航空整備士・航空運航整備士試験のおすすめ参考書・テキスト(独学勉強法/対策)




航空整備士/航空運行整備士の概要

航空整備士/航空運行整備士は、飛行機やヘリコプターなどの航空機の事故を未然に防ぐことを目的に、機体の整備点検を行う職業です。航空整備士と航空運行整備士の違いは、航空整備士が整備をした航空機が基準に満たしているかを確認する作業を行うのに対し、航空運行整備士は、軽微な整備のみ行うことができます。航空整備士の方が上位の資格になっております。いずれも国土交通省が認可する国家資格であり、二等航空整備士、一等航空整備士、二等航空運航整備士、一等航空運航整備士の4種類があります。各資格ともに実務経験がないと受験できません。

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航空整備士/航空運行整備士試験の公式テキストは?

公式テキストはありません。試験は学科試験と実地試験があります。学科試験は「機体」、「発動機」、「電子装備品」、「航空法規」などが出題されます。日本航空技術協会から過去問題集が販売されているので、試験を受ける前に取り組みましょう。

航空整備士/航空運行整備士のおすすめテキスト

1.「2019年版 航空整備士学科試験問題集(問題編)」(公益社団法人 日本航空技術協会)

日本航空技術協会
出題された学科試験問題の過去3年分(2015年11月から2018年7月まで)を協会が編纂し、2019年版としてまとめたものとなっております。

2.「2019年版 航空整備士学科試験問題集(解答編)」(公益社団法人 日本航空技術協会)

日本航空技術協会
過去問題3年分(2015年11月から2018年7月まで)の問題解答集です。

3.「航空整備士になる本」(イカロス出版)

筆者
出版社: イカロス出版 (2019/6/26)、出典:amazon.co.jp

本書では現役航空整備士や航空会社の採用担当者、航空整備士を養成する学校の教官などを取材し、航空整備士への道筋、航空整備士に求めている人材像、そして航空整備士の仕事の醍醐味をわかりやすく紹介する。

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目次 – 航空整備士になる本 (イカロス・ムック)

目次

はじめに
JALエンジニアリングライン整備士を追う
ANAベースメンテナンステクニクスドック整備士を追う

Chapter1 航空整備士の仕事

航空整備士とはどのような職業か
航空機の整備とはどのような仕事なのか
運航整備と点検・重整備に分けられる航空機整備
航空整備士の仕事1機体整備・・・ライン整備
航空整備士の仕事2機体整備・・・ドック整備
航空整備士の仕事3工場整備・・・ショップ整備(エンジン整備)
航空整備士の仕事4工場整備・・・ショップ整備(装備品整備)
航空整備士の仕事5機体塗装装備・シミュレーター整備。

Chapter2 航空整備士になるには

旅客機の整備士になるにはエアライン系列の設総藝鶴専門会社をめざす

Chapter3 一人前の航空整備になるまで

経験を積み資格を取る
航空整備士に必要な国家資格
社内資格の確認主任者を取得して一人前の航空整備士

Chapter4 エアラインが求める航空整備士とは

正直で努力を積み重ねられる人
ANA機整備のスペシャリスト集団
e.TEAMANAが求める人財像と入社後の養成課程
e.TEAMANA採用担当者インタビュー
航空機整備の総合エンジニアリング企業
JALエンジニアリング求める人財像と入社後の養成課程
JALエンジニアリング採用担当者インタビュー
「日本でアメリカの航空整備士として働く」という道もある

Chapters5 航空整備士になるための学校

航空機整備の基本を学ぶ航空専門学校
大型旅客機の勉強ができる航空専門学校もある
航空整備士を養成する学校
1日本航空専門学校
2中日本航空専門学校
3大阪航空専門学校
4千葉科学大学危機管理学部航空技術危機管理学
5崇城大学工学部宇宙航空システム工学科
6第一工業大学工学部航空工学科

イカロス出版
イカロス出版、出典:出版社HP

はじめに – 航空整備士になろう

大勢の乗客を乗せて高度1万メートルの高空を音速近いスピードで飛行するエアラインのジェット旅客機。その安全運航は旅客機を操縦するパイロットはもちろん、多くの地上のエアラインスタッフや航空管制官に代表される航空保安職員たちによって支えられている。その空の安全を機体やエンジン、機体を構成する各機器の整備を通して守っている人たちが航空整備士だ。

