公認心理師・臨床心理士大学院対策 鉄則10&キーワード100 心理学編 (KS専門書)




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本書は、2014年に小社より刊行した『臨床心理士指定大学院対策鉄則10&キーワード100心理学編』の改題・改訂書籍です。

はじめに

本書は、心理学の「専門書」ではありません。本書は、心理学の「参考書」です。

専門書と参考書では、何が違うのか?と思う方が多いでしょう。その違いを説明したいと思います。

心理学の「専門書」には、心理学の専門知識が詰まっています。過去の研究者達が明らかにしてきた知見や、近年の研究者達が明らかにしてきた新たな理論など、さまざまな専門知識が集約されています。

心理学の専門家を目指す人は、最終的にこの「専門書」を自分で読み進め、自らの専門性を追求すべきでしょう。

しかし、
どのように心理学の勉強を進めればよいのか。
多くの専門知識の中で、優先すべき知識はどれなのか。
試験で論述する際に、何を注意したらよいのか。

これらのことは「専門書」には載っていません。そしてこの事実が、心理系大学院を受験する者にとって、大きな壁となるのです。

そこで本書のような「参考書」の出番です。

本書では以下の3点を特に重視しています。

1 こうやって心理学を勉強しよう!
序章として心理学を学ぶうえでの10の鉄則を用意しました。心理学を学ぶうえで気をつけたいこと、ノートの作り方勉強を持続させるための方法など、この部分で「どう学べばよいのか」がわかります。

2 まず、この専門用語を理解しておきたい!
非常に多い心理学の専門知識の中から、大学院入試における出題頻度が高く、さらに初学者が絶対におさえておきたい超重要語を河合塾KALSのデータベースから100語厳選しました。またその100語から、知識のネットワークを拡大していけるよう、100語に関連した用語も積極的に盛り込みました。これで「何から学べばよいのか」わかります。

3 この専門用語では、こういう点に注意したい!
多くの受験生が起こしやすい理解の誤りや、試験で論述する際の注意点を、できるだけ用語解説に盛り込みました。また各用語に4択問題を設置し、まちがいやすい部分・かんちがいしやすい部分を、問題形式で確かめられるようにしました。

さらに、各用語に論述解答例をつけることで、論述の練習もできるようになっています。これで「試験で何に気をつけるべきなのか」がわかります。

本書の存在は、専門書を否定するものではありません。むしろ、本書によって専門書がより活用されることを望んでいます。本書を参考にしながら、専門書をより効果的に、より深く理解することができれば、目指す心理系大学院の合格を、必ずや勝ち取ることができるでしょう。

国家資格「公認心理師」の登場により、心理専門職に注目が集まっています。その流れを受けて、これまで「臨床心理士指定大学院対策シリーズ」として「心理学編」「心理英語編」「心理統計編」「院試実戦編」「研究計画書編」と5冊刊行させて頂きましたが、この度「公認心理師・臨床心理士大学院対策シリーズ」としてリニューアルさせて頂くことになりました。

本書「心理学編」には、巻頭特集として「公認心理師・臨床心理士になるために」、巻末特集として「公認心理師と大学院受験の今後」を新たに追加しました。また、シリーズ5冊全てにおいて、今回のリニューアルを機に内容を再検討し、細かく加筆修正を行っています。

2018年度の大学入試において心理学部の志願者が増加したという話を聞きます。心理系大学院入試においても、志願者はますます増加することでしょう。今後、より厳しくなることが予想される心理系大学院入試の合格に向けて、本書を含む「公認心理師・臨床心理士大学院対策シリーズ」が皆様のお役に立てることを、心より願っております。

2018年 6月
河合塾KALS 宮川 純

河合塾KALS (監修), 宮川 純 (著)
出版社: 講談社 (2018/7/22)、出典:出版社HP

目次

はじめに
巻頭特集 公認心理師・臨床心理士になるために

序章 合格のための学習法・鉄則10

第1章 原理・研究法

1 精神物理学
2 要素主義
3 行動主義
4 ゲシュタルト心理学
5 精神分析学
6 母集団と標本
7 実験群と統制群
8 断研究と横断研究
9 信頼性
10 妥当性

第2章 学習・知覚・認知

11 レスポンデント条件づけ
12 オペラント条件づけ
13 モデリング
14 学習性無力感
15 試行錯誤と洞察
16 知覚の恒常性
17 スキーマ
18 プライミング
19 メタ認知
20 記憶の3過程
21 短期記憶
22 長期記
23 系列位置曲里
24 発達・教育

