星空案内人になろう! ~夜空が教室。やさしい天文学入門 (知りたい!サイエンス)




宇宙を見て、感じて、楽しもう

星空を見るとき、人はそこに日常とは違う別の世界を感じ取ります。古代の人々は星空に神々の世界を感じ取りました。現代人は、美しい星空に、広い空間からやってくる癒し効果を感じ取るでしょう。天文学者は地上実験では見つけられない新しい自然法則を宇宙のなかに見つけます。

星座を見つけよう
人々は星と星をつなげ、動物や人の姿に見たてて星座を作りました。それぞれの地域、それぞれの民族に独自の星座があるものです。

オリオン座はどこ?
冬の星座の代表格はオリオン座です。三つ星とそれを囲む四角形の美しい姿を見つけてみましょう。星空案内人になれば、あなたは、勇者オリオンの物語を語ることができます。また、あなたは三つ星の南側のあたりで星が誕生するようすを語ることがで きます。あなたは、望遠鏡を操って、星ができつつあるあたりの美しい星雲を見つけることができます。そんな星空案内人になるための最も基本的なことがらがこの本にはまとめられています。

さそり座を探してみよう
オリオンが沈むと同時にさそり座が現れます。さそりの毒針に倒れたオリオンが、今でもさそりを恐れているからといわれます。さそり座の姿はとてもはっきりしていて、見つけやすいものです。しかし、さそり座は、黄道と呼ばれる太陽が通る道筋の上にあります。なので、惑星たちもここをよく通過します。この写真には木星が写っていて、それと知らないと星座を見つけるとき、惑ってしまいます。

星座を見つけるコツ
明るい星を見つけることからはじめましょう。星座早見盤やパソコンのプラネタリウムソフトを使うと、日付と時刻から明るい星のだいたいの位置を知ることができます。すると、夏の大三角のような手がかりの星を確かにとらえることができます。そこを糸口として、 少しずつ星座を見つけだしていくのはとても楽しい経験です。こんな楽しい経験の手助けをしてくれるのが、「星のソムリエ」の愛称を持つ星空案内人です。

人々の思い描いた天の世界
西洋の人々にとって、星空とは、神々の世界が描かれた巨大な天井画でした。中国では天界もまた一つの社会で、地上の社会組織がそのまま反映されています。銅版印刷の発達に伴い、近世ヨーロッパでは美しい天球図が数多く出版されました。図はオリオン座を中心とした冬の星座の部分で、左下にギリシャ神話のアルゴ船を描いたアルゴ座が見られます。この古い星座は、現在では「とも」「ほ」「りゅうこつ」「らしんばん」の四星座に分割されています。

中国の星座
中央付近の「参」は、オリオン座の三つ星で、月の通り道に作られた二十八宿の1つ。「狼」はシリウスです。

中国の年画に描かれた織女と華牛
七夕の物語は、現代の中国でも「天河配」という民間戯曲として、各地で盛んに演じられています。図は年のはじめに家に貼る年画で、七夕の芝居のようすが描かれています。

おりひめとひこ星(ベガとアルタイル)
夏から秋にかけて、山奥などで満天の星を見上げると、まるで雲のような天の川と、その両側に輝くベガとアルタイルがひときわ目立ちます。確かにこの二星は、川を隔ててお互い見つめ合っているようなイメージです。

江戸時代の七夕
七夕祭りが広く庶民に普及したのは江戸時代のことです。図は広重の江戸名所百景の1枚ですが、七夕飾りに千両箱や大福帳が吊されていて、当時から商売繁昌を願って行われていたことがわかります。

星の誕生から死まで
宇宙の歴史を語ることは星空案内人にとって重要な役割です。第3章では、現代天文学が解明した宇宙の歴史を語ります。

散光最雲(オリオン星雲)
宇宙空間にある低温で濃いガスの雲はやがて自らの重さのために収縮、分裂をくり返し、たくさんの星を形成します。最初にできた星々はあたりを照らし、まだ星になっていない濃いガスを光らせます。

散開星回 (プレアデス星団、和名 すばる)
たくさんの星が誕生し、雲が晴れると、星の集まりとして見えます。きらめく星団はまるで宝石を散りばめたブローチのようです。

超新星残骸(かに星雲)
生まれたばかりの元気な星もやがて年をとり、輝くための燃料を使いはたし、死を迎えます。重い星の最期は超新星爆発です。かに星雲は1054年にその爆発が観測され、現在ではその跡が星雲として見えています。

