わかる! 使える! 溶接入門-<基礎知識><段取り><実作業>–




はじめに

「金属をつなぐ」、すなわち接合することの必要性は、人類が道具を使用するようになり、道具が石器から金属の青銅器、鉄器に進化するのにともなって急速に高まってきました。

特に、産業革命により動力を利用し、「もの」を大量に生産できるようになると、いろいろな製品、材料を接合する技術は、「ものづくり」の基盤技術として不可欠の技術となっていきました。

わが国においても、金属材料を接合する技術としての溶接は、造船をはじめとする重厚長大産業の基盤技術として日本経済発展に大きく寄与してきました。その後も、こうした基幹産業における主要技術としての地位を堅持する一方で、各時代の花形産業の製品や製造装置の製作においても欠かせない技術となっています。

また、街で見かける金属製の大型モニュメントや各種形状の金属製装飾品、金属の持つ重量感を活かした芸術品の制作などにも溶接は欠かせません。

溶接はきわめてリサイクル性の良い材料である金属に、製品としての機能や構造を容易に与えることができる技術であり、省エネや環境に配慮した機器の開発にも大いに役立つ技術です。

加えて、世の中の技術の発展にともなって次々と送り出されてくる各種新素材に対しても、求められる機能を持つ製品に仕上げるため、溶接は欠くことのできない技術として利用され続けると考えられます。

本書では、こうした溶接技術を、まず、溶接に興味を持っていただけるよう、また溶接を修得することで広がる活躍の場がわかるよう、溶接の接合メカニズムや溶接用語、各産業界における溶接の活用状況などを紹介しています。

さらに、これまで語られなかった溶接作業の前段取りに着目、安全作業や使用する材料の素材管理、溶接に使用する機器の設定、溶接材料、溶接条件の設定を作業項目ごとに類別しポイントを整理して示しています。また、その後の各溶接作業については、それぞれの作業でのポイントや現象の変化が、できるだけ頭の中にイメージできるよう作業状態の写真や図表と関連づけて解説しています。

いずれにせよ、溶接技術は、材料や電気、物理、化学などの現象変化の合わせ技術であり、しかも、金属が溶けるまで加熱するために発生する強いと熱の下での作業となり、他のものづくりに比べ、人が関わらなければならない作業となります。

こうしたことから、溶接に技術的な面からアプローチする場合、また実際に熱源を手で操作し技能的な面からアプローチする場合においても、自分自身の五感で溶接を体験しておくことが不可欠です。

溶接は、頑強な男性だけでなく繊細な女性にもお勧めできる魅力ある作業です。ぜひ何らかの機会を見つけて実作業に挑戦し、体験してみてください。本書が、皆さんの溶接に対する関心の呼び水になり、何らかの形でお役に立てることを願っています。

最後になりましたが、本書を発行する機会を与えていただいた日刊工業新聞社の奥村功さま、企画の段階からさまざまなアドバイスをたまわりましたエム編集事務所の飯嶋光雄さまに深く感謝を申し上げます。

2017年12月
安田克彦

安田 克彦 (著)
出版社: 日刊工業新聞社 (2017/12/19)、出典:出版社HP

目次

第1章 「溶接」基礎のきそ

1 「溶接」の基礎知識
・金属の成り立ちと溶接
・各種接合法と接合メカニズム
・溶接と他の接合法との使い分け
・溶接作業の基本用語
・溶接法に関する用語
・溶接欠陥に関する用語

2 各産業分野での溶接の活躍
・身の周りの製品と溶接
・工芸品、装飾品と溶接
・造船と溶接
・建設、橋梁と溶接
・自動車、建設機械、電車と溶接
・微小精密部品や先端機器と溶接

第2章 溶接の作業前準備と段取り

1 安全溶接作業と必要な資格
・熱や光による障害とその安全対策
・溶接、溶断に必要な安全対策
・溶接作業と必要な資格・38

2 良好な溶接結果を得るための前段取り
・前段取りの流れ
・素材の確認と管理
・開先の検討と設定

3 溶接装置の準備
・ガス溶接
・交流被覆アーク溶接
・直流被覆アーク溶接
・TIG溶接
・MAG溶接
・MIG溶接

4 準備段階でもっとも大切な材料選び
・(溶接材料の選定)ろう接作業
・(溶接材料の選定)被覆アーク溶接作業
・(溶接材料の選定)直流TIG溶接作業
・(溶接材料の選定)交流TIG溶接での電極の溶融
・(溶接材料の選定)交流TIG溶接作業
・(溶接材料の選定)MAG溶接作業
・合金鋼、ステンレス鋼材料の溶接と溶接材の選定
・アルミニウム材料の溶接と溶接材の選定

5 溶接条件の設定
・ガス溶接
・被覆アーク溶接
・TIG溶接
・MAG溶接
・ステンレス鋼のMIG、MAG溶接
・アルミニウム合金材のMIG溶接
・MAG、MIG溶接の電圧条件設定

第3章 各溶接法で溶接をしてみる

1 溶接作業を行う時の注意点
・溶接の基本は2つの材料を均一に溶かすこと
・溶け込み深さを確認する

2 各溶接作業のポイント
・ガスの燃焼火炎を利用するガス溶接、切断作業
・溶融するろう材を流し込み接合するろう付け作業
・被覆アーク溶接作業
・下向き姿勢での被覆アーク溶接作業
・立向き、横向き姿勢での被覆アーク溶接作業
・TIG溶接作業
・TIG溶接の溶接棒添加作業
・MAG、MIG溶接の基本作業
・MAG、MIG溶接作業の注意点
・立向き姿勢でのMAG、MIG溶接作業
・横向き姿勢でのMAG、MIG溶接作業
・MAG、MIG溶接によるすみ肉溶接作業
・ロボットによる溶接作業
・人と機械の協調溶接
・スポット溶接作業
・レーザ溶接作業

3 溶接の高品質化へのポイント
・溶接の品質保証と管理技術者資格
・組付方法による寸法精度の高品質化
・溶接ひずみ対策による寸法精度の高品質化
・強度品質保証のための破壊試験方法
・静的荷重に対する材料の強さ
・動的荷重に対する材料の強さ
・溶接材の組織の不連続性
・溶接材が硬化する溶接材の強度特性
・溶接材が軟化する溶接材の強度特性
・品質保証のための非破壊検査方法

4 溶接欠陥とその対策
・表面欠陥とその対策
・内部欠陥とその対策
・溶接割れの発生とその対策
・溶接欠陥の補修処理

コラム
・人の溶接、ロボットの溶接そして協調溶接
・溶接の品質保証はむずかしい

・参考文献
・索引

安田 克彦 (著)
出版社: 日刊工業新聞社 (2017/12/19)、出典:出版社HP