アロマテラピーの教科書―いちばん詳しくて、わかりやすい!




はじめに

私は、アロマセラピストです。サロンのお客様をはじめ病院や在宅で療養中の方へアロマのトリートメントを施しています。

アロマテラピーっていいなといつも思うのは、手だけあればその場ですぐにしてさしあげられること。香りが広がる空間は、特別な場所に変わります。その中でお話をするだけでもセラピー療法になるのです。精油の使い方や施術方法など注意する点はありますが、赤ちゃん、高齢の方、妊婦さんなど対象を問わず行うことができます。

薬のように強力な作用はないけれどゆっくりと心と体の緊張が解かれて治癒力が戻ってくる、応用できない場面を探すのが難しいくらいバラエティに富んだ使い方ができる、そんな魅力あるアロマの世界をこの本でご紹介したいと思います。

アロマには簡単に家庭で行える方法もありますし、プロのセラピストが行うケアもあります。どちらでもよい効果が得られるのもこの療法のいいところです。香りに興味がある方、花やハーブが大好きな方、心と体を自然な形でケアしたい方、バイタリティを高めたい方、無駄な緊張を手放したい方……、どうぞ、アロマをはじめてみてください。

アロマがまったくはじめてという方から学習中の方、プロのセラピストの方まで幅広く活用していただけるよう、アロマテラピーの全容をできるだけわかりやすく、多方面からまとめるよう努力しました。

また、精油とキャリアオイルガイドの全ページに原料植物の説明、学名の語源やラテン語での読み方の説明に加え、花が咲く時期、果実がなる時期などその植物にとってなるべくいい時期に撮影した写真を掲載しました。

アロマの植物達がどんな姿かたちをしているか、歴史、使われ方、どんな場所に生えているのかなどを知り、より身近に感じていただけたら、こんなにうれしいことはありません。

本書が何かひとつでも皆様のお役にたてれば幸いです。

和田文緒

和田 文緒 (著)
新星出版社 (2008/9/1)、出典:出版社HP

Contents

はじめに
AROMATHERAPY for Everyone!

PART 1 アロマテラピーの基礎知識

LESSON 1 アロマテラピー入門
01 アロマテラピーとは
02 世界の植物療法の歴史
03 アロマテラピーのメカニズム

LESSON 2 精油 Essential Oil
01 精油とは
02 精油の抽出
03 精油の作用と吸収・排泄経路
04 精油の化学

LESSON 3 アロマテラピーの実践
01 アロマテラピーの基本ルール
02 実践のための基礎知識
03 ブレンディング

PART 2 アロマテラピーセルフケア基本ガイド

LESSON 1 そろえておきたい材料と道具たち
キャリアと材料
セルフケアにあると便利なもの
クラフト作りのための器具

LESSON 2 基本のアロマクラフト
作ってみよう
入浴剤
ハーブ石鹸
ローション
ハーブティンクチャー
クリーム・ジェル類
クレイパック
アロマスプレー
オーデコロン香水
簡単!まぜるだけのアロマクラフト

LESSON 3 基本のトリートメント (アロママッサージ)
トリートメントを行う前に
トリートメントの禁忌
セッティング
家庭で行うトリートメントの基本手技
ホールディング/エフルラージュ/ フリクション/ナックリング/ニーディング
基本の姿勢/手のあて方・置き方/ 食卓テーブルで行う基本手技
家庭で行う他者へのトリートメント
背中
腰・お尻
下肢(裏面)
お腹
腕・ハンド(右手)
セルフトリートメント
ハンド・腕
ひざ下・足裏
みぞおち・お腹
フェイス
デコルテ・首・肩

