2019年度版給与計算実務能力検定®2級公式テキスト




はじめに

給与計算は企業やそこに従事する社員のためにも重要かつ不可欠な業務であり、担当者は社会保険や税務知識、労務関係の法律など幅広い知識を要求されます。特に近年は、就業スタイルの多様化や業務の煩雑化などで、労務トラブルに発展したケースも少なくありません。

しかし、これまで経理業務に関して個別の指導書、参考書はありましたが、給与計算に集中して体系的にまとめたものはほとんどありませんでした。

当財団では給与計算の知識を資格化することの意義を強く感じ、この分野では日本のリーダー格である社会保険労務士の北村庄吾先生にご協力いただき、2014年より「給与計算実務能力検定®2級、1級」をスタートさせました。

2級は給与計算の基本的な仕組みがしっかり身につくため、給与計算未経験者でも就労に役立つレベルになっており、また1級は複雑な制度やイレギュラーな給与体系にも対応可能、かつ年末調整の仕組みもマスターできる内容になっております。本書はその2級公式テキストです。

2013年の刊行後、本書をもとに、数多くの試験受験者を数えました。そこで、法改正情報を網羅した年度版を毎年出版することといたしました。

2019年4月には働き方改革を推し進めるための労働時間や年次有給休暇に関する制度の改正もスタートし、給与計算の対応能力がますます重要になることから、本書が皆様に有効利用されますことを祈念申し上げます。

2019年5月
内閣府認可 一般财团法人職業技能振興会
理事長 兵頭 大輔

北村 庄吾 (著), 一般財団法人職業技能振興会 (監修)
日本能率協会マネジメントセンター (2019/5/23)、出典:出版社HP

給与計算実務能力検定2級公式テキスト 目次

●はじめに
●給与計算実務能力検定 試験の概要
●給与計算実務能力検定2級 試験問題例

重要な制度改正のまとめ

第1章 給与計算とは
1給与計算をしてみよう
1 給与計算の重要性
2 給与計算の3ステップ

2給与計算に関する知識をチェックしよう
1 給与計算に必要な周辺知識
2 給与計算担当者に必要となるプラスアルファの知識

第2章 「勤怠欄」からわかる給与計算のしくみ
1給与明細書の勤怠欄
1 勤怠とは
2 給与明細書の記載欄
3 給与の締め日と支払日

実務上のポイント
毎月の給与計算と給与支払いに関する実務上のポイントルール
1 毎月の給与計算・給与支払いの流れ
2 給与支払いのルール
実務上のポイント
給与計算・社会保険事務の1年間の流れ
1 4月~6月の給与計算と社会保険手続き
2 7月~9月の給与計算と社会保険手続き
3 10月~12月の給与計算と社会保険手続き
4 1月~3月の給与計算と社会保険手続き
年間事務カレンダー

2要出勤日数・出勤日数・欠勤日数・労働時間の欄
1 要出勤日数
2 労働時間の原則
3 労働時間に含まれるものと含まれないもの
4 休憩の原則
5 休憩時間の原則
6 休日の原則

3年次有給休暇の欄
1 年次有給休暇の原則
2 年次有給休暇の付与日数
3 会社の時季変更権
4 パートタイマー・アルバイトの年次有給休暇
5 年次有給休暇期間中の賃金
6 年次有給休暇の計画的付与
7 年次有給休暇の時季指定義務(会社側からの時季指定)
8 年次有給休暇管理簿

