IoT技術テキスト 第2版 ― MCPC「IoTシステム技術検定 中級」対応 ―




巻頭言(発刊にあたって)

ドイツのインダストリー4.0、米国(GE主導)のインダストリアルインターネットがリードする形で5年前から本格的に始まったIoTは、第4次産業革命とも呼ばれ、1970年代以降の情報化社会(第3次産業革命)に続く大きな産業構造の変化と位置付けられています。
IoTのシステムは、コンピュータの処理能力向上、ハードディスク・メモリの大容量化、クラウド技術の進化、多様なセンサ/アクチュエータの出現と低価格化、無線通信技術の進化と端末・サービスの低価格化などが相まって、企業、官公庁などすべての分野に適応されるようになってきました。IoT時代には、情報化社会に求められた技術知識に加え、センサ/アクチュエータ(組込み技術を含む)、AI、クラウドなどの新たな技術についての理解と最新のIT/ICTへの理解が欠かせません。

このテキストは、IoTの広範な技術習得に必要な知識を体系的にまとめており、IoTシステムの概要はもとより、構成要素技術、セキュリティ、構築方法、活用方法などをバランスよく学ぶことができます。これらの学習、理解によって、IoTシステムを構想、設計、構築、運用するための基礎知識が習得でき、IoTシステムのユーザ(利用)部門や開発技術者とのコミュニケーションも図れるようになります。
また、本書学習後は、理解度確認のためにも「IoTシステム技術検定-中級」を受験されることをお勧めします。
MCPCでは過去10年間、モバイルシステム技術の3種類のテキストを発行、更新し、検定試験を行ってまいりました。この検定制度は多くの大手企業(一部の大学を含む)から取得推奨資格として認定いただき、多数の方々(累計約66,000人)が受験されました。
IoTシステムにおいても、無線通信(ネットワーク)、モバイル端末、モバイルシステム技術とその活用についての技術習得は必要となります。その意味では、「IoTシステム技術検定」と「モバイルシステム技術検定」は、姉妹資格として位置付けられます。今後、MCPCでは、IoTシステムへの入門編として「基礎」、さらに「中級」取得者や他のIT/ICTの一定以上の資格を保有されている方々のための「上級」資格の開発も進めてまいります。

このテキストには、IoT中級技術者にとって基本となる内容が、偏りなく、技術レベルのバランスにも配慮されて記述されています。本テキストをベースとして学習され、検定試験により、習得レベルを確認いただきたいと思います。この検定資格を取得なさった方は、IoT技術者として評価され、IoTに関わる実務の場で、広く活躍できるものと考えています。
最後に、本テキストの発行にあたり、執筆、編集に協力いただきました関係各位に感謝を申し上げます。

2018年10月吉日
MCPC(モバイルコンピューティングコンソーシアム)会長
(東京大学名誉教授、早稲田大学名誉教授)
安田靖彦

モバイルコンピューティング推進コンソーシアム (監修)
出版社: リックテレコム; 第2版 (2018/10/11)、出典:出版社HP

目次

巻頭言
MCPC「IoTシステム技術検定」について

第1章 IoT概要
1-1 IoT概論
1 IoT出現の背景
2 IoTを取り巻く世界の動き
3 標準化の動向
4 オープンイノベーション
1-2 IoTシステム構成
1 データ中心のシステム構成
2 IoTシステムの基本構成
1-3 IoTシステム設計の考え方
1 IoTの適用分野
2 IoTシステム構築時の留意事項
3 情報セキュリティ対策とプライバシー保護
4 IoTプロトタイピング

第2章 IoTシステムのコンピューティング技術
2-1 クラウドコンピューティングとエッジコンピューティング
1 IoTシステム構成
2 IoTデータの流れ
3 クラウドコンピューティング/エッジコンピューティング
2-2 IoTゲートウェイ
1 IoTゲートウェイの役割
2 IoTゲートウェイの基本構成
3 サービス・ゲートウェイ
4 プロトコル変換
5 IoTゲートウェイの利用例
2-3 クラウドコンピューティング
1 クラウドコンピューティングの利用方法
2 パブリッククラウド/プライベートクラウド
2-4 エッジコンピューティング
1 エッジコンピューティングとは
2 製造業へのエッジコンピューティングの適用
3 エッジAI
2-5 データ駆動型システム
1 サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber Physical System)
2 IoTサービスプラットフォーム
3 データ収集の方法
4 遠隔制御の方法
コラム「医療システム事例の紹介」

