかったからです。楽しいと思えるように勉強をしてきました。勉強も必死に机にかじりついてするだけではなく,テレビを見たり、ラジオを聴いたり,時には逆立ちしながら,フリースタイルで勉強してきました。
勉強をする時間を,楽しい時間にしてしまえば、努力なんていらず,自分がやりたいことをやっていたらいつの間にか合格していた、という体制を作ることができます。
私たちの日常には、いろんなことが起きます。毎日ご機嫌に過ごせるのが一番ですが,そうもいきません。家族と喧嘩したり、仕事で失敗したり、雨が降ったり,風が吹いたりするのです。
そういったときに,疲れた心に鞭を打って働治を続けることはとても人変です。そうじゃなくて、勉強が心の栄養になるように、勉強が癒しの間になるようにしていくことができれば,それが一番ですよね。
楽しみながら勉強をする
勉強というと、机に座って、静かな環境でやる,というのが定番ですが,このスタイルにとらわれなくても良いと思っています。
どんな形であれ知識が身につけばそれが勉強なのです。形式にこだわる必要はないのではないでしょうか。
逆立ち勉強法は失敗に終わりました。ほかにもチャリ漕ぎ勉強法,あやとり勉強法など、編み出そうとしたものの,失敗に終わった勉強法がたくさんあります。
眉抜き勉強法や痒み止め勉強法は効果ありでしたが,リスクを伴うのでご紹介は割愛します。
勉強というと学生時代のつらく苦しいイメージを持ちがちですが,勉強は本来,自由で楽しいものです。好きなように,フリースタイルで勉強しましょう!
合格する文脈をつくる
私が今までの受験経験で得た,合格するための秘訣があります。それは「自分の人生の中で,合格する文脈を作る」ということです。
「たまに勉強した」から「税理士試験に合格した」
「毎日勉強した」から「税理士試験に合格した」
一つ目の文章は自然ではないですよね。対して,二つ目の文章は自然だと感じるはずです。
「○○した」から「税理士試験に合格した」
という文章を作って、前の文章に何を入れるか,その文章を,自分の中にどれだけ積み上げられるか,なのです。
「不合格」に繋がりそうな文脈はちゃんと管理・排除するのです。「毎週飲みにいった」から「不合格」
「1週間勉強を休んだ」から「不合格」
というようなものは,ちゃんと意識して、できる限り積み重ねにします。
そして,「けど」が一番怖いのです。
「家事を毎日ちゃんとした」けど「合格」
「残業ばっかりで大変だ」けど「合格」
「やりたいこともやってた」けど「合格」
こういった話は,合格体験談のなかで,美談として語られることが多いです。でも,合格体験談は,稀な成功だから取り上げられるのです(この本を書いている私が言うのは恐縮ですが…)。
この「けど」は曲者です。私たちに夢を見させ,罪悪感と劣等感を与えます。あの人はちゃんと家事をしながら合格できたのに、あの人は残業してても合格できたのに……と自分自身を責めてしまい、私たちをより大変な道へ走らせます。
「けど」の前に入るのは、その人にとって大切なものというケースが多いのです。だから人は「けど,合格した」という文章を作りたがります。でも,「けど」は合格に繋がるコンテクストではないということを意識してほしいのです。人から語られる「けど,合格」なんてだいたいはちょっとカッコつけているもので,ちょっとお化粧されているものなのです。それを真に受けて、苦しんだり,頑張りすぎたりする必要はありません。
税理士試験をやっている間,「けど,合格」を叶えるために苦しんでいる人をたくさん見ました。しかし,正直なところ、私は合格のためなら切り捨てなければならない部分もあると思っています。税理士試験をやっている期間は、本当に大切な、捨てられない「けど」を考える期間でもあるのではないでしょうか。
私が合格できた理由なんて,単純で,誇れるものではありません。合格につながる「から」をたくさん集めて、不合格につながる「から」と「けど」をできる限り少なくした。それだけなのです。
コラム 試験概要をチェックしよう
インターネットなどで詳しい情報は得られますが,簡単に税理士要をチェックしておきましょう。
受驗資格
税理士試験を受験するには受験資格が必要です。
・学識条件(大学・短大卒業者で法律学・経済学を1科目以上履修等)
・資格条件(日商簿記1級または全経上級の合格者等)
・職歴条件(定められた事務・業務に通算2年以上従事)
・認定条件(国税審議会で個別認定を受ける)
以上のいずれかを満たす必要があります。受験資格の詳しい情報は国税庁ホームページに掲載されています。
大学や専門学校に行っておらず,また職歴条件を満たすような仕事をしていなければ,日商簿記1級などの資格試験をまずパスする必要があります。