4遅刻早退時間と法律で義務付けられている休暇
1 遅刻・早退などのルール
2 法律で義務付けられている休暇

上級編① 変形労働時間制
1 変形労働時間制とは
2 変形労働時間制の種類
3 フレックスタイム制とは

5時間外労働の限度時間と端数処理
1 時間外労働の限度時間
2 時間外労働時間の端数処理
3 労働時間・休憩・休日の適用除外
4 労働時間の状況の客観的な把握

第3章 「支給項目欄」からわかる給与計算のしくみ
1給与明細書の支給欄
1 基本給・諸手当とは
2 普通残業手当などの割増欄
3 支給欄のなかの控除項目

2普通残業手当などの割増率
1 時間外労働の割増率
2 法定休日労働の割増率
3 休日勤務手当・休日深夜手当の割増欄

3普通残業手当などの割増賃金の計算方法
1 割増賃金の計算
2 割増賃金の計算から除外される賃金
3 割増賃金の端数処理

上級編② 1か月単位の変形労働時間制の場合の時間外労働

上級編③ 時間外労働が月60時間を超えた場合の割増率
1 時間外労働が月60時間を超えた場合の定め
2 代替休暇の取得および割増賃金の支払日

4遅刻早退控除・欠勤控除
1 ノーワーク・ノーペイの原則
2 遅刻早退控除・欠勤控除の規定
3 減給の制裁と規定の制限

上級編④ 給与計算に必要な平均賃金の算定
1 平均賃金とは
2 平均賃金の算定基準
5 非課税通勤費・課税通勤費
1 非課税の通勤費
2 マイカー通勤等の場合
3 課税の通勤費

上級編⑤ 現物給与(経済的利益)の取り扱い
1 現物給与(経済的利益)の所得税の取り扱い
2 現物給与(経済的利益)の社会保険の取り扱い

第4章 「控除項目欄」からわかる給与計算のしくみ
1給与明細書の控除欄
1 控除項目の確認
2 控除の順番

2社会保険料控除の計算
1 健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料の計算
2 雇用保険料の計算

3所得税控除の計算
1 所得税の控除額の基準
2 所得税の計算方法
3 所得税の納付

4住民税控除の計算
1 住民税の控除額の基準
2 住民税の徴収と納付の流れ
3 退職時の住民税控除

第5章 社会保険の事務手続き
1標準報酬月額の資格取得時決定・定時決定
1 標準報酬月額の資格取得時決定
2 標準報酬月額の定時決定
3 定時決定の流れ

2標準報酬月額の随時改定
1 標準報酬月額の随時改定とは
2 随時改定の有効期間

3労働保険の年度更新
1 労災保険料と雇用保険料の申告納付
2 年度更新の計算

第6章 賞与計算のしかた
1賞与支払いと手続き
1 賞与
2 社会保険料控除
3 標準賞与額

2社会保険料の控除
1 賞与からの社会保険料の控除
2 社会保険料率
3 労働保険料控除

3源泉所得税の控除
1 所得税の控除
2 前月給与がない場合
3 前月給与の10倍相当以上の場合

第7章 給与計算担当者が知っておきたい法律
1労働基準法の基本原則
1 労働基準法の基本原則
2 労働条件に関する定め

2労働者の保護に関する法律
1 強制労働の禁止
2 中間搾取の排除
3 公民権行使の保障
4 労働者・使用者の定義
5 労働契約の成立と労働基準法違反の契約
6 金銭に関する禁止事項

3労働条件の明示に関する法律
1 労働条件の明示
2 労働契約の解除

4有期労働契約に関する法律
1 契約期間・退職の申し出・解雇に関する定め
2 期間の定めのない労働契約への転換
3 有期労働契約の更新等
4 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

5就業規則の法的位置づけ
1 就業規則とは
2 就業規則の作成・届出
3 就業規則による労働契約の内容の変更

6解雇に関する法律
1 解雇制限
2 解雇の予告
3 解雇の予告の適用除外

7産前・産後休業、育児休業、介護休業などの規定
1 産前・産後の就業制限
2 介護・看護の就業制限
3 所定労働時間などに関する制限
4 法律で定められたその他の就業制限

8マイナンバー制度への対応
1 マイナンバー(個人番号)
2 マイナンバー法による制限
3 マイナンバーの事務対応
4 給与計算・年末調整担当者の実務上のポイント

