移動式クレーン運転士学科試験 徹底研究 改訂2版
移動式クレーン運転士資格取得ガイダンス
1.受験資格
特にありません.(18歳未満は、満18歳になるまでは免許は交付されません)
2.試験科目
種類 | 試験科目 | 試験時間 |
学科 | ・移動式クレーンに関する知識 ・関係法令 ・原動機及び電気に関する知識 ・クレーンの運転のために必要な力学に関する知識 |
2時間30分 (1科目10問計40問) *1科目のみ、なお免除者の試験時間は2時間 |
実技 | ・移動式クレーンの運転 ・移動式クレーンの運転のための合図 |
午前または午後 (受験票に記載) |
<試験科目の免除>
科目の免除を受けることのできる者 | 免許科目 |
クレーン・デリック(クレーン限定、床上運転式クレーン限定を含む)、旧クレーン(床上運転式限定を含む)、旧デリックまた揚貨装置運転士免許を有する者 | 学科:力学に関する知識 実技:運転のための合図 |
移動式クレーン運転実技教習を終了した者で、その修了した日から起算して1年以内の者 | 実技:全部 (学科試験のみ受験すれば良い。) |
鉱山においてつり上げ荷重が5トン以上の移動式クレーンの運転の業務に1月以上従事した経験を有する者 | |
移動式クレーンの学科試験に合格した者で、その学科試験が行われた日から起算して1年以内の者 | 学科:全部 (実技試験のみ受験すれば良い。) |
床上操作式クレーン運転技能講習を修了した者 | 実技:運転のための合図 |
小型移動式クレーン運転技能講習を修了した者 | |
玉掛け技能講習を修了した者 |
3.試験日
2か月に1回(学科試験は奇数月,実技試験は偶数月)
4.受験料
学科試験6800円 実技試験11100円
5.試験地
各地の安全衛生技術センターで実施されます。
6.受験手続
受験申請書,必要書類,写真1枚を各地安全衛生技術センターへ提出します。
受付は試験の2か月前から,郵送の場合は14日前まで窓口持参の場合は2日前までとなっています。
7.受付先
北海道安全衛生技術センター〒061-1407北海道恵庭市黄金北3-13 電話0123-34-1171
東北安全衛生技術センター〒989-2427宮城県岩沼市里の杜1-1-15 電話0223-23-3181
関東安全衛生技術センター〒290-0011千葉県市原市能満2089 電話0436-75-1141
中部安全衛生技術センター〒477-0032愛知県東海市加木屋町丑寅海戸51-5 電話0562-33-1161
近畿安全衛生技術センター〒675-0007兵庫県加古川市神野町西之山字迎野 電話079-438-8481
中国四国安全衛生技術センター〒721-0955広島県福山市新涯町2-29-36 電話084-954-4661
九州安全衛生技術センター〒839-0809福岡県久留米市東合川5-9-3 電話0942-43-3381
8.試験会場で使用できる用具
(1)筆記用具
HBまたはBの鉛筆(シャープペンシル可)・プラスチック消しゴム
(2)電卓・定規
電卓は使用してもかまいません(特殊機能のあるもの,電子手帳,携帯電話は使用できません),定規については特に制約はありません.
9.合格発表
合格発表は試験日の1週間後.
10.合格基準
・学科試験:各科目の得点が40%以上で,全科目の得点の合計が60点(力学に関する知識科目の免除者については48点)以上
・実技試験:減点の合計が40点以下
11.合格率・学科試験約75%・実技試験約60%
本書を発行するにあたって、内容に誤りのないようできる限りの注意を払いましたが,本書の内容を適用した結果生じたこと,また,適用できなかった結果について,著者,出版社とも一切の責任を負いませんのでご了承ください.
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(社)出版者著作権管理機構
(電話03-3513-6969,FAX03-3513-6979,e-mail:info@jcopy.or.JP/
JCOPY<(社)出版者著作権管理機構委託出版物>
はしがき
「移動式クレーン運転士」の免許試験は,労働安全衛生法に基づいて行われる国家試験です.ビルや道路の建設工事,港湾荷役,貨物運送事業等の職場でつり上げ荷重5t以上の移動式クレーンを運転するためには、必須の資格です.また,専門職として求人も多く、収入も安定しており、転職や再就職の面からも有利な資格です.
