神社検定公式テキスト4『遷(せん)宮(ぐう)のつぼ』 (神社検定公式テキスト 4)




装丁・本文デザイン坂本浪男(アクシャルデザイン)

注:この「遷宮のつぼ」は平成9年2月に発刊された同書を電子書籍化したものです。従って、平成25年3月以降のお祭りの内容に関しては、あくまで予定として入れてあります。

神社検定テキスト新シリーズ
刊行に寄せて

「知ってますか? 日本のこころ」

平成二十四年、このスローガンのもとに第一回神社検定(神道文化検定)はスタートしました。おかげさまで、六一一五人の方々に申し込みいただき、大成功のもとに終えることができました。

受検いただいた方々は、三十~四十代が過半数を占めてはいましたが、概ね男女ともに十~七十代の方々が受検され、平均点が八十・八点にものぼったことには驚きました。皆様、短期間のうちにさぞ勉強され、検定に臨んでいただいたものと思われます。

平成二十五年の第二回神社検定では、昨年の三級に加え、二級試験も始まります。三級のテーマは平成二十四年同様、「神社と神話の基礎」で、新設の二級のテーマは「遷宮と神社」です。平成二十五年は、五月に出雲大社で「平成の大遷宮」が、十月には神宮式年遷宮が行われる予定です。いずれも大切な祭儀ですが、なかでも神宮式年遷宮は一三〇〇年以上の歴史をもち、皇室とともに国民が奉賛する一大盛儀です。これを機に、古来の「遷宮のこころ」を理解していただければ幸いです。

平成二十四年は、混迷の一年でした。東日本大震災の復興もはかどってはいません。今のこの時代にとくに必要なのが「祈り」と「実行力」です。混迷の中にこそ、先人たちが築いてきた智恵に多く学ばなければならないと思います。神社には、日本人が培ってきた「日本のこころ」があります。この「こころ」を継承し、時代の道標としていくことが必要だと思われるからです。

新しく刊行した公式テキストは『神社のいろは続』と『遷宮のつぼ』です。『神社のいろは続』では、神社と神道をめぐる歴史について多くのページを割いています。神社を知ること、神道を知ること、それは日本の歴史を知ることにほかなりません。歴史にはさまざまな切り口があります。神道の歴史もその一つです。そして神道の歴史にもいろいろな見方があります。今回、『神社のいろは続』でお示ししたのも、その一例といえるでしょう。

願わくは、このテキストをきっかけとして、神道の歴史に関心を寄せ、さらに日本の歴史を学び、この国のあり方について思いをはせていただければと存じます。そして、検定を受検する人はもちろん、受検しない人でも、既刊のテキストとあわせてご一読いただければ、より一層「日本のこころ」が見えてくるはずです。

一般財团法人
日本文化興隆財団理事長
田中恆清

目次

刊行に寄せて日本文化興隆財団理事長田中恆清
はじめに遷宮の概要

カラー口絵Ⅰ
神宮のなりたちと祭り
遷宮までの道のり
御装束神宝と匠

第1章 神宮式年遷宮

■神宮式年遷宮とは何か
若々しい生命力の更新を祈る式年遷宮
一三〇〇年続くエコロジーとリサイクル

■神宮のなりたちと祭り
大和から伊勢へ―遥かなる神宮の創祀
自然豊かな宮域と十四の別宮年
間一五〇〇回にも及ぶ神宮のお祭り
一年の頂点の祭り、神嘗祭
神々にお食事を差し上げる日別朝夕大御饌祭
大御神から授かった稲を植える――神宮神田
神領となる蔬菜類を育てる――神宮御園
昔ながらの塩を作る|御塩浜・御塩殿
大御神の御衣を織る―機殿
御食つ国の海の幸を献ずる―御料咽調製所
伊勢湾に浮かぶ篠島で作られる御幣鯛御料干鯛調製所
神領を盛るうつわを作る――御料土器調製所
神田の米と御神水で酒を醸す―御酒殿
神宮の恒例祭典一覧

【コラム】神宮式年遷宮の意義神宮権禰宜吉川竜実

■遷宮までの道のり
山口祭(やまぐちさい)
木本祭(このもとさい)
御杣始祭(みそまはじめさい)
御樋代木奉曳式(みひしろぎほうえいしき)
御船代祭(みふなしろさい)
御木曳初式(おきひきぞめしき)
木造始祭(こづくりはじめさい)
御木曳行事(おきひきぎょうじ)
仮御樋代木伐採式(かりみひしろぎばっさいしき)

【コラム】御用材を調える

鎮地祭(ちんちさい)
宇治橋渡始式(うじばしわたりはじめしき)
立柱祭(りっちゅうさい)
御形祭(ごぎょうさい)
上棟祭(じょうとうさい)
橋付祭(のきつけさい)
農祭(いらかさい)