PART 3 精油・キャリアオイルガイド

LESSON 1 「精油ガイド」の読み方
アンジェリカルート
イランイラン
オウシュウアカマツ (パイン)
オレンジ
カモミールジャーマン
カモミール・ローマン
カルダモン
キャロットシード (ワイルドキャロット)
クラリセージ
グレープフルーツ
クローブ
サイプレス
サンダルウッド
シダーウッド・アトラス
ジャスミン
ジュニパー
ジンジャー
ゼラニウム
タイムリナロール
ティーツリー
ニアウリシネオール
ネロリ
バジル(スイート)
パチュリー
パルマローザ
ヒノキ
プチグレン
ブラックペッパー
フランキンセンス (オリバナム、乳香)
ベチバー
ペパーミント
ベルガモット
ベンゾイン(安息香)
マージョラム(スイート)
マートル
マンダリン
ミルラ
メリッサ
ヤロウ
ユーカリ・グロブルス
ユーカリシトリオドラ
ユーカリ・ラジアータ
ユズ
ラベンサラ
ラベンダー・アングスティフォリア
レモン
レモングラス
ローズアブソリュート
ローズウッド
ローズオットー
ローズマリー・カンファー
ローズマリー・シネオール
ローズマリー・ベルベノン

LESSON 2 「キャリアオイルガイド」の読み方
アプリコットカーネル油/アボカド油
オリーブ油(エキストラバージンオイル)/カメリア(ツバキ)油
グレープシード油/ゴマ(太白)油
小麦胚芽油(ウィートージャームオイル)/スイートアーモンド油
月見草(イブニングプリムローズ)油/ピーチカーネル油
ヘーゼルナッツ油/ホホバ油
ボリジ(ボラジ)油/マカダミアナッツ油
ローズヒップ油/アルニカ油
カレンデュラ油/キャロット油
セントジョーンズワート(ハイペリカム)油

PART 4 セルフケア 症状別ガイド

セルフケアをはじめる前に
Self Care Guide からだと心編

1 運動器系の不調
肩こり・腰痛・筋肉痛・こむら返り
だるさ・疲労感
関節痛・坐骨神経痛・リウマチ・離鞘炎
ぎっくり腰・捻挫・打撲・筋肉裂傷などの応急手当

2 呼吸器系の不調
風邪・インフルエンザ
のどの痛み
気管支炎、咳、痰
鼻づまり、鼻水
発熱、だるさ

3 消化器系の不調
消化不良・下痢(食あたり)
便秘・下痢など排便リズムの乱れ
胃痛・疝痛
二日酔い
腸内ガス(腸)

4 泌尿器系の不調
腎臓の強壮と利尿促進
精神的緊張による頻尿
膀胱炎の予防とケア

5 循環器系の不調
冷え性
動悸(頻脈)
低血圧・起立性低血圧
むくみ・静脈瘤・待

6 ストレス性の不調
抗ストレス・心を鎮めたいとき
不眠・眠りが浅いとき
不安・心配・プレッシャー
ストレス性の肩こり・頭痛など
ショック・落ち込み・うつな気持ち
精神疲労・消耗・無気力
目標に向かって頑張っているとき
気分転換・集中したいとき

7 女性のライフサイクルと不調
思春期の不調
成熟期の不調
更年期の不調
老年期の不調

8 免疫力と生活習慣病
生活習慣病予防
肥満予防
高脂血症・糖尿病予防
高血圧・動脈硬化予防
花粉症の予防と対策
喘息の予防

9 皮膚のトラブル
オイリー肌のケア
ニキビのケア
乾燥肌のケア
敏感肌のケア
日焼けのケア
傷あと・色素沈着・しみの予防
肌の若返りアンチエイジング
ヘアケア

10 応急手当
怪我、切り傷の応急手当
やけど、打撲・捻挫の応急手当
虫刺されに

Self Care Guide 家族・生活編

1 赤ちゃんと子どものアロマ
不眠・不安ストレス
風邪

2 入院中のアロマ
リラクゼーション・気分転換に

3 動物のアロマ
動物のアロマの注意点

4 掃除・洗濯のアロマ
キッチンやお部屋のお掃除に
衣類、洗濯に

日本の アロマテラピーの 現状と展望
医療01
医療02
教育01
教育02
スポーツ

おわりに
索引
参考文献

みんなのアロマ体験談
01 旅行中の心と体の疲れに
02 暴飲暴食後の赤いニキビに
03 手術後のお腹の痛みが緩和しました
04 通勤中のお腹の痛みに
05 家族の冷え対策
06 手放せなかった頭痛薬の代わりに
07 足の痛みにアロマのセルフケア
08 精油を予防に活用しています
09 アロマのおかげで活力が出てきました
10 かゆいじん麻疹に、アルガン油は◎
11 アロマは男性にもおすすめです
12 「足のお風呂」で元気になれました
13 ティーツリーとユーカリのうがい効果は抜群!

