実践モチベーションマネジメント【BASIC】 (公認モチベーション・マネジャー資格BASICTEXT)




はじめに

「自分はもっと仕事ができると思っていたのに…」
「仕事が面白くない。つまらない。やりがいを感じられない…」
「自分は人見知りで、なかなか職場に馴染めない…」
「今の上司はどうしても尊敬できない…」
「掛け声ばかりで会社は何もしてくれない…経営はどうなっているのか…」

ビジネスパーソンなら誰しも、こうした悩ましい問題に直面します。あなたはどう対応していますか?本書にはそのヒントがたくさん詰まっています。入社、昇降格、異動、出向、転籍、役職定年、転職など、職業人生には働く人のモチベーションを左右する様々な出来事があります。高い成果を上げ続ける人に共通しているのが、仕事に対するモチベーションを自分でマネジメントする能力が高いということです。

モチベーションを自分でマネジメントする能力が高いビジネスパーソンは、これまで「安心して仕事を任せられる」「手間や面倒がかからない」「大人」といったように「放っておいても大丈夫」という意味で信頼を集めてきました。加えて、市場や組織の環境変化が激しい中では、組織としても個人としても高いレベルの「変化適応力」が求められます。変化適応力に乏しい会社は市場から退場を命じられ、乏しい個人は労働市場で評価されないことになります。そして、「変化適応力」の基礎となる「モチベーション・マネジメント」の能力が全てのビジネスパーソンにとって必須の能力となってきているのです。

こうした企業や組織、社会の関心の高まりを受けて、学校法人三幸学園と株式会社リンクアンドモチベーションによって、2012年4月一般社団法人モチベーション・マネジメント協会(以下「当協会」)が設立されました。三幸学園の設立になる東京未来大学において、同じ2012年4月にモチベーション行動科学部が誕生しています。また、株式会社リンクアンドモチベーションは、日本で初めてモチベーション・コンサルティングをビジネスとして成功させた東証一部上場企業です。ともに、モチベーションに関する研究所を有し、モチベーションに対する科学的な理解と探究、そしてモチベーション・マネジメントの実践と普及に、強い使命感をもって取り組んでいます。

この取り組みの一環として、当協会ではモチベーションをマネジメントする能力を表す指標として「公認モチベーション・マネジャー」資格制度を発足させました。この資格は当協会が認定するビジネス系資格として、ベーシック、アドバンスト、プロフェッショナルの3種類に分かれています(図参照)。

Basic Advanced Professional
主な取得対象者  ●若手社会人
(特に社会人1年目)
●組織管理者
●プロジェクト管理者
●経営幹部
●コンサルタント
対象者ニーズ  ●自己の仕事の意味付け
●上司や同僚とのコミュニケーションの活性化
●部下のモチベーションUP
●組織内コミュニケーションの活性化
●自組織全体の活性化
●活性化のための仕組みづくりと実践のポイント
学習内容 自分自身に対するモチベーション・マネジメントを中心に、主に実践スキルを身につけます。 他者に対するモチベーションマネジメントを中心に、主に実践スキルを身につけます。 組織に対するモチベーション・マネジメントを中心に、理論・知識と共に、実践スキルを身につけます。

 

本書はベーシック資格のテキストです。ベーシック資格は、若手のビジネスパーソンの皆さんが主な対象となります。自分の仕事を意味付けし、モチベーションをセルフコントロールする実践スキルを身につけることを主な目的としています。ますます求められるようになった自分のモチベーションを適切にマネジメントする能力を身につけることができます。

そして、本書は実践的な能力を習得いただくという目的に合わせて、多くの資格のテキストらしからぬ構成となっています。若手ビジネスパーソンの皆さんが直面する悩ましい問題を15のケースとして、『対自分』『対仕事』『対職場』『対上司』『対会社』の5つの章でそれぞれ3ケースずつ紹介しています。そして、その悩ましい問題に対してモチベーション・マネジメントの達人であり、『café&bar M』のオーナーであるモチベーション・マネジャー持辺さんがアドバイスをするというストーリー仕立てになっています。さらに、そのストーリーに対応するかたちで、持辺さんのアドバイスがどのような理論的背景を持っているかをわかりやすく解説しています。

15のケースはビジネス現場のリアリティを大切にして創りました。本書に登場する15名の悩めるビジネスパーソン達は、設定こそ若手ですが、読者の皆さんお一人おひとりの中にもいるのではないでしょうか。是非「思い当たる節がある」、「身に覚えがある」という感覚を大切にしてください。皆さんの経験と照らし合わせながら読み進めていただくことで、より理解が深まり学習効果が高まります。

本書はたいへん読みやすいですが、ケースで紹介される実践スキルや解説している背景理論は、モチベーションをマネジメントする能力を身につけるのに極めて有効なものばかりです。本書で学んだことを是非実践してみてください。「わかる」と「できる」は異なります。そして「わかる」と「できる」の架け橋となるのが、日々の実践です。