第3章 発達・発育

25 成熟優位説
26 ピアジェの認知発達論
27 フロイトの性発達段階
28 エリクソンのライフサイクル
29 レジリエンス
30 内言と外言
31 愛着
32 心の理論
33 臨界期
34 ピグマリオン効果

第4章 社会・感情・性格

35 帰属
36 認知的不協和理論
37 説得
38 印象形成
39 葛藤
40 ジェームズーランゲ説
41 情動の2要因
42 内発的・外発的動機づけ4
43 欲求階層説
44 性格類型論
45 性格特性論

第5章 神経・生理

46 シナプス
47 海馬と扁桃体
48 失語症
49 闘争か逃走反応
50 ストレス

第6章 統計・測定・評価

51 尺度水準
52 標準化
53 統計的仮説検定
54 第1種・第2種の誤り
55 検定と分散分析
56 主効果と交互作用
57 多変量解析
58 知能の構造
59 ビネー式知能検査
60 ウェクスラー式知能検査

第7章 臨床(原理)

61 臨床心理士の4領域
62 コンサルテーション
63 スクールカウンセラー
64 児童虐待
65 スーパービジョン
66 局所論と構造論
67 エディブスコンプレックス
68 防衛機制
69 集合的無意識
70 対象関係論

第8章 臨床(査定)

71 インテーク面接
72 アセスメント
73 質問紙法
74 投影法(投映法)
75 描画法(描画投影法)
76 作業検査法

第9章 臨床(症状)

77 病態水準
78 DSM(精神障害の診断と統計のマニュアル)
79 統合失調症
80 うつ病・双極性障害
81 不安症・強迫症
82 PTSD(心的外傷後ストレス障害)
83 身体症状症および関連症群
84 解離症
85 摂食障害
86 パーソナリティ障害
87 自閉スペクトラム症
88 限局性学習症、注意欠如・多動症

第10章 臨床(介入)

89 転移と逆転移
90 精神分析療法
91 行動療法
92 認知行動療法
93 クライエント中心療法
94 フォーカシング
95 交流分析
96 家族療法
97 造法
98 箱庭療法
99 日本独自の心理療法
100 効果研究

コラム

合格する心理学1 どんな人が受かるの?
合格する心理学2 条件づけが、キミを助けてくれる!
先輩からのメッセージ1 大学院受験を振り返って
先輩からのメッセージ2 受験失敗から立ち直った3つのポイント
先輩からのメッセージ3 厳しい日々の中で得られるもの
先輩からのメッセージ4 患者さんたちと共に過ごしていく日々
先輩からのメッセージ5 心理専門職が認められるために
資料 心理専門職の職域

知識の整理

01 こんな時にこんな統計用語・統計分析
02 主な精神症状の名称変更まとめ
03 3大心理療法の比較・整理

巻末特集 公認心理師と大学院受験の今後

本文イラスト:MINOMURA

※本書において、臨床心理士と公認心理を総称して「心理専門職」、臨床心理士指定大学院と公認心理カリキュラム対応大学院を総称して「心理系大学院」とよんでいます。

河合塾KALS (監修), 宮川 純 (著)
出版社: 講談社 (2018/7/22)、出典:出版社HP

巻頭特集 公認心理師・臨床心理士になるために

公認心理師
心理職として日本初の国家資格。

2015年9月に公認心理師法が国会で成立、2017年9月に公認心理師法が施行され、各大学で公認心理師カリキュラムが2018年4月よりスタートした。2018年9月には初の国家試験が行われ、公認心理師が誕生する。

臨床心理士
公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会による民間資格。

昭和63年(1988年)より認可が始まり、現在、臨床心理士の有資格者は30000人以上。臨床心理学の専門的な業務を行う高度専門職業人として、広く認知されている。

公認心理師と臨床心理士、目指すのは…?
次の表1は、公認心理師と臨床心理士の違いを整理したものです。この表からわかるように、公認心理師と臨床心理士の業務内容はほぼ類似しています。また、公認心理師は「業務独占資格」ではなく「名称独占資格」です。