アロマテラピーの症例
01 アロマは体調管理に役立っています
02 ローズマリーで生活にメリハリがつきました
03 アロマテラピーで全体的に体の不調が改善されました

コラム
チャクラとアロマテラビー
足裏の反射区
主なリンパ節の場所とケア
妊娠中のアロマテラピー

必ずお読みください。

アロマテラピーは、医療ではありません。また、精油は医薬品ではないことをご理解の上、使用の際は製品の取扱説明書や注意事項を読み、正しくお使いください。特に、妊娠中の方をはじめ、健康状態に気になることがある方や医査機関で治療中の方は、必ず医師や専門家に相談の上、安全にお使いください。

本書で紹介した精油の特徴やレシピ、臨床例は、著者の経験や研究をもとに健康や日常生活の質の向上に役立ったものを中心に掲載しています。必ずしもすべての方に当てはまるものでないことをご理解ください。本書の著者ならびに出版社は、本書で紹介したアロマテラピーの実装や精油の使用によって生じた問題に対する責任を負いません。

取材・撮影協力(肩書き・所属は、取材当時のものです)

岡本光世さん/小池亀之助さん/小池幹雄さん/竹山浩子さん/中浜賢一郎さん/中浜薫さん/広瀬由幸さん/渡辺健二さん/渡辺博子さん/北見ハッカ記念館佐藤敏秋さん/伊澤登志子さん/北見市緑のセンター久保敷さん/千葉県農林総合研究センター柴田忠裕さん/東京農業大学宮浦理恵先生/東京農業大学木村正典先生/東京農業大学農学部のみなさん/東京農業大学付属植物園伊藤健先生/慶應義塾大学、茶園美香先生/慶應義塾大学看護医療学部のみなさん/スポーツアロマコンディショニングセンター軽部修子先生/トータルヒーリングセンター中村裕恵先生/東京警察病院横田実恵子先生/北海道医療大学関崎春雄先生/ポプリの里ハーブガーデン/HOMEOPHARMA・精油蒸留所(マダガスカル)/Institut Malgache de Recherches Appligées(マダガスカル応用科学研究所) Del Phin. Rabeheia先生

資料・写真提供協力

ジャパン・ハーブスクール、尾上豊さん/斉藤誠さん/理恵・ワーケンティンさん/小野セシリアさん/東京農業大学 宮田正信先生/東京農業大学 木村正典先生/ 明治薬科大学名誉教授 大槻真一郎先生/IIAP(ペルー) Elsa Rengto先生

撮影協力

西村有さん(モデル)/本間佐夜子さん(モデル)/菊池美沙さん(ヘアメイク)/ 遠藤友美さん/横田実恵子さん

スタッフ

デザイン:飯野明美
撮影:一之瀬ちひろ
スタイリング:宮田貴子(ultratama)
イラスト:大西里江子
佐藤繁
コーディネート:新谷佐知子(MOVE Art Management)
DTP制作:株式会社グラフト

和田 文緒 (著)
新星出版社 (2008/9/1)、出典:出版社HP

AROMATHERAPY for Everyone!

植物の命がぎゅっとつまった。香りの物語。1滴の精油からアロマの世界がはじまります。
精油1滴、量はたったの0.05ml。その小さなひとしずくは、何倍にも広がって私たちの生活を豊かにしてくれます。

精油がもっている力はとてもパワフル。1滴の精油がどれほど心と体に働きかけるのかを実感するには、体験していただくのが一番ですが、まず、ある香りのお話をしたいと思います。

ある気づき。

ネロリの香りが大好きな人がいました。調合するたびに必ず加えるのはネロリ。なぜこれほどまでネロリに惹かれるのか理由があるはずだと考えましたが、思い当たりませんでした。

