看護師のための 医療安全につながる接遇




【医療接遇のおすすめ本 – 基本から事例に沿った応用まで】も確認する

はじめに

「えっ、接遇が医療安全?」本書のタイトルを見て、あなたは「?」と感じてこの本を手に取ってくださったのでしょう。

本書は、下記のような目的のヒントになる内容です。

・患者さんやチーム間で良好な関係を構築して、安心・安全な医療を提供したい
・ヒヤリハットやインシデントを未然に防ぎたい
・実際にいま、患者さん対応やチーム間(部下育成)で悩んでいて、解決したい

突然ですが、患者さんはあなたが勤務する病院(クリニック)に訪れるとき、どのような状態でしょうか。通りがかりに「立派な建物だ、今度機会があったら行ってみよう」とか、「雰囲気がよさそうだから行ってみたいな」という状態でしょうか。

健康な赤ちゃんを産む産科などの肯定的な状態もあります。しかし、一般的には病院に行くときは、調子が悪い、病気かもしれない……と痛みやつらさ、そして不安や緊張といったネガティブな状態です。「患者さんは「○○に旅行に行く」とか「お給料をもらったからワンピースを買おう」といったワクワクする、楽しい状態ではないのです。人はワクワクするとか楽しいといった感情のときは、前向きで肯定的で、ちょっと気になることがあっても受け入れることができ、許せる心のゆとりがあります。

しかし、その反対の痛みやつらさがある、不安や緊張といった負の感情のときは、ささいな一言、ちょっとしたことが気になります。そんな状態の患者さんをサポートする医療現場のスタッフ、とくに看護師のみなさんに少しでもお役に立ちたいと思い、この本を書きました。私は、福岡かつよと申します。20年以上、医療・介護現場に特化した医療接遇コンサルティング、研修、講演活動を行ってきました。

10万人を超える医療現場を支える医療者の皆さんとともに、安心・安全な医療環境のために接遇力向上に取り組んでいます。本書では、そのなかで培ってきた医療現場に求められる接遇について紹介しています。相手の心の中は手に取るように見えるわけではありません。いくら看護師として患者さんへの考えや想いがあったとしても、伝わらなければもったいないのです。持っている技術や知識、人間力は言葉と行動で伝達されるのです。この伝達こそが「医療接遇」なのです。

「接遇」と聞くと、接客マナーをイメージする人が多いでしょう。「おじぎの角度は何度」「挨拶は笑顔で」などが代表的です。確かにこれらも接客マナーとして大切なことではあります。しかし、医療機関での接客マナーは接遇のごく一部にしか過ぎないと私は考えています。ですから、本編には一般的な接客スキルやビジネスマナーは出てきません。看護師に求められるのは、高い看護技術で早期回復に努めること、患者さんの痛みやつらさに寄り添うことなど、安心安全な医療の実践ではないでしょうか。

私の伝えたいことは、「医療接遇は医療安全につながる」ということです。医療接遇は、これが正解、不正解といった、明確に数値化できるものではありません。本書を読み進めるなかで、「これも接遇のひとつなのか」といった新しい発見もあると思います。私はクライアント先の看護師のみなさんに、「あなたはどんな医療人になりたいですか?」と訊ねています。本書を通じて医療現場での接遇が重要な理由、継続することの大切さなどを理解することで、医療者としてのあなたの理想に近づく、その成長の一助になれば幸いです。

2020年10月
福岡かつよ

福岡 かつよ (著)
中央法規出版 (2020/11/2)、出典:出版社HP

目次

はじめに

part1 「医療」の差は「接遇」の差で決まる
あなたの接遇力はどのくらい?
患者さんの医療評価のポイントは?
医療接遇は医療安全の柱
医療行為は「言葉」と「行動」である
なぜ、ヒヤリハットが起きる
高いスキルが発揮できる職場をつくる
医療接遇=マナーの理由
医療接遇の答えは現場にある
現場で活かす医療接遇
「伝え方」で結果が変わる
「思考」と「感情」が「言葉」と「行動」に現れる
看護師としての「適切な言葉づかい」確認シート
看護師としての「医療安全につながる身だしなみ」チェックリスト
接遇の振り返りができますか

part2 医療現場で起こるコミュニケーション・ギャップの正体
自分とのコミュニケーションで「言葉」と「行動」が変わる
自分を理解し、他者を理解する看護とは
チーム内の対人コミュニケーション
看護師が「笑顔」で患者に接する理由
コミュニケーション・ギャップを生む「コミュニケーション特性フィルター」とは?
自己理解・他者理解のヒント「認識スタイル」
相手に伝わるコミュニケーション術

part3 好循環・悪循環のケース・スタディ
言葉がひとを動かす!
ナースコールに慌てないで行動したい
採血が苦手で、患者さんや他の看護師に迷惑をかけてしまう
問診が苦手で、患者さんの訴えを丁寧にくみとることができない
上司や医師の目が気になり、患者さんの安全・安楽に気がまわらない
一人で集中して仕事をしたいと言う部下
他部署との関係が悪く、憂うつになる
仕事の評価は高いが、チームになじめない同僚がいる
もっと余裕をもって、患者さんに対応したい
検査説明が苦手なため、患者さんが聞いてくれない・イライラされる
管理者として、目先の仕事に追われている
どこからはじめていいのかわからない
患者さんになれなれしい言葉づかいをする新人ナースを、上手にたしなめたい
遅刻常習の(時間、期限にルーズな)後輩をうまく注意したい
言われたことしかやらない部下の意識を変えたい
きちんと申し送りをしたのに、同じことを聞いてくる
文句や否定的な言葉ばかり言う部下をどうにかしたい
患者さんに納得してもらえる看護をするには

part4 看護力を高める「接遇」&「コミュニケーション」
なぜ、申し送りに時間がかかるのか
傾聴だけで医療は達成できるのか
「なぜ」を考えると看護は変わる

・culmun
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感染対策マニュアルはコピーすれば安心?
「○○さん」のひと言が価値を高める
ミスが起きたときの対応で組織の信頼がつくられる
少しの気遣いが相手の心に響く
問診力を高める3つのポイント
オンライン診療でも満足度の高い接遇
院内のルールを守ってもらえない!
「すみません」は便利な言葉!
「これくらい……」が全体を乱し、医療事故につながる
自信がなかった看護師が変われた理由は

福岡 かつよ (著)
中央法規出版 (2020/11/2)、出典:出版社HP