そのため、臨床心理士が公認心理師の登場によって、業務を独占されることはありません。つまり当面の間は、臨床心理士と公認心理師は共存していくものと思われます。

業務内容 業務内容は、ほぼ同じ(4は除く)
(注)公認心理師は「業務独占資格」ではなく「名称独占資格」なので、臨床心理士が公認心理師によってその業務を独占されることはない。
1. 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。 1. 臨床心理査定…心理検査や観察・面接を通してクライエントの特徴や問題点を明らかにし、援助の方法を検討すること。
2. 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。 2. 臨床心理面接…クライエントの特徴や問題に応じて、様々な臨床心理学的技法を用いて心の支援をすること。
3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。 3. 臨床心理的地域援助…他の専門家や機関と連携したり、地域の健全な発展のために心理的情報を提供したり提言すること。
4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。 4. 調査研究活動…心理的支援の技術的な手法や知識を確実にするための調査・研究を行うこと。
資格認定 国家資格 民間資格
医師との関係 場合により医師の「指示」(※) 医師とは「連携」や「協力」
更新制度 更新制度なし 5年更新
主な
資格所得条件
公認心理師カリキュラムに基づく、学部の卒業と大学院の修了。(例外あり)
(学部が心理卒である必要あり)
臨床心理士指定大学院の修了。(学部は心理卒である必要なし)

※公認心理師法では、医学的治療を受けているようなクライエントに主治医がいるときは、その医師からの指示」を受けることとなっています(第42条第2)。なお、臨床心理士も公認心理師も、医師のみならずや教育現場など「連携」「協力」のもと業務遂行することには変わりありません。

公認心理師は国家資格とはいえ「これから」の資格であり、資格評価や活躍の範囲など、未だ先行きは不透明です。現時点では、すでに知名度と実績のある臨床心理士の資格を取得することが前提となるでしょう。

公認心理師を目指す人も、公認心理師だけでなく臨床心理士とのダブルライセンスを狙うことが基本となります。ダブルライセンスを狙う場合は、臨床心理士指定大学院でありつつ、さらに公認心理師カリキュラムに対応した大学院を受験校として選択すべきです。

公認心理師になるためには?

 

心理系学部で指定の科目を履修した後、大学院に進学するルートは通称Aルート、実務経験を積むルートは通称Bルートとよばれます。しかし現時点(2018年6月)では、実務経験プログラムの詳細や施設が決定しておらず、Bルートは選択できません。

よって、公認心理師になるためには心理系学部で公認心理師カリキュラムとして定められた科目を履修し、その後、公認心理師カリキュラム対応の大学院に進学する必要があります。

臨床心理士になるためには?

臨床心理士は、出身学部や指定の科目の単位を問いません。第2種指定校の場合のみ、受験資格を得るために修了後に1年の実務経験が必要です。受験する大学院が第1種指定校であるか第2種指定校であるかは必ず事前に確認しておきましょう。

現時点では、公認心理師・臨床心理士いずれを目指すにせよ、心理系大学院への進学が必要となります。では、心理系大学院受験のために、どのような学習をすればよいのでしょうか。次の図をご覧ください。

心理系大学院合格のために 公認心理師・臨床心理士大学院受験対策シリーズ有効活用法
心理系大学院の多くは、専門科目・外国語(英語)・面接(研究計画書)の3科目で試験が行われます。各科目について「公認心理師・臨床心理士大学院受験対策シリーズ」をうまく活用し、合格を手に入れましょう。

河合塾KALS (監修), 宮川 純 (著)
出版社: 講談社 (2018/7/22)、出典:出版社HP

序章 合格のための学習法・鉄則10

同じ時間勉強していても「良い勉強ができているか「悪い勉強」しかできていないかで、成果は大きく異なる。過去の河合塾KALSの心理系大学院を志してきた受講生たちの勉強方法から、どんな勉強が「良い勉強」か明らかになってきた。

そこでこの序章では、心理系大学院入試の勉強法について、以下の10個の鉄則を紹介したい。1つでも多く取り入れ、みなさんの学習のクオリティを上げよう。

心理系大学院入試合格への10の鉄則
鉄則1 志望校が決まったら過去問を必ず見る
鉄則2 興味があることだけ学んでも受からない
鉄則3 本は、最低3冊広げる
鉄則4 書かなければ、合格への勉強ではない
鉄則5 理解できない言葉を、書き写さない
鉄則6 用語論述は、まず定義
鉄則7 用語1ページ箇条書きノートを作る
鉄則8 あいまいさに惑わされない
鉄則9 友人を大切にする
鉄則10 心理学を、楽しもう

鉄則1 志望校が決まったら過去問を必ず見る
過去問を試験直前までまったく見ない人がいる。理由を聞くと「入試直前の実戦演習で使いたいため」と答える人が多い。だが、大学院入試の過去問は、中学・高校・大学入試と違って、解答例がないことがほとんどだ。

入試直前の実戦練習に使っても「正解かどうか」を判断できず、かえって不安を募らせるに過ぎない。他に多い理由が「早めに過去問を手に入れても、どうせ解けないから」である。