第3章 IoTデータ活用技術
3-1 IoTデータ活用の概要
1 IoTシステムにおけるデータの流れ
2 IoTデータの特徴
3-2 データ分析手法
1 データ分析処理手順
2 統計解析と機械学習
3 統計解析
4 機械学習
3-3 データ処理方式
1 バッチ処理
2 ストリーミング処理
3 データの保存
3-4データ活用技術
1 データ分析の目的
2 時系列データの扱い
3 基本ツール
4 IoTプラットフォーム
3-5 ロボットとIoT
1 IoTデバイスとしてのロボット
2 ロボットの種類
3 空間知能化システム
コラム「囲碁をプレイする人工知能」

第4章 IoT通信方式
4-1 IoTエリアネットワーク無線
1 IoTエリアネットワーク無線の概要
2 IoTエリアネットワーク無線のネットワークトポロジ
3 IoTエリアネットワーク無線の種別
4 IoTエリアネットワーク有線の種別
4-2 広域通信網(WAN)
1固定回線
2無線通信回線
3 公衆網と閉域網
4 IoTにおける通信の特徴と3GPPにおけるIoT用WANの技術動向
5 LPWAと5G動向
4-3 プロトコル
1 IoTシステムの通信の特徴とプロトコルへの要求
2 IoTシステムの主なプロトコルの概要
4-4 IoTの通信トラフィックの特性
1 ネットワークで伝送されるデータ量
2 IoTにおけるトラフィックの留意事項
3 IoTシステムのレイテンシー

第5章 IoTデバイス
5-1 IoTデバイス
1 IoTデバイスの役割
2 IoTデバイスの基本構成
5-2センサの基礎
1 センサの分類
2 センサに利用される物理的効果
3 センサと用途
4 センサの選び方
5-3 各種センサ
1 光センサ
2 温度センサ、湿度センサ
3 ひずみセンサ
4 圧力センサ
5 加速度センサ
6 ジャイロセンサ
7 全地球衛星測位システム(GNSS)
8 超音波センサ
9 磁気センサ
10 化学センサ
11 バイオセンサ
12 ウェアラブル生体センサ
5-4 アクチュエータ
1 DCモータ
2 ステッピングモータ
3 ソレノイドアクチュエータ
5-5 センサの信号処理
1 センサの構成
2 信号前処理回路
3 A/D変換
4 信号処理
5 出力回路
6 デジタルセンサ用シリアル通信インタフェース
7 電源回路部・エナジーハーベスティング
5-6 画像センサ
1 画像センサの原理
2 画像処理の概要
3 画像計測、認識の概要
5-7 MEMS
1 MEMSとは
2 MEMSの製造方法による分類
3 MEMSの機能による分類
コラム「センサの三題噺」

第6章 IoTシステムのプロトタイピング開発
6-1 IoTプロトタイピング開発検討概要
1 メイカームーブメントによるモノづくり時代
2 事前検討・調査段階での留意点
3 計画・モノづくり段階での留意点
4 プロトタイピング開発全般で留意すべき点
6-2 IoTプロトタイピング・ハードウェア環境
1 オープンソースハードウェア
2 IoTデバイス、ノードを構成するハードウェア
3 IoTシステムのハードウェア構成
4 IoTデバイス、ノードの基本構成
5 入力部(センサ類)、出力部(アクチュエータ類)
6 処理部(マイコンボード、コンピュータ)
7 通信部(IoT エリアネットワークとWANの無線通信)
6-3 IoTプロトタイピング・プログラミング事例
1 センサ類及びアクチュエータ類のマイコン制御
2 ワイヤレス通信制御プログラミングの事例
6-4 IoTプロトタイピング・ソフトウェア環境
1 IoTシステム構築における開発環境
2デバイス・ゲートウェイ・サーバ間の通信技術
3 スマートデバイス向けIoTアプリ(Webサービス)
6-5 IoTシステムのプロトタイピング開発における課題・対策
1 センサ関連のトラブル対策
2 消費電力とバッテリに関する注意点
3 利用環境に関する注意点
4 利用するCPUボードのトラブルについて
5 ワイヤレス通信のトラブルについて
6 IoTデバイス機器に関する注意点
7 IoTサーバに関する注意点
コラム「IoTデバイスの試作から量産化まで」