クレーンの語源はツル(鶴)で,広辞苑では,クレーン:【CRANE】「重量物を垂直または水平方向に移動させる機械の総称,起重機.」とされています。
クレーンといえば,「クレーンゲームのUFO(空飛ぶ円盤)キャッチャー」が思い浮かび、誰しも一度くらい経験されていると思います。業務用のクレーンはというと,見かけはするものの縁遠い存在と思っている方が大勢おられることでしょう.
ところで,移動式クレーンは原動機を内蔵し、陸上または水上と任意の場所に移動させることのできるクレーンです。通常は,自動車の上にクレーンを取りつけたトラッククレーンが多く用いられています。そのほかにもクローラクレーン,ラフテレーンクレーンなどがあります。
移動式クレーンは需要が高く、プロの資格である「移動式クレーン運転士」は、年間の試験回数も多く,かつ,受験者数も多い人気の資格なのです。プロの試験といえば難しそうと思いがちですが,それほどではありません。ただし,運転士というからには学科試験と実技試験とがあります。
本書は,このうち学科試験を対象としています。学科試験は,過去に出題された問題がほとんど同じ形で繰り返して出題される傾向が見受けられます.本書の執筆に当たっては,〈テキスト+問題集〉的な性格を持たせ,基礎知識を確実に身につけたうえで問題を実践し、実力養成していただくよう配慮しました。
将来,移動式クレーン関係の職業を目指される方も含め、幅広い方々が本書により的を絞った学習を積み、国家試験に挑戦されることをお勧めします。
最後に,改訂にあたりお世話になった,オーム社書籍編集局の皆様に厚く御礼申し上げます。
2017年4月
不動弘幸
本書の使い方
本書で扱っている0編を除く1編~4編は、いずれも「移動式クレーン運転士1国家試験に必要不可欠な内容です-本書では,SI単位系や最新法規への対応も確実に実施しています.また,「テキスト+問題集」的な性格を持たせ、十分に合格できるよう便宜を図っています。
本書をどのように活用すれば短期間で効果的に実のある学習ができ,合格のための実力を養えるのか,以下に具体的な利用のノウハウを示します.
1.本書の徹底利用
本書は,予備知識のない初学者でも理解できるよう,的を絞りやさしく説明しています.また,《テキスト+問題集〉の性格づけとしているので,学習成果を確認できるとともにウィークポイントの発見が容易にできます.
理解しにくい箇所やとくに大切な箇所は、できるだけていねいに説明していますから,ほとんど抵抗なく学習が進められます。
2.記述順の学習が絶対にお勧め
移動式クレーンに関する知識を確実なものとしていくには,本書のページ順に学習していくのが最も効果的です。急がれる方は,0編は飛ばしても結構です。
ページ順の学習をお勧めするのは,最初に工学的知識を学習し、最後に法規を学習するほうが体系的に理解しやすいからです.
3.学習ガイドは羅針盤
各編には章ごとに過去の出題問題の傾向を分析し,テーマ別に厳選した「節」を設け,最初に《学習ガイド〉を設けています.
〈学習ガイド〉は,各節でどのような内容に重点を置いて学習すればよいのかの進路を示す羅針盤です。軽い気持ちで読んでおきましょう。
4.ポイント解説の読破
〈ポイント解説〉は本書の「心臓部」ですので,問題を解く前に必ず学習しておきましょう。とはいえ、どの程度の細かさまで学習すればよいか迷うでしょう。最終的には,次の〈確認問題〉が解けるようになればよいので,〈確認問題〉が理解できなかったら,もう一度,〈ポイント解説〉に戻りましょう。
なお,突然出てくる専門用語で重要なものなどは、ひとくちコラム欄を設けて適宜説明を付しています。
5.確認問題の実施
〈ポイント解説〉が一通り学習できたら,各節の〈確認問題〉にチャレンジしましょう.〈確認問題〉では、簡単な解説を付していますので,解答の選択理由を理解することが大切です。単に答を覚えるだけの学習はまったく意味がありませんので、くれぐれも注意しましょう。
6.実戦問題の実施
各編の終わりには,総仕上げの実戦問題を掲載しています。「実試験レベル」の問題にアプローチすることで,皆さんの実力の確認ができます。
類似問題が多頻度に掲載されているところは、いわば「出題傾向」そのもので、とくに大切です。ここでの弱点箇所は各節レベルで再復習しておきましょう。
7.実技試験の概要
《付録〉として,実技試験の概要を掲載しています。学科試験の次ステップとして内容を一読してみてください、体力の勝負ではないので,もちろん女性の方も安心して行えます。
