気象予報士試験 模範解答と解説 53回 令和元年度第2回
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はじめに
気象予報士の過去53回の試験で11,013名の合格者が出た気象予報士会も一般社団法人となり、全国的に社会の各方面で活躍しはじめている。
1995年5月からの本格的な気象予報士の登場とそれを支える各種気象資料・予報支援資料の普及によって、わが国の民間気象業務が今後一層振興していくことが切望される。巧みな話術ではなく、科学的な実力が発揮されねばならない。
ここに過去52回に引き続いて、第53回(令和元年度第2回)気象予報士試験に対する模範解答と解説を刊行するわけであるが、刊行の趣旨は初めから一貫して変わっていない。これまでの本番の試験によって、気象庁が考えている気象予報士に必要な知識と判断力・予報作業上の技能の範囲と程度が、具体的に一層明らかとなった。回を重ねることによる出題者側の試験問題作成の態勢の定着と進化もうかがえるわけである。
しかし最近は、範囲の拡大や重層的な知識、より高い専門性や実践能力を試す設問が、学科試験に出題されはじめている点が注目される。また、実技試験では、学科試験の延長としての学問的根拠を問う設問とより多くの種類の作業図を用いた実務的な技能を試す設問が増えてきている。その意味では、気象予報士の資格をとるための単なる試験対策、あるいは受験テクニックということではなく、日進月歩を遂げている天気予報技術を使いこなす真の実力が、気象庁以外の場所においても普及し、かつ気象業務にたずさわる官民全体の技術水準の向上が実現するような努力が積み重ねられることが強く望まれている。
あわせて、日進月歩の勢いで進展している気象庁における観測・予報業務等の実態に関する一層の情報公開も必要と考える。試験問題作成者が、日常取扱う気象観測器、目にする各種気象資料や気象情報も、一般社会にいる者にはなかなか接する機会がないし、適当な解説書も刊行されていない。実技資料の見方、読み方さえしっかり身につけていればとまどわないということもいえるかもしれないが、限られた試験時間を考えると日常的に扱い慣れている必要があると思うので、そうした配慮がなされることを重ねて要望したい。
ところで、近年、気象予報士試験の受験者数が頭打ちとなっているが、受験者層の構成に変化がみられ、気象業務に関係のない一般市民からの受験が顕著となっている。その結果、合格率が近年落ちているが、気象予報士の資格の内容に変更はなく、本来の目的に沿った準備を重ねれば必ず合格できる状況に変わりはない。また、平成14年5月に、気象業務支援センターが「合格基準」を発表したことは、受験者に余計な心配をさせない上で歓迎される(6頁参照)。あわせて、第22回の実技試験から、設問毎の配点が初めて公表されたことも、歓迎すべきことである。できれば、採点方法についても、ある程度の情報開示が望まれる。
本書はこれまでとまったく同様に、天気予報技術研究会が企画し、全体の編集と一部執筆には瀬上哲秀があたった。解説は、元高層気象台長下道正則氏、元新潟地方気象台長酒井重典氏、元鹿児島地方気象台長下山紀夫氏、元東京航空地方気象台長饒村曜氏、元気象庁予報官伊東譲司氏、元気象衛星センター総務部長寺本幸弘氏、気象予報士の岡﨑貴是氏にそれぞれ分担執筆して頂いた。
また、本書の準備段階においてお世話になった気象庁の各担当部局のすべての関係官に対して、併せて、試験問題・学科試験の解答・実技試験の解答例を提供して下さった(一財)気象業務支援センターの羽鳥光彦理事長と試験部のスタッフの方々に対して、ここに紙面をかりて深く感謝の意を表したい、また、出版にあたられた東京堂出版編集部の上田京子氏には、ひとかたならぬお世話になった、厚くお礼申し上げたい。
最後に、しかし多大の謝意をこめて、図の掲載を許可された、すべての著者・出版社に対して心から感謝したい。
目次
はじめに
新しい時代の資格「気象予報士」
気象予報士試験試験科目の概要
学科試験への取り組み方と勉強の仕方
実技試験への取り組み方と勉強の仕方
[補遺]
受験案内
学科試験予報業務に関する一般知識
学科試験予報業務に関する専門知識
実技試験1
実技試験2
解答用紙
新しい時代の資格「気象予報士」