「航空整備士としてまず思い浮かべるシーンは、空港で出発する機体に向かって手を振って送り出す姿だろう。航空整備士たちはまだパイロットが到着する前から、機体の隅々まで点検整備を行い、不具合があれば出発までの限られた時間の中で修理し、機体を完璧なコンディションにしてからパイロットに引き渡す。

飛行機は一度空に舞い上がってしまうと、機体が故障しても上空では修理することができないので、出発時にランプで見送る航空整備士は機体の安全に関わる最後の砦とも言われている。それだけ責任の重い仕事になるが、一つのフライトを自らの手で送り出すやりがいや達成感は計り知れないものがある。

航空整備士の仕事は出発する機体を点検整備するだけではない。機体を長時間格納庫に入れて、機内のパネルなどを外して機体の隅々まで点検整備する仕事、機体から取り卸したエンジンやコクピットの計器、無線機類、シート等を専用の工場に運んで点検整備する仕事など、仕事の分業化も進んでいる。

飛行前の点検整備を行う航空整備士たちは航空機整備のゼネラリスト、格納庫や専門の工場で働く航空整備士たちは一分野に精通した航空機整備のスペシャリストでもある。

繊細な機械とダイナミックな機械、先進のエレクトロニクスが組み合わされた巨大システムでもある航空機を自らの手で触れて点検整備する仕事は、理科系の仕事の中でも極めて魅力的な仕事の一つということができるだろう。

ただ漠然と飛行機が好き、機械いじりが好き、先進の技術に触れたいといった気持ちだけでもいい。本書では航空機の整備の基本から、特に多くの人が活躍しているエアラインの航空整備士のなり方を中心にわかりやすく解説した。夢を探す一つのきっかけに、そして夢に向かって歩む道筋の一つとして参考にしていただければ幸いである。

機体整備の最後の砦 – JALECライン整備士を追う

羽田空港10番スポット。旭川から定刻に戻ってきたJAL554便、ボーイング767-300ERを迎えるライン整備士。これから1時間のターンアラウンドで鹿児島行きJAL651便として送り出すまで、機体、動翼、タイヤ、エンジン、機内設備と点検を進めて、完璧な状態で愛機を機長に引き渡す。

安全運航を続けるために妥協は許されない。自分に厳しく、真摯に機体に向き合うプロフェッショナルがJAL機の安全運航を支えている。

航空整備士インタビューInterview

JALエンジニアリングライン整備士
常に100%の仕事を目指すライン整備のやりがい

最初に携わったのは機体の構造整備だった。羽田のハンガーで定期整備を行う機体と向き合い、機体の基礎となる構造部分の点検整備と補修を行ってきた。しかし経験を重ねていくと、もっと仕事の幅を広げたいという思いが強くなっていった。また一等航空整備士の資格取得へ、そしてライン整備に携わる現在に繋がっていった。航空機の整備一筋に生きてきた人生、その道のりを聞いた。

「直感」で航空整備士を志す
2009年、JALグループは拠点や専門ごとに分かれていた航空機整備会社を統合して、JALエンジニアリング(JALEC)を設立、機体からエンジン、装備品までを網羅した、総合的な航空機整備会社が誕生したのである。

羽田空港でライン整備に従事している中野浩一さんは、統合前の2002年にJAL航空機整備東京に入社。基礎訓練のあと、構造整備課を志望して配属された。

「機体構造こそが、旅客機の安全の根幹であると考えたからです。とはいえ整備全般の仕事内容を詳しく知っていたわけではありませんから、直感のようなものです」

さらには航空整備士を志したのも、「直感」のようなものであったという。「中学・高校時代は、これといった将来の夢もありませんでした。友人たちが将来の夢を熱く語るのをうらやましく聞きながら、自分はそうした夢を思い描くことができずにいました」

そんなある日、家族に連れられて新千歳空港に飛行機を見に行った。「自宅から新千歳空港までは、車で1時間ほど。飛行機が好きだからというより、手頃なドライブがてらだったのだと思います。しかし、それがきっかけで私は旅客機に関わる仕事がしたいと思うようになりました」