○試験科目
会計科目 | 簿記論 | 必須科目 |
財務諸表論 | 必須科目 | |
税法科目 | 所得税法 | いずれかは必須科目 |
法人税法 | ||
相続税法 | ||
消費税法 | どちらかを選択 | |
酒税法 | ||
国税徴収法 | ||
住民税 | どちらかを選択 | |
事業税 | ||
固定資産税 |
税理士試験は科目合格制なので,右記の11科目から5科目を選んで受験をします。一度合格した科目は生涯有効なので,社会人でも時間をかければ合格することができます。
簿記論,財務諸表論の会計科目は必須科目です。税法では所得税法、法人税法のいずれかが必須科目です。また,税理士試験で5科目に合格をしなくても,大学院を修了し国税審議会から認定されれば,会計1科目または税法2科目の試験が免除されます。つまり,税法免除の場合,会計2科目+税法1科目の試験に合格すれば、税理士資格を得られます。大学院は働きながらでも通えます。多くの方がこの制度を利用して税理士になっています。
○合格率
各科目とも満点の60%で合格とされますが,どの科目も合格率は10~15%となっており,実質的には相対評価で行われています。受験生の中で,10人に1人に入ることができれば合格するという計算です。
○試驗日時
税理士試験は例年8月初めの1~2週目の3日間に行われます。合格発表は試験5カ月後の12月に郵送で通知が届きます。最終的に税理士試験に合格した人は,官報にて発表されます。
○受験者層
下図は2017年度税理士試験の結果です。税理士試験は、一度社会人を経験してから目指す,という方が多いので,自然と年齢層が高くなる傾向にあります。合格率を見ると,見事に年齢と反比例しています。やはり,年齢を重ねるにつれ、仕事や家庭など背負うものが多くなり,勉強時間がとれなくなっていくなどということでしょうか。税理士を目指すなら,スタートは少しでも早いほうが有利なのです。
受験者数 | 合格率 | ||
年齡別 | 41歳以上 | 11,320人 | 13.30% |
36~40歳 | 5,798人 | 18.20% | |
31~35歳 | 6,270人 | 21.60% | |
26~30歳 | 5,626人 | 24.50% | |
25歳以下 | 3,960人 | 34.00% | |
合 計 | 32,974人 | 20.10% |
コラム 受験資格を手に入れよう
税理士試験の受験資格のうち,資格条件を満たすための検定試験を紹介します。
○日商簿記1級
公認会計士・税理士など,会計のプロになるための登竜門として知られる資格です。合格をするまで、だいたい1,000時間の勉強が必要だと言われています。
出題科目は,商業簿記,会計学,工業簿記,原価計算の4科目です。このうち,商業簿記と会計学は,税理士試験の簿記論・財務諸表論と出題範囲がほぼ同じなので,日商簿記1級の勉強をしていれば,税理士試験の簿記論・財務諸表論の勉強はプラスアルファで済みます。
また、市販の教材が充実しており,十分に独学が可能です。
○全経簿記上級
日商簿記1級よりは知名度が低い資格ですが,日商簿記1級と出題範囲はほぼ同じです。
日商簿記1級と異なるところは、全経簿記上級のほうが「理論問題が多い」ということにあります。財務諸表論を受ける前段階として,全経簿記上級をやっておけば、財務諸表論の理論はだいぶラクになるでしょう。
また、日商簿記1級よりも合格しやすいと言われています。クセのある問題も少ないので、過去問分析をしっかりやっていれば合格することができます。市販の教材は少ないですが,日商簿記1級のテキストで代用が可能です。
日商簿記1級、全経上級とも上位10%前後が合格する相対試験です。ここで10%に入る感覚をつかんでおけば,税理士試験も比較的スムーズに進んでいけるはずです。
また,日商簿記1級の試験が「6月・11月」,全経上級の試験が「7月・2月」に行われるため、年に何回も受けるチャンスが訪れます。
年に4回チャンスがあるので、気持ちもダレず,勉強をすることができます。まずは日商簿記1級,全経上級を勉強して,試験慣れしておくと良いかもしれません。受験資格がないけれど、早く税理士試験を受けたい人は,理論に力を入れて、比較的合格しやすい全経上級の合格を目指すことをおすすめします。
ちなみに、私は、『スッキリわかる日商簿記1級』『合格するための過去問題集』『会計学理論マスター』※を5~8回転することで全経上級・日商簿記1級に合格し,受験資格を手に入れました。※現『究極の会計理論集』(すべてTAC出版)