惑星状星雲(あれい星雲)
軽い星は、星の外層部分を宇宙空間に放出させ、一方、中心核が小さく固まった白色矮星になります。放出したガスはとてもきれいな発光をして、私たちを楽しませてくれます。

宇宙はどんな世界?
誕生と死を繰り返す星たちはいろいろなサイズの集落を作っています。
その広がりを探求するとそこに見えてくるのは宇宙の過去の姿です。

渦巻銀河M31 (アンドロメダ銀河)
銀河は一千万個にもおよぶ巨大な星の集団です。渦巻銀河では、星だけでなく大量のガスや塵が渦巻状に見えています。M31までの距離はおよそ230万光年です。

球状星団M13 (ヘルクレス座)
数十万個にもおよぶ星が互いの引力によって集まっています。双眼鏡や小さな望遠鏡で見るとふんわりした球形に見えます。M13までの距離はおよそ2万光年です。

渦巻銀河M104 (おとめ座)
渦巻銀河を横から見たこところです。薄い円盤状ですが、中心付近にはふくらんだ丸い星の集団があります。M104までの距離は約5000万光年です。

楕円銀河 ES0325-G004 (ケンタウルス座)
渦巻銀河を周りに従えた、巨大な星の集団として楕円銀河が見えています。この楕円銀河は約4.5億光年彼方にあります。

銀河団 A2218(りゅう座)
銀河はたくさん集まって銀河団を形成します。銀河団は光を曲げ、レンズの働きをします。 この銀河団は約20億光年先にあり、ゆかんだ像として見えている銀河は約40億光年彼方にあります。

星空案内で人気の天体
星空案内は幸せを売る仕事。案内人と宇宙が作り出す総合芸術です。

地球照
月の欠けている部分がぼんやりと明るく、月面の模様すら見えます。これは地球照と呼ばれ 現象です。太陽からの光が地球で反射され、それが月を照らしているのです。


星空案内で人気ナンバーワンは月です。小型の望遠鏡でも迫力ある月面地形が楽しめます。小型望遠鏡と携帯電話に附属したカメラでもこのような写真が撮れます。

土星
二番目に人気のある天体は、木星と土星です。土星には輪があり、「これは不思議な星だな」 という印象です。星空案内では、本物の木星や 土星が目の前に現われ、感動を呼びます。

二重星アルビレオ(はくちょう座)
三番目に人気のあるのは二重星です。アルビレオは青とオレンジの色の対比が美しく、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」では、サファイアとトパーズにたとえられています。

スペクトル
星の光を虹色に分解したものをスペクトルといいます。光は電磁波という波で、振動数、あるいは、波長の違いが色の違いとして人間の目に映ります。

柴田 晋平 他 (著)
出版社: 技術評論社 (2007/9/26)、出典:出版社HP

はじめに

豊富な知識と経験からおいしいワインを選んでくれるソムリエのように、星空や宇宙の楽しみ方を教えてくれるのが「星空案内人」です。この本は、星空案内人になってみたい人のために書かれた入門書です。星空案内人には資格認定制度があり、この本はその資格を得るための養成講座の内容をもとに書かれています。「星のソムリエ」は星空案内人の愛称です。

星空案内に必要な知識は非常に幅広いものです。星空案内では、夜空を見上げて星座や星について説明します。おりひめ星(こと座ベガ)やひこ星(わし座アルタイル)のような明るい星、木星や土星といった惑星を「あれだよ」と示してあげたいのです。星空観察の知識や技能が必要ですね。

星は長い間、人々の暮らしとともにありました。星に関係した神話や伝説があり、太陽、月、星の動きから暦が作られました。宇宙創成の物語は人類の財産です。だから、星空の文化に関する知識も必要です。

現代の宇宙物理学では、宇宙は永遠ではなく、一三七億年ほど前に誕生し、現在加速度的に膨張していることを明確に示しました。星は誕生し、死を迎えます。おうし座に西暦一〇五四年に現われた強烈な星の光りは星の最期の大爆発でした。私たちの体を作る炭素、酸素、窒素といった原子は星の中で作られました。このような科学的に明らかにされた宇宙の姿についても知りたいですね。実際の観察には、望遠鏡や双眼鏡も活躍します。観測機器の構造を知り、操作ができるようになりたいものです。