旅客機の大きさや重量感、スピードに魅せられたというのは、後付けの理由だろう。その感情は、言葉では説明のつかない「直感」ともいうべきものだったからだ。

「旅客機に関わる仕事には、どんなものがあるのかということすら知りませんでした。もちろん、旅客機の種類もまったくありませんでした。それでも、私は一関わる仕事をしたいと感じたのです」

それから中野さんは、航空整備される仕事があることを知った。もともと手を動かして、物を作ったり分解したりすることは嫌いではない。そして、航空専門学校というわかりやすい進路もある。

「地元ではなく北海道外の航空専門学校を選んだのは、一度は親元を離れて暮らしてみたいという気持ちがあったからです。もともと飛行機のことは何も知らなかったので苦労しましたが、勉強には熱心に取り組みました。親元を離れてみたいなどと考えている息子に、親は決して安いとはいえない学費や一人暮らしの生活費を工面してくれました。それに対しては、一生懸命に勉強することがせめてもの報いではないかと思いました」

その甲斐もあって、中野さんは航空会への学校推薦を得られる成績を収めた。そしてJAL航空機整備東京に就職したのである。

「飛行機ならばJAL、働くならば東京がいいという、これも直感です」

安全の根幹となる構造整備

自動車などと比べると、旅客機は寿命がきわめて長い乗り物だ。自動車では10年以上も前のモデルを目にする機会は多くないが、旅客機はその二倍以上も飛び続けるのが普通だ。もちろん、メーカーは最初からそのような長期にわたる使用を想定して作っているが、それは「しっかりとした整備を欠かさない」ということが大前提だ。

日々の運航の合間に行われるライン整備、定期的に格納庫に入れてのドック整備を行うことで、初めて安全に、長期間にわたって飛び続けることができる。そうした整備の中でも、中野さんが配属された構造整備課は、機体そのものの構造に特化して補修などを行う部署だ。

たとえば旅客機の主材料となるアルミ合金では、腐食(錆)や金属疲労に注意が必要だ。いずれも機体の強度を低下させ、放置すれば深刻な事態になる可能性がある。腐食を防ぐために、旅客機に使われている金属の表面には塗装やコーティングが施されているが、それでも腐食が発生することはあるし、繰り返し荷重を受けることでクラック(ひび割れ)が生じることもある。

その修復や補強を行うのが構造整備課だ。バードストライクや落雷、あるいはタイヤがはね上げた異物を受けて傷ついた外板なども修理するし、メーカーからの指示で各部に予防的な補強を施すこともある。「モノを作るのは好きでしたから、楽しかったですね」

やがて中野さんは、国家資格である一等航空整備士の資格を取ろうと考えた。旅客機の整備では、作業内容に応じてさまざまな資格が必要になる。たとえば修理したフラップが問題なく作動するかどうかを試験する際にも、その資格を持った整備士でなくてはフラップを操作することができない。そうしたことを、一通りできる資格が一等航空整備士である。

ところが構造整備課は、機体構造の整備だけを専門に行う部署のため、そうしたシステムの操作を行う資格を持つ整備士がいない。したがって、自分たちが修理したところを試験する際には、他の部署の有資格者に来てもらう必要がある。「それは私たちにとっても、また呼ばれる側にとっても大変なので、自分たちで操作できるように資格を取ろうと思ったのです」

上司にそのように希望を出すと、中野さんはライン整備課への異動を命じられた。一等航空整備士の資格を取るためには、機体全体のシステムに関する知識と経験が必要だ。構造整備課では、そうした経験を積むことが難しかったからである。

資格を取ると、旅客機が面白くなる

一等航空整備士の試験は難関だ。整備士としての実務経験を積んだうえで、さらに猛勉強が要求される。それも日常の業務をこなしながら、勉強するのである。

「運航整備課に配属されて、自分は旅客機のシステムについてはほとんど何も知らないのだということを痛感させられました。機体構造の整備だけで、システムなどについては扱ってこなかったからです。新人時代に戻って、勉強をやり直しました」

一方で、こうした勉強を続けるうちに、旅客機の面白さも再発見できた。「今さらながら、よく考えて作られているなと感心しました」

その安全のための備えには、設計者の執念すら感じた。多くのシステムが二重、三重に装備されており、ひとつのシステムが故障しても飛び続けることができるように出来ている。油圧系統や電気系統も二重以上に装備されているし、客室の窓も二重のアクリルで、一枚が割れても問題ない。