第7章 IoT 情報セキュリティ
7-1 IoTにおける情報セキュリティ
1 情報セキュリティの重要性
2セーフティとセキュリティ
3 情報セキュリティの分類
4 情報セキュリティの要件
5リスクへの対処
7-2 脅威と脆弱性
1 ネットワークスキャンとパスワードクラック
2 バッファオーバーフロー
3 マルウェア
7-3 セキュリティ対策技術
1認証
2暗号化
7-4 IoTのセキュリティ対策
1 IoTシステムのセキュリティ対策
2 IoTにおける情報セキュリティの留意点
3 IPAによる「つながる世界の開発指針」
4 IoT推進コンソーシアムによる「IoT セキュリティガイドライン」
7-5標準化動向と法制度
1 国際標準・ガイドライン
2 個人情報保護法
3 サイバーセキュリティ基本法
コラム「プロックチェーンとIoT」

第8章 IoTシステムに関する保守・運用上の注意点
8-1 保守と運用
1 IoTシステムにおける保守と運用
2 IoT保守・運用のリスク
3 IoT保守・運用の注意点
8-2 IoTの契約形態
1 IoT時代の契約形態
2 契約形態の種類
8-3 匿名化
1 個人情報の利活用
2 匿名加工情報とは
3 置名化技術
4 匿名化の注意点
5 IoTでの匿名加工情報の利活用
8-4 BCP
1 BCPとは
2 想定される災害・事故
3 IoTビジネスにおけるBCPの特徴
8-5 CCライセンス
1 IoTに関わる著作権
2 権利の範囲
3 CCライセンスとは
4 CCライセンスの種類と表示
5 ECCライセンスの現状

索引
監修・執筆者及び協力者一覧

「MCPC IoTシステム技術検定」について

1 MCPC IoTシステム技術検定の背景
「MCPC IoTシステム技術検定」は、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC:会長・安田靖彦)が、IoT技術者の育成を目的に行うもので、2016年12月に第1回検定(中級)の実施されました。
MCPCは、日本におけるモバイルコンピューティングの普及促進を目的に設立され、この分野における普及促進活動、技術標準化活動、人材育成活動を行ってきました。さらに2016年10月、モバイルソリューションを発展させるIoT(Internet of Things)が、産業と社会に新たなイノベーションをもたらすことが期待されているとして、これを担うIoTビジネスに携わる人材の育成を目的に、IoTシステムの企画、構築、活用、保守、運用に関する技術知識を認定するとして、この技術検定の実施を発表しています。

IoTは、様々な産業や公共分野において、多数のデータを収集・分析して機械を制御し、さらにAI(人口知能)により有益な情報を生み出しビジネスやサービスに新たな価値を創造し、産業と社会に革新をもたらすものとして注目されており、グローバル規模で政府、企業、自治体での取組みが始まっています。
一方、IoTは多方面・多層にわたる新しい技術の組合せによって実現されることから、これを推進する人材は圧倒的に不足しています。IoT分野の新たな人材育成は、企業はもとより政府、自治体、大学においても大きな課題となっています。
MCPCでは、2005年からモバイルコンピューティングの技術者育成に向けて「モバイルシステム技術検定」を実施し、6万人の受検者、4万人の合格者を輩出しています。このモバイルシステム技術検定を発展させていくと同時に、新たなIoT技術者10万人の創出を目指し「IoTシステム技術検定」を開始し、IoT技術者の育成に貢献することを目指しています。

2 MCPC IoTシステム技術検定の必要性と狙い
MCPC IoTシステム技術検定は、新ビジネス推進やIoTで活躍が期待されている実務者、エンジニアに向けた資格制度です。対象は、IoTシステムを構築・活用するため基本的かつ実践的な技術知識の習得を目指す人たちであり、IT/ICT業界はもとより、製造業、医療、農業、建築・土木、流通業、交通などシステム構築に関係するすべての技術者となっています。
したがって、本検定では、IoTシステム構成と構築技術、センサ/アクチュエータと通信方式、データのAI分析と活用技術、IoTセキュリティ、IoTシステムのプロトタイピングなど、IoTシステムの概要と実務の基礎を学ぶ際に核となる技術を取り上げ、さらにIoTシステム全体を俯瞰して最適なIoTを設計できる技術習得を目指しています。
また、本検定では、IoTシステム構築・活用に必要となる知識の範囲とそのレベル(基礎、中級、上級)を明示することにより、技術者の学習意欲を喚起し、検定を通じてその学習成果を測定することを狙いとしています。