アロマの本には「ネロリは心を鎮める、鎮静作用がある」と書いてありましたが、鎮静というよりも、むしろ鼓舞、内側から力が湧いてきてわくわくする、元気になる、そんな気持ちになりました。大切な場面や勇気が必要なとき、必ずネロリの香りを身につけました。そうすると、不思議とうまくいったのです。

ネロリを使いはじめてから2年が過ぎたある日、突然のひらめきがありました。その人は昔、神奈川県二ノ宮にある農場で温州ミカンを栽培していたことがあったのです。手入れは様々ありますが、そのひとつが書と摘果。木の疲れを防ぐために春には書を、夏には青い実を摘み取ります。青空の下、大磯の海を見下ろす畑での作業は、青々しくさわやかな香りに包まれた中での楽しい時間でした。

ネロリとミカン畑がむすびついたその瞬間、頭の中で気がばあーっと晴れていくかのように記憶の奥にしまわれていた情景が浮かび、ネロリに「楽しさ」や「元気」を感じていた理由、香りに惹かれていたわけがわかったのでした。

アロマテラピーでネロリと呼んでいるのはオレンジの花、つまりミカンです。明るく楽しい体験と香りが結びついていたからいつも自分を励ましてくれた、そのことに気づいた瞬間から、精油の1滴のしずくはやさしい気持ちをもたらしてくれるもの、人生を豊かにしてくれるものに変わりました。

忘れていた素敵な時間をリアルに思いださせてくれたネロリの精油。これからも香りに包まれて、毎日を楽しい豊かな気持ちで暮らしていきたいなと思ったそうです。

はじまり。

農学部の学生だった私にとって、植物は「作物」であり、管理するものでした。畑で栽培される野菜や花は、収穫量を増やしたり、生育を調整したりするためにホルモン剤などを使います。私も実験用植物を、無菌室や温室で環境を制御しながら育てていたのです。

そんなとき、ただの「雑草」だと思っていたハーブが心と体の不調を意し、アロマテラピーという立派な「療法」として、ヨーロッパでは病院などで行われているということを知りました。自分が管理していると思っていた植物の色や形、香りという目には見えないものから、実は、人のほうが影響されていたという事実は衝撃でした。

そこから私のアロマ生活がはじまりました。精油は、ブルーやグリーン、茶色のきれいなガラスのボトルに入っている製品だけれど、その後ろにはたくさんの植物の存在があります。そのことを忘れないでもらいたいし、精油は単なる香りの商品だけではないということに気づいてほしいなあ、アロマを通して植物にも興味をもっていただきたいなあといつも思っています。

そんな私にとって、「アロマテラビーをやるうちに植物にも味をもった。植物に目が行くようになった」というアロマスクールの生徒さんの言葉は、かなりうれしいひと言でした。

前述した「ネロリの人」は、私です。

大学卒業後、高校の理科の教師になりましたが、5年後に学校を辞めました。教師を辞めてアロマテラピーの世界に飛び込むという決断が出来たのは、アロマテラピーを教えることと、生物を教えることは何も変わらない、ひとつの幹につながるものであると考えたからです。

アロマを通じても理科を通じても、自分自身の心や体、花や緑、自然に目を向ける心を育てる助けにもなるし、物事を客観的に観察する見方もはぐくまれる、それは、ストレスや困難なことにぶち当たったときに現状を理解し、どうそれを乗り越えていくのか、その力を生み出すための土台作りにもなるものだと思っています。

クラフト作りっておもしろい。

仕込んだハーブティンクチャーが、時とともに色や香りが変化し熟成していく様子をじっと待つ時間、クラフトが誰かの役に立つ、そんなことを楽しいと思える自分や作る喜びを見つけました。アロマ教室に通いはじめて間もない頃のことです。

教師として就職した私は、当初かなり忙しい毎日を送っていました。それなのに3か月も待たなければ出来上がらない「ハンガリーウォーター」。そんなに特てないと思っていたのですが、手間をかけた分、世界にひとつだけの愛着が湧くものに仕上がりました。

92年の秋にはじめて仕込んだハンガリーウォーターは、もう残り少なくなりましたが大切な宝物です。その香りを嗅ぐと、アロマテラピーをはじめた頃の気持ちを思い出し、がんばる元気が湧いてきます。

手芸や料理も苦手でセーターなど出来上がったことは一度もなかったですし、パッチワークにあこがれたものの挫折。根気のいるものは無理だとちょっぴりコンプレックスも感じていました。でも、アロマはそんな私でも出来たのです。それは、材料に精油を入れてかきまぜるだけで出来る、簡単なものだったからです!!