弱体や翼の構造までは二重にすることができないが、一部が破損しても大丈夫なようにフェイルセーフ構造が採用されている。たとえば胴体は、縦横にフレームやストリンガーを組んだ上に外板を張り付けた障子のような構造をしている。これは軽くて丈夫にできるという理由もあるが、万が一どこかが破損しても影響が広がりにくいという理由もある。

いったん外板にクラックが入ってしまった場合、そこに荷重が集中するためにさらにクラックが成長してしまう。しかし、フレーム部分でクラックの進行が止められるため、ただちに深刻な事態になることはない。つまり、壊れて(フェイルして)も、安全(セーフ)が確保されるようにでているのだ。

もちろん、いくらフェイルセーフといっても、そのままずっと飛び続けることはできない。とりわけ目立たない箇所の破損は、日常的なライン整備だけでは発見しづらい。だからこそ旅客機では、一定期間ごとのドック整備が義務づけられ、こうした構造上の不具合を発見できるようにしている。

「構造整備課では、何度も機体構造の修理を行いましたが、なぜそのようになっているのかということを深く考えたことはありませんでした。しかし勉強を重ねるほどに、旅客機にはさまざまな工夫がこらされていることがわかってきました」

ちなみに一等航空整備士の資格は、機種ごとに限定が分かれている。中野さんはまずボーイング767型機の資格を取ったあと、さらにボーイング737-800型機の資格を取得し、現在はボーイング787型機の資格に挑んでいる。「勉強は大変ですが、わからない旅客機があるのは悔しいじゃないですか」

もちろん、わかればそれだけ面白さが増すというのも大きなやりがいだ。

すべてに接点がある地方空港の魅力

入社して10年を経た2012年、中野さんは旭川空港に転勤した。JALエンジニアリングは羽田空港と成田空港、そして大阪伊丹空港をベースとしているが、JAL機が就航している空港ならば全国、そして世界中のどこへでも整備士を派遣している。「旭川には6年間勤務しましたが、羽田にいただけでは決して知ることができなかったような多くのことを学べました。自分の整備士人生の中でも、とても貴重な経験だったと思います」

地方空港の魅力のひとつは、人との接点の多さだという。JALエンジニアリングには約4,000名もの社員がおり、その多くは整備士である。羽田空港だけでも数百人の整備士が所属しており、中には顔を見たことがない整備士もいるはずだ。しかし、旭川空港に配属されている整備士は5名。顔や名前どころか、お互いの性格や得手不得手までを知り尽くしたうえで、力を合わせて安全運航を支えている。

「整備だけでなく、あらゆる人たちとの接点が持てるのが小さな地方空港の魅力です。グランドハンドリングスタッフや旅客スタッフ、事務職、あるいは航空局の職員や他社の整備士までを含めて、全員が顔見知りなのです」

もちろん、羽田空港で勤務していたときから、旅客スタッフはカウンターでのチェックイン業務や発券業務、ゲートでの改札業務や到着業務などを行っているということは知っていた。しかし全員の顔が見える旭川空港では、さらにどんな苦労があるのか、どんな楽しさがあるのかといったことまでを間近に見聞きすることができる。

「そうして皆が頑張っているときに、整備の都合で飛行機を遅らせるようなことがあってはならないと強く感じました」

また、地方空港では乗客との距離も近い。羽田の構造整備課にいた時にも、自分が作業した旅客機が大勢の乗客を乗せて飛ぶのだということは意識していた。中途半端な作業をすればそれが安全を損ねてしまうという怖さと責任も感じていた。しかし、作業を行うのは格納庫の中であり、実際に乗客の姿を目にする機会はほとんどなかった。「旭川空港では、自分が整備した旅客機に乗り込むお客さまや、そのご家族やご友人が送迎デッキに見送りに来ている様子なども間近に見えます。そうした皆さんの尊い命をお預かりする仕事をしているということが、より強く感じられるのです。

100点満点の仕事を心がける

航空会社では、安全性と共に定時性も重要だ。飛行機が遅れれば、目的地での乗り継ぎができなくなることもあるだろうし、その折り返し便の乗客にも迷惑がかかる。とりわけライン整備では、常にタイムプレッシャーにさらされながら仕事をすることになる。