1.社会生活環境の変化と気象技術の進展
いまさらいうまでもなく、社会は高度情報化しつつあり、われわれの生活環境もまた大きく変わろうとしている。気象情報に対するニーズも、それに伴って変わりつつあり、より便利な生活を望み、欲しい時に欲しい所の気象情報が容易に入手できるようになって欲しいという要望が強い。最近、気象情報や天気予報の精度も向上しつつあり、より身近な情報を、というニーズの高まりは自然なことである。
一方、気象技術の進展によって、こうしたニーズにこたえられる状況が生まれつつある。気象予測についてみると、近年、今日・明日・明後日の天気予報(短期予報)の精度が著しく向上したのに続いて、数時間先までの天気予報(短時間予報)を含めた、きめの細かい定量的な1日予報の精度向上を目指した新技術が業務化され、2012年3月の第9世代数値解析予報システム(NAPS-9)、2018年6月の第10世代数値解析予報システム(NAPS10)への更新を順次迎えた。
これまでの全球モデル及びメソモデルの性能アップに加え、局地モデル、全球アンサンブル予報システム、メソアンサンブル予報システムなどの導入の運びとなった。他方、レーダーエコー合成図(5分毎)、解析雨量図、降水短時間予報の1kmメッシュ化も実施された。こうした新しい予報業務の展開によって、予報結果もますます多種・多様となり、ユーザーである国民に対して多彩なサービス提供が可能となってきた。たとえば、平成22年5月からの警報・注意報の市町村を対象区域としての発表や竜巻発生確度ナウキャスト・雷ナウキャストの実施、25年8月からの特別警報の運用など。
このように、社会のニーズの高まりと気象技術の進展がうまくマッチする将来を視野にいれて、これまで不特定多数にたいする天気予報は気象庁のみが行っていた制度を改正し、対象地域を特定した局地的な天気予報や中期予報・長期予報を民間気象事業者も行えるようにし、気象情報サービスの振興を図るようになって、既に20年以上の歳月が流れた。
2.「気象予報士」制度等の新設
上に述べた情勢の変化をふまえ、気象庁では気象審議会にたいして、平成3年(1991)8月8日「社会の高度情報化に適合する気象サービスのあり方について」の諮問を行い、一年後の平成4年(1992)3月23日答申(以下、第18号答申と呼ぶ)を受けた。答申の概要は以下の通りである。
(1)これからの気象情報サービス国民から気象情報に関し寄せられる多様な要望に対処し気象情報サービスを高度化するためには、その基礎として晴、雨等の天気に直接結びついたメソ(中規模)気象現象についての量的な予測技術を開発する必要がある。この予測データと各種関連情報を総合的に活用することで、利用者の個別的な目的に応えるさまざまな付加価値情報ネットワーク等の活用を図り「欲しい時に欲しい所の気急情報」の提供を求める国民の要望に応えて行くことが課題となる。
(2)官・民の役割分担による気象情報サービスの推進気象庁は、防災気象情報及び一般向けの天気予報の発表を担う。前述のメソスケール気象現象の最的な予測技術を開発し、分布図等画像情報も活用して、これらの情報の拡充を図ることとする。一方、民間気象事業者は局地的な天気予測やさまざまな付加価値情報の加工あるいは情報メディアを活用した情報提供を受け持ち、上記データを活用して国民の高度化・多様化する要望に応えることとする。なお、民間気象事業者の提供する気象情報を広く国民の利用に供するためには、混乱の防止、情報の質の確保等が必要となる。このため、米国で実績のある技術検定制度の活用を図ることとする。
(3)防災情報に関する関係機関との連携・協力の強化気象官署と防災関係機関の情報システムをオンラインで結ぶことにより、情報提供の迅速化、相互のデータ交換等の推進を図り、防災業務の一層の高度化を図ることが望ましい。
上に述べた第18号答申の趣旨に沿って、気象庁では気象業務法の一部改正のための法案を作成し、所要の手続きをへて第126回国会に提出し、平成5年(1993)5月成立、6月公布の運びとなった。改正に伴う今後の気象サービスのあり方の模様は、主要な改正点は次の三点である。
(1)気象予報士制度の新設と指定試験機関の設置
(2)民間気象業務支援センターの設立
(3)防災気象情報との整合性