このように星空案内人に必要な知識は非常に幅広いものです。でも、どれかを一つ深く学ぶ のでなく、浅く広く学ぶことから出発しましょう。星空案内人になってからのことを想像してみてください。星空案内の基本をマスターして、隣人に星座を教えてあげられたら、星座の神話を教えてあげられたら、星の誕生について語れたら、望遠鏡をのぞかせてあげられたら、どんなにか喜んでもらえるでしょう。星空観察にはヒーリング(癒し)効果もあります。宇宙を考えることで、もっと広い心で人間の生き方を考えることができるかもしれません。

でも、星空案内を受けた人が幸せになれるとすれば、星空案内を喜んでもらえたことで私たち自身も、もう一度幸せになれます。これは幸せの自乗です。私たちはこれに「ハッピー自乗の法則」という名前を付けました。みなさんも、私たちと一緒に星空案内人になって、宇宙を見て、感じて、楽しみましょう。

この本を片手に、さあ出発です。いったん、星空案内の活動をはじめると、自然と知識が増え、技能も向上します。科学館や公開天文台でボランティア活動に参加すると仲間が増え、星空案内人同士で楽しい会話がはずむようになります。

このような星空案内の楽しさを一人でも多くの方に味わっていただけるように、簡単に星 空案内の勉強がはじめられるように、星空案内人資格認定制度が二〇〇三年からスタートし、二〇〇六年にはかなり完成された制度になりました。そして、二〇〇七年からは全国各地に同じ考えで参加してくださる機関の協力を得て、全国組織の運営委員会で資格認定ができるようになりました。星のソムリエの資格です。この制度についてはこの本の付録で解説します。

この本は、星空案内人になるための最も基本的なことがらが学べるように作られています。 この本を読んでいただければ、星空案内人というのはどんなものなのかをイメージできるようになります。また、星空案内人資格認定講座の参考書として利用していただけると思います。模擬的な資格認定試験の問題も付けましたので、ぜひ挑戦してみてください。

二〇〇七年 夏

柴田晋平

柴田 晋平 他 (著)
出版社: 技術評論社 (2007/9/26)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 さあ、はじめよう
1-1 宇宙を見て、感じて、楽しもう
1-2星座のルーツを探る
コラム 星座探しの練習
1-3 星の特徴をとらえる
1-4 星の動きと地球の自転
1-5 星座のなかの太陽の動きと地球の公転
1-6 太陽系について知る
1-7 太陽系から宇宙の果てへ
コラム 星座の大きさ
星空案内人認定試驗模擬問題

第2章 星空の文化に親しむ
2-1 古代の宇宙観
2-2 太陽と月の神話学
2-3 暦の話
2-4 星占いの星座たち
2-5 十五夜の月
2-6 七夕と星祭り
2-7 天へのあこがれ
コラム 旧約聖書・創世記
星空案内人認定試驗模擬問題

第3章 宇宙はどんな世界
3-1 星の誕生
3-2 星のしくみと寿命
3-3 星の最期
3-4 銀河について
3-5 宇宙膨張と宇宙のはじまり
3-6 天体の形成
3-7 太陽系
星空案內人認定試驗模擬問題

第4章 望遠鏡のしくみ
4-1 望遠鏡の誕生と、ガリレオ・ガリレイ
4-2 望遠鏡の原理
4-3 望遠鏡の種類
4-4 望遠鏡の性能と倍率
4-5 望遠鏡の性能を阻害するもの
4-6 架台の種類
星空案内人認定試驗模擬問題

第5章 星座を見つけよう
5-1 星空観察の準備
5-2 いろいろな資料を活用する
5-3 星座早見盤を使う
5-4 見つけやすい星と星座
コラム 流星と流星群
5-5 月や惑星はどこに見える?
5-6 双眼鏡を使う
5-7 ちょっと欲がでると見たくなる星々
星空案内人認定試驗模擬問題

第6章 望遠鏡を使ってみよう
6-1 いろいろなタイプの望遠鏡
6-2 星にねらいを
6-3 星を見つめる
コラム 自動導入という道
6-4 望遠鏡で見る星々
コラム 望遠鏡を作って、見る

第7章 実践!星空ガイドツアー
7-1 ガイドツアーの楽しみ
7-2 星空案内人の資格について
7-3 星空案内のやりかたと技術
7-4 星空案内のメニューを作る
7-5 星空案内の実際
7-6 ツアーのはじまり
7-7 さまざまな活動形態
7-8 仲間作りと情報の入手
7-9 安全の確保
コラム 人気の天体は?

付録 星空案内人資格認定制度について
星空案内人認定試験模擬問題 解答と解説

あとがき
星空案内のための索引
索引

柴田 晋平 他 (著)
出版社: 技術評論社 (2007/9/26)、出典:出版社HP