スポーツ医学検定 公式テキスト 1級




はじめに

現在、スポーツを取り巻く環境が大きく変化しています。東京2020オリンピック・パラリンピックの影響もあるでしょう。それだけではなく、スポーツの国際化が進み、海外のスポーツ情報を容易に入手できるようになったこと、SNSの発展により自ら情報を発信できるようになったことなども挙げられます。また、スポーツの価値は何なのかを再考させられるニュースが、たびたび紙面をにぎわせています。時代とともに変わるスポーツに対する考え方にも、柔軟に対応していく必要があります。

スポーツの安全面に関する知識も、時代とともに大きく変化します。現在、練習中の水分補給は当然のように行われていますが、昔は練習中にのどが渇いて水を飲むのは根性がないと考えられた時代がありました。また、脳振盪後の対応も変わってきています。女性アスリートの三主徴についてもようやく目が向けられるようになってきています。そしてスポーツの外傷・障害は治療も大切ですが、予防の必要性も認識されるようになってきました。

日進月歩で更新されるこれらの新たな知識は、インターネットから得ることもできます。しかし、断片化された知識は、生きた情報になりにくいのも事実です。また、情報が氾濫しているため、偏った情報に頼っているスポーツ選手も多くいます。このように、誰もが発信者になり得て、様々な情報があふれている今だからこそ、私たち専門家がもっているスポーツ医学の知識をより広く届けたいと考え、このスポーツ医学検定の取り組みを始めました。

本テキストは、スポーツ医学検定の1級を受検する方を対象としています。スポーツメディカルにこれから関わりたいと思っている方には、スポーツ医学を体系的に理解する機会として勉強していただければと思います。すでにスポーツメディカルに関わっている方は、これまで実践してきたスポーツ医学を整理する機会として勉強してください。

実際、スポーツ医学検定1級は、本テキストの内容だけを勉強すれば十分というものではありません。スポーツ医学検定1級の受検者には、広く深い領域に触れていただくため、本テキスト外の内容も一部1級問題として出題されますが、それに対してはホームページに掲載している推薦図書なども参考にして頂き、学習を深めいただければと思います。

そして、スポーツ医学検定の1級を合格された方には、今度は自分がスポーツ医学の知識を広める役割を担っていただきたいと思っています。スポーツ現場にいるスポーツ選手やスポーツ指導者に必要な知識を2級・3級対応テキストの範囲と設定していますが、その内容を発信するには1級相当の広さ・深さのスポーツ医学の知識が必要です。1級検定を通して、正しい知識を発信する人が増え、より安全の意識が高まることを期待します。

2017年5月に始まった本取り組みが、より安全な環境でスポーツを楽しめる社会になることに貢献できれば幸いです。また、「スポーツ医学」の扉を開いた皆さまが、本検定を通じてスポーツ医学の知識をより深め、スポーツ選手そしてスポーツ界に貢献されることを願っています。

2018年10月25日
一般社団法人日本スポーツ医学検定機構代表理事
整形外科医師・医学博士
大関信武

一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 (著, 編集)
出版社: 東洋館出版社 (2019/1/26)、出典:出版社HP