8.索引の活用
すでに学習したが,用語の意味が思い出せないときには、ぜひとも巻末の「索引」を利用してください。試験に重要なキーワードがすぐに検索できます。あやふやな知識のままの学習から確実な学習への橋渡しとしています。
9.モチベーションの高揚・・楽しく学習するには、自分が移動式クレーンを運転している気持ちになることです。「疑似体験」をしているつもりで臨むと、モチベーションを高められます。「移動式クレーンは重量物を扱う関係上から,取扱いを誤ると危険です。
いかに判断し行動すべきかを決定する正しい知識を学習することは、単に長いのみならず実務にも役立ちます。とにかく、「安全第一」です。「ルールを守る」「リスクの最小化」であり、そのためには「ルールを知ること。「綿密な学習」を実行することが何より大切です。
目次
0編 移動式クレーン運転士とは
1編 移動式クレーンに関する知識
1章:移動式クレーンの種類および形式
2章:移動式クレーンの構造および機能
3章:移動式クレーンのワイヤロープ
4章:移動式クレーンの安全装置
5章:移動式クレーンの性能
6章:移動式クレーンの取扱い方法実戦問題
2編 原動機および電気に関する知識
1章:内燃機関
2章:油圧装置
3章:油圧装置の付属機器・作動油
4章:感電による危険性寒戰問題
3編 力学に関する知識
1章:力(合成・分解・モーメントおよびつり合い)
2章:重心
3章:質量
4章:速度および加速度
5章:荷重・応力・材料の強さ
6章:ワイヤロープ・フックおよびつり具の強さ
7章:ワイヤロープの掛け方と荷重の関係実戰問題
4編 関係法令
1章:労働安全衛生法
2章:労働安全衛生規則およびクレーン等安全規則中の関係条例
実践問題
付録
実戦問題解答・解説
索引
0編 移動式クレーン運転士とは
1.移動式クレーン運転士免許の位置付け移動式クレーンは、その名のとおり,移動できる機能+クレーン機能の両方を兼ね備えています.また,実際に作業する場合には,玉掛けも必要となります。このため、必要な資格は下表のように定められており,これらを知っておくことはきわめて重要です。本書での内容は,移動式クレーンのうちつり上げ荷重5t以上の場合に必要となる移動式クレーン運転士に関するものです.
移動式クレーンの定義は、「荷を動力でつり上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置」ということになりますが,クレーン等安全規則では,「原動機を内蔵し,かつ,不特定の場所に移動させることができるクレーン」と定められています。
さて,移動式クレーンを現地まで走行させるには、上記に加え運転免許も必ずになります.このため、走行運転・クレーンの運転操作・玉掛けを行うには合三つの資格が必要になります.これらの関係を整理すると次表のようになります.
1 移動できる機能に関する資格 | 陸 | 公道 | 自動車免許(普通・大型・大特) |
公道以外 | 必要なし | ||
海 | 海技免状 | ||
線路 | 鉄道会社の規定による資格など | ||
2 クレーン機能に関する資格 | 移動式クレーン免許 玉掛けの業務に関する技能講習修了証 |
2.移動式クレーン運転士免許で運転できるクレーン
都道府県労働局長の移動式クレーン運転士免許を取得すると,下記の種類などのつり上げ荷重5t以上の移動式クレーンの運転が行えるようになります.移動式クレーンは、自走または輸送によって容易に移動して使用できるので、陸上移動と水上移動のタイプとがあります。
平成27年度の国内のクレーンやデリックの設置台数は197,612台で,その構成比は,次のとおりであり,クレーンや移動式クレーンが現代の主役です.
移動式クレーンの分類
陸上移動 | トラッククレーン | トラッククレーン |
積載形トラッククレーン | ||
レッカー形トラッククレーン | ||
オールテレーンクレーン | ||
ホイールクレーン | ホイールクレーン | |
ラフテレーンクレーン | ||
クローラクレーン | ||
鉄道クレーン | ||
クレーン機能を備えた車両系建設機械 | ||
水上移動 | 浮きクレーン |
3.クレーンの語源は鶴
クレーンの語源は、英語の「CRANE(鶴)」です。これは,当初のクレーンが架台に長い腕(ジブ)を備え,鶴に似ていたからといわれています。我が国では,従来より「起重機」と呼んでいましたが,昭和37年制定の「クレーン等安全規則」から「クレーン」と呼ばれるようになりました.
