図解入門よくわかる最新分析化学の基本と仕組み[第2版]




自動車の排ガス

年々厳しくなる性能への要求。排ガスの分析は、見えないところでものづくりを支えています。

測定装置が並ぶ大型施設での駆動試験

自動車を連続運転して排ガス中の粒子状物質や気体を採取・分析する。

赤外分光光度計(P.106)を組み込んだ測定装置
窒素酸化物、二酸化炭素、アンモニアなど最大28成分の濃度を連続測定可能

モニター画面
データ処理にはフーリエ変換(P.114)が利用されている

河川水の水質調査

河川は利用目的によって水質の基準が定められています。分析化学を学ぶ学生たちが水質を調査して公表する取り組みが、10年以上継続して行われています。

水の都・大阪を流れる道頓堀川
スポーツイベントに連動した「飛び込み」が起こって水質が問題になることもある。

バンドーン採水器(P.58)による戎橋からの採水
水面に近づくことなく川の中央付近の水を採取できる

BOD(生物化学的酸素要求量、P.89)の測定
前処理した試料水を培養びんに入れて20°C、5日間培養した後に測定

大腸菌群数測定(MPN法)
この他にpHも測定し、環境省が定める基準(道頓堀川はB類型河川)と比較する

DO(溶存酸素量)の測定
ウインクラー-アジ化ナトリウム法(P.86)による滴定

画像提供学校法人・專修学校日本分析化学專門学校

化粧品・医薬部外品の成分

化粧品に配合してもよい成分は医薬品医療機器法に基づく「化粧品基準」で定められています。クリームや乳液などの前処理はちょっとやっかいです。

イオン交換樹脂(P.71)で前処理
液液抽出(P.68)では分離が困難な乳化している試料も精製可能

試料液を液体クロマトグラフィー(P.174)で分析
オートサンプラーを使って多数検体を自動注入

化粧品成分として使用される保存料のクロマトグラム例
逆相分配カラム(P.176)を用いて254nmの紫外線の吸収により検出した例

分析画像提供
株式会社日本医学臨床検査研究所
医菜香粧品分析事業部
データ画像提供
アジレントテクノロジー株式会社

土壌の調査

土地を安心して利用するために、土壌中の有害成分の調査が行われています。試料の採取法は法令で定められています。

表層土壌を採取する

被覆部を除去する

土壌ガスを採取する
深さ0.8~1.0m付近の地中の空気(土壌ガス)を採取して揮発性有機化合物を分析する

有害成分の分析
土壌中のカドミウム、鉛などの重金属は原子吸光光度計(右写真、P.118)で、農薬や揮発性有機化合物はガスクロマトグラフ質量分析計(P.170)で分析する

装置画像提供 株式会社日立ハイテクサイエンス
画像提供 ジオテック株式会社

食品中の放射性物質
汚染の指標として放射性セシウムを分析します。食品の種類ごとに洗浄方法や採取部位が決められています。

包丁でカットしてフードプロセッサで細切する

ポリ袋をセットしたマリネリ容器(P.214)に試料を入れ、標線まで詰める

ゲルマニウム半導体検出器(P.212)で測定する
測定時間例:2リットルのマリネリ容器で1時間

測定画面の例 137Csと134Csが放出する γ線を検出して定量する

分析画像提供 旭川市保健所衛生検査課
データ画像提供 株式会社テクノエーピー

イメージング分析の進展

電子材料などに含まれる物質の微細な分布状況を画像化する技術が進展しています。EPMA分析(P.138)では元素、ラマン分光法(P.112)では化合物の情報が得られます。

●EPMAによるLSIチップの導通不良原因解析
電子顕微鏡と波長分散型X線分析装置を組み合わせたEPMAで大規模集積回路(LSI)の不 具合の原因を解析した例。はんだと電極の接合部にSn-Ni-Cu金属間化合物ができており、クラックが生じていることがわかった。

画像提供 富士通クオリティ・ラボ株式会社

●ラマン分光法でリチウムイオン電池の劣化状況を観察
充電と放電を繰り返すとリチウムイオン電池は劣化する。ラマン分光法は、より長寿命な電池の開発に役立っている。これはコバルト酸リチウム正極の充放電前後の様子。

画像提供 ナノフォトン株式会社

カラー化するデータ

取得する情報量が増えるにつれて、特定の範囲に値が重なり、カラーでなければ表現しにくいデータが多くなっています。

●水道水に含まれる可能性のある101農薬の一斉分析(LC/MS/MS)
超高速液体クロマトグラフィー(P.174)の普及で、多数の成分を一度に分離できるようになった。さらに、MS/MS (P.180)による検出イオンを色分けで示している。

