エグゼクティブ秘書が教える一流の仕事術




はじめに

あるラジオ番組に出演したときのことです。「なんだか秘書ってミステリアスな存在ですよね」ナビゲーターの方に、番組の最後にこう言われてびっくりしたことがあります。なぜなら、外資系企業で10年間、エグゼクティブの秘書を勤めてきた私自身が、自分の職業を「ミステリアス」だと思ったことが一度もなかったからです。
驚いてその真意を尋ねると、「秘められた世界」や「ヴェールに包まれている」などと、ちょっと恥ずかしくなるような言葉とともに、こんなコメントが……。「僕達の周りには秘書はいないし、直接仕事を一緒にすることもないから、何をしているかわからないんだよね」

「ミステリアスな女性」と言われたら、ひょっとしたら少しばかり嬉しくなる場面かもしれませんが、秘書の仕事が「ミステリアス」とは、喜んではいられません。なぜだと思いますか?

それは、単に「秘書という仕事の内容がわからない」ということであり、もう少し解釈を深めると、「秘書の仕事に対する理解度が低い」ということに他ならないからです。
じつを言うと、この「秘書の仕事に対する理解度が低い」ことは、周りの理解度の問題ばかりではないようです。
というのも、私がおもに秘書やサポート業務に就く人を対象に実施しているキャリアカウンセリングで寄せられる悩みのほとんどが、同じように「アシスタント」や「サポートのプロ」の仕事がどういうものなのか、その仕事に就く本人達ですら、はっきりとわからないときがあるからです。

秘書という仕事は、サポートするボス(以下、上司)によって大きく仕事内容が異なるため、内容があいまいで属人的になりがちです。そのため、先輩秘書や相談相手がいないと不安になりやすいのかもしれません。
たとえば、相談者達の多くが口にする「秘書としての仕事が、これでいいのか不安」という悩み。上司から「言われたこと」だけをやっておいてくれればいいと言われ、「雑用係」や「小間使い」として働いていると、とても将来のキャリアなど描くことができません。

さらに、職場にロールモデルとなる先輩も相談できる仲間もいないと、将来、どうやってキャリアを積み上げていけばいいのか、何を目指せばいいのかがわからず、さらに悩むことになります。
相談に訪れたある人は、5年間秘書として経験を積んだにもかかわらず、「ずっと自己流で仕事をしてきたので、他の企業できちんと仕事ができるのかしら」「私のキャリアは他で通用するのかしら」「8歳なので、もう秘書として転職は不可能なのでは……」と不安を吐露していました。

明るくて前向きな秘書の友人ですら、こう嘆いていたことがあります。「私の存在価値って何なのかな。他の人でもできる仕事だから、いてもいなくても同じなのかなって……」
周りの理解度も低い。自分自身も秘書としての仕事の「基準」があいまい。こんな状況で自分の可能性を自ら否定してしまうのでしょう。

そう思って周りを見回してみると、どうやらそうやって悶々と仕事をしているのは秘書に限った話ではないようです。
アシスタントや営業事務の仕事、さらに総務、財務、経理、人事担当など、人をサポートする仕事に就く人達が多かれ少なかれ同様の悩みを抱えているようです。
たとえば、この本を手に取ってくださったあなたは、ご自身の仕事に対してこんなふうに考えたことはありませんか?

●(自分の仕事は)誰がやっても同じ
●(自分の仕事は)若い人のほうが向いている
●気配りの達人でなければならない
●「NO」と言ってはいけない
●年を重ねれば重ねるほど、居場所がなくなる
●仕事はやって当たり前だと思われているので、いい評価は得られない
●職場でのキャリアチェンジやキャリアアップの道がない

はっきり言います。これらは、すべてあなたの思い込みです。

「サポートをする」「補佐をする」仕事は、黒子として、陰で人を支える重要な役割です。「言われた仕事だけをやればいい」「頑張っても認められない」「誰がやっても同じ」と、自分自身を小さな枠にはめているのは、あなた自身ではありませんか?

もしもそうであれば、まず、あなたの仕事に自信と誇りを持ってください。「サポート」は、あなたのとらえ方次第で、とてもクリエイティブな仕事になるのです。その「クリエイティビティ」は、あなたのオリジナルです。それは、誰かに作られた既存のマニュアルではありません。自信を持って、あなたの「創造力」をどんどん仕事に活かしていきましょう。そうすることで、もっと多くの人を力強く「サポート」していくことができるのです。

「あなたでないと困る」「ぜひあなたにお願いしたい」というように、「あなたでない
と……」という、相手にとって唯一無二の人になる。
こういう存在になれたら、どんなに幸せでしょう。「人」は、他の人から必要とされたい、と思うものです。
また、「人」は、誰かの役に立っていると思えるときに、生きがいを感じると言います。エグゼクティブ秘書が教える一流の仕事術 ボスを支える20のミッション

能町 光香 (著)
日本能率協会マネジメントセンター (2013/9/20)、出典:出版社HP

では、たとえば、上司から「かけがえのない」人材と思われるためには、どんなマインドが必要になってくるのでしょうか?
それは、「上司のように考え、行動する」、つまり、上司の頭脳となり、右腕となって働く、という意識を持って仕事をすることです。