みつろうと植物油でクリームを作ったのですが、「きれいに上手にできましたね~」と先生にほめられたのがうれしくて、いくつも作ってお友達にプレゼントしました。喜んで最後まで使い切ってくれ、「鏡餅みたいだったかかとがすごくきれいになったよ」という声ににんまり。ラベンダーとティーツリー、オレンジ、ベンゾインを適当にまぜただけなのに、そんなに効果があるなんて驚きでした。

レシピや基材を考えるのは理科の実験みたいで面白かったし、もくもくと無心に作る作業そのものが楽しかったのでどんどんはまっていきました。

香りを選ぶことは、一歩止まって自分を見直すことにもつながります。クラフトを作りながら、新しい自分を創ることや本来の自分に戻るきっかけを得ていたように思います。

フェイシャルトリートメント。

アロマセラピストとしての活動をはじめたある夏の終わり、近所の在宅医療を行うクリニックから患者さんへの訪問アロマテラピーの依頼がありました。病院から自宅に戻られたばかりの60代の男性です。ガンによる下肢の浮腫、全身の倦怠感の軽減と精神的なリラックスが目的でした。「少しでも楽になるなら何でもやってみよう」と奥様が決めたそうです。

「まあ、気楽に受けてみるよ。においかー、何でもいいけどなあ」といいながら、はじめに選んだのはサイプレスとジュニパー、オレンジの香り(精油)でした。後日、「あの匂いは、山中湖なんだよ」と話してくださいました。別荘があるお気に入りの場所だそうです。

腹水がたまり、うつぶせは難しいので、下肢を中心にフェイシャルと腕をトリートメントしました。「いいよ、顔は」とはじめは敬遠されましたが、やがて顔もやるものという流れが出来つつありました。いつの間にか眠ってしまわれ、そっと部屋を出ていくと奥様もソファーで眠っていることがあり、介護者の疲労も大きい問題だと感じました。

「最後まで現役でいたい」とおっしゃっていて、ベッドサイドには、いつもゲラ(校正紙)が置いてありました。その日はなぜアロマセラピストになったのと聞かれて、少しだけ私も話をしました。その方はジャーナリストで、取材や編集の仕事がたまらなく好きで「本当に半端じゃなく働いてたんだよ!家族にとってはどうだったのかなー?」といいながら「でも、この人生でよかったと思っているんだ・・・・・・。あんたも大変だなあ、でもな、苦しくても10年やめるなよ、10年続けたらまた違う展開になっていくから」と。

それ以外にも、アロマは全身美容で自分には関係ない、女性がやるものだと思っていたこと、人生の最後にまさかのトリートメントをされるとは思いもよらなかったこと、やってみて本当によかったと話してくださいました。

お顔を含め、体は、その人の喜びや悲しみ、疲れ、様々な思いや生き方を表現していると感じます。香りを媒介に触れながら伝わってくるもの、伝えられるものがあることが実感できます。在宅ホスビスでの訪問アロマテラピーを手探りではじめたばかりだった私にとって、大きな励ましとなった出会いでした。残念ながら、その日がお会いできた最後になりました。次のお約束の前日、容態が変わり永眠されたのです。

数か月後の春、取材依頼がありました。ご遺言だったそうです。その方が最後まで関わっておられた雑誌の巻頭で、アロマテラピーと私のサロンについての記事でした。大きなプレゼントにうれしさと同時にいろいろな思いが起こり、涙してしまいました。今でもその記事を見ると「10年続けろよ」といってくださったお顔が浮かびます。そして新たな勇気が湧いてくるのです。

AROMATHERAPY for Everyone!