画像提供 日本ウォーターズ株式会社

●缶コーヒーに含まれるカフェイン類の分析(PDA検出器による液体クロマトグラフィー)
学外可視部吸収スペクトルを三次元で表現したクロマトグラフから、各成分の含有を概観できる。解析した結果、7分~11分の範囲にカフェオイルキナ酸に、カフェイン、カフェイン酸のスペクトルが確認できた。

画像提供 株式会社島津製作所

分析機器遺産

日本分析機器工業会と日本科学機器協会が認定している「分析機器・科学機器遺産」から日本の科学・産業の歩みが見えます。2015年までに認定されている62件から、特に時代を反映している3件を紹介します。

●国産第一号電子顕微鏡(1939年)
電子顕微鏡には真空技術と電子線の発生技術が必要です。国産の戦艦や戦闘機の開発が進んだ。 時代に、電子顕微鏡の製作も急がれました。
写真提供 大阪大学総合学術博物館

●高分解能赤外分光光度計DS-301型(1957年)
石油化学工業が戦後復興から高度経済成長への原動力になった時期に活躍しました。記録紙式で大型でした。現在ではポータブルの赤外分光装置も普及しています。
写真提供 日本分光株式会社

●解析・記録装置 クロマトパック C-R1A(1978年)
クロマトグラフィーの記録・解析用です。ペンレコーダーに代わって普及していきました。現在はコンピュータが装置本体の制御も同時に行います。
写真提供 島津製作所 創業記念資料館

注意
(1) 本書は著者が独自に調査した結果を出版したものです。
(2) 本書は内容について万全を期して作成いたしましたが、万一ご不審な点や誤り、記
載漏れなどお気付きの点がありましたら、出版元まで書面にてご連絡ください。
(3) 本書の内容に関して運用した結果の影響については、上記(2)項にかかわらず責任を負
いかねます。あらかじめご了承ください。
(4) 本書の全部または一部について、出版元から文書による承諾を得ずに複製することは
禁じられています。
(5) 商標
本書に記載されている会社名、商品名などは一般に各社の商標または登録商標です。

津村 ゆかり (著)
出版社: 秀和システム; 第2版 (2016/5/26)、出典:出版社HP

はじめに

環境・食品・医薬品・各種材料・考古学・法化学など、様々な分野で分析に関わる社会人と学生にとって、初学者向けの教材はたいへん充実してきました。メーカーや学会が各分析法の基礎理論や実用例やトラブル対応など、いろいろなテーマでのセミナーを多く開催するようになりました。ウェブ上の解説ページやオンラインセミナーも増え、蓄積が大きくなっています。書籍では、個別の分析の分野を初学者向けに解説するシリーズなどが刊行され、個人でも買える価格で販売されています。

いっぽう、それぞれの分析法や、その基盤となる器具・試薬の扱い、データ処理法などを総合的に解説した実務者向けの教材は意外に少ないのです。書店には書名に「分析化学」の語が入った本がたくさん並んでいますが、これらの多くは大学の教科書として書かれています。教科としての分析化学は、溶液の平衡状態や電極の原理など化学の基礎理論を詳しく教えるものでもあり、実務者が求める内容とは必ずしも一致していません。

本書は、実務に必要な分析化学の知識を見渡して理解できることをめざしています。一見バラバラなように思える各分析法の関連づけをし、それぞれの特徴や位置づけがわかりやすいように配慮しました。見開きの各項目は独立して完結していますが、無理なく通読もできるように読み物としての面白さも追求しています。理解を助ける多くの画像は各企業や機関のご協力により掲載させていただきました。コンパクトでありながらオールインワンの本として、各分野の教材を学ぶ道案内ができればと思います。

幸い2009年の発刊以来予想以上に好評をいただき、初版は10刷を数えました。この7年の間に東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故、1,2-ジクロロプロパンによる胆管がんの労働災害、PM2.5による大気汚染の深刻化と環境基準設定など、化学分析に関係する大きなできごとがありました。また、分析の各分野の基礎理論と技術はたゆまず進歩し続けています。

この第2版では、放射性物質の分析の章を新たにもうけました。また、用語や法規制や分析機器の仕様の変化などに応じて各章の内容を更新しました。特に質量分析と液体クロマトグラフィーについては大きく書き換えました。さらに、巻頭には化学分析のイメージを豊かに伝えるカラーページを付けました。

本書の構成は分析の基本的な手順に沿っています。すなわち、化学の基礎や単位から始め、試料採取、前処理、各種分析法、データ処理、試験室管理、という順になっています。本書が分析化学に関わるみなさんのお役に立てば幸いです。
2016年5月 津村ゆかり

津村 ゆかり (著)
出版社: 秀和システム; 第2版 (2016/5/26)、出典:出版社HP

よくわかる 最新分析化学の基本と仕組み[第2版]

CONTENTS

はじめに

第1章 分析化学の世界へようこそ
1-1 分析化学って何?
1-2 暮らしを支える分析化学
1-3 基本の用語
1-4 国際単位系(SI)
1-5 濃度の表し方
1-6 分析法の選び方
コラム ググっても出てこない!? ラボ用語

