グリーンセイバー―植物と自然の基礎をまなぶ




まえがき

21世紀は環境の世紀、などという標語を耳にすることがある。しかし、それを自分の問題と意識している人が一体どれだけあるのだろうか。多くの人が、評論家のように、みんなが環境の問題を考えなければならない、などといって、それだけで環境問題を考えているような気になっていたのでは、地球環境は一向によくなるはずがない。

本当に問題なのかどうか、自分の身の回りを着実に見ることから始めよう。環境を、政治家や、科学者や、企業など、指導的立場の人たちが考えればよいと考え、個人が貢献できることはせいぜい電気やガスの節約くらいと思っていたのでは、いかに問題に無知であるかを表明しているようなものである。必要なのは評論ではなく、実践である。

日本では、環境問題への対応がもっとも進んでいるのが企業で、もっとも遅れているのが一般大衆であると断じたら、多分反発が強いことだろう。しかし、二酸化炭素の軽減にもっとも貢献しているのが企業であることは数字ではっきり示される。夏に行けば寒いと思い、冬には暑くて上着を取ることになるアメリカでは、京都議定書に批准できる状況にはない。企業は目先の営利だけを追究し、個人は快適な生活だけを求めて、20世紀における物質・エネルギー志向の価値観が突き付けている現実の問題に、まだ気がついていないのである。

今という目先だけを見て、明日の地球を見る余裕がないからである。アリを笑ったキリギリスの寓話を知らない人が多いのだろう。滅びたい人が自分だけ滅びるのではなく、地球全体をダメにしてしまうのを、見て見ぬ振りをするわけにはいかない。そのためにも、地球環境問題とは何かを、すべての人が学び、知らなければならないのである。地球環境を支える植物の生きざまにしても、基礎からきっちり学んでいる人は決して多くはない。学校教育だけで習得できない現実問題を、科学の基礎から学ぶことによって、自分のライフスタイルに生かすことである。

グリーンセイバーに集う人たちの学びの意欲が、テキストをもっと広く一般の人々にも提供しようという雰囲気を生み出した。学びを通じて、自分の生きざまを整えようという前向きの姿勢が、学びの環を大きく拡げることへ発展しようとするのである。この本は、はじまりはグリーンセイバーに集う人たちの試験勉強のためのテキストだった。しかし、テキストに触れた人たちの学習意欲の高揚が、もっと広く、一般の人々に植物とつきあう方法を共有する本をつくり上げることになったのである。

自分の周りを自分の目で見るといっても、教えられなければ見えないものもある。ちょっとした示唆があれば、それまで見えなかった美しさや問題点が見えてくる。見えなかったものが一つ一つ姿を現わしてくると、見る歓びは無限に拡がる。物質的な富ではなく、心を豊かにし、人間であることに歓びを見い出す時である。楽しい学びを通じて環境問題を解決する実践に参加したいものである。

2001年12月1日
岩槻邦男

片山 雅男 (著), 清水 善和 (著), 下園 文雄 (著), 岩槻 邦男 樹木・環境ネットワーク協会
出版社: 研成社 (2002/01)、出典:出版社HP

もくじ

第1章 植物の基礎知識一植物と仲よくなるために一
1.1 植物分類の基礎知識
1.1.1 生物の分類
1.1.2生物の五界
1.1.3地球上での植物の誕生と分化
(1) 先カンブリア時代(約46億~5億7000万年前)
(2) 古生代(約5億7000万~2億2500万年前)
(3) 中生代(約2億2500万~6500万年前)
(4) 新生代(約6500万年前~現代)
1.1.4 植物の識別
(1) 植物の識別一図鑑の使い方(検索法)―
(2) 日本の代表的植物(森林優占種、身近な雑草、街路樹、園芸種)

1.2 植物の外部形態および観察の基礎
1.2.1 植物の基本構造
(1) 茎
(2) 葉
(3) 根
(4) 花
1.2.2 葉の構造
(1) 葉の種類
(2) 普通葉の構造
(3) 葉身の形態
(4) 単葉と複葉
(5) 葉脈
(6) 葉のいろいろ
1.2.3 茎(幹)
(1) 葉序
(2) 芽の種類と構造
(3) 短枝と長枝
(4) 分枝(枝分かれ)
(5) 樹形
1.2.4 花
(1) 花
(2) 花托
(3) ガク片
(4) 花弁
(5) 雄しべ
(6) 雌しべ
(7) 花序
1.2.5 根
(1) 根系
(2) 特殊化した根
1.2.6 果実と種子
(1) 果実と種子
(2) 果皮の性質による分類