ただし、この理由で過去問を見ないのは非常に損をしている。後に詳しく紹介するが「解ける解けない」の問題ではないのだ。それ以上の価値が、過去問のチェックにはある。

過去間は、志望校が決定したら即、目を通しておこう。可能であれば5年分は手に入れて目を通しておきたい。そして、遅くとも試験3ヶ月前には手に入れておきたい。

「そんなに早くに過去問を手に入れても、ほとんど解けないのでは?」という質問に対しては、まったくその通り。手に入れた時点では、解ける問題はかなり少ないだろう。だが、それで問題ない。「解ける問題がまだ少ない」という事実を知ることに価値がある。そして「この問題が解けるようになるまで、勉強をしなければならない」というゴール設定ができる。

自分とゴールとの距離を知っているからこそ、真剣に勉強に打ち込める。目指すべきゴールに向けて必死で進んでいる人と、ゴールが不明確なまま漠然と進んでいる人とでは、歴然とした差が生じる。

さらに、過去問を見ることで、出題傾向を把握することができる。正直、心理学を学びたての場合は、過去問を見ても「どの心理学分野からの出題か」把握できないかもしれない。それでも、過去問に眼を通しておくことで、実際に心理学を学ぶ中で「あ!今学んでいる用語は、確か過去問で出題されていた!」と思うことがあれば、一層学習に身が入るだろう。

また、ある程度心理学を学んだ後に改めて過去問を見直せば、知っている用語が増えた喜びを感じられると同時に、出題傾向が少しずつ把握できるようになるに違いない。もちろん、出題傾向が把握できれば、より的確で効率的な学習ができるのはいうまでもない。

くり返しになるが、過去問をチェックしておくことの意味はかなり大きい。志望校が決まったら即、過去問を入手して目を通そう。

鉄則2 興味があることだけ学んでも受からない
「大人になると勉強が楽しくなる!」という人がいる。もちろん青年期に失われかけた知的好奇心が、再度回復した可能性も十分に考えられるが、たいていの大人は「興味があることだけ勉強できる」から楽しんでいることが多い。

子どもの頃は、学校という集団生活のフィールドで、やりたくないこともやらなければならなかった。楽しい場面もあれば、楽しくない場面もあっただろう。楽しいことだけ取り組めれば、どれだけ幸せなことか。

心理系大学院に合格するための勉強はどうか。興味があることだけ勉強している人の多くは合格できない。一番多いのが「臨床心理学以外は勉強したくない」という人である。では、こういう人が臨床心理学はカンペキかというとそうでもない。

たとえば、フロイトなどの精神分析について詳しくても、学習理論をベースとした行動療法についてはあまり知らないなど、結局興味に沿って勉強しているために、知識の偏り・アンバランスさが目立つのだ。結果、合格を手にすることができない。

なお、「興味がないことを学んで、何の意味があるのか」という人もいるかもしれないが「興味がないこと=意味がないこと」ととらえるのがいかに短絡的かは、落ち着いて熟慮すればわかるだろう。みなさんの人生の中に「嫌々やっていたが、後から考えれば役に立っていること」は数え切れないほどあるはずだ。

そこでまず、自身の興味・関心に関係なく、心理学の全体像に目を通そう。後に紹介するが、本書を含む最低3冊以上の心理学の概論書は、一通り目を通してほしい。そして、そのための学習期間も含めて、受験の1年前から受験勉強をスタートさせておきたい。

過去問で把握した出題傾向に特化して勉強をはじめるのは、入試3ヶ月前~6ヶ月前程度からでかまわない。あまり早くに特化して勉強をはじめると、結果として知識の偏りが大きくなる。

実はこの知識の偏りは、大学院卒業後の臨床心理士資格試験や、公認心理師国家試験でも大きく響いてくる。これらの試験は、心理学の全範囲から出題されるからだ。生理・神経系や、知覚・認知などは、勉強しにくい分野だからこそ、大学院入試まで時間的な余裕があるうちに勉強しておくとよい。

鉄則3 本は、最低3冊広げる
中学・高校・大学入試でこのような話を聞いたことがないだろうか。「あれこれ本に手を出すと収集がつかなくなるから、1冊の本を徹底的に集中して取り組んだ方がよい」これに関しては、大学院入試では通用しない。

心理学の参考書は、本書も含めて著者が重要と思うことを多く述べ、そうでないと思うことは述べなかったり省略したりするので、1冊の本を頼りに勉強しようとすると、知識や視点に偏りが生じる。そこで、心理学の勉強をする際には、本書を含めて最低3冊の本を開きながら勉強することを薦めたい。