第2章 基本の化学と試薬・器具
2- 1 溶液の化学
2-2 酸と塩基
2-3 錯形成反応
2-4 酸化と還元
2-5 溶解度と沈殿
2-6 極性
2-7 分配
2-8 実験器具と使用方法
2-9 試薬の選び方と使い方
2-10 液体状試薬
2-11 電子天びんの使用方法
コラム 「はかる」ための巨大な装置

第3章 試料採取と前処理
3-1 試料採取から前処理までの流れ
3-2 サンプリングに関する用語
3-3 環境試料のサンプリング
3-4 その他の試料のサンプリング
3-5 分解・溶解
3-6 沈殿・再結晶と分離
3-7 固形物からの抽出
3-8 液液抽出
3-9 固相抽出
3-10 濃縮
3-11 蒸留・気化
3-12 その他の前処理方法
コラム これは何? 分析の言葉

第4章 基礎的な検出・定量法
4- 1 呈色反応と官能試験
4-2 金属イオンの系統分析
4-3 重量分析
4- 4 滴定
4-5 総量分析
4-6 その他の方法
コラム 検査紙1枚からわかる健康状態

第5章 分子分光分析
5-1 光の性質
5-2 電磁波とスペクトロメトリー
5-3 ランバート – ベアーの法則
5-4 紫外・可視分光1 原理と測定系
5-5 紫外・可視分光2 スペクトル分析と吸光光度法
5-6 蛍光分光
5-7 赤外分光
5-8 近赤外分光
5-9 ラマン分光
コラム フーリエ変換

第6章 原子分光分析
6-1 原子が光を吸収・放出する仕組み
6-2 原子吸光法1 装置の仕組み
6-3 原子吸光法2 測定の実際
6-4 ICP発光分析1 仕組み
6-5 ICP発光分析2 測定の実際
コラム 真空度、圧力の単位

第7章 X線・電子線を使う分析
7-1 X線と物質の相互作用
7-2 蛍光X線分析
7-3 X線回折
7-4 電子顕微鏡
7-5 SEM-EDXとEPMA
コラム 回折格子

第8章 質量分析とNMR
8- 1 質量分析1 何がわかるか
8-2 質量分析2イオン化法
8-3 質量分析3 質量分離法
8-4 質量分析4 質量の単位と同位体
8-5 質量分析6 精密質量の測定
8-6 ICP-MS
8-7 核磁気共鳴分光
コラム PM2.5の分析

第9章 分離分析
9-1 クロマトグラフィーの基礎
9-2 GC1ガスクロマトグラフィーの基本
9-3 GC2 注入口
9-4 GC3 検出器と誘導体化
9-5 GC/MS
9-6 LC1 液体クロマトグラフィーの基本
9-7 LC2 逆相分配:最もよく使われる分離モード
9-8 LC3 LCの検出器
9-9 LC/MS
9-10 イオンクロマトグラフィー
9-11 SFCとTLC
9-12 キャピラリー電気泳動
コラム アセトニトリル不足とヘリウム不足

第10章 電気化学分析
10-1 電気化学分析の基本
10-2 導電率計
10-3 ネルンスト式と標準電極
10-4 pH計とその他のイオン選択性電極
10-5 電極を用いる滴定
10-6 ボルタンメトリー
コラム 超高甘味度甘味料

第11章 放射性物質の分析
11-1 放射性物質の特徴
11-2 分析対象となる放射性核種
11-3 ベクレルとシーベルト
11-4 放射線を検出する仕組み
11-5 食品・水中の放射性物質分析の手順
コラム 放射性ストロンチウムの分析

第12章 データ処理と品質保証
12-1 有効数字と数値の丸め方
12-2 検量線1 基本の作成法
12-3 濃度の計算
12-4 平均と標準偏差
12-5 母集団と標本
12-6 誤差
12-7 検量線2 最小二乗法
12-8 検出限界と定量範囲
12-9 分析法の作成とバリデーション
12-10 併行精度・室内精度の計算
12-11 標準とトレーサビリティ
12-12 不確かさ
12-13 品質管理(精度管理)
12-14 品質保証(ISO, GLP)
コラム 有機溶剤による胆管がん

第13章 ラボの常識と化学分析の極意
13-1 安全に分析を行う
13-2 廃棄物の処理
13-3 コンタミを避ける
13-4 分析化学者の一員として
13-5 分析格言集

参考情報
索引
略語集
おわりに

カバー画像
サーベイメータ 株式会社日立製作所ヘルスケアビジネスユニット 提供
三次元クロマトグラム 株式会社島津製作所 提供

津村 ゆかり (著)
出版社: 秀和システム; 第2版 (2016/5/26)、出典:出版社HP