社員をホンキにさせるブランド構築法 (DO BOOKS)




はじめに

「ブランディング」という言葉は、現在ではよく使われるようになりました。ブランド構築、ブランド戦略についてもいろいろな本が出版されています。

私がブランド戦略を企業の付加価値として非常に大事だと思いはじめたのは、1990年代の中頃のことです。当時、一般的には、ブランドは中小企業には手の届かないものと考えられていましたが、私はそんなことはないのではないかと感覚的に感じていました。ブランドに関するいろいろな本を読み、ブランディングに関する講座などにも参加してみましたが、そのほとんどが大企業のブランド・マネージャーによる成功事例の講義でした。

なるほどと思う反面、はたしてそれを自分にどう応用していいかがわからなかったのです。後になって気づいたことですが、それはたぶん体系化されていなかったことが要因だったのでしょう。まして、再現性があるものかどうかも疑わしく思っていました。それから10年間、ブランディングの方法論を模索した結果、ブランド構築を伝える組織を自分の手で立ち上げてみようと思い立ちました。

ブランド・マネージャーやブランド構築のプロフェッショナルを養成する専門機関を立ち上げようと考えたのです。養成機関の設立に先立ち、そもそもブランディングに対して、中小企業のニーズはあるのかどうかを探るため、ブランドに関わるセミナーを毎月のように行ないました。

結果、私が予想した以上に受講を希望する人は多く、ブランディングの必要性を日に日に実感するようになりました。そこで、標準化したフレームワークを作るべく、中央大学大学院戦略経営研究科田中洋教授をはじめとする学識者、元・株式会社日本ブランド戦略研究所代表取締役の榛沢明浩氏をはじめとする研究者、株式会社JOYWOW取締役会長阪本啓一氏、外資系広告代理店の取締役を歴任された小池玲子氏、ブランドコンサルタント水野与志朗氏などの実務家の協力を仰ぎながら、2008年初頭に再現性のあるカリキュラムを作成し、同時に、ブランド・マネージャーとそのトレーナーの育成システムを作り上げたのです。その組織が般財団法人ブランド・マネージャー認定協会となります。

ブランドの種類というのは、プロダクト(製品)、事業、企業、地域、組織、店舗、パーソナル(人)などいくつもありますが、自分たちでブランドを築くフレームさえあれば、会社の規模に関係なく、どんな業種にもブランディングは可能です。これまで、ブランディングはコンサルタントや広告代理店などが外部で築いたものを導入することが多かったのですが、中小企業を中心に、自社内で自社のスタッフと一緒になって築くケースが少しずつですが増えてきています。結果として、それがうまくいっている会社は社員がいきいきと働いていますし、社員自身が経営に参画しているという意識が高くなっているようです。これは強い組織を築く上で大きな意味があると断言できます。

私たちは、このブランディングをチームで行ない、これを企業全体に浸透させていくことを「チームブランディング」と呼んでいます。チームブランディングでは、スタッフに答えを与えるのではなく、グループワークを通して自分たちの頭で考え、意見を交換することで、「自社の価値観」や「他者(顧客・スタッフ)の価値観」を深く理解し、「自らの価値観」との共通点を発見することを主眼としています。それが「自分ごと」として、主体的にブランド・アイデンティティに即した行動ができる人材の育成、チームの育成につながるのですが、本書で紹介したいのは、まさに組織、会社、店舗の「チームブランディング」です。

私はチームで築き上げる組織のブランディングにこそ意味があり、会社を強くするものであると信じています。実際にそのような会社や店を見てきたからこそ実感できるのです。本書では、そうした多くの人が関与するチームブランディングとはどういうもので、どうすればそれが構築でき、どんな成果を獲得できるのかを、実際の事例を絡めながら解説しています。本書が中小企業の組織や商品の価値を高める活動のお役に立てれば幸いです。

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 代表理事
岩本俊幸

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 (著)
同文舘出版 (2015/2/4)、出典:出版社HP

推薦文

かつて、主に大企業のためのものであったブランド論は研究が進み、現在では中小企業にも浸透しつつある。しかし、実際にブランド論を経営に活用できている中小企業はまだまだ少ないというのが実情であろう。