9時効
1 時効
2 書類の保存義務

第8章 給与計算担当者が知っておきたい社会保険制度
1社会保険制度の基本
1 社会保険制度の範囲
2 会社が加入する社会保険制度と適用者
3 会社と社会保険制度

2社会保険制度の適用者(被保険者・任意加入被保険者)
1 医療保険(健康保険・介護保険)の適用者
2 年金保険(厚生年金保険)の適用者
3 所定労働時間が短い者に対する健康保険・厚生年金保険の適用
4 雇用保険の適用者
5 労災保険の適用者
6 健康保険の被扶養者制度

3医療保険(健康保険・介護保険)の給付
1 健康保険からの主な保険給付
2 出産時の健康保険からの給付

4年金保険(厚生年金保険)の給付
1 厚生年金保険の位置付け
2 厚生年金保険からの主な保険給付
3 厚生年金保険の保険給付の内容

5雇用保険の給付
1 雇用保険からの主な保険給付
2 雇用保険の所定給付日数
3 育児休業期間中の雇用保険からの給付
4 高齢者への雇用保険からの給付

6労災保険の給付
1 労災保険からの主な保険給付
2 労災保険の給付基礎日額
3 労災保険からの休業補償給付

第9章 給与計算の演習問題
●演習①問題・解説と解答
●演習②問題・解説と解答
●演習③問題・解説と解答
●演習④問題・解説と解答
●演習⑤問題・解説と解答
●演習⑥問題・解説と解答
●演習⑦問題・解説と解答
●演習⑧問題・解説と解答
●演習⑨問題・解説と解答
●演習⑩問題・解説と解答
●演習⑪問題・解説と解答
●演習⑫問題・解説と解答
●演習⑬問題・解説と解答
●演習⑭問題・解説と解答
●演習⑮問題・解説と解答

巻末付録:
①給与計算業務にかかわる各種手続き
②平成31年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
③都道府県単位健康保険料率
④厚生年金保険料率
⑤雇用保険料率
⑥労災保険率表
⑦給与所得の源泉徴収税額表(月額表)(平成31年(2019年)分)
⑧源泉徴収のための退職所得控除額の表
⑨課税退職所得金額の算式の表
⑩退職所得の源泉徴収税額の速算表
⑪賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表

給与計算実務能力検定 試験の概要

●試驗概要

 

※試験日、試験会場、受験料などは、各回の「給与計算実務能力検定の受験要項」で確認してください。
※本書の発行後、試験までに資料などの変更が発表された場合は、出版社のHP「追加・訂正情報」にて掲載いたしますので、試験の事前に確認してください。

● 受験申込みから合格発表までの流れ
1. 案内書・願書の入手(①・②・③いずれかの方法で入手)
①一般財団法人職業技能振興会ホームページよりダウンロード
(http://fos.or.jp/)
②一般財団法人職業技能振興会(下記)の問い合わせ先に電話
③一般財団法人職業技能振興会のサイトのお問い合わせフォームより「受験願書希望」と明記の上、メール送信
2. 受験申込み
・願書出願期間内に必要書類(願書・受験料振込明細貼付書・写真1枚(縦3cm×横24cm)の提出。
・願書出願期間内に受験料を下記の口座に振込み(振込手数料は受験者負担)
3.受験票の交付
4.試験実施
5.合格発表
・試験実施後約6週間を目処に合否を判定し、結果を通知
6.認定証交付
・認定登録料として2,000円を別途、下記の口座に振込み

<振込先>
三菱UFJ銀行 新宿中央支店 普通預金 口座番号3645186
一般財団法人職業技能振興会(ザイ)ショクギョウギノウシンコウカイ)
※本試験は、試験実施月の前々月の1日に施行されている法令等により出題されます。

〈問い合わせ先・願書提出先〉
一般財団法人 職業技能振興会
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-166 パレ・ジュノ3階
TEL:03-3353-9181 FAX:03-3353-9182(土曜・日曜・祝祭日を除く10:00~18:00)