これは秘書というポジションに限らず、「人」をサポートする仕事に就く人、ひいては、すべてのビジネスパーソンにとって必要なマインドだと思います。
日本では秘書というと、重役のスケジュール管理や身の回りの世話といった、業務の「補完」のイメージが強いものですが、欧米では、それだけではありません。「サポート」が第一のミッションではあるものの、つねにクリエイティブに仕事をし、主体的にチームをまとめるなどの仕事もしています。

じつは、10年間の秘書人生を通じて、いつも不思議に思っていたことがあります。それは、「なぜ、エグゼクティブの方達向けの研修やトレーニングは無数にあるのに、彼らをサポートする秘書には無いのか」ということです。

余談ではありますが、かつての上司である役員が受けたエグゼクティブ研修の中には、世界中から選ばれた人がアマゾンのジャングルでリスクマネジメント研修を行う、などと手の込んだものすらありました。開催の数週間前には、ヘルメットや地図、レインコート、長靴、蚊帳など、いったい何の研修だかわからなくなるようなものが詰め込まれたダンボールが送られてきて、当の上司と顔を見合わせた覚えがあります。相当のコストをかけて開催されたことは想像するまでもありません。

そんなエグゼクティブに対して、秘書向けの研修はひとつもありません。
それは、私にとって「謎」とも言えるほど、不思議なことでした。なぜなら、秘書は、「上司のように考え、行動すること」が大切であり、それこそが秘書の在り方であるからです。「上司のように考える」ことができるようなるためには、それなりのマインドやビジネススキルが必要なのに、なぜ、それらを学んでいく機会や成長していくチャンスがないのか、と疑問に思ったのです。

私は、あらゆるビジネス書を読んだり、自主的にセミナーに参加したりすることで、上司の頭脳として働けるよう自分なりに工夫し続けました。上司のマネジメント全般をサポートするために、マーケティング、財務会計、コミュニケーション、異文化マネジメントなど、じつにさまざまなものを学ぶために、長い時間を費やしました。
秘書の仕事の神髄を体系立てて学べる研修があったらどれだけ効率がよいだろうと思ったことは、一度や二度ではありませんでした。
これらの経験が、世界で通用するアシスタント育成のためのプログラムを日本で作らなければ、という思いをより強くさせたのです。

本書では、私のように遠回りをすることなく、多くの方に、秘書の仕事の神髄に触れていただければと思い、そのエッセンスをまとめることにしました。

秘書に限らず、「人」をサポートする仕事に携わる人は、じつにたくさんいらっしゃいます。本書では、ひとりでも多くの人が、プロとして「人」をサポートできるよう、その技術やスキルを厳選して取り入れました。
ぜひ、「自分だったら、どう対応をするのか?」と考えながら、20のミッション(ケース)とその解説を読み進めていってください。さまざまなサポート職に就く人達の仕事を、疑似体験をしながら学べるようになっています。

本書を通じて、ひとりでも多くの人が、モヤモヤとした気持ちから解放され、心にひと筋の光が届くよう、心より願っています。

京都にて能町光香2013年8月末日エグゼクティブ秘書が教える一流の仕事術 ボスを支える20のミッション

能町 光香 (著)
日本能率協会マネジメントセンター (2013/9/20)、出典:出版社HP

Contents – エグゼクティブ秘書が教える一流の仕事術ボスを支える20のミッション

はじめに

プロローグ人を支えるサポートのプロって?

「代わりのいない人」「かけがえのない人」
「代わりのいない人」のやるべき仕事とは?
「サポートのプロ」達に課されたミッションとは?
めざすは「パートナー」のポジション
フォロワーからパートナーへのステップ
Columnあなたの「強み」って?

第1章先読みと段取りで時間を操る

ミッション12時間で5件の仕事を完了せよ!
ミッション2ミスゼロ、漏れゼロを徹底する!
ミッション3駆け込み依頼をうまくさばく
ミッション4多忙・暇なし上司をフォローせよ!
ミッション5の名から出欠確認の返事を集めよ!
Column職場での効果的な目標設定の仕方とは?

第2章情報の交通整理をする

ミッション6ざっくり、資料を集めておく
ミッション7“正しく、ミーティングメモを作る・議事録をとる
ミッション8メールの対応漏れ・連絡ミスをゼロにする
ミッション9「至急お願い!」を仕分けするミッションの誰にでも伝わる言葉で語る
Column未来のキャリアの描き方

第3章小さな1歩で人を動かす

ミッションの11「不機嫌な職場」を「ご機嫌な職場」に!
ミッション12取引先と上司をつなぐ
ミッション13痛恨のミスを速やかにリカバリーせよ!
ミッション14一匹狼型上司との距離を縮める
ミッション15誰からも「知られる存在」になる
Column秘書特有の病気って?

第4章臨機応変に自分を変える

ミッション16責任者不在。トラブルを収拾せよ!
ミッション17あわてんぼうの上司のピンチに備えよ!
ミッション18モヤモヤするビッグプロジェクトを成功させよ!
ミッション19宙ぶらりんになった「あの話」の行方を捜す
ミッションの20極秘の人事情報を死守せよ!
Column秘書の禁断の行為って?

エピローグすべてのミッションを”ポッシブル”にする!

人を支える仕事に大切なこと
すべてのミッションをこなす「究極の人」とは?

おわりにエグゼクティブ秘書が教える一流の仕事術 ボスを支える20のミッション

能町 光香 (著)
日本能率協会マネジメントセンター (2013/9/20)、出典:出版社HP