ケアマネジャーはらはら日記(‎ フォレスト出版)




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まえがき―成長しないケアマネ物語

お仕事小説やお仕事ドラマが好きだ。 たいてい主人公は若く、新入社員としてある職場にやってくるところから物語は始まる。仕事の内容が紹介さ れながら、主人公の失敗やトラブル、職場いじめ、ライバルとのバトル、友情、ロマンス、教訓が描かれ、成長で幕を閉じる。

三五館シンシャの日記シリーズでは、主人公が若くない。かわいらしくない。冴えない。舞台はまったく陽が当たらない。高齢になった彼らがそんな職場に入っていく。ロマンスや萌え、キュンキュンがいっさいない。教訓もあるようでない。怒鳴られたり罵られたりする。日暮れて道遠し。だが、主人公たちは悲観しない。これって、自分もそうではないだろうかと気がついた。

介護保険制度の創設に伴ってケアマネジャーという職業が日本に誕生したのは、2000年4月である。私は 2000年1月、第2回の試験を受けて合格した。

詳しくは後述するが、私は介護業界で働くようになる以前、5~30代にかけて非正規の単純労働現場を転々としていた。0歳をすぎて正規雇用してくれるのは介護職くらいのものであった。

介護業界大手の株式会社を皮切りに3つの居宅介護支援事業所に勤務し、埼玉県M市の地域包括支援センター の責任者を務めた。その後、紆余曲折を経て、ケアマネ歴9年目を数える現在は再び、居宅介護支援事業所に勤務している。本書を読んでもらえればわかると思うが、あらかじめ申しあげておく。私は優秀なケアマネジャーではない。

書類整備などの実務に追いつけない。手際が悪く、機転がきかない。「ベテランだからといって、できるケア マネというわけではないんですね」などと言われることもある。

お仕事小説やお仕事ドラマの主人公のようにいつになったら成長するのかとあきれながら、もう10歳も目前に迫ってきた。
これまで介護現場の末端で、さまざまな事例を目撃し、携わってきた。日々バタバタと動き回り、電話をかけまくる。ケアプランを作り、それに付随する経過記録や担当者会議録、モニタリング記録を残す。様態の急変した利用者のために救急車を呼び、救急車のあとを追いかけ病院に行く。 ひとり暮らしの利用者のために病院に付き添う。あらゆるシーンに介護現場のリアルな姿がある。 本書の1、2章では「地域包括支援センター」におけるケアマネ業務を描いた。 3章では「地域包括支援センター」を辞めて次の職場に移る。紆余曲折”を描く。 4章では「居宅介護支援事業所」でのケアマネ業務を扱っている。

成長できないケアマネも、初めての介護に戸惑っている利用者やその家族の前では、頼もしいケアマネを演じ ている。彼らを心配させないよう、「大丈夫、私にどーんとまかせておきなさい」という顔をしている。涼しい顔で泳いでいても水面下では必死の水かきをしているアヒルなのだ。

本書では、そんな私の極限状態における滑稽さも描いた。日記形式になっているが、すべて私が実際に体験したことである。ぜひ気楽に楽しんでお読みいただきたい。
私のドタバタを通して、みなさんに介護の世界を垣間見ていただけたら、そしてそこで汗をかいている人たち の姿を知っていただけたらと願っている。

2000年4月
介護保険法がスタートしたのが2000年4月1日。ケアマネジャーの試験はその前年から開始されていた。最近は合格率10%台で難関とされる試 験も、私が受験したころは合格率的%台の広き門だった。

救急車のあとを追いかけ病院に行く
時に半日がかりとなる病院への付き添いはこれまで無報酬だったが、2021年4月より、1カ月に1回、ひとりにつき500円の加算がつくようになった。

実際に体験したこと
すべて実話であるが、登場する人物名、施設・団体名はすべて仮名としている。また私は現役のケアマネジャーであり、登場人物の特定を避けるため、年齢・人物像などもぼかしてある。

岸山真理子 (著)
出版社 ‏ : ‎ フォレスト出版 (2021/7/9)、出典:出版社HP

もくじ

まえがき―成長しないケアマネ物語
第1章 ケアマネの多難すぎる日常
某月某日 感情労働者 : 「俺に、さ・わ・る・な!」
某月某日 ケースワーカーの”使命” : 「あなたと話す必要はない」
某月某日 綱渡り :6代と8代のハローワーク
某月某日 猛反対 : 生活保護をめぐる兄弟の攻防
某月某日 本日も残業なり : 地域包括支援センターの、ある一日
某月某日 元気すぎる認知症 : 妄想が「自立」の邪魔をする
某月某日 「ふつう」になりたい:職を探す旅
某月某日 おむつ交換おばさん:私のモチベーション
某月某日 夢の職業 : ゾクゾクするような快感

第2章 「老い」と「死」の最前線
某月某日 ゴミに埋もれたアルバム: アルコール依存症
某月某日 息子には仕事がない: 父親がいなくなったら
某月某日 おだっくい:一人三役のコント活動
某月某日 一緒に暮らしましょう : 考え抜いたウソ
某月某日 がん治療 : 最期の迎え方
某月某日 認知症棟 : 脳裡に刻まれる母と娘
某月某日 愛の(?)キーホルダー : 迎えに行くのは誰?
某月某日 終の棲家 : 大家との対決

第3章 人間関係はいつもヤッカイだ
某月某日 もうすぐ定年 : それでもまだ働きたくて
某月某日 不機嫌なドクター : 人生を懸けた交渉
某月某日 一抹の不安 : 素朴な好青年の正体
某月某日 辞めてもらいます : 突然の宣告
某月某日 追放 : ため込んで爆発するタイプ
某月某日 監視と非難 : 「もう一度、書き直してください」
某月某日 孤立 : 「レセプトをやったことないですって!」
某月某日 メール騒動 : 「非常にまずい事態になりました」
某月某日 ド素人以下 : 「許せる行為じゃありません」
某月某日 シミュレーション: 「辞めさせていただきます」

第4章 まだまだ辞められない
某月某日 火の車 : 垂れ流される赤字
某月某日 ベテランと甘ったれ : 介護のプロの嘆き
某月某日 ホステス : 「うらぶれた人間になるなよ」
某月某日 ワンマンショー : 恐るべき訪問看護師
某月某日 ライブ配信 : 娘の副業
某月某日 ロシアンルーレット : あるおじさんケアマネの告白
某月某日 疑似家族 : 気がかりな*妹。
某月某日 入院拒否 : 放り出される瀕死の患者たち
某月某日 心配ないよ : 責めない、叱らない、蔑まない
あとがき―事のような日々
装幀 原田恵都子 (ハラダ+ハラダ)
イラスト 伊波二郎
本文校正 円水社
本文組版 関月社

第1章 ケアマネの多難すぎる日常

岸山真理子 (著)
出版社 ‏ : ‎ フォレスト出版 (2021/7/9)、出典:出版社HP