ベーシック資格の認定試験は、毎年定期的に実施されます。モチベーションをマネジメントする能力を高め、資格取得を目指して学びと実践に励んでください。認定試験とともに、一人でも多くの『モチベーション・マネジャー』の誕生に、本書がお役に立つことを心から願っています。

2019年7月 執筆者を代表して
一般社団法人モチベーション・マネジメント協会理事
株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションエンジニアリング研究所 所長
大島崇

角山剛 (著), 佐久間俊和 (著), 一般社団法人モチベーション・マネジメント協会 (監修, 編集)
一般社団法人モチベーション・マネジメント協会; 1版 (2019/7/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに
目次
プロローグ

CHAPTER1 対自分 思っていたより仕事ができない
CASE 1 自分はダメだ… 自信ない
理論解説 経験学習モデル

CASE 2 できないのは自分のせいではない
理論解説 帰属理論

CASE 3 叱られたくない、迷惑かけたくない
理論解説 ソーシャルサポート

CHAPTER2 対 仕事 思っていた仕事と違う
CASE 4 就活に失敗した…仕事がつまらない
理論解説 職務特性モデル

CASE 5 希望していない仕事に配属されやる気が出ない
理論解説 目標設定理論

CASE 6 頑張っているのに成果が上がらない
理論解説 自己効力感

CHAPTER3 対 職場 思っていた職場と違う
CASE 7 打ち解けられない
理論解説 ジョハリの窓

CASE 8 職場の同僚から嫌われている
理論解説 対人認知のバイアス

CASE 9 発言しづらい雰囲気がある
理論解説 欲求階層説

CHAPTER4 対上司 思っていた上司と違う
CASE 10 尊敬できない
理論解説 ボス・マネジメント

CASE 11 相性が悪い
理論解説 感情的固執の回避

CASE 12 怖い
理論解説 習慣化する能力

CHAPTER5 対会社 思っていた会社と違う
CASE 13 他社と比べて制度が見劣りする
理論解説 葛藤(コンフリクト)の解消

CASE 14 掛け声ばかりで具体策がない
理論解説 主体性の発揮

CASE 15 会社の方針に納得できない
理論解説 心理的抵抗の克服

エピローグ
おわりに
人名索引
語句索引
図表索引
参考文献

角山剛 (著), 佐久間俊和 (著), 一般社団法人モチベーション・マネジメント協会 (監修, 編集)
一般社団法人モチベーション・マネジメント協会; 1版 (2019/7/1)、出典:出版社HP

Prologue

東京都内某所にある「café&bar M』、オーナーである持辺さんは今日も朝から唯一のランチメニューであるハヤシライスの仕込みに集中していた。このハヤシライスは持辺家の家庭の味ながら、一度食べたら忘れられない 濃厚さに老若男女を問わずリピーターが多く、お昼時には近隣の学生やビジネスパーソンが行列をつくるほどの人気である。

午後2時にランチ営業を終え、午後6時の営業再開までの時間は忙しい中で一息つく時間でもあり、持辺さんはいつものようにメールチェックをしていた。

「おっ、今夜はAさんが来てくれるのか。卒業して4か月くらい経つけど、どうしているのかなあ・・・」

持辺さんは大学卒業後に大手情報サービス会社に入社、25年間を会社員として過ごし、今から5年前の47歳の時に、念願であった『café&bar M』をオープンした。カウンター8席の小さな店は、昼はハヤシライスを求める人が行列をつくり、夜は持辺さんの話を聞きに人が集まってきた。

持辺さんは会社員だった頃『モチベーション・マネジャー』と呼ばれていた。モチベーション・マネジメントの達人として会社内ではちょっとした有名人で、新入社員からマネジャーまでたくさんの社員の相談相手になっていた。『café&bar M』のオーナーとなった今では、学生から社会人まで、新入社員からマネジャーまで、様々な人が持辺さんのアドバイスを求めて毎日のようにお店に訪ねて来るようになった。彼らは、持辺さんの豊富な経験に基づく話に、貴重なヒントをもらっていた。

今夜来てくれるAさんは、学生の時からの常連さんで就活の相談にものっていた。就職して4か月経ち、相談したいことがあるようだが、一体何があったのか…新入社員が陥りがちな悩みをあれこれと思い出していた。どんな相談かはわからないが、こうして訪ねて来てくれるのは持辺さんにとっては、とても嬉しいことだった。 今夜の再会が楽しみな持辺さんだった。

角山剛 (著), 佐久間俊和 (著), 一般社団法人モチベーション・マネジメント協会 (監修, 編集)
一般社団法人モチベーション・マネジメント協会; 1版 (2019/7/1)、出典:出版社HP