RPAの真髄




この本を手にしたあなたへ

「RPAって何?」
つい最近までよく耳にした言葉である。それがこの1年で多くの企業がRPAを導入し、大企業では8割以上に達するといわれる。ところが、バイロット導入後に本格展開を始める段になると、「圧倒的な成果を上げている企業」と「そこそこの成果しか出ていない企業」に二分される。

その差は何か?
答えは簡単だ。「導入方法が違う」のである。

RPAはソフトウェアだが、従来のソフトウェアと同じ導入方法をとっている企業は、RPAの真の威力を引き出しきれないだろう。もし、あなたがRPAの威力を実感できていないとしたら、本書で紹介する先進事例などから成功の条件を見定めてほしい。

圧倒的な成果を上げている先進企業は、しっかりとした方法論のもと、業務効率化の先をも見据えた挑戦を続けている。そこに「RPAの真髄」がある。

安部 慶喜

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2019/1/31)、出典:出版社HP

はじめに

RPAは本格展開による大改革の時代へ

「RPAを活用し、抜本的な働き方改革を断行せよ」「デジタル業務改革による生産性向上を急げ」―

日本の名だたる企業で、トップの号令によりRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した大改革が進行している。この取り組みは企業規模を問わず多様な業種に広がり続け、新聞紙面でRPAの文字を見ない日はないほどだ。

その一方で、「果たして、本当に成果は上がっているのか?」という疑問の声が多数寄せられている。RPAという新手法への期待ばかりが先行し、各社の取り組みが断片的に報道されていることから、実体をつかみにくい状況にあるのではないだろうか。また、世の中では華々しい成果が喧伝されているというのに、「我が社では思ったような効果が出ない」と相談に来られる企業も多い。

本書では、このような疑問や悩みにお答えしたい。RPAは今、試行段階から本格展開へと移行しつつある。その先頭グループを走るさまざまな業種の企業が、どのような壁を乗り越え、大きな成果を手にするに至ったのか、経営トップや現場の生の声をお届けしたい。

新たに見えてきた成功の条件

RPAの本格展開を迎え、導入方法の巧拙による成果の差が鮮明に表れ始めた。最も成功した企業と「思ったような効果が出ない」と悩む企業の間には、3倍、4倍もの差があるだろう。

日本企業はよく「改善は得意だが、改革は苦手」といわれる。RPAの導入においても同じ傾向があり、業務プロセスの一部にRPAを導入し、部分的な自動化によって業務を改善しようとする。

しかし、これだけでは残念ながらRPAの真価を引き出せているとはいえない。大きな成果を上げている企業の取り組みを見ると、ほぼ例外なく、RPAを働き方改革やデジタル改革のキードライバー(原動力)と位置づけ、「新しいステージの経営・事業にチャレンジする機会」と捉えている。

鍵となる考え方は、①単なるツール導入ではなく、RPAをベースとした業務改革として考えること、②定着を見越して運用・統制ルールを整備すること、③社員の意識改革につなげ、改革スキルを獲得すること、などが挙げられる。本書ではこのような成功に向けたポイントをお伝えしたい。

止まらない普及拡大と、さらなる進化

今やRPAの普及拡大は燎原の火のごとく様々な方面で進んでいる。特にここ1年で活発化した適用先として注目しているのは「中堅中小企業」だ。人手不足に一番悩んでいる中堅中小企業だからこそ、RPAが求められている。今年、間違いなく大きな波に発展する中堅中小企業のRPA導入については、第4章で詳しく解説する。

民間企業だけでなく「公共機関」での活用も始まっている。本書で紹介する事例の通り、働き方改革が求められるのは公共機関も同じである。業務プロセスの旧弊を打破する手法としてもRPAは期待されている。

テクノロジー面の進化にはさらに目を見張る。特にAI(人工知能)などの各種先進技術とRPAを組み合わせたソリューションの進化が著しい。ただし、技術の活用ばかりに目を奪われ、業務に使えない絵に描いた餅になってはいけない。本書では、真に業務改革に有用なAI関連技術を紹介する。進化するRPAの最前線について、理解を深めていただけるだろう。

