TQMとその進め方 – 新版 QC入門講座1
発刊によせて
1990年代企業を取り巻く環境は, 黒船の来襲, 第二次世界大戦における敗戦と同様に極めて大きな変化と言われる. バブル景気崩壊後の深刻な不況, 加えて世界経済の荒波は容赦なくわが国の経済に厳しく襲いかかってきた. 地球の環境・資源への関心の高まりとそれに伴う規制や法制化, ISOの動きに見られる国際標準化のうねりの中で, 日本の企業は組織や人事制度の見直しなどかつて誇りとした日本的経営のあり方の検討, 21世紀に向けグローバルな視点からの事業の選択と集中など, 生き残りと成長をかけて日夜努力している今日である.
こうした中で順調に成長してきた日本の品質管理も, TOCの反省・新しい時代への対処の必要性からTQMへと変わり, これを機会に9巻から構成される“新版QC入門講座”を出版することとした.
日本に品質管理が導入されて半世紀, アメリカからの導入によって始まったその活動は, 戦後の深刻な経済からの復興, 変動相場制やオイルショックへの対応など時代の大きな変動に対処しながら, 絶えずその充実と拡大を図り, 特徴ある日本の品質管理を構築してきた. こうした日本の品質管理の成長を正しく理解し, 企業発展の基盤を顧客志向の品質保証におき, 全員参加のもと絶えざる改善・管理の活動を通じて企業目的の実現に努力することは, TQMを推進する企業にとっては当然なことといえる. これらの内容の詳細は, 本講座の運営編にあたる第1巻から第4巻において解説した.
職場はよく宝の山といわれる. 問題意識を持って職場を観察すれば, そこには未解決のまま山積みされている問題が多くある. 企業が今後一層発展していくためには, 取り組んでいかねばならない課題も多い. 方針管理やQCサークルなどTQMの諸活動の中で, これら諸問題の解決がはかられる. その際, 道具として統計的方法を始めとした多くのQC手法が利用される. 基礎的なQC手法について本講座の手法編にあたる第5巻から第9巻で解説した らの手法をベースに必要に応じより高度な手法も勉強され, 職場の改善に, 企業の発展に役立てることを期待したい.
品質管理は, 製品の品質を重視する品質経営を基本とするが, 品質と密接な関係を持つコスト・量・スピードも含め, その改善・管理を行ってきた, 最近TQMを総合“質”経営として幅広く活動をとらえる傾向にある, 国際標準化の動き, 環境・リサイクルの重視は今後一層の高まりを見せるものと思われ, 情報技術の目覚ましい発展は企業経営のあり方を大きく変えることも予想させる. 従来のTQCの良さを生かしその一層の充実を図るとともに, TOM のもとに新しい課題に果敢に挑戦していただきたい.
企業にとって品質管理は, 永続した活動であり, また奥行きの深い活動でもある. 入門講座としてTQMの基本的な進め方や手法の紹介を行ったが, これを手がかりとして, 最終的には自らの企業にあったTQMを作り上げ, 国際市場で21世紀を謳歌する実力ある企業を期待したい.
1999年9月
編集委員長 鐵 健司
まえがき
50年ほど前アメリカからの導入によって始まった日本の品質管理は, 統計的手法の活用が色濃いものであった. その後日本の企業に適した工夫がいろいろ加えられ, 特徴ある全社的品質管理(TQC)が構築された. この活動はわが国の経済の発展に大きく寄与し, 1980年代アメリカを始めとして海外の国々の品質管理の展開に参考となった. 1990 年代に入り, 企業はバブル景気の崩壊に加えて世界経済の荒波に襲われ, また21世紀に備え総合的品質管理(TQM)として, 企業の再生に努力しつつある現在である.
本書では, 第1章で品質管理とは, 品質保証とは何かといった品質管理の基本について改めて問い直してみた. 品質管理という言葉は広く一般に使われているが, 業界により企業により人によってその理解はまちまちである. デミングのサイクルをあげ品質管理の基本的な考え方と, 顧客に安心して買っていただき満足して使っていただくための企業の品質保証の活動について述べた.
