建築積算士ガイドブック




はじめに

建築積算は、これまでは設計図書から建築物の数量を計測・計算し、これに単価を掛けて建築物のコストを算定することが目的でした。

しかし最近は対象領域を拡大し、建築積算は建築の生産プロセス(過程)のすべての段階において建築コストを算定し、生産活動をコスト面からマネジメント(管理)することが目的となっています。

これは近年、建築をめぐる社会経済環境が変化し、建築物の品質や安全性を確保するうえで建築コストの重要性が再認識されるとともに、適切な建築コストのマネジメントが生産プロセスのすべてにおいて求められるようになってきたことによります。

建築積算は、建築生産活動の経済行為を支える基本的な知識と技術です。いかなる設計(デザイン)も施工(技術)も建築積算(コスト)なしには成り立ちません。また建築生産活動の経済行為はビジネスの世界でもあり、建築コストの評価は、関係するさまざまな人たちにとって重要な業務となっています。

そのため建築積算は、発注者と受注者、設計者と施工者、あるいは建築に関わる行政や不動産、または金融機関の担当者など、さまざまな立場や職域で建築業務に関係する人にはすべて必要とされる基本的な知識や技術となっています。

本ガイドブックは、さまざまな職域で建築積算関連の業務に携わっているすべての人たちの更なるスキル向上に寄与し、建築生産過程における工事費の算定ならびにこれに付帯する業務に関し、高度な専門知識および技術を有する専門家として必要な事項を網羅しています。

また、公益社団法人日本建築積算協会の資格認定事業のひとつである建築積算士の受験勉強にも役立つように編纂されておりますので有効に活用されることを願っております。

公益社団法人日本建築積算協会
会長藤上輝之

建築積算士について

公益社団法人日本建築積算協会が認定する資格には、以下のようなものがある。

1建築コスト管理士
2建築積算士(旧建築積算資格者)
3建築積算士補

建築積算士は、コストマネジメントにおける基幹技術である建築積算における専門家として、建築生産に欠くことのできない技術者であり、当協会認定資格制度の中核をなしている。また建築物のライフサイクルけるコストマネジメントを担う建築コスト管理士に到達する最も近い位置にある資格である。

建築積算士は、以下のように定義されている。

建築生産過程における工事費の算定ならびにこれに付帯する業務に関し、高度な専門知識および技術を有する専門家

また求められる技術は、以下のように規定されている。

1建築工事分野の数量算出。
2建築工事分野の工事費算定

この技術を成立させるために、求められる知識として、以下のものがあげられている。

1生産プロセス(建設産業の特徴・変遷・現状、コストマネジメントの考え方、建築生産プロセスとマネジメント)
2工事発注スキーム(入札の種類、発注方式、契約方式、数量公開、発注単位)
3設計図書構成(設計図書構成と種類、優先順位)
4工事費構成(直接工事費と共通費の構成、主要建築物用途の種目別工事費構成比率)
5積算業務内容(積算業務の流れ、積算実務、概算手法の概要、値入業務)
6数量積算基準
7標準内訳書式
8主要な市場価格(市場価格、コスト情報の入手方法)
9データ分析と積算チェック(データ整理、歩掛、分析方法、積算チェック)
10施工技術概要(建築施工プロセス、標準的な施工法、特殊工法概要)
11LCC、VE概要
12環境配慮概要(環境配慮とコスト概要)

このような各資格の定義と位置づけの明確化により、建築積算士補から建築積算士、そして建築コスト管理士へと段階的にスキルアップしていく基本的なキャリアパスが形成されてくる。

日本建築積算協会における各資格の定義に関しては、ひとつの特徴を有する。一般的に資格を定義する場合、どのような業務をおこなうことができるかといった業務内容や業務領域について規定されることが多い。それに対して日本建築積算協会は、建築積算士の定義において、求められる技術と求められる知識のみを規定しており、業務内容や業務領域については具体的に規定していない。

これは建築積算に携わる技術者が現在活動している領域は限定されているものの、将来的に活動の場を広げ、活躍レベルを大きく飛躍させることが可能となりつつあることに起因する。社会経済および建設を取り巻く環境が厳しくなるとともに、プロジェクト遂行のためのマネジメントの必要性がより高まり、特にコストマネジメントのウエイトが増大してきている状況が見られる。