RPAがデジタル変革の礎に

最後に、RPAが持つ「変革ドライバー」としての役割について述べたい。先進事例を読んでいただければすぐにお気づきになると思うが、今やRPAは単に目先の業務を省力化するだけの手段ではない。RPAは、デジタルテクノロジーを使って自らを変革し続けるためのドライバーとなり、実践企業では「従業員一人ひとりが自律的に改革に挑む企業文化」の獲得へとつながってきている。

デジタル化の大変革期において、このような企業文化は今後の成長に不可欠な礎になる。RPAの活用によって、人の働き方はどう変わるのか、真のデジタル化はどのように実現されるのか、そうした未来の展望を明らかにしたい。

日本企業のRPA黎明期に出版した前著『RPAの威力』では、RPAの基本、手始めに取り組むPoC(概念実証)の進め方、クイックスタートの重要性などについてお伝えした。同書は予想を超える反響をいただいたが、日本企業のRPAが本格展開の段階へと移る中、次なる課題への解決策が求められていると感じ、再び筆を執った。

本書は『RPAの威力』を読まれた方は当然ながら、未読の方にも分かりやすい形でまとめている。興味や問題意識に応じて、どの章から読み始めていただいても理解できるように配慮した。特に第6章で紹介する先進7社の事例は、改革最前線の知恵や工夫が凝縮された珠玉の内容となっている。ぜひお読みいただきたい。

本書をお読みいただければ、最大の成果を生み出せる「RPAの真髄」を手にしていただけると確信している。

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2019/1/31)、出典:出版社HP

目次

この本を手にしたあなたへ
はじめに

第1章 新潮流、RPAの「今」
急増する導入企業、成長するソフトウェアロボット

1-1 一段と加速する導入機運
4割以上が業務の「完全自動化」を果たす
即効性を増して強まるRPAの威力
中堅中小企業に導入の裾野が広がる

1-2 ステージアップの道しるべ
大手企業はもう一段の効率化を目指しステージ2へ
AIとの連携で非定型業務の処理も射程圏内に

第2章 RPA本格展開のアプローチ
かじ取りの巧拙が成果の大きさを左右する

2-1 本格展開の機は熟した!
先行企業が直面する典型的な課題

2-2 効果を最大化する「直下型」プロジェクト
成功への最初の一歩は全業務の棚卸し
「2:8」の法則で対象業務を選定

2-3 直下型で留意したい5つのポイント
ポイント① 経営層のリーダーシップと事業部門長のコミット
ポイント② 適切なツール選び
ポイント③ RPA専門組織の発足
ポイント④ 運用・統制ルールの策定
ポイント⑤ 業務改革の意識づけ

第3章 本格展開時に外せない運用・統制の勘所
運用時に陥りやすいリスクを一掃する

3-1 トライアルと本格展開は別物
ロボットが10体を超えると目が届きにくくなる

3-2 RPA本格展開で留意すべき5つの潜在リスクと対処法
リスク① 周辺システムに起因する誤動作
リスク② ロボットのブラックボックス化
リスク③ エラー/停止時のリカバリー
リスク④ 処理の洗い出し漏れによる誤動作
リスク⑤ 不正使用や情報漏えい

第4章 中堅中小企業に浸透し始めたRPA
導入のハードルが下がり、ロボットが少数精鋭のビジネスを支える

4-1 中堅中小のRPA導入実態、半年足らずで様変わり
中堅中小が直面する人手不足の難問をRPAが解消

4-2 中堅企業の挑戦 日本タングステン
中堅企業こそRPAに取り組む意味がある
余力創出だけではない無限の投資対効果
RPAで将来を描く時間を捻出
RPAによる改革領域はいくらでもある
取引先の協力も得て業務プロセスを抜本改革
「RPAに取り組んだから今がある」と言える日が来る