たとえばある特定の用語について、本Aの説明で納得できない部分が本Bの説明で納得できたり、本Bでは簡単にしか触れられていなかった実験の詳細が本Cに書いてあったり、本Cでは文章で説明されていたことが本Aではイラストで説明されていたり……など、本が変われば、同じ用語の説明でも視点が変わる。複数の視点から見ることで、1つの視点では見えなかったものが見えてくるだろう。それは、とても豊かで深い理解につながっていくに違いない。

また、すべての本に共通して書かれている事柄は間違いなく重要事項だ。逆に過去問で出題されていたある用語が、どの本を開いても載っていない!ということがあれば、それは捨て問扱いとなるだろう(ただし志望大学院の教授の専門領域に関係する用語の場合、かなりマニアックな用語が出される場合もある。ここは過去問をチェックして判断したい)。

なお、この3冊の中に心理学辞典は含めない方がよい。心理学辞典は限られたスペースに情報を詰めているため、省略されている事項が多い。また、記載されていることが重要事項であるとは限らない。心理学辞典は3冊に+aの存在として扱おう。

ちなみに本書を含めた3冊の本の、あと2冊に迷ったら、有斐閣『心理学」と東京大学出版会『心理学』が質・量ともに安定しておりオススメだ。臨床心理学分野については、ミネルヴァ書房『よくわかる臨床心理学』、有斐閣『臨床心理学』をあげたい。

鉄則4 書かなければ、合格への勉強ではない
鉄則2でも触れたが、楽しむ勉強と合格する勉強は異なる。楽しむだけなら、色々な本を読んで感銘を受け、ニュアンスを理解すればよい。ただし、合格への勉強は、「読む勉強」だけでは不十分。理解したことを表現できなければ、試験で得点がもらえない。つまり「書く勉強」が必須となる。

「理解できているんです。でも、うまく表現できないんです」という人は、まだ甘い。大学院側が「理解できているが、表現できない人」より「理解できていて、表現できる人」に合格を与えるのは当然だ。よって、心理系大学院入試に向けた勉強は、必然的に「書けること」を目標とした勉強になる。本を読む時も、ただ単に流し読みするのではなく「自分でも表現できるか」「自分でも説明が書けるか」という視点で読まなければならない。

実際に用語説明を書こうとしてみると、非常に難しいことに気づくだろう。わかっていたつもりなのに、こんなに書けないものなのか、と。そこに気づくことが、ある意味スタート地点だ。

実際に書いてみることで「理解があいまいだったこと」「理解していたつもりだったこと」が浮き彫りになる。だが、それでいい。そのあいまいな部分、理解していたつもりだった部分について、また本を3冊以上開いて調べ直せばよいのだ。これで、知識はより深く、充実していく。

書く(アウトプット)練習をすることで、自身の課題が見つかる。見つかった課題について、本を複数開いて読む(インプット)。しばらくして、また書いてみる。うまくいかなかった点について、また本を読む。つまり、アウトプットによって、効果的なインプットが可能となる。

うまく書けなかった経験があるからこそ「もっと正確に、詳しく知りたい!」という強い動機に基づいて本を開くため、ただ本を流し読みしているだけの人とは、定着度が比較にならない。とにかく、大学院入試の勉強では積極的に手を動かすことを心がけよう。

鉄則5 理解できない言葉を、書き写さない
よく心理系大学院入試は「心理学辞典」を丸暗記してしまえば受かるといわれる。これは半分当たっているし、半分間違っている。

なぜ当たっているか。心理学辞典ほどの膨大な知識量を丸暗記できるほどの、類稀なる記憶力・理解能力があれば、きっと心理系大学院入試など苦もなく合格していくだろう。

では、なぜ間違っているか。意味もわからず全部丸暗記するなんて普通の人間には不可能だからだ。仮に一部だけ暗記できていたとしても、結局理解していないので、知識を活用することができない。丸暗記ほど無駄な勉強はない。理解できていない内容は、基本的に書けないと思った方がよい。

専門書の常だが、わざわざ難しい表現が使われている場合がある。たとえば「初期学習は学習の可塑性が低い」という表現があったとしよう。ここで、可塑性の読み方も意味もわからずにノートに書き写すのは、まったく意味がない(ちなみに「かそせい」と読む。詳細は「33臨界期」で)。

参考書に書いてある表現を、何も考えずに丸写しする人にこの傾向がある。勉強しているはずなのに、頭を使っているはずなのに、頭を使っていない矛盾。参考書などを開いて勉強している時も、意味がわからない言葉は書かないようにしよう。あるいは書いたとしても、必ず「?」をつけておくなど、後から調べられるようにしておくこと。