第二次世界大戦後アメリカから導入されて始まった統計的品質管理(SQC)は, だんだんと日本的に特徴ある品質管理へと成長し, 製造業のみならず, サービス業・建設業など他産業に広く普及し, 日本の経済の発展に大きく貢献した. 1980年代海外の国々の品質管理の活動に参考となった日本のTQCも, 現在TQM として新しい時代への対応をはかりつつある. 第2章ではこうした日本の50年にわたる品質管理の変遷について述べた.
第3章では, TQMの企業への導入・推進に当たって展開される主要な活動を中心に説明した, 全社的にこの活動が進められるためには, その導入目的を明確にし, 社長のリーダーシップとともに全社的な推進の組織と計画は不可欠である. 人材育成のための教育・日常管理と方針管理・社長診断・QCサークル活動・機能別管理などの解説とあわせてTQMによる成果の見方と推進上の留意点についてふれた.
日本の品質管理の特徴の一つとして, QC手法の開発と活用がある良い仕事の結果を得るには, それなりの仕事のやり方の工夫が, プロセスの改善が必要である. TQMの効果的な活動は単なる精神的なものにとどまらず, 客観的な事実をベースに統計的手法を始めとして管理や改善のための多くの手法を駆使していくことが大切である. 第4章では統計的手法の活用を中心に基本的な解説を行った. 詳細については本講座の第5巻~第9巻の手法編を参照されたい.
職場の第一線で繰り広げられているQC サークルをはじめとした小集団活動は, 国際的にも注目を集めた特徴ある日本の品質管理の活動の一つである. 人を育て職場を明るくし企業の発展に寄与するこの活動は, TQMの一環として サークル員の自主的な運営のもとに活性化されたものでなければならない. QC サークルとは何か, その運営・育成の仕方, 上司の役割について第5章で解説した.
第6章はむすびとして, 品質管理の基本についての再確認するとともに今後の課題について考えてみた. またQC的な考え方として, 品質管理の活動を進める中で強調されるいくつかの“ものの考え方・アプローチの仕方”についてふれてみた.
以上, 企業がTQMを導入・推進する上で, 品質管理の正しい理解と, 実際に展開される諸活動を中心に概説を試みた. これらが各企業のTQMの推進に, また企業の発展に少しでも役立つものがあれば幸いである.
1999年9月
鐵 健司
第10刷発行に際して
21世紀に入っての品質管理界の動きについて, 第2章「わが国の品質管理の歴史」を中心に若干筆を加え, 改訂を行った.
2007年5月
鐵 健司
目次
発刊によせて
まえがき
1.品質管理総論
1.1 品質管理
1.1.1 デミングのサイクル
1.1.2 品質管理とは
1.2 品質保証
1.2.1 品質保証とは
1.2.2 品質保証の仕組みと活動の実際
2. わが国の品質管理の歴史
2.1 わが国への品質管理の導入−SQCの時代
2.2 日本的品質管理の形成―SQCよりTQCへ
2.3 生産企業におけるTQCの確立−1970年代
2.4 生産企業から他業種へのTQCの拡大と国際化−1980年代
2.5 1990年代の品質管理−TQCからTQMへ
2.6 21世紀を迎えての品質管理
3. TQMの導入と推進
3.1 TQMの導入にあたって
3.2 全社的な気運の盛り上がりと経営トップのリーダーシップ
3.3 推進のための組織と推進計画
3.4 品質管理の教育・訓練
3.5 日常管理と管理項目
3.6 方針管理
3.7 TQMにおけるQC診断
3.8 小集団活動の導入と活性化
3.9 機能別改善活動などの推進
3.10 TQM の推進による成果および留意点
4. 統計的手法とその活用
4.1 品質管理と統計的手法
4.2 統計的な考え方とその活用
4.3 改善を進めるための手順
4.4 統計的手法を活用するときの留意点
5. 小集団活動とその導入・推進
5.1 小集団活動の意義
5.2 QCサークルとは
5.3 わが国の QCサークル活動の発展
5.4 QCサークルの職場への導入と運営
5.5 企業における QC サークル活動の推進
6. むすびにかえて―品質管理の基本と QC 的な考え方―
6.1 品質管理の基本
6.2 QC的な考え方
引用文献・参考文献
索引