医事コンピュータ技能検定テキスト 改訂医事コンピュータ関連知識




改訂にあたって

「平成28年度情報通信白書』(総務省)によると、2015年末のインターネット利用者数は1億46万人,普及率は83.0%で世界第12位(ITU国際電気通信連合、2016.による)である。また、「平成27年通信利用動向調査(総務省)によれば、80歳以上を除く全年齢階層でインターネット利用者の割合が前年度を上回り、13~59歳では9割以上,60~79歳では上昇傾向にある。このように高齢者も含めたインターネット利用者割合が上昇している背景には,総務省をはじめ各省庁で,いわば国をあげて「ICT利活用」を積極的に推進していることが大きくかかわっている。

現在日本は,地域経済の活性化,社会保障費の増大,大規模災害対策等,さまざまな課題を抱えている。これらへの対応策として、社会のさまざまな分野での効果的なICT利活用が提唱されている。特に,医療・健康・福祉・介護分野では,超高齢社会に突入した日本が抱える社会保障費の増大,生産年齢人口の減少等,課題が大きい。

これらを解決するには地域の医療情報等を安全かつ円滑に流通させる仕組みの確立と普及,遠隔医療の推進,情報通信ネットワークやクラウド技術を活用した医療の安全性向上や業務効率化等が急務であり,その手段としてICTを効果的に活用していくことが期待されている。

このような動向を受け、医事コンピュータ技能検定試験第III領域〔コンピュータ関連知識〕では、このたび各級の審査基準の見直しが行われた(2017年2月18日)。今回の改訂にあたっては新審査基準を踏まえ,各級の学習水準に合わせて下記のように構成を改めた。

第Ⅰ部(3級レベル)は「コンピュータの基礎知識」として,Chapter1「コンピュータと情報表現Chapter2「コンピュータの仕組みと動作」,Chapter3「ソフトウェア(OSワープロ)」。

第Ⅱ部(2級レベル)は「インターネットと情報活用」として,Chapter4「ネットワークの基礎とインターネット」,Chapter5「情報活用の基礎(表計算)」,Chapter6「保健医療情報システムの基礎知識」。

第Ⅲ部(準1級レベル)は「ネットワークとセキュリティ」として,Chapter7「ネットワークの接続形態」、Chapter8「セキュリティ対策とプライバシー保護」,Chapter9「医療情報システム」。

また、審査基準には明記されていないが,ICTにかかわって近年耳にすることの多いタームについてのコラムを収載した。

今後、ますます医療・健康・介護分野での「ICT利活用」は日常生活にも入り込んでくるものと考えられる。「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」(厚生労働省)の報告書『保健医療2035』は、「2035年においては,ICT等の活用により、医療の質,価値,安全性パフォーマンスが飛躍的に向上していかなければならない」、「膨大な保健医療データベースを活用し、治療の効果・効率性や医薬品等の安全対策の向上が実現され、国民が、その効果を実感できることが重要である」としている。

医療情報を医療従事者ばかりが扱うのではなく,一般の人びとも日常的に活用していく時代になる。医療情報を提供する側にとっては、情報活用能力はもちろんのこと、セキュリティ対策やプライバシー保護に関する法制度等についての理解がたいへん重要になる。ぜひ、“ICT利活用時代の医療秘書”として、時代の要請に応える活躍ができるよう,学習していただきたい。

2017年3月
菊池聖一
野口孝之

菊池 聖一 (著), 野口 孝之 (著), 医療秘書教育全国協議会 (編集)
出版社: 建帛社; 改訂版 (2017/4/1)、出典:出版社HP

はじめに

現在,病院や診療所等ほとんど医療機関において,「情報化」への対応は大きな課題となっている。2001年に「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」が策定され後に「情報技術を活用した今後の望ましい医療の方向性」「電子カルテやレセプト電算処理システムの普及目標と達成年次」が示された。

しかしながら、国や医療機関においては情報化に向けた「新たな課題」が次から次へと明らかとなり,「望ましい医療の方向性」の確立にはまだまだ時間を要すると思われた。

しかし,その後のIT新改革戦略をはじめとする新たな施策,それを実現するための組織編制や検討会の開催,法律,ガイドラインの策定等,このわずか10年で医療機関を取り巻く環境が大きく変化してきた。

このように変化する医療機関に対応できる人材育成を考えたとき,「専門学校や短期大学,大学においてどのような教育ができるのだろうか」・・・・・・今度は教育機関に大きな課題が投げかけられているのである。

医事コンピュータ技能検定第Ⅱ領域(コンピュータ関連知識)を扱う本書は、3部構成となっており,第I部は3級レベルとして「コンピュータの仕組みと動作」「ソフトウェア」「高度情報通信社会と保健医療分野の情報化」,第Ⅱ部は2級レベルとして「コンピュータとネットワーク」「インターネット」「医療情報システムの基礎知識」,第Ⅲ部は準1級レベルとして「データベースとSQL」「システムの分析・開発・運用・管理」「医療情報とネットワーク化」と,それぞれを学習水準に応じて取りまとめた。