給与計算実務能力検定2級 試験問題例

●試驗問題例

問1 賃金支払いについて、次のうち誤っているものの組み合わせを選びなさい。

ア. 賃金は、直接労働者に支払わなければならず、労働者が未成年者であっても直接本人に支払う必要がある。
イ. 賃金は、いかなる場合でも通貨で支払わなければならず、小切手や自社製品などの現物で支払うことはできないとされている。
ウ. 賃金は、その全額を支払わなければならないが、労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合はこの限りではない。
エ. 賃金の支給日は、毎月1回のみにする必要がある。
①ア、イ ②ア、エ ③イ、ウ ④イ、エ

問2 割増賃金と割増率について、次のうち誤っているものはどれか。

①週2日の所定休日を定める会社においてその2日とも労働させた場合、労働基準法上、休日労働について3割5分以上の割増賃金の支払いが必要とされるのは、そのうちの1日のみである。
②始業時刻が午前8時、終業時刻が午後5時、休憩時間が正午から午後1時までの会社において深夜残業を行わせ、翌日の法定休日の正午に残業が終了した場合、法定休日残業がつくのは、法定休日の午前8時から正午まである。
③割増賃金の計算の便宜上、1か月における時間外労働、休日労働および深夜労働それぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは認められている。
④所定労働時間が8時間の場合、9時間働いた人には9時間-8時間=1時時間については、通常支払う賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

解答欄

問3 就業規則と労働契約について、次のうち正しいものはどれか。

①労働者を使用するすべての事業場において、使用者は就業規則を作成し、届け出る必要がある。
②使用者は、就業規則の作成または変更について、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の過半数で「組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
③労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは2年(一定の場合には5年)を超える期間について締結してはならない。
④使用者は、労働契約の締結の際に、労働者に対して、賃金、労働時間等の労働条件を明示する必要があり、就業場所や労働時間に関する事項のほか、昇給に関する事項も書面で明示する必要がある。

解答欄

問4 社会保険の給付について、次のうち誤っているものはどれか。
①健康保険の傷病手当金は、最大1年6か月の間、給付を受ける月以前の直近12か月間の各月の標準報酬月額の平均額の30分の1に3分の2を乗じた額に相当する金額が支給される。
②雇用保険に加入し、会社員として働いていた期間が5年以上ある人が60歳到達時に比べて75%未満の賃金で再雇用された場合には、最大で給与の15%が高年齢雇用継続給付として支給される。
③労災保険の業務災害により労働することができず会社を休んだ場合は、会社を休んだ日が連続して第4日目から休業補償給付が支給される。
④老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳となるのは、男性は昭和36年4月2日以降に生まれた人、女性は昭和41年4月2日以降に生まれた人である。

解答欄

問5 下記の条件で求められる割増賃金として、次のうち正しいものはどれか。

【条件】
○1日所定労働時間:8時間
○賃金縮放日:毎月末日
○賃金支給日:翌月25日
○給与:時間給1,000円
○勤怠状况:9月2日(月)残業42分
9月12日(木)残業90分
9月13日(金)残業164分
9月17日(火)残業95分
9月20日(金)残業175分
9月22日(日)休日出勤490分
9月30日(月)残業240分、残業(深夜)60分

①27,500円  ②27,750円  ③28,550円  ④28,750円

解答欄

●試験問題例の解答と解説

問1
正解 ④イ、エ
ア. ○ 賃金は、労働者が未成年者であっても直接本人に支払う必要があります。
イ. × 労働協約に定めがある場合は、通貨以外のもので賃金を支払うことができます。
ウ. ○ 書面による協定があれば、会社が立て替えた購買代金などを給与から控除する(差し引く)ことができます。
エ. × 賃金は、毎月1回以上支払う必要があるとされ、支給日を同月中2回に分けることも可能です。