理解できない言葉を書き写して「書けた気になる」ことだけは、絶対に避けたい。試験本番で痛い目にあうことになる。そもそも、書いた本人がよくわかっていない文章が、他人にわかってもらえるはずがない。理解できない言葉を、どうすれば理解・説明できるかじっくり考えることで、理解が深まる。自分なりの理解・表現を探してさまざまな本を読んだり考えたりする時間そのものが、深い理解につながるし、記憶としても定着しやすい。

また、理解しようと学習しているうちに、さまざまな用語の関連性に気づいていくだろう。用語間の関連がつかめるようになると、さまざまな「点」が「線」で結びついていき、加速度的に理解が深まっていく。

これが、耐え難い快感なのだ。ぜひみなさんも体験してほしい。さらに、用語間の関連性をつかむと論述力が上がる。ある用語の論述で書く内容に困ったら、関連用語の説明や比較を通じて、話題を広げることが可能となるからだ。

丸暗記ではなく、理解する勉強を。丸暗記では、「点」が増えていくだけで、いつまでも「線」にはならない。

河合塾KALS (監修), 宮川 純 (著)
出版社: 講談社 (2018/7/22)、出典:出版社HP

鉄則6 用語論述は、まず定義
大学院入試で最も出題率が高いのは、心理学の用語について論述させる用語論述だ。また総合的な論述であっても、用語論述の組み合わせで述べられることもあるため、用語論述対策は心理系大学院合格への第1歩となる。

その用語論述で絶対に必要とされるのが「用語の定義」だ。たとえば投影法の用語論述で「投影法とは、被検査者の回答の歪みが少ないが、負担が大きい」と特徴だけ述べても、読んだ側は「そもそも投影法って何?」となってしまう。まず「投影法とはどんな検査なのか」という定義を述べないと、どれだけ特徴を述べても話は伝わらない。

定義は主に「○○とは~である」という形で表される(例:投影法とは、あいまいな刺激に対する自由な反応を求め、その反応を分析することで性格特徴を把握する検査の総称である)。そこで、まず、心理学初学者の方は各心理学用語について「○○とは〜である」の形で、定義だけ述べる一行論述の練習からはじめよう。

用語の定義は、書きはじめのリズムを作るという意味でも重要だ。手紙でも文章でも、書き出しが一番書きにくいもの。いったん書きはじめてしまえば、スラスラと先が書けてしまった経験がある人は多いだろう。用語論述も、最初に定義を述べてしまえば、論述内容が明確になるし、論述のリズムを作ることができる。

用語論述の基本的な型としては、定義→特徴・利点・欠点・実験例→(字数があれば)まとめの文章となる。本書の各用語の「論述演習」の解答例もほぼこの形式で作成されている。参考にしてほしい。まず、1行目に相当する定義だけでも、自分の言葉で書ける状態を目指そう。

なお、本書の姉妹書である「心理英語編」は、多数の用語の定義が英文で記載されている。英文でも定義を理解しておけば、英語の読み取りが楽になることはまちがいない。こちらもぜひチェックしておこう。

鉄則7 1用語1ページ箇条書きノートを作る
鉄則4~6で「書くこと」の重要性を強調してきた。とはいえ、十分な心理学の知識がない状態で、心理学の用語について200字~500字で述べようとしても、当然うまく述べられないだろう。まずは、しっかりと各心理学用語の知識を整理して、体系化する必要がある。

そこで具体的な学習法としてオススメしたいのが、心理学1用語・1ページのノート作りだ。まず、鉄則3に従い、本書を含めて参考書を3冊以上広げよう。そしてすべての本について、狙いとする心理学用語に関する部分を熟読する。

次に、重要と思われる知識をノートに箇条書きで書いていく。知識の整理が目的なので、箇条書きでかまわない。また、研究者名、用語の英語表記がわかればそれも必ず書いておこう。利点・欠点、関連用語やどんな実験が行われたかなども、どんどん書き込んでおきたい。

また、鉄則6にあるように「用語の定義」は外せない。複数開いた本の中で、最も自分が納得できる定義を書こう。複数の本の表現を組み合わせてもかまわない。また、鉄則3でもふれたように、すべての本に共通して書いてある事項は、必ずおさえたい重要事項。優先してノートに書き込もう。この時、鉄則5にあるように、理解できない言葉を書かないことも重要。理解できる表現を探したり、考えたりすることが大切。丸写しに意味はない。