もともと、多くの日本企業はブランディングに熱心に取り組んできた。それは、一大ブームともなったCIの導入例を見ても明らかである。一方で、ブランディングを組織や商品の価値を向上させるためだけではなく、組織のカルチャーづくりにまで高めることができた例は非常に少ない。大企業の生産現場では小集団活動が活発に行なわれ一定の成果を上げているが、ホワイトカラーにおける成功例はほとんどないと言っていいだろう。

ブランディングを学んでも組織づくりに応用できないのは、そのためのメソッドがほとんどなかったためである。組織づくりは経営の要諦であり、経営者、とくに中小企業の経営者は人材の確保に苦心している。流動的な人の心をつなぎとめるにはどうすればよいか。その一つの解答が、本書で紹介されている『チームブランディング』である。

『チームブランディング』の優れたところは、グループワーク、セッションワークショップ等の手法を用いて、ブランド論の考え方を職場で実践できるメソッドとして成立させた点だ。メーカー、病院、美容室など、本書で初へ、本書で紹介されているさまざまな業種における事例を見ればわかる通り、そのメソッドには汎用性がある。

『チームブランディング』の考え方と実践方法を学ぶことで、組織や商品の価値の向上と、チームづくりや従業員のモチベーションの向上を同時に行なうことができる。本書は、中小企業の経営者はもちろん、かつてブランディングを取り入れながら組織のカルチャーの変革にまで至らなかった大企業の担当者にもお薦めできる内容だ。本書には、人の心をつなぎとめる“仲間がいる環境”を作りながら、組織や商品の価値を高め、ビジネスに結び付けるためのヒントが多く含まれている。ブランド論を実務に応用するための書として、一読することを薦めたい。

2014年12月1日
中央大学ビジネススクール教授
田中洋

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 (著)
同文舘出版 (2015/2/4)、出典:出版社HP

目次

■はじめに
■推薦文

Part1ブランドの目的と定義を知る
■企業の経営にとって本当に必要なことは何だろう?
■ブランドの重要性
■ブランド構築の目的とは何だろう?
■ブランドの役割について考えよう
■ブランドを定義すると?
■ブランドを想起するプロセスって?~再認と再生〜
■ブランド・アイデンティティとは何だろう?
■マーケティングの定義と目的を知ろう
■消費者・顧客との関係構築について考えよう

Part2チームブランディングとは何だろう?
■チームブランディング実施前に知っておくべきこと
■チームブランディングに関わる社員とは?
■なぜ、今チームブランディングなのか?
■チームブランディング実施のポイント

Part3チームブランディングのステップ
■チームブランディングを構築するには手順がある
STEP1PEST分析と3C分析~市場機会を発見しよう
STEP2セグメンテーション〜細分化はどう進めるのか?
STEP3ターゲティング~見込み客をどう選定するか
STEP4ポジショニング〜独自の立ち位置を見つけよう
STEP5ブランド・アイデンティティ〜どんな旗を立てるのか
STEP64P/4Cマーケティングミックスブランドを具体化する
STEP7ブランド要素・ブランド体験~ブランドとの出会いを決める
■推奨規定・禁止規定~やるべきこと・ダメなこと
STEP8マーケティングの目標~目標を数値化してみよう
■8つのステップでブランド・ステートメントを作ってみる

Case1BtoC新規オープン美容室りんごの木セントラル(長野県長野市)

Part4チームブランディングを実践で学ぼう
■チームでブランド構築を実践してみよう
Case1BtoC新規オープン美容室りんごの木セントラル(長野県長野市)
新規店舗オープンに向けたチームブランディング
Case2BtoCリニューアル上諏訪温泉しんゆ(長野県諏訪市)
温泉旅館のチームブランディング
Case3BtoCリニューアル桂川レディースクリニック(滋賀県大津市)
医療機関のチームブランディング
Case4BtoBリニューアルエヌケイエス株式会社(愛知県名古屋市)
計測器の校正企業のチームブランディング
Case5BtoCリニューアル株式会社王宮道頓堀ホテル(大阪府大阪市)
ホテル・宴会場のチームブランディング
Case6BtoCリニューアル株式会社Dreams(大阪府大阪市)
小売店のチームブランディング

■参考文献、資料
■執筆・編集協力者

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 (著)
同文舘出版 (2015/2/4)、出典:出版社HP