問2
正解 ②
①○ 週2日の所定休日を定める会社の休日労働については、そのうちの1日(週1回の法定休日)について3割5分以上の割増賃金の支払いが必要になります。
②× 休日の午前0時までは前日の労働時間の延長として割増賃金の計算が行われ、午前0時から終了時刻までは法定休日残業として割増賃金の計算が行われます。
③○ 1か月における時間外労働、休日労働および深夜労働それぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を1時間に切り上げることは認められています。
④○ 所定労働時間が8時間の場合、これを超える時間については、通常支払う賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

問3
正解 ②
①× 常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、使用者は就業規則を作成し、届け出る必要があります。
②○ 使用者は、就業規則の作成または変更について、労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。
③× 労働契約は、期間の定めのないものを除き、3年(一定の場合には5年)を超える期間について締結してはなりません。
④× 使用者は、労働契約の締結について、労働者に対して、就業場所や労働時間に関する事項は書面で明示する必要がありますが、昇給に関する事項については、必ずしも書面で明示する必要はありません。

問4
正解 ③
①○ 健康保険の傷病手当金は、私傷病により労務不能である場合に最大1年6か月の間、給付を受ける月以前の直近12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に3分の2を乗じた額に相当する金額が支給されます。
②○ 60歳到達時に比べて75%未満の賃金で再雇用された場合には、最大で給与の15%が高年齢雇用継続給付として支給されます。
③× 労働することができず会社を休んだ場合は、会社を休んだ日が通算して第4日目から休業補償給付が支給されます。
④○ 老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳となるのは、男性は昭和36年4月2日以降に生まれた人、女性は昭和41年4月2日以降に生まれた人です。

問5
正解 ③28,550円
勤急状况より、時間外・深夜・休日の労働時間数を求、それぞれ割増賃金を計算します。

<時間外労働手当>
806分÷60分=13433… →13時間26分 ※30分未満切り捨て
→13時間1,000円×125×13時間=16,250円
<深夜労働手当>
60分 →1時間
1,000円×1.5×1時間=1,500円
<法定休日労働手当>
490分:60分=8166→8時間10分30分未満切り捨て →8時間1,000円×1.35×8時間=10,800円
<割増賃金合計>
16,250円+1,500円+10,800円=28,550円

重要な制度改正のまとめ

制度変更を知っていないと、思わぬミスにつながります。平成31年(2019年)度に行う給与計算事務に関連するものとして、特に重要なものを紹介します。

1働き方改革関連法
給与計算事務においては、社員の労働時間や休日、年次有給休暇の取得日をしっかり管理・把握して、正確な給与計算につなげる必要があります。その労働時間に関する制度などについて、働き方改革関連法により大幅な改正が行われ、平成31年(2019年)4月1日から、順次施行されることになりました。

(1)働き方改革関連法の全体像と施行・適用の時期

 

以下では、平成31年(2019年)4月1日から施行される規定について、そのポイントを紹介します。

(2)主要な改正点のポイント
①36協定による時間外・休日労働に関する改正/労働基準法(労基法)の改正
時間外労働の上限規制が法律に規定され、上限規制違反についての罰則も設けられます。
<時間外労働の上限規制の全体像>

(注)法律による上限【例外】
①時間外労働+休日労働の時間が単月で100時間未満
②時間外労働+休日労働の時間が複数月(2~6か月)平均で80時間以内
③時間外労働の時間が年720時間以内
★上記の①②に違反した場合は、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が適用されます。

36協定の協定事項と限度時間の改正のポイント
この改正においては、36協定の協定事項や限度時間を法律に規定するなど、規定が厳格化されました。

 

(※1)改正前は、例えば、2か月で81時間といった協定が可能でしたが、改正後は、1か月で45時間といったように、必ず「1か月」について協定をする必要があります。
(※2)この健康・福祉確保措置の実施状況については、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。