時間に追われるからといって安全に妥協することはないが、安全に影響のない軽微な不具合(たとえば客室の蛍光灯が1本切れたままであるとか)については、そのままで飛行機を送り出さなくてはならないこともある「安全性と定時性、そして快適性などを総合的に考慮しての、苦しい判断だ。

「羽田というベース空港に戻った今は、人員も器材も限られた地方空港の仲間にそうした無念な思いをさせないということも意識して仕事に取り組んでいます」
飛行機を、常に100%のコンディションのよい状態で送り出すというのは、整備士の誰もが心がけている。あるいは、そのように教育もされる。中野さんには、構造整備課にいた頃に先輩整備士から怒られた苦い経験がある。

「機体を補修するためのパーツを自作したときのことです。悪くない出来だと思いましたが、先輩整備士には『こんないい加減なものを作っていいのか。おまえはお客さまの命をお預かりしているということがわかっていないのか』と叱られました」

中野さんは、決していい加減なものを作ったわけではなかった。たとえば80点を合格ラインとするならば、90点の出来ばえではあったはずだ。しかし先輩は「100点満点のものを作れ」と叱った。以来、中野さんも100点満点を目指して作業するようになったが、それは職人的なプライドやこだわりのせいだろうと思っていた。

「しかし、今は先輩の言葉が単なる職人のこだわりではないということがわかります。80点で合格のところ、90点のものが出来たからといって、目の前のお客さまに胸を張れるでしょうか。出発する飛行機に手を振りながら『この飛行機は私が整請しました。だから安心して空の旅を楽しんできてください』と思えるためにも、100点満点を追求しなくてはならない。だから整備士という仕事は、生涯にわたって挑戦し続けることが求められるのです」

イカロス出版
イカロス出版、出典:出版社HP

機体メカニズムのプロフェッショナル ANAベースメンテナンステクニクスドック整備士を追う

羽田空港ANAハンガー。この日は前日にボーイング社のチャールストン工場から到着してボーイング787-9がドックイン。ドック整備士たちは、この新たにANAのフリートに加わった787が、最高のコンディションで初便の就航を迎えられるように、機体の隅々まで点検していくエンジン、ランディングギア、動翼、コクピット、そしてキャビン。

そこには技術を磨き、日々研鑽を積み重ねてきたプロフェッショナルたちの鋭い視線、そして愛機を見つめる暖かい眼差しがあった。

航空整備士インタビュー
TANAベースメンテナンステクニクスドック整備+Interview
安全運航を堅持する技術者の誇りとやりがい

一人ひとりの確かな技術を結集して最強のチームワークを結成、高度なメンテナンスを追求し続ける機体整備のスペシャリスト。ドック整備に特化した会社で、長年培われてきた技術を先輩から学び、そして後世へ受け継いでゆく。

ANAグループの機体を整備する誇りを胸に、日々機体と向き合う中堅整備士の日常と航空機整備への想いを聞いた。

活躍できる整備士になりたいその一心で一等航空整備士に

「学校の勉強は好きでしたか?」。ANAベースメンテナンステクニクスに所属してドック内で機体整備に従事している五十嵐大樹さんに、いきなりぶしつけな質問をすると「勉強ですか?大嫌いでした」と屈託のない笑顔で答えてくれた。そんな五十嵐さんが日々集中して勉強を重ね、2016年にはボーイング767、その後ボーイング787の一等航空整備士の国家資格を取得し、今では入社9年目の中堅整備士として活躍している。

いったいどういったモチベーションで厳しいといわれる一等航空整備士資格試験に臨んできたのか、憧れだけでは続かないのではないか。まずはそこからうかがうことにした。「なんといっても活躍できる整備士になりたい、という想いが強かったのと、同じ勉強をしている仲間がいっぱい周りにいたので、お互いに切磋琢磨できたからです」

飛行機好きの自衛官だった父に連れられて飛行場へよく足を運んでいた五十嵐さんは、小さい頃から飛行機が大好きだった。またプラモデルを組み立てるなど物作りや機械いじりも好きだったことから、航空機の整備に興味を抱くようになった。