なお、1ページすべて埋まらなくてもかまわない。むしろ、後から新たな知識を得た時のために、書き加えるスペースがあった方がよい。

こうやってノートを作ることは、複数の本から得た知識を1つに集約させる意味をもつ。また、箇条書きにしておくことで、実際に自分で論述してみる時に、自分で作ったノートを頭の中に思いうかべ、字数制限にあわせて必要な内容を選別しながら解答を作ることができる。ある程度1用語・1ページノートが完成したら、200字~500字の用語論述に挑戦してみよう。

とりあえず、本書は試験頻出の心理学用語100語を紹介しているので、まず各用語1ページで100ページ(!)ノート作りを試してみよう。その後、関連用語についても同様に、各用語1ページでノート作りをしてみよう。時間はかかるが、確実に実力はつく。

鉄則8 あいまいさに惑わされない
1つの内容に関して参考書ごとに表記・用語名が異なる場合がある。

たとえば、性格特性5因子モデル、ビッグ・ファイブとよばれる5つの性格特徴について「外向性・協調性・開放性・勤勉性・神経症傾向」と述べてある本があれば「外向性・調和性・経験への開放性・誠実性・神経症的傾向」と述べてある本もある。協調性も調和性も意味は同じ。勤勉性も誠実性も意味は同じ。神経症傾向だろうが、神経症的傾向だろうが、意味は変わらない。

「じゃあ試験で、神経症傾向か神経症的傾向か、どちらで述べればいいんですか?」という質問に対しては、こう答える。「神経症傾向でも、神経症的傾向でも、何を表しているかがきちんと述べられていれば、まったく問題はない」。今回の例でいえば、“的”がついているか否かで採点されるなんてことはない。きちんと内容が説明されているか否かで採点されているはずだ(そうあってほしい、という願いも込められているが)。

正直、心理学は学問として成立してから150年も経っていない未成熟で発展途上の学問である。さらに、知見の多くは海外で得られたものなので、日本語への訳し方によって表現の違いがある可能性は十分考えられる。学ぶ者にとって勉強しにくい「あいまいさ」がある事実は否定しない。

だが多少表現があいまいで異なっていても、内容・本質は変わらない。表面的な用語名にこだわるのではなく、中身・内容が理解できていれば大丈夫だ。あいまいさに惑わされないようにしよう。

なお、過去問を見て、たとえば一貫して「投影法」が「投映法」と表記されているなど、問題を作成した教授の「こだわり」がみられる場合は、その表現に合わせて述べたほうが安全。そういった柔軟な姿勢をもてるとさらによい。

鉄則9 友人を大切にする
正直、受験勉強は楽しいことばかりではない。鉄則2で触れたように自分の興味がないことにも取り組まなければならないのが受験勉強だ。鉄則1で触れた1用語・1ページノートも、決して楽な作業ではない。気持ちがゆるんでしまったり、場合によっては完全にやめてしまいたくなったりするだろう。

さらに、高校入試や大学入試と決定的に異なる部分として「世の中の大部分の人は、大学院入試を受けない」という事実がある。高校入試の時は、ほとんどの中学3年生が受験勉強に取り組む。

大学入試は地域や学校による差はあれど大学院入試と比べれば圧倒的多数の高校3年生が受験勉強に取り組む。自分の周囲の環境が「勉強する環境」に整いやすくなる。だが、大学院入試はそうではない。

大学4年生の場合は、就職を考えている周囲の学生が次々と企業から内定を受け取り、進路を確定させていくなかで、大学院を目指す自分は、合格を目指して地道に勉強を続けなければならない。おいてけぼりの感覚や、強烈な焦りを味わうことだろう。それでも勉強を続けるための環境を、自分で整えなければならない。

社会人の場合は、「勉強する」という環境からさらに遠ざかっているために、自分で勉強するための環境を整えることがより困難になる。「自分の選択はまちがっていないか?」「本当は就職した方が(今の仕事を続けた方が)よいのではないか?」自問自答が起こるだろう。「失敗してしまったらどうする?」という不安だって、捨てきれるはずがない。

だからこそ、ともに心理系大学院を目指す友人を見つけたら、絶対に大切にしてほしい。ともに心理系大学院を目指す友人と会話することで悩みを共有できる。つまずきに共感してもらえる。現状を客観視することができる。「悩んでいるのは自分だけじゃない」「あの人もがんばっているから、自分もがんばらなきゃ」こう考えられる友人の存在が、どれだけ心強いことか。

他にも、大学院説明会や入試に関する情報交換書いた論述や研究計画書互いに交換して、読みあって意見交換をする、心理系大学院を目指す動機心理士の今後について語り合い理解を深めるなど方人がいることのメリット非常に大きい。対策予備校や大学院説明会などで、ともに心理系大学院を目指す友人ができたならば、ぜひ大切にしてほしい。