目次

はじめに
部位別・病名からの目次
全身骨格・全身筋肉イラスト
コラム:スーパードクターに聞く

A章 身体の知識

1 運動器
2 全身
3 上肢
4 骨盤・下肢
5 頭部・脊椎

B章 スポーツ外傷・障害の知識

1 スポーツ外傷・障害総論
2 現場での処置
3 心肺蘇生
4 頭部
4-1 頭部外傷総論
4-2 脳振盪
4-3 急性硬膜下血腫
4-4 その他(頭部)
5 顔面
5-1 顔面外傷
5-2 歯科口腔外傷
5-3 眼と鼻の外傷
6 頚椎
6-1 頚椎・頚髄損傷
6-2 その他(頸椎)
7 腰椎
7-1 腰椎分離症
7-2 腰椎椎間板ヘルニア
7-3 非特異的腰痛
8 肩
8-2 投球障害肩(成人)
8-3 肩関節脱臼
8-4 肩鎖関節脱臼
8-5 腱板損傷
9 肘
9-1 野球肘(成長期)
9-2 野球肘(成人)
9-3 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
9-4 肘関節脱臼
10 手関節・手指
10-1 三角線維軟骨複合体損傷
10-2 その他(手関節・手指)
11 股関節・骨盤
11-1 大腿骨寛骨臼インピンジメント
11-2 グロインペイン症候群
11-3 骨盤裂離骨折
12 膝
12-1 前十字靭帯損傷
12-2 半月板損傷
12-3 後十字靭帯損傷
12-4 内側側副靭帯損傷
12-5 ジャンパー膝
12-6 オスグッド・シュラッター病
12-7 その他(膝)
13 足部・足関節
13-1 足関節靭帯損傷
13-2 シンスプリント
13-3 アキレス腱断裂
13-4 その他(足部・足関節)
14 骨折
14-1 一般の骨折
14-2 疲労骨折
15 肉離れ
コラム:スーパードクターに聞く

C章 アスリハの知識

1 アスレティックリハビリテーション総論
1-1 アスレティックリハビリテーション
1-2 ストレッチ
1-3 筋力トレーニング
1-4 目的別のエクササイズ・トレーニング
2 部位(競技)別のアスリハ
2-1 腰部(体操、水泳など)
2-2 肩 (野球、ハンドボールなど)
2-3 肘(野球、テニスなど)
2-4 手関節・手指(体操、スキーなど)
2-5 股関節(サッカー、ホッケーなど)
2-6 大腿(陸上、ラグビーフットボールなど)
2-7 膝(バスケットボール、バレーボールなど)
2-8 下腿(アメリカンフットボール、バドミントンなど)
2-9 足関節・足部(ダンス、マラソンなど)
3 テーピング・装具・サポーター
3-1 テーピング総論
3-2 足関節のテーピング
3-3 膝関節のテーピング
3-4 装具・サポーター、杖、車いす

D章 スポーツ医学全般

1 スポーツと栄養
2 女性とスポーツ
3 成長期のスポーツ
4 障がい者とスポーツ
5 中高年者とスポーツ
6 スポーツと全身
7 合宿・遠征・帯同
8 アンチ・ドーピング

1級練習問題

練習問題
解答解說

徒手検査一覧
索引
参考文献
執筆者紹介

一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 (著, 編集)
出版社: 東洋館出版社 (2019/1/26)、出典:出版社HP

部位別 病名からの目次(上半身)

頭部
腦振盪(p.43)
急性硬膜下血腫(p.46)
急性硬膜外血腫(p.48)
慢性硬膜下血腫(p.48)

頸椎
頸椎·頸髓損傷(p.52)
頸椎症性神經根症(p.55)
パートナー症候群(p.55)
一過性四肢麻痺(p.56)
頸椎捻挫(p.56)

顏面
顏面外傷(p.49)
菌科口腔外傷(p.50)
類骨骨折、眼窩底骨折、上顎骨骨折、下顎骨骨折、前頭骨骨折, (p.49)

肩 – 上腕
投球障害肩(p.68、71)
肩関節脱臼(p.74)
肩鎖関節脱臼 (p.77)
腱板損傷(p.78)
鎖骨骨折(p.127)
上腕骨骨折(p.127)
燒骨遠位部骨折(p.127)
舟状骨骨折(p.127)
中手骨骨折(p.127)

胸部
肋骨骨折( p.127)
肋骨疲労骨折(p.130)
心臟震盪(p.215)

肘 – 前腕
野球肘(p.80、83)
上腕骨外側上顆炎(p.86)
肘関節脱臼(p.88)
肘頭疲労骨折 (p.130)

手関節 – 手指
三角線維軟骨複合体損傷(p.90)
槌指(p.92)
母指MP 関節靭帯損傷(p.93)
有鉤骨鉤骨折(p.93)
ラグビージャージフィンガー(p.94)
ボクサー骨折(p.94)

部位別 病名からの目次(下半身)

股関節-骨盤
大腿骨寛骨臼インピンジメント (p.95)
グロインペイン症候群(p.96)
骨盤裂離骨折(p.97)
骨盤骨折(p.128)
恥骨下枝疲労骨折(p.130)

腰椎
腰椎分離症(p.57)
腰椎椎間板ヘルニア(p.61)
椎間板性腰痛(p.66)
椎間関節炎(p.67)
腰椎疲労骨折(p.130)