4.クレーンか否か?
クレーン等安全規則によると,クレーンとは次の二つの条件を満たす機械整器と定義されています.
<定義1>動力で荷をつり上げる
クレーンは動力で荷をつり上げるもので、人力で荷をつり上げるものはクレーンには含まれません。ただし、荷を降ろすときは、どちらでも構いません.
〈つり上げ〉は動力,〈つり下げ〉は自由落下または動力
〈定義2〉つり荷を水平に運搬する
水平方向の移動は人力でも動力でもよいとされています.
〈つり荷の水平運搬台〉は人力または動力したがって,つり上げは、絶対に動力でなければクレーンとは呼べないのです。
クレーン=〈動力でのつり上げ〉+〈つり荷の水平運搬台〉
5.学科試験の学習上での注意
移動式クレーン運転士の学科試験の科目を詳細に見てみると,次表のようになっています。
学科試験の合格基準は,科目免除なしの受験者の場合,各科目の得点が40%以上で,全科目の得点の合計が60点以上となっています.
したがって,各科目10問中の4問以上の正解が必要であることはもちろん,「移動式クレーンに関する知識」と「原動機及び電気に関する知識」の配点が満点でそれぞれ30点と,ほかの2科目より高いです.このため,これらの2科目はとくに得点できるよう十分な学習が必要です.
配点30点:「移動式クレーンに関する知識」と「原動機及び電気に関する知識」
配点20点:「力学に関する知識」と「関係法令」
試験科目 | 内容 | 問題数 | 配点 |
移動式クレーンに関する知識 | 種類および形式、主要構造部分、つり上げ・起伏・旋回などの作動をする装置、安全装置、ブレーキ機能、取り扱い方法 | 10問 | 30点 |
原動機及び電気に関する知識 | 内燃機関、蒸気機関、油圧駆動装置、感電による危険性 | 10問 | 30点 |
移動式クレーンの運転のために必要な力学に関する知識 | 力(合成、分解、つり合いおよびモーメント)、重心、質量、速度および加速度、荷重、応力、材料の強さ、ワイヤロープ、フックおよびつり具の強さ、ワイヤロープの掛け方と荷重との関係 | 10問 | 20点 |
関係法令 | 労働安全衛生法、労働安全衛生法執行令、安全衛生規則およびクレーン等安全規則中の関係条例 | 10問 | 20点 |
6.クレーンの歴史
古代エジプトのピラミッドは、今から約5000年前に,10万人の人力と20年の歳月をかけ造られた巨大建造物です.日本でも奈良の大仏や城の石垣など大きさに目を見張るものがたくさんあります.
あのような巨大なものを造るのに材料をどのように運搬し積み上げたのでしょうか?誰もが一度は疑問を持ったに違いありません。きっと、てこ・丸太・滑車などが使われたのではとの思いを馳せ,改めて感動するものです.
ひとくちコラム クレーンの歴史
☆紀元前450年頃:ギリシャ人が使った原始的な起重機が最初といわれています.
☆紀元前1世紀:この時代の建築書に三脚起重機が記されています。
☆15世紀:レオナルド・ダ・ビンチの起重機は,現在のクレーンとほぼ同じです.文明治4年:我が国では、旧横須賀海軍の埠頭でフラレオナルド・ダ・ビンチンス製クレーンを採用したとされています。
☆昭和30年:自動車をつれるクレーンのニーズから,油圧式2tつり移動式クレーンが開発され、翌年にはブームの伸縮・アウトリガーの油圧化が図られています.
人間は知恵の動物で,そのうち人類は,重量物搬送に有用なクレーンなどを教え出しました。今や大規模な建築物を造るうえではクレーン抜きには考えられません。
7.クレーンの日は9月30日
クレーンの日は9月30日で、クレーンなどの関係者が労働災害の防止について一層認識を深め、基本に立ち返り安全作業の周知・徹底を図る日とされています
ちなみに,これは、(一社)日本クレーン協会と(公社)ボイラ・クレーン安全協会が昭和55年に制定したもので,「クレーン等安全規則」が公布された日が9月30日という由来があります。