鉄則10 心理学を、楽しもう
受験勉強が楽しいばかりではダメなのは、鉄則2で触れた通りだ。それはまったく間違っていない。そのことを踏まえたうえで、あえてみなさんに伝えたい。「心理学を、楽しもう」と。

心理学とは、人間を科学する学問だ。「人間はどんな時に困難を感じ、その困難をどうやって援助していけばいいのか?」という臨床心理学、「人間はどうやって物を見て、感じているのか?」という知覚心理学、「人間はどうやって新たな行動を獲得していくのか?」という学習心理学、「人間は生まれてから死に至るまで、どのように変化していくのか?」という発達心理学、「人間は他者とのかかわりによって、どのような心理的変化が生じるのか?」という社会心理学など…。心理学を学ぶということは、さまざまな視点で「人間とは何か?」を学ぶことである。

心理学を学ぶことで、色々な人間の姿を知ることができる。今まで見たことがない視点で人間を眺めることで、まったく気づかなかった人間の新たな側面を発見できるかもしれない。当たり前と思っていた出来事、許せないと思っていた出来事が、まったく違った視点で理解できるかもしれない。人間に対する多角的・多面的な理解が得られることにより、知っているようで知らなかった人間の姿が、どんどん見えてくる。

だから、断言しよう。心理学は、おもしろい。

こんなに身近で、こんなに実生活に活用できて、こんなに視点が多彩な学問は、なかなかない。だからこそ、心理学を、楽しんでほしい。

楽しむための秘訣は、自分の感情をオープンにすること。学んだなかで感じた喜び、感動、驚き、疑問、怒り、後悔、迷い、そういった感情を、できるだけ表現して、ノートやテキストに書き込んでいこう。そういった感情は、みなさんの心理学の勉強に素敵な彩りを加えてくれることだろう。

ここまでさまざまな勉強法と鉄則を伝えてきたが、結局のところ、勉強を楽しんでいる人が、一番強い。勉強を楽しめる才能をあらかじめもっている人は問題ないが、多くの人はその才能をもち合わせていない。だから、楽しさがやってくるのを待つのではなく、自ら楽しさを見つけにいこう。

勉強をする際に生じた、ほんのちょっとの感動を大切にしていけば、心理学の学習は、間違いなくおもしろくなる。

本書の使い方

① 用語内容の理解しやすさや論述における書きやすさの目安を表します。★☆☆が理解しやすく論述しやすい用語、★★★は理解が難しく論述しにくい用語です。ただし、筆者が提案する主観的な目安なので、あくまで参考程度にとどめてください。

② 用語の英語表記です。専門試験で用語名が英語で表記されることがあります。

③ その用語を学ぶ上でどのような点に気をつけたらよいかを紹介しました。

④ 用語の説明です。重要なキーワードはオレンジ色になっているため、付属の赤シートを活用して、電車の中など隙間時間で理解のチェックに用いるとよいでしょう。

⑤ 4択問題です。取り組む時は、正解を1つ選んで終わりでなく、他の3つが「なぜ正解ではないのか」を自分なりに考えてから解答・解説を読むようにしてください。

⑤ CheckBoxには重要なキーワードが集約されています。人名や関連用語で優先的に理解して欲しいもののみ、赤シートで隠せるようにオレンジ色になっています。なお、第9章のも精神症状をより整理して理解するため、項目が「症状・原因・援助」となっています。

⑥ 論述問題の解答例です。用語論述を練習する際の参考にしてください。なお、この論述回答例の1文目が鉄則6で触れた絶対におさえておきたい「用語の定義」です。論述が苦手な人は、まず「○○とは~である」という形で「用語の定義」だけでも書けるように練習してみましょう。

⑦ 4択問題の解答と解説です。「正解の理由」はAboutthiswordを見ればわかることが多いので、「正解ではない理由」を中心に解説しています。各用語についてAboutthiswordとは視点を変えて説明し直していたり、紹介しきれなかった部分を補足したりすることもあります。

⑧ Aboutthiswordの中で、他の100語と関連する用語が登場した時には、その用語の番号が記載されています。用語間の関連をつかむことは、理解を深めるだけでなく、論述力を上げることにもつながります(鉄則5を参照)。積極的に関連用語の該当ページを確認し、用語間の関連性を理解しましょう。

河合塾KALS (監修), 宮川 純 (著)
出版社: 講談社 (2018/7/22)、出典:出版社HP