弁護士をめざして56歳からの挑戦―司法試験一発合格




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はじめに

弁護士になりたい、と司法試験受験を決断してから、およそ六年の歳月が過ぎた。思い起こすと苦しいことばかりが去来するが、いろいろな場面で支えてくれた仲間と家族の力がなかったら、とても成し遂げることはできなかったと思っている。とりわけ、自動車総連会長を退任した後、中部産業・労働政策研究会理事長の職務を用意し、仕事と勉強を両立できる環境をつくっていただいたトヨタ労使の皆さんの配慮がなければこのような挑戦そのものが成り立たなかったわけで、いくら感謝しても足りない気持ちである。

そうしたすべての方々にお礼をする意味と、そして、司法制度改革が正しく前に進むことを願い、そのお役に立てればと、自分がたどった六年間の軌跡を語ることを決断した。出身や年齢という意味で、私のようなレアな存在の者が、決断から合格までを語ることで、同様のチャレンジャー出現につながってもらえば嬉しい。もちろん大学卒業からストレートに司法試験をめざす若い人たちにも参考にしていただければ、願ってもないことである。

ところで、私が、大抵の人にとってそろそろ引退を視野に入れ始める五六歳という年齢になって司法試験に挑戦し弁護士をめざそうと考えた理由については、まさにこの本でこれから語っていくことであるが、そのように大それた発想をした背景には、私自身が持っていた「人生二度生き」の哲学がある。前置きが少し長くなるが、それについて少し触れておきたい。

私がこの「人生二度生き」という考え方を抱くようになったのは、四〇代の終わりころだったと思う。そのころ私は自分の外貌や体力などを客観的に観察し、「どうも人よりも『ゆっくりと』齢をとっているのではないか」と感じるようになっていた。実際振り返ってみると、私は、少年時代、声変わりがクラスで一番遅かった。青年期に入ってからは、運動能力のピークがどうも人よりもかなり遅く来ているような気がしていた。例えば、走ることや飛ぶことは、小中学校のころはどんくさかったが、高校では体育祭でリレーの選手に選ばれるなど、いわゆる「遅咲き」であった。また、後に述べるように私は三〇歳少し前からランニングを始めたのであるが、四○歳になって、五〇〇〇メートルの自己ベストを出したり、四五歳でマラソンのベストタイム(三時間三〇分)を出したり…というようなこともあった。そして、五〇歳くらいになってくると、大抵の人が私を、実際の年齢より一割以上若く見てくれるようになってきた。

これらの情況証拠から、私は「どうも自分は九○過ぎくらいまで長生きするのではないか」という気分になってきたのである。仮にそうだとすれば、六○歳の定年になっても、まだ三〇年以上もある!三〇年もの長い時間を自分は「余生」のような形でおとなしく生きていけるだろうか。それはとても無理だろう。であれば、人生後半期でもう一花、新しい生き方を追求してもいいのではないか。「人生二度生き」。それができたら素敵だなあ。そんな気持ちになってからは、私はいつも心のどこかで「二度生き」のネタを求めていたような気がする。

私はたまたま「司法試験」というとても高いハードルのある後半生を夢見てしまったわけであるが、目標がなんであれ、二度目の人生に挑戦しようと思えば、リスクも困難も同じようにあるはずだ。私が自分の軌跡を語ることで、「自分も人生を二度生きてみよう」と考える人が増えるようなら嬉しいし、すでにそう考えている人になにがしかヒントとなるようなことを語ることができれば、私の挑戦がより意義を増すことにもなる。二度目の人生へのチャレンジャーが増えることは、日本の未来をより豊かなものにするに違いない(その理由は後述する)。そんな思いも込め、この六年間をできるだけありのままに語ってみようと思う。まずは笑ってしまうような序章から読んでいただきたい。

二〇一四年四月
加藤裕治

加藤 裕治 (著)
出版社 ‏ : ‎ 法学書院 (2014/4/1)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
序章 発表の日のドラマ
(一) 地の底から一転天上へ
(二) 情報不足との戦い
(三) 仲間たちとともに

第1章 司法試験受験決断まで
一 挑戦の原点
(一) 人々からの率直な問いかけ
(二) サラリーマンから労組役員へ

二 人生の舵をきる
(一) 二四年に及ぶ組合役員生活
(二) 労働運動の熱き時代
(三) 労働運動で出合った壁
(四) 労働運動冬の時代
(五) 連合運動の改革に向けて
(六) 厄介な民主主義
(七) 孤立無援の戦い
 
三 転身に向けて
(一) 司法制度改革の具体化
(二) 私の背中を押したもう一つの出来事

第2章 大転換
一 決断と戦いの日々の
(一) もう一足のわらじ見つかる |
(二) 一足目のわらじを履き替えて
(三) 名城大学法科大学院合格
(四) 篠田研究科長のお導き
(五) 二足目のわらじを履く

二 決断の余禄
(一) 娘たちの決断必
(二) 父として

三 陸続たる壁との戦い
(一) 履修科目のパズル解き
(二) 時間が足りない
(三) 一足目のわらじをもっと軽く…
(四) 行政法なんて法律があるの?
(五) 山が見えない
(六) 話しが違う
(七) 一発勝負と決めて~
(八)「あてはめ」という概念

第3章 戦いの記録
一 たくさんの助けと幸運と
(一) 私の指定席
(二) 車通勤から電車通勤に
(三) タクシーも勉強部屋
(四) 愛妻おにぎり
(五) ニックネームは二宮金次郎
(六) こだわりの万年筆
(七) アルコールを命綱として

二 体力勝負
(一) ランニングフリーク
(二) 体力、筋力が生みだす集中力
(三) 脳も筋肉

三 加藤流勉強法
(一) 記憶力強化について
(二) カード式暗記
(三) 条文の暗誦
(四) 基礎体力の重要性
(五) 短答式のスピードアップ
(六) 徹底ノート作戦
(七) 『受験新報』の誌上答練活用
(八) 幸運の女神のささやきもあった
(九) やりきれることだけを目標にする

第4章 挑戦の裏にあったもの
一 母との別れ
(一) 新築と引越し
(二) 再び母と同じ屋根の下で
(三) 胆のう癌との闘い
(四) 母の頑張り
(五) 別れの日

二 挑戦の代償
(一) 歯肉炎
(二) 視力の悪化
(三) ボロボロになっていた身体
(四) 戦い終えて

第5章 チャレンジャーに伝えたいこと
一 チャレンジに成功するために
(一) 素直な人が合格する
(二) われ以外すべて師なり
(三) 日々積み重ねるということ
(四) あきらめないこと
(五) あせらないこと

二 チャレンジで得られるもの
(一) 世代を超えた仲間
(二) 感性がよみがえった
(三) 超高齢化社会を乗りきるために

第6章 司法修習を振り返って
一 司法修習のカリキュラム
二 二回試験の厳しさ
三 合格のご褒美

終章 新しいスタートライン
一 弁護士としての夢

二 法科大学院の行く末
(一) 法科大学院創設と司法試験改革がめざしたもの。
(二) 法科大学院の危機
(三) 司法試験改革議論の今
(四) なすべき「改革」とは

三 お礼と新たなる決意

カバー写真撮影 鈴木龍一郎 カバー・本文挿絵 大桃裕子

加藤 裕治 (著)
出版社 ‏ : ‎ 法学書院 (2014/4/1)、出典:出版社HP