高校時代に航空整備士を目指すことを決めたのは自然の流れで、千葉にあるポリテクカレッジ成田の航空機整備科に進学した。ポリテクカレッジ成田は国土交通大臣指定航空従事者養成施設の中では唯一の国立の施設で、2年間の濃厚なカリキュラムで二等航空運航整備士の資格を取得して卒業する。

航空整備士というと空港のランプーで活躍するライン整備士に憧れる人は多いが、五十風さんは格納庫内で飛行機と向き合うドック整備への道を選んでいる。それには理由があった。「学生時代はバスケットボールに熱中していました。その時にチームプレーや集団での生活が好きになり、皆で力を合わせてできる仕事に就きたいと思いました。ドック内で整備士が10人~20人のチームを組んで声をかけながら作業する、その雰囲気に憧れました」

他部署とのコミュニケーションを取り、最高のスキルを結集した仕事場

現在の五十嵐さんは「ゾーンコントローラー」として力を発揮している。「ゾーンコントローラー」の主な仕事は次の4つだ。

1.事前に計画された整備プランに沿って有資格者など作業者をアサインする
2.作業の進捗を管理する
3.進捗が思わしくない場合は調整する
4.イレギュラー発生時には対応策の検討を行う

イレギュラー発生時には他部署を通じてボーイングやエアバスに技術的な問い合わせをすることもあるという。ドック整備は毎日2シフトが組まれ、それぞれ機体整備、客室整備、電装整備、構造整備の各スキルゾーンから5人~10人のクルーが集結して編成され、多いときで40人体制になることもある。各スキルゾーンにも管理者であるコントローラーがいるが、五十嵐さんは総合的にまとめる立場にある。

出社後にまずその日の作業内容を把握して、資格者が揃っているか、ツールが揃っているか、材料が揃っているか、環境が揃っているかなどを確認して作業者に作業分担を指示する。自然と他部署とのコミュニケーションが必要になるが「タイムリーなホウレンソウ(報告・連絡・相談)」を心がけているという。

それを怠れば整備工程を遅らせてしまいうこともあり、飛行機を予定通りにラインに戻すことができず、結果的にお客様にご迷惑をお掛けすることに繋がる。他部署とのコミュニケーションは極めて重要だ。また、次のシフトへの申し送りも内容に漏れが無いよう細心の注意を払う。

ところで、1~2年ごとにおよそ10日間かけて行っていたC整備と呼ばれるドック整備は、翼、胴体、客室、エンジンなど機体各部のパネルを開けて、運航の現場ではなかなか点検することができない箇所を整備するのだが、今は整備のあり方も変わってきており、長期間かけて一度に機体のすべての点検整備を行うのではなく、整備する箇所を何回かに分けて実施する方法が主流になってきているという。そういった流れからも「ソーンコントローラー」の役割と重要性が従来以上に増してきている。

五十嵐さんの勤務体系は基本的に5勤2休でカレンダー通りの土日祝日休みだ。土日祝日はドック整備が休み、というわけではなくドック整備とライン整備を両方受け持つ他部署がその間の作業を補っている。業界を問わず進められている「働き方改革」が整備の現場でも浸透してきた証しといえるだろう。

ANAが運航するすべての機種の一等航空整備士になることが目標

ANAベースメンテナンステクニクスは2012年10月に全日空整備株式会社、ANAテクノアビエーション株式会社、ANAエアフレームテクニクス株式会社が合併して発足したドック整備に特化した航空機の整備専門会社であり、羽田空港を拠点に主にANAグループの国内線・国際線で運航する機体の整備、訓練機器(フライトシミュレーターなど)の整備作業を担っている。主に次の4つの業務がある。

1.夜間定例整備やC整備、重整備(HMV)
2.ランディングギアの交換
3.売却整備
4.新造機受け入れ整備

日々運航を続けている機体の定期整備とともに、ボーイング767やボーイング777など退役する機体の売却整備に加えて、エアバスA380、ボーイング787-9/-10、ボーイング777F、エアバスA320シリーズなど新造機の受け入れ整備も重要な作業となっている。

現在ボーイング767とボーイング787の一等航空整備士である五十嵐さんは、さらに2019年度中にA320シリースの一等航空整備士資格取得を目指して日々の業務の合間に勉強を進めている最中だ。一等航空整備士の資格試験は、2機種目以降は一部免除される試験の項目もあるが、機種ごとに異なるシステムなどの勉強量は想像を絶する。