「アロマは痛くないからいいわよね〜」とクライアントさんからいわれたことがあります。ひざに水がたまり、時々注射で抜く治療を受けていた方でしたが、主治医に勧められてアロマテラピーを定期的に受けることになり、次第にむくみやひざの痛みの程度が改善されていきました。

日本では医薬品としての認可はされていませんが、施術に使われる「精油」には、血液の流れをよくする、痛みを和らげる、心を鎮めるなど心身への作用があることが知られています。薬理的な裏づけがあるからこそ、海外では医療の現場でも活用されているのです。眠ってしまうほどの心地よさの中で、リラックスするだけではなくやり方によっては「治療」のレベルまで持っていくことも出来るのです。

80代のクライアントさんは「アロマのあとは背中もしゃきっとするし、なんだか駆けられそうな気がするの。スキップしたい気分よ」とおっしゃいます。現実は、もちろん全力疾走することはないのですが、出来そうな気持ちになるのだそうです。いつもニコニコと背筋をのばして笑顔でお帰りになります。こちらもなんだかうれしくて笑顔になります。

こういうセラピーがこの世にあって本当によかったと思いますし、喜ばれて感謝されながら仕事が出来る幸せを素直に感じます。アロマテラピーはビジネスマンもお母さんもお父さんも、男性、女性限らず、また人ばかりではなく動物にも使えます。肌と環境にやさしい自然素材を使って身の回りのものを手作りしたいという方にも喜んでいただけます。

私自身も、はじめは趣味として楽しんでいただけでアロマを仕事にするとは思ってもみませんでした。教室に通うにつれて手持ちの精油は増えていきましたが、使いきれずに古くなってしまい、やむなく捨ててしまったものもありました。

せっかく買った精油なのにもったいないと、期限内に上手に使い切るためのクラフトやレシピを考えることが新しい趣味になり、精油について勉強するうちにいつの間にかアロマテラピーの奥深さに惹かれていきました。そして、トリートメントの技術を身につけ、アロマを仕事にしようと自然と気持ちが変わっていったのです。

アロマテラピーが求められている場面は「セラピー」の現場だけではなく、精油はセラピストだけが使いこなすものではありません。ちょっとした工夫で赤ちゃんからお年寄りまで誰もが生活の中でふつうに使えるものです。アロマを生活に取り入れることによって、体や心が軽くなったり、うきうきしたり、毎日が過ごしやすくなることがどれほど多いことでしょう。AROMATHERAPY for Everyone―そういうアロマテラピーを伝え、実践する人でありたいと思っています。

動物たちもアロマが大好き!

もともとは自然界に暮らしていた動物たち。強い香りはがりますが、草花や木など植物から抽出した精油や芳香蒸留水はすぐれたケアの道具になります。

ヒノキ、ペパーミントなど抗菌作用がある精油は、ケージとトイレの掃除やトイレトレーニングに使えます。粗相したときに重曹水と精油でふくとニオイも消え、その場所ではしなくなるので、我が家のうさぎのハリーは、わりと短期間でトレーニングが終了しました。

また、犬のリキがノミアレルギーで困っていたとき、市販のノミ除けシャンプーで私の手が荒れてしまい、精油、シアバター、石酸シャンプーなどの自然素材だけでシャンプーやクリーム、グルーミング教よけスプレーを作りました。被毛もつやつや、手にもやさしく重宝しました。

アロマテラピーの有効例はたくさんありますが、かかりつけの獣医さんがいるのも心強いものです。両方のいいところを取り入れて元気で長生きしてくれたら、そんなふうに思います。

マッサージもいいものです。動物仲間との上下関係を知らずに育ち、自己中心的な子、いつも緊張しているナーバスな子も少なくありません。マッサージをきっかけにしつけがしやすくなる、お互いの距離が近くなり、信頼関係や絆が深まることを実感しました。

マッサージは、血流を促し、胃腸・神経・免接など体の働きも活発にします。体に触れる習慣があると不調にも早く気づけますし、触れられることに慣れていると獣医さんの治療もスムーズになります。至福の時間なのか、ハリーもとても気持ちよさそうな顔をします。見ているこちらもうれしいものです。病気で麻痺した足や傾いたままの首も毎日続けるうちに動くようになりました。