②年次有給休暇に関する改正/労基法の改正
①時季指定義務の創設
年次有給休暇を年に10日以上付与される社員に対しては、そのうち「5日」は、会社側から時季を指定して年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。
ただし、自ら時季指定をして、または計画的付与により、社員が取得した年次有給休暇の日数は、企業側から時季指定すべき「5日」から除くことができます。

改正のイメージ

②年次有給休暇管理簿の義務化
企業は、社員ごとに、年次有給休暇を取得した時季、日数および基準日を社員ごとに明らかにした書類(「年次有給休暇管理簿」)を作成し、3年間保存しなければならないこととされました。

③フレックスタイム制に関する改正/労基法の改正
清算期間の延長
フレックスタイム制とは、「清算期間」で定められた労働時間の枠内で、社員が始業・終業時刻を自由に選べる制度です。

これまで、清算期間の上限は1か月以内とされていましたが、より柔軟な働き方を可能とするため、清算期間の上限を「3か月」に延長することとされました。

例)改正後は、たとえば「7・8・9月の3か月」の中で労働時間の調整が可能となるため、子育て中の親が8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなるといった効果が期待できます。

ただし、清算期間を1か月超え3か月以内とする場合には、各月における労働時間の長短の幅が大きくなることが生じ得ることなどから、

●実労働時間が、法定労働時間の総枠を超えたときのほか、各月で週平均50時間を超えた場合にも、その各月で割増賃金を支払うことが必要。
●労使協定の労働基準監督署への届出が必要。
といった新たな規制が設けられました。

④労働条件の明示の方法に関する改正/労基法の改正
労働契約を締結する際には、労働基準法に規定する所定の労働条件を社員に明示する必要があり、特に重要な労働条件(絶対的明示事項から昇給を除いたもの)は、「書面を交付」して明示することとされています。

この書面の交付による明示の方法について、社員が希望する場合には、書面の交付によらず、次の方法とすることができることとされました。

① FAXの送信の方法
② 電子メール等の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)

⑤その他/労働安全衛生法(安衛法)・労働時間等設定改善法の改正
①労働時間の状況の把握の厳格化

これまでは、主に、未払い賃金の防止(割増賃金の適正な支払い)の観点から、政府のガイドラインなどで、社員(裁量労働制が適用される者や管理監督者を除く)の労働時間の状況を客観的な方法で把握することとされていました。

改正後は、社員の健康管理の観点から、すべての社員(裁量労働制が適用される者や管理監督者も含む)の労働時間の状況を客観的な方法その他の適切な方法(*)で把握するよう労働安全衛生法で義務付けられました。

(*)客観的な方法その他の適切な方法
タイムカードやICカードの記録、パソコンの使用時間の記録などの確認

なお、企業は、これらの方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存しなければなりません。

②勤務間インターバルの努力義務
「勤務間インターバル」制度とは、働く人の十分な生活時間や睡眠時間を確保するため、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。

この制度を導入することが、労働時間等設定改善法において、企業の努力義務とされました。

2 社会保険・労働保険の保険料率の変更
(1)健康保険・厚生年金保険、雇用保険の保険料率/給与計算関係
健康保険(協会けんぽ)の保険料率が変更されています。毎年度改定が行われる雇用保険率については、前年度の率に据え置かれました。整理すると次のとおりです。

 

(注1)健康保険と厚生年金保険の保険料は、労使折半で負担(上記の率の2分の1が被保険者負担分)。
(注2)健康保険における介護第2号とは、介護保険第2号被保険者のことで、この者については、介護保険料率の分の保険料がプラスされます。

(2)労災保険率(年度更新関係)
今年度については改定なしです。

〔参考〕子ども・子育て拠出金率
この拠出金も全額事業主負担であるため給与計算には関係ありませんが、平成31年(2019年)度から「3.4/1000」に引き上げられました。(平成30年(2018年)度は「2.9/1000」でした。)

北村 庄吾 (著), 一般財団法人職業技能振興会 (監修)
日本能率協会マネジメントセンター (2019/5/23)、出典:出版社HP