まずシステム系の口述試験と筆記試練に合格すると訓練課程に進み、最後に実施されるシミュレーターを使った実地試験と口述試験に合格して晴れてその機種の一等航空整備士資格取得となる。

ドック整備士が一等航空整備士の機種を拡張することは、それだけ仕事の範囲を広げることにもなる。五十嵐さんは今後さらにエアバスA380やMRJなども勉強したいという。もちろん目標はANAグループが運航するすべての機種の一等航空整備士の資格取得だ。

航空機の整備に憧れている人は夢をひたすらに追いかけてほしい

ズバリ「整備士に向いているのはどんな人か」という質問には「向上心が強い人」と即答した五十嵐さん。自身は国立の整備系短期大学校で航空機を学んだが、どんな人でも「入社後の頑張りがすべて」だという。

一等航空整備士資格の試験は、最初の筆記試験に合格してから2年以内に最終試験に合格しなければならない。五十嵐さん自身、途中試験を落としてしまった試験項目があったという。「周囲の仲間と比較すると勉強の進み具合が芳しくなかったと思います。口述試験を落としてしまった時はさすがに落ち込みましたが、『なんとかなるさ!』と気持ちを切り替えて踏ん張り、ボーイング767の一等航空整備士の資格を取ることができました」

このように一等航空整備士資格試験合格へのプレッシャーやストレスとどう向き合っていくか、いかに自分自身をコントロールできるかが大切だという。悩みはすぐに周りに打ち明けるという五十嵐さんは、同僚や家族の存在が大きかったそうだ。また、日常を離れて旅先で美味しいものを食べる楽しみもストレス解消の一つだとか。オンとオフをうまく切り替えられることが、一度抱いた夢を追いかけ続けていけるポイントといえそうだ。

「周りから信頼される整備士になりたい」。そう採用試験時に答えた五十嵐さんは、これから航空整備士を目指す人に「夢をひたすら追いかけてこの世界に入ってきてほしい」とメッセージを送る。夢を追いかけるエネルギーは本人が感じている以上に大きな力を秘めているものであり、その力を入社後の初期訓練課程にぶつけて、現場に出て経験を積む。そして一等航空整備士の国家資格を取得して、バリバリ働いてほしいと願う。

「ボーイングやエアバスが作った手順書をきちんと守り、長年ANAが培ってきた整備のノウハウを活かして愚直に機体に向き合えば、機体の高品質は維持できます。だからこそ、素直に正直に、しっかりルールを守ってくれる人であれば必ずやっていける世界です」と力強く語ってくれた。

また、巨大な飛行機のすべてを理解するのは勉強も含めて大変そうだと考えがちだが、「一つひとつのパーツには必ず理由があって、無駄なものは何一つもないんです。その集合体が飛行機なんだということに気がつくと、さらに好奇心が男いてくるし、仕事と勉強がどんどん楽しくなっていきます」

五十嵐さんは先輩から受け継いたトラック整備のノウハウや真髄を、後輩たちにしっかりと引き継いでいきたいとも語る。どんなに気を遣って仕事をしても、人間である以上ミスが起きないとは言い切れない。もし、後輩がミスをしてしまったら、相手がきちんと理解できるように、ていねいな口調で指導するように心がけているという。昔の職人のような徒弟制度ではなく、今の時代なりの指導を大切にしているそうだ。

「健康で、元気で、声のボリュームも大きくて」と今後一緒に働きたい人の理想像を語りつくせない様子の五十嵐さんに、最後に機体整備のやりがいと醍醐味をうかがった。

「残念ながら地方空港や海外でトラブルを抱えて飛べなくなったような時は、専門スキルを持ったANAベースメンテナンステクニクスの整備士が現地に赴き、整備をしてその飛行機を修復させます。その修復させた飛行機が後日お客様を乗せて飛んでいる姿を見ると、この仕事のやりがいを強く感じます。また、ANAベースメンテナンステクニクスは信頼性のある安全な機体を自信を持ってラインに送り出す機体整備の最後の砦だと思っています。空の安全を技術と知識、整備のスキルで守り通す。それが私たちの誇りです」

ANAグループの安全運航は、こうした整備士たちの熱い想いに支えられている。

イカロス出版
イカロス出版、出典:出版社HP