【コラム】御社殿の御屋根を葺く

御白石持行事(おしらいしもちぎょうじ)
御戸祭(みとさい)
御船代奉納式(みふなしろほうのうしき)
洗清(あらいきよめ)
心御柱奉建(しんのみはしらほうけん)
杵築祭(こつきさい)
後鎮祭(ごちんさい)
御装束神宝読合(おんしょうぞくしんぼうとくごう)
川原大蔵(かわらおおはらい)
御師(おかざり)
過御(せんぎょ)
大御饌(おおみけ)
奉幣(ほうへい)
古物渡(こもつわたし)
御神楽御饌(みかぐらみけ)
御神楽(みかぐら)
別宮以下の遷宮

【コラム】永遠の今神宮宜河合真如

■御装束神宝と匠
古式のままに調進される神様の御料
織初式(おりはじめしき)
唐組平緒(からくみひらお)
平緒刺細(ひらおししゅう)
御太刀(おんたち)
梓御弓(あずさのおんゆみ)
玉佩(ぎょくはい)

【コラム】遷宮をより深く知るために――「神宮徴古館」と「式年遷宮記念せんぐう館」

カラー口絵Ⅱ
出雲大社平成の大遷宮
賀茂社の式年遷宮
石清水八幡宮平成の正遷座
熱田神宮創祀一九〇〇年記念造営

第2章 それぞれの遷宮

出雲大社平成の大遷宮
賀茂社の式年遷宮
石清水八幡宮平成の正遷座
熱田神宮創祀一九〇〇年記念造営

おわりに遷宮のこころ

初出一覧

はじめに 遷宮の概要

遷宮とは、ご本殿を新たにし、神様にお遷りいただくことをいいます。

ご本殿を新たにするとは、建て替えだけではなく、修築の場合もあります。さらに遷宮というと、ご本殿以外の社殿の新築、修築を含む場合もあり、神宝や調度を新たにする場合もあります。また、ご本殿の新築や修築に際して、その間、神様にお遷りいただく仮殿(権殿)を新たに造る場合もあります。

造営前に、ご本殿から仮殿にご祭神をお遷しするときのお祭りを、仮殿遷座祭または仮段遷宮などといい、造営完成後に、仮殿からご本殿にお遷しするときのお祭りを本殿遷座祭または正遷宮、本遷宮などといいます。遷座祭は臨時の大祭で、社殿を一新し、神威の一層の高まりを願うとても厳粛な祭儀です。

現在でもほとんどの神社は木造ですから、経年に応じて、腐朽箇所を修復したり造替したりしなければなりません。毎年、全国のどこかの神社で「迷宮」が行われています。なかでも平成二十五年五月には出雲大社で本殿遷座祭(「平成の大遷宮」)が行われ、十月には伊勢の神宮で遷御(第六十二回「神宮式年遷宮」)が斎行される予定です。平成二十七年から二十八年にかけては、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、賀茂御祖神社(下鴨神社)、春日大社で正遷宮や本殿遷座祭が予定されています。

とりわけ神宮式年遷宮は神社界をあげての大規模な遷宮です。式年とは制度上定められた期間を意味していて、二十年に一度執り行われる神宮の至高の祭典です。第四十代天武天皇の宿願により、第四十一代持統天皇の御代に第一回の遷宮が斎行されました(六九〇年)。以来、中断はあったものの現在にまで続く重儀です。

延長五年(九二七)に成立した『延喜式』には、当然ながら神宮式年遷宮の記述がありますが、以下のような規定も載せられています。「およそ諸国の神社は破るるにしたがいて修理せよ。ただし摂津国の住吉、下総国の香取、常陸国の鹿嶋などの神社の正殿は、二十年に一度改め造り、その料は便に神税を用いよ。もし神税なくば、すなわち正税をあてよ。」

このように住吉大社や香取神宮、鹿島神宮などでも「式年遷宮」の規定が定められていました。住吉大社の「第四十九回式年遷宮」は平成二十二年に終了しています。先にあげた平成二十七年から二十八年にかけて行われる三社の遷宮は、上賀茂神社が「第四十二回式年遷宮」で、下鴨神社は「第三十四回式年遷宮」、春日大社は「第六十次式年造替」です。遷宮の「式年」は二十年とは限りません。七年目ごとに行われる諏訪大社の御柱祭も式年造替にあたります。

歴史的な変遷や金銭的な問題から、式年遷宮が行われなくなったところもあります。しかし、年月を経て、必要に応じての遷宮は斎行され続けています。遷宮の行われ方は神社によって多少の違いがあります。例えば、仮殿には拝殿が用いられる場合もあれば、摂末社の場合もあり、ご本殿に隣接して常設されている場合もあります。

神社にとって最も重要な祭儀が遷座祭です。本書では、第1章で神宮と神宮式年遷宮を広く紹介し、第2章では出雲大社と上賀茂・下鴨神社のご遷宮、そして、平成二十一年に執り行われた石清水八幡宮と熱田神宮の本殿遷座祭をとりあげ、遷宮という重儀を理解していきます。

■神様の名前の表記は出典に従っています。
また、神社のご祭神名はその神社の表記に従っています。

■修祓(しゅはつ)、奉幣(ほうへい)、堅魚木(かつおぎ)、神垣(きんがい)など、神宮独自の読みや漢字を当てる用語があります。
その他の神社についても、独自の用語があります。

■ルポに出てくる人物の年齢は取材当時のものです。