前十字靭帯損傷(p.98)
半月板損傷 (p.101)
後十字靭帯損傷(p.104)
内側側副靭帯損傷 (p.105)
ジャンパー膝(p.106)
オスグッド・シュラッター病(p.108)
鵞足炎(p.110)
腸脛靭帯炎(p.111)
膝蓋骨脱臼(p.112)
離断性骨軟骨炎(p.113)
分裂膝蓋骨(p.113)
膝蓋骨骨折(p.128)

足部 – 足関節
足関節靱帯損傷(p.114)
シンスプリント (p.117)
アキレス腱断裂 (p.120)
足関節インピンジメント (p.123)
有痛性三角骨(p.123)
リスフラン靭帯損傷(p.124)
足底腱膜炎(p.124)
足底腱膜炎(p.124)
腓骨筋腱脱臼(p.125)
距骨骨軟骨損傷(p.125)
足関節骨折(p.128)
脛骨跳躍型疲労骨折(p.131)
中足骨疲労骨折(p.131)
腓骨疲労骨折(p.131)

一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 (著, 編集)
出版社: 東洋館出版社 (2019/1/26)、出典:出版社HP

全身骨格・全身筋肉イラスト

全身の骨格 正面

全身の骨格 背面

全身の筋肉 正面

全身の筋肉 背面

コラム:スーパードクターに聞く

野球肘・予防のためにできること

成長期の投球動作による肘の痛みについて、プロ野球選手の診察も数多く行っているスーパードクター・山崎哲也先生にお話を伺いました。

―成長期の野球肘で問題となるのはどのような場合でしょうか。
山﨑:成長期に圧倒的に多い内側型では投球を休むことで速やかに症状が取れてきますが、一番問題となるのは外側型の離断性骨軟骨炎です。病期の初期には、まったく症状がなく、ある程度進行しないと痛みがでないため、病院で診断がつくころには、手術をしないと治らない状態まで悪化している場合があります。

―野球肘の治療方針は?
山﨑:成長期における野球肘は保存療法が原則で、手術を要することはまれです。保存療法には、痛みの強い場合の肘安静や薬・湿布なども含め、肘への物理療法(電気や温熱療法など)、肘および肘以外も含めた体のコンデショニング不良(機能不全)に対する運動療法や投球フォーム改善の指導などがあります。治療に際しては、医師一人では困難な場合が多く、理学療法士やトレーナーなどの力を借りなければなりません。ただ離断性骨軟骨炎は例外で、病期が進行した場合は手術が必要となる場合もあります。

―親や指導者ができる簡単なチェックポイントはありますか。
山﨑:上半身を裸にして、体に左右差や姿勢異常がないかまず見てあげてください。特に肩(肩甲骨)の高さや見え方に左右差がないかどうか、脊柱(背骨)が後弯、いわゆる猫背になっていないかどうか、骨盤が後傾していないかどうかをチェックしましょう。また全身の柔軟性を見てあげてください。もともと成長期には骨と筋肉の成長速度の違いにより体の硬さがあるのですが、投球動作、バッティング動作の繰り返しにより、全身の関節(肩、胸郭、股関節など)において左右差のある硬さが生じてきております。この硬さを放置すると肘への負担が大きくなり野球肘発症の原因にもなります。

―野球肘の予防に大切なことは?
山﨑:前述したチェックポイントに準じ、指導者・父兄・本人が日頃から体をチェックすることが重要です。活動計画 としてスローイングのオン・オフを設け、現場の指導では投球数の制限を行いましょう。また地域で野球肘検診を行っていれば、初期の離断性骨軟骨炎を見つけるためにも積極的に参加するのがよいかと思います。最後になりますが、野球肘に対する指導者への啓発や理解も必要で、将来的には指導者資格も考えなくてはならないかと思います。

―どうも有り難うございました。

山崎哲也
新潟県出身。滋賀医科大学卒業。横浜南共済病院スポーツ整形外科部長、横浜DeNAベイスターズチームドクター、関東学院大学ラグビー部チームドクター。一般社団法人日本スポーツ医学検定機構顧問

一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 (著, 編集)
出版社: 東洋館出版社 (2019/1/26)、出典:出版社HP