この第Ⅱ領域を学ぶにあたって留意すべきことは,常に変化している社会や情報の流れの中で、いかに新しい情報を収集して時代の流れを読み取ることができるのかということである。わずか10年で医療機関のシステムが大幅に変わる時代であり,今後はさらに加速していくと考えられる。そのような流れに乗ることのできる病院事務の人材こそが新しい医療機関を陰ながら支えることができる人材である。是非「時代の流れ」に追いつき,時代に必要とされる人材となれるよう,学習していただきたい。

2011年9月
菊池聖一
野口孝之

菊池 聖一 (著), 野口 孝之 (著), 医療秘書教育全国協議会 (編集)
出版社: 建帛社; 改訂版 (2017/4/1)、出典:出版社HP

目次

I コンピュータの基礎知識
学習水準:医事コンピュータ技能検定3級

chapter1 コンピュータと情報表現

①コンピュータの種類
1 スーパーコンピュータ(スパコン)
2 メインフレーム(汎用コンピュータ)
3 ワークステーション(WS)
4 サーバ
5 パーソナルコンピュータ (パソコン
6 PDA(Personal Digital Assistants),携帯情報端末
7 マイクロコンピュータ(マイクロコントローラ)

②コンピュータの情報表現
1 アナログデータとデジタルデータ
2 データの表現方法
3 ビットとバイト
4 進数変換

chapter2 コンピュータの仕組みと動作

①コンピュータの5大装置と機能
1 入出力装置
2 記憶装置
3 中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)
4 メモリの種類と特徴

②周辺装置
1 入力装置
2 出力装置
3 補助記憶装置
4 フラッシュメモリ

③入出力とインターフェース
1 データ転送方式
2 インターフェースの種類

chapter3 ソフトウェア

①ソフトウェアの分類
1 基本ソフトウェア
2 応用ソフトウェア
3 ミドルウェア

② OS (Operating System)
1 OSの役割
2 OSの機能
3 OSの種類

③OSの機能(Windows)
1 各部名称と機能
2 GUIのメニューと主なコンポーネント
3 Windowsの管理機能
4 Windowsの基本操作

④ワープロソフトの活用
1 ワープロソフトの機能
2 文字フォントの種類
3 日本語入力システム
4 入力・編集時の主な機能と名称

Ⅱインターネットと情報活用
学習水準:医事コンピュータ技能検定2級

chapter4 ネットワークの基礎とインターネット

①ネットワークの基礎
1 コンピュータとネットワーク
2 コンピュータシステムの処理形態
3 ネットワークの種類

②インターネット
1 インターネットの普及
2 インターネットの接続方法
3 インターネットのプロトコル
4 ネットワーク上のアドレス
5 インターネットの機能
6 インターネット技術の応用

chapter5 情報活用の基礎

①表計算ソフトの基本操作
1 表計算ソフトの各部名称と機能
2 データの表現方法と特徴
3 式と関数
4 IF関数と条件式
5 相対参照と絶対参照

②ファイルの種類と保存形式
1 拡張子
2 ファイルの種類
3 ファイルの圧縮

③ファイルの構成とデータベース
1 ファイルの構成
2 ファイルの分類
3 データベースの概要

chapter6 保健医療情報システムの基礎知識

①保健医療情報システムの歴史
1 1960年代~1980年代の歴史
2 1990年代から現在までの情報化の動き

②保健医療情報システムの概要

③地域保健医療情報システム
1 病診連携システム
2 保健福祉医療情報システム
3 健康管理情報システム
4 広域災害・救急医療情報システム
5 遠隔医療システム

④病院情報システム
1 病院情報システム
2 院内部門システム
3 診療支援システム

⑤医療情報サービスシステム
1 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN:University Hospital Medical Information Network)
2 医薬品医療機器総合機構(PMDA: Piancerticals and Medical Devices Agency)
3 特定の疾病に関する情報システム
4 医学文献情報サービスシステム

Ⅲ ネットワークとセキュリティ
学習水準:医事コンピュータ技能検定準1級

chapter7ネットワークの接続形態

①LAN の基礎知識
1 LANの規格
2 LAN アクセス制御方式
3 LAN の接続形態
4 無線LAN

②LAN の構成機器
1 通信用ケーブル
2 ネットワーク間接続装置の種類

chapter8 セキュリティ対策とプライバシー保護

①セキュリティ保護
1 セキュリティの定義
2 セキュリティのリスク
3 セキュリティ対策
4 セキュリティに関する法律

②個人情報と権利の保護に関する法律
1 個人情報保護
2 権利の保護と管理

chapter9 医療情報システム

①医療分野の情報化の推進
1 医療の課題と情報化
2 医療分野の情報化の現状

②医療情報の標準化
1 標準化
2 病名に関する標準
3 医用画像に関する標準
4 医療情報システム・電子カルテに関する標準
5 医薬品・医療物品に関する標準
6 診断・治療方法に関する標準

③電子カルテの法制度と基本的な操作
1 電子カルテの法制度
2 電子カルテシステムの類型
3 電子カルテシステムの基本的な機能

参考文献・写真提供

コンピュータ関連略語

索引

菊池 聖一 (著), 野口 孝之 (著), 医療秘書教育全国協議会 (編集)
出版社: 建帛社; 改訂版 (2017/4/1)、出典:出版社HP