3 MCPC IoTシステム技術検定の概要
MCPC IoTシステム技術検定は、その資格のレベルにより基礎、中級、上級の3種で構成され、表1に示すように、それぞれの必要とするレベルと適用可能な実務レベルが設定されています。しかし、技術、特にIoT関連技術の変化や進歩は著しいため、専門のセミナーや書籍などで最新技術情報を入手し、常に学習し続けることが推奨されています。MCPCでは、システム事例集、各種講習会・セミナーにより、継続的に情報を提供しています。

表1 資格とその概要

資格の種類 必要とするレベル 運用可能な実務レベル
基礎 IoTに関する基礎知識を保持していることを認定 IoTに関する基本用語の習得 IoT構成要素の基本的な用語を理解し、一般的なIoT関連の書籍を読解できます。また、セミナーに参加可能な専門用語と基本的な構成データの流れ、蓄積分析がわかります。
中級 IoTシステム構築に取り組むための基本技術を認定 IoTシステムを構成する基本技術習得
①IoTシステム構成と構築手法
②センサ/アクチュエータと通信方式
③AI分析とデータ活用
④セキュリティ対策とプライバシー保護
⑤loTシステムのプロトタイピング技術
IoTシステム全体を俯瞰することができ、顧客の要求または提案の要点を的確に把握でき、システム構成の概要が描けます。
上級 高度なIoTシステム、業界固有または業界をまたがるサービスを構築する実践的な専門技術を認定 IoTシステム構築・活用に関する、より実践的な専門技術 IoTシステムについて顧客の要求を理解し、課題の整理のうえ、システムの企画、計画し戦略的提案をおこないます。また、IoTシステム構築のリーダとして活動できます。

 

中級における検定項目と問題の設定は、概ね表2のとおりです。

表2 出題項目の例(中級検定の場合)

主要項目(カリキュラム)
●IoTシステム構築技術と応用技術の概要
●通信方式(IoTエリアネットワーク、IoTゲートウェイ、広域通信網、プロトコル、IoTトラフィックの特性)
●IoTデバイス(各種センサ、アクチュエータ、信号処理、画像処理、MEMS)
●IoTデータ活用技術(IoTデータ分析手法、AI、ロボットとIoT)
●IoTシステムのプロトタイピング開発(組込み技術とIoTプロトタイピング、IoTプロトタイピングのためのハードウェア、IoT プロトタイピング・プログラミング事例、IoTシステム開発プログラミング環境、IoTシステム・プロトタイピング開発での課題・対策)
●情報セキュリティ(脅威と脆弱性、セキュリティ対策技術、情報セキュリティの標準と法制度)
●IoTシステムの運用(保守と運用、IoTの契約形態、匿名化、BCP、CCライセンス)

 

4 検定の試験情報等について
IoTシステム技術検定の詳細、及び最新情報については、MCPCの下記ホームページを参照してください。
URL http://www.mcpc-jp.org/iotkentei/

MCPCとは
ワイヤレスデータ通信とコンピュータシステムの連携を図るモバイルコンピューティングシステム(モバイルシステム)の普及を促進するために、1997年にわが国を代表する移動体通信会社、コンピュータハードウェア/ソフトウェアメーカ、携帯電話/PHSメーカ、システムインテグレータなどにより組織されました。現在、モバイル利活用のM2M/IoT市場の発展・拡大実現に向かって活動しており、そのための技術課題への対応、運用課題の調査・研究、開発の推進、標準化、接続互換性検証、普及啓発活動、人材育成などの活動を行っています。さらには、米国姉妹組織のWTA(Wireless Technologies Association)、USBフォーラム、Bluetooth SIG、 IEEEなどと連携を図りながら、モバイル利活用のM2M/IoTソリューションの市場の形成拡大と、利用環境の高度化に努めています(2018年9月現在会員会社数180社)。

モバイルコンピューティング推進コンソーシアム (監修)
出版社: リックテレコム; 第2版 (2018/10/11)、出典:出版社HP