1.3 植物の生活史および生育特性 基礎編
1.3.1 植物の生育形
(1) 樹木の生育形
(2) 草の生育形
(3) つる植物
1.3.2 植物の生活史
(1) 生活史の各ステージ
(2) 生活期の長さと結実性による分類
(3) 花芽の形成と開花
(4) 種子散布
(5) 発芽活性と休眠
(6) 発芽
(7) 実生の定着

1.4 植物の生育環境
1.4.1 植物の生育環境
(1) さまざまな環境要因
(2) 環境の影響の程度
(3) 作用と反作用
1.4.2 光要因
(1) 光合成と呼吸
(2) 陽葉と陰葉
(3) 光刺激に対する反応
1.4.3 水環境
(1) 水の役割
(2) 植物体内の水の移動
(3) 植物体内の水分量
(4) 植物の工夫
1.4.4大気要因
(1) 二酸化炭素
(2) 酸素
(3) 大気汚染物質
(4) 風要因
1.4.5 温度
(1) 最適温度
(2) 温度障害
(3) 植物の生活史と温度
(4) 温度と植生の分布
1.4.6 土壌要因
(1) 土壌とは
(2) 土壌の生成過程と土壌断面
(3) 土壌の構造と三相分布

第2章 生態系と自然保護
2.1 植生の基礎知識
2.1.1 植物相と植生
2.1.2 植生の種類
2.1.3 森林の構造
2.1.4 世界の植生帯
(1) 湿性系列
(2) 乾性系列
2.1.5日本の植生帯
2.1.6垂直分布

2.2生態系の基礎知識
2.2.1 生物界の階層性
2.2.2 生態系のなりたち
(1) 構成要素
(2) 相互作用
(3) エネルギー流
(4) 光合成と呼吸の化学反応式
(5) 生態系の範囲
(6) 生態系と環境保全
2.2.3 食物連鎖
(1) 食う-食われるの関係
(2) 生物濃縮
(3) 環境ホルモン
2.2.4 生産諸量
(1) 純生産量、総生産量、呼吸量、生物量
(2) おもな生態系の生産諸量
(3) 生態ピラミッド
2.2.5 物質の循環
(1) 水の循環
(2) 炭素循環と地球温暖化
(3) 窒素循環と酸性雨
2.2.6 地球環境の形成
2.2.7森林の効用

第3章 植物の栽培・管理
3.1 植物の日常管理
3.1.1 灌水(散水)
(1) 鉢物の灌水
(2) 庭木の散水
3.1.2 肥 料
(1) 鉢物に与える肥料
(2) 庭木に与える肥料
3.1.3 病害虫の防除
(1) 病原体(病気)
(2) 害虫
(3) 農薬に頼らない病害虫の防除
3.1.4 整枝剪定
(1) 庭木・花木の剪定
(2) 鉢植え果樹
(3) 鉢植え草花
(4) 観葉植物

3.2 植物の移植法
3.2.1 移植の時期
(1) 春植え
(2) 梅雨植え
(3) 秋植え
3.2.2 草花の移植
(1) 鉢・プランター栽培
(2) 庭植え、花壇栽培
3.2.3 樹木の移植
(1) 苗木の選び方
(2) 掘り取り
(3) 植えつけ

3.3 植物の繁殖法
3.3.1有性生殖
(1) 種子繁殖
(2) 配偶子繁殖(シダ類)
3.3.2 無性生殖/栄養繁殖
(1) 挿し木
(2) 接ぎ木
(3) 取り木
(4) 株分け
(5) 球根類の繁殖
(6) ランナー(ほふく枝)
(7) ストローン(ほふく茎)
(8) 短ほ枝
(9) 吸枝
(10) 組織培養
(11) 無性芽繁殖
(12) ラン類の種子の無菌培養

第4章 植物の文化・めぐみ
4.1 植物の文化
4.1.1日本人の季節感と植物
(1) 五節供
(2) 春の七草
(3) 秋の七草
(4) 野菜や果物の旬

4.2 植物のめぐみ
4.2.1 生活資材としての木材の利用
(1) 建築材
(2) 家具材
(3) 工芸品
(4) 器:曲げ物と桶・樽
4.2.2 農耕と植物
(1) 作物とは
(2) 作物の起源
(3) 作物の改良
(4) 作物の伝播
4.2.3 里山の伝統的利用
(1) 里山とは
(2) 里山の構成要素
(3) 里山の利用法

参考資料・索引等
主要な樹木と身近な草本200種
参考図書
あとがきにかえて
索引

片山 雅男 (著), 清水 善和 (著), 下園 文雄 (著), 岩槻 邦男 樹木・環境ネットワーク協会
出版社: 研成社 (2002/01)、出典:出版社HP