4-3 新料金とクラウドの登場が中堅中小企業の追い風に
月額20万円程度から利用可能なクラウドサービス

第5章 AI×ロボットが開く新段階のデジタル革命
RPAとデジタルテクノロジーの連携で業務効率化を加速

5-1 AIとロボットは企業に欠かせない仲間に
RPAの推進状況で差がつき始めた企業のデジタル化

5-2 AI-OCRとRPAの連携で目覚ましい成果
可変帳票を読み取り、認識した文字をRPAで自動補正

5-3 AIチャットボット導入時の開発工数をRPAで削減
ロボットと連携してパーソナルコンシェルジュに進化

第6章 成果を出す先進7社の取り組み
「RPA×業務改革」のベストプラクティス

6-1 ブラザー工業
自動化や効率化の「先」を見据え経営トップが先頭に立ちRPAを推進
営業や事業企画、開発を皮切りに、約1年間で140体のロボットをスピード展開
適用領域を他部門へ広げて効果を上乗せ
人と業務を切り離し、純粋に業務そのものを見直す
従業員に”伝染する”成長意欲こそ「RPAの真髄」
セールス担当がAIを学び始める、誰もがデジタル変革の担い手に

6-2 あいおいニッセイ同和損害保険
全力疾走で業務改革を敢行”大玉”の効果をRPAで狙い撃ち
PoCの成果を生かし「直下型」で本格展開へ
業務量が多い事業部門を選び、「2:8」の法則で対象業務を絞り込み
RPAとワークフローを組み合わせ4万時間の余力を創出
生み出した余力を効率化に再投資、部門内で改革チームが始動
業務改革に終わりなし、人材を育て改革内製化の波をつくる

6-3 三菱重工業
プロジェクトの方向性を思い切って大転換「攻めの改革」を財務部門がけん引
変われる者だけが生き残るーグローバル財務部が改革の先鋒に
定型業務は大幅自動化、工数半減
財務部門が身軽になるBPOを採るか、RPAでデジタル変革を全社的に発展させるか
まずは業務プロセスを可視化、簡素化・標準化の後に自動化を進める
RPAとOCRの合わせ技で月2万件の伝票処理を効率化
大きな目標を掲げてメンバーを鼓舞

6-4 イオンクレジットサービス
風土も変えるPRA起点のデジタル変革により新ビジネス創出のリーダー育成へ
目前に広がる新たな事業機会、これをものにするチャレンジングな組織づくり
徹底した可視化と文書化・標準化
余力創出、事務処理リスク、ストレス、3つの視点でRPA化の優先度を見極め
集中教育で全事業部にRPA人材を養成表れ始めた自律的業務改革の動き
経営陣が一堂に会する会議でデジタル化の専門組織を検討

6-5 NECマネジメントパートナー
新たにロボット350体投入、7万時間削減RPAをきっかけにデジタル変革の屋台骨を築く
「直下型改革」と「現場型改善」の二刀流で、業務効率化の効果を最大限に引き出す
期待される桁違いに大きな効果、直下型で9万時間、現場型で8万時間
理想形の「ToBe」が困難なら「CanBe」を描いて前進
事業部とすり合わせながらロボットの運用ルールを整備
効率化効果に先行して表れた発想の柔軟性などの成果

6-6 資生堂タイランド
成長市場で拡大するビジネスをRPAで支える社内に芽生え始めたロボットとの共存意識
急速な需要増に応える物流強化がRPAの契機に
販売増に貢献するロボット活用、高難度の売れ筋分析で成果
通関業務でもロボットの活躍でリードタイム短縮
「クイックウィン」が成功のキーワード
変化する環境に進化する技術で挑戦する機運を醸成

6-7 金沢市企業局
市民生活を支えるライフラインの維持に向け地方公営企業の”前例なき”RPAに挑む
テンプレートを用いてRPA対象業務を洗い出す
期待される効果や将来の展開を見越し、当初の自動化対象に3種類の業務を選定
ロボットが心地よく仕事に臨めるよう、バラバラだった業務プロセスを標準化
ロボットの活躍によって、職員の精神的負担を緩和できる可能性も
大掛かりな人事異動でもRPAをやめない

第7章 第4次産業革命の覇者へ
自らを“壊す”経験が最強の企業資産になる

7-1 芽生えた改革意欲を企業文化に昇華させる新組織
「デジタル部」に求められる3つの役割

7-2 RPA本格展開の経験が変革期を勝ち抜く礎に
「企画起点」「自己破壊」「リーンスタートアップ」が鍵

おわりに
著者紹介

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2019/1/31)、出典:出版社HP