今後、自ら保有する高度なスキルを武器に、さらなる上位資格への挑戦とともに新たな活動領域を開拓していくたくましい行動力の源泉として、本資格が有効に働くことを期待している。

阿久津 好太 (著), 生島 宣幸 (著, 監修), 加藤 秀雄 (著), 加納 恒也 (著, 監修), 神尾 和明 (著), 佐藤 隆良 (著), 塩田 克彦 (著, 監修), 三宮 政一 (著), 田中 和雄 (著), 七海 則夫 (著), 野呂 幸一 (著, イラスト), 橋本 真一 (著, イラスト, 監修), 吉田 倬郎 (著, 翻訳), 吉村 達之助 (著, 翻訳), 社団法人 日本建築積算協会 (編集)
出版社: 公益社団法人 日本建築積算協会; 第5版 (2013/2/1)、出典:出版社HP

Contents

はじめに
建築積算士について

1 建築積算とは
1.1建築積算の定義
1.2建築積算の目的
1.3.建築積算の役割
1.4建築積算の活動領域
1.5建築積算技術者の倫理観

2 建設産業について
2.1建設産業の特徴
2.2建設産業の変遷と現状
2.3建築生産プロセスとコストマネジメント

3工事の発注・契約
3.1発注方式
3.2発注単位
3.3契約選定方式の種類
3.4契約方式
3.5入札時積算数量書活用方式

4 設計図書
4.1設計図書の構成
4.2設計図書の優先順位

5 工事費の構成
5.1工事費種目
5.2工事費の構成比率
5.3単価の種類
5.4仮設工事の単価

6 建築積算業務の実際
6.1建築積算業務の流れ
6.2土工
6.3地業
6.4躯体(コンクリート・型枠・鉄筋)
6.5鉄骨
6.6仕上
6.7外部仕上
6.8内部仕上
6.9開口部
6.10間仕切下地
6.11内外装仕上の工種ごとの解説
6.12仮設
6.13屋外施設等
6.14設備の積算
6.15内訳書の作成
6.16値入業務
6.17概算

7 建築数量積算基準
7.1基準の目的
7.2基準の構成
7.3基準で決めていること

8 内訳書標準書式
8.1内訳書とは
8.2工種別内訳書標準書式
8.3部分別内訳書標準書式
8.4改修内訳書標準書式
8.5内訳書作成上の留意点

9 市場価格
9.1相場観の必要性(コストとプライス)
9.2価格情報の収集方法と分析

10 チェックおよびデータ分析
10.1建築積算におけるチェック
10.2歩掛りの活用
10.3データの整理と分析
10.4設備工事の積算チェック

11 建築積算と施工技術
11.1近代建築における構造の変遷
11.2構法と工法
11.3標準的な施工プロセス
11.4特殊構法・新技術

12 LCC(ライフサイクルコスト)
12.1LCCとは
12.2LCCによる分析メリットの高い対象物
12.3建築分野へのLCCの応用
12.4建築分野におけるLCCの目的
12.5建築物LCCの考え方
12.6LCC手法の活用

13 VE(バリューエンジニアリング)
13.1VEとは
13.2建設業におけるVEの発達
13.3発注者側でのVEの適用
13.4設計VE
13.5受注者側の建設VE

14 改修工事
14.1はじめに
14.2改修工事の特徴

15 環境配慮とコスト
15.1建築物に係る環境関連等の社会的動向
15.2環境配慮計画
15.3省エネ化技術の事例
15.4省エネ化技術とコスト評価

<巻末資料>
建築数量積算基準
建築工事内訳書標準書式
監修・査読委員会・執筆者一覧
参考文献

※本ガイドブックに記載されている各種事例は、読者の皆様が具体的なイメージをご理解いただけることを目的としたサンプルです。このまま実務に使用していただけるものではありません。

阿久津 好太 (著), 生島 宣幸 (著, 監修), 加藤 秀雄 (著), 加納 恒也 (著, 監修), 神尾 和明 (著), 佐藤 隆良 (著), 塩田 克彦 (著, 監修), 三宮 政一 (著), 田中 和雄 (著), 七海 則夫 (著), 野呂 幸一 (著, イラスト), 橋本 真一 (著, イラスト, 監修), 吉田 倬郎 (著, 翻訳), 吉村 達之助 (著, 翻訳), 社団法人 日本建築積算協会 (編集)
出版社: 公益社団法人 日本建築積算協会; 第5版 (2013/2/1)、出典:出版社HP