痛がるところは、無理に触らずにその周りからはじめます。「邪魔しないで、そっとしておいて」、「もう十分、終わらせて」などのサインをベットが出したら、すぐにやめます。

コンパニオンアニマル(伴侶動物)という言葉の通り、私たちは、かけがえのない時間を動物たちと共に過ごします。食餌、日常の世話、住居環境以上にベットにとって大きな環境は飼い主さん自身。大好きな人が健やかでいることがうれしく幸せなことなのです。心と体に穏やかに作用するアロマテラピーを、多くの飼い主さんとペットたちに取り入れてもらえたらと願っています。

※動物へのアロマケアについては、235-239ページをお読みください。

和田 文緒 (著)
新星出版社 (2008/9/1)、出典:出版社HP

AROMATHERAPY for 世界のアロマ事情 Everyone!

絶滅危惧種: PALO DE ROSA(ローズウッド)

ローズウッド(Aniba rosaeodora)、スペイン語でパロデロサと呼ばれる木の幹からはリナロールが豊富な精油が抽出されます。その香りには化学合成のリナロールは決してかないません。現在、この木は絶滅の危機に瀕しています。香料としての需要が拡大、伐採され尽くしたことが原因です。大手精油メーカーのリストからalbum種のサンダルウッドやローズウッドが姿を消し、市場の混乱が続いています。

ペルーやブラジルなどの原産国では植林活動や伐採規制を強化していますが、アマゾン流域の一部でしか自生せず、成長も大変遅いことから危機は依然として続いています。毎年、広大な面積のアマゾンの森林が消えている事実をご存じでしょうか。違法な伐採や単一作物を栽培する畑にしているのです。一度、破壊された土地や失われた種は二度と戻ることはありません。精油だけではなく、身の回りの医薬品、衣料品、食品、石鹸、シャンプーにいたるまで植物由来の資源が私たちの暮らしを支えています。

アロマテラビーにおいても持続可能な農業、そこに生きる生物の多様性を残す農業を支援し、その上で限りある資源を大切に使い、代替種の可能性を検討することも求められています。

写真左:絶滅の危機に瀕しているローズウッドの木 写真右:Instituto de Investigaciones de la Amazonia Peruana-IMPのElsa. Panato 先生。ローズウッドの植林活 動を行っている。

「バラの谷」カザンラクを訪ねて

首都ソフィアから東に約140km、人口5万人の小さな町カザンラクは、ずっと行きたかった憧れの場所。2一つの山脈に囲まれ適当な温度と日照を保ちやすいので、ここで育つバラは芳香成分が多く、ロウ成分が少ない良質の精油が抽出され「ブルガリアンローズ」というブランドを確立しています。

ブルガリアは2007年にEUに加盟し、国営だったバラ産業は伝統を残しつつ新しい形ではじまっていますが、300年間変わらないものもありました。その年の恵みに感謝し、翌年の豊作を願う「バラ祭り」です。毎年6月初旬に開かれ、村人は、民族衣装を身にまとってバラをみ、バラ水を撒きながら伝統的な踊りを披露します。

写真左:バラ悔みの人写真右:バラ祭りの若者

日本での精油生産と北見の薄荷

かつては日本でも、精油が生産されていました。明治30年頃、北海道で薄荷草Mentha arvensisの栽培と蒸留がはじまりました。一時は、世界の薄荷油の生産量のトップを占めるほど繁栄しましたが、外国の勢いにおされて次第にその地位を失いました。

田中松氏考案の田中式蒸留器は、樹齢200年以上のエゾ松から作られ、薄荷油の生産量を大幅に引き上げた画期的なものでした。現在は役目を終えて、北見市にあるハッカ記念館に展示され、当時のおもかげをしのばせています。

写真左:海草 写真右:田中式蒸留器/北見ハッカ記念館

和田 文緒 (著)
新星出版社 (2008/9/1)、出典:出版社HP