はじめての外国人雇用
はじめに
将来の日本人の人口は、急激に減っていくことが予想されています。このため、日本における物品製造やサービス提供のためには、外国人労働者の存在が、近い将来、欠かせなくなるかも知れません。『はじめての外国人雇用』(以下、本書)は、外国人労働者を企業が雇用する際の、非常に初歩的なことについて、簡潔に一冊にまとめたものです。
20年超にわたり、企業側の立場で人事労務・労働法に携わってきたひとりとして、私の目的は、労使の争いやいざこざが生じないよう企業に助力を申し上げること、換言するなら、労使が仲良く、手を取り合って頑張り、そこから得られるものを株主と経営者と労働者で、仲良く公平に分配すること、そしてこれにより、結果として、企業が500年もの長い間、継続して発展していくことのお手伝いを、微力ながらさせていただくことです。この目的のために、本書が少しでも役に立つことを心から願っております。
本書は、さまざまな人事労務案件を一緒に担当してくれた、優秀な同僚の福井佑理弁護士の全面的な協力の下に作成されています。また、常に的確に私の仕事を補助してくれる秘書の大藪仁美さんの助力がなければ、本書は世に出ることがありませんでした。そして、本書の出版に向けては、労務行政の深澤顕子さんが、私を、それこそ一生懸命になって、親身に導いてくださいました。本書の出版に当たり、これら3人の皆様に、心より感謝の意を述べさせていただきます。
2019年3月
執筆者を代表して
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
パートナー弁護士 嘉納英樹
外国人雇用って何をすればいいの?
「当社でも外国人を雇いたいと思っています。テレビや新聞等で「在留資格」や「ビザ」など、何となく耳にしたことはありますが、正直よく分かりませんし、専門的な知識がありません。外国人雇用って何をすればいいのでしょうか?」
外国人雇用とは
外国人が日本で働くには、日本で就労できる「在留資格」を取得しなければなりません。また、従事する職務によって在留資格の種類や、必要な手続きが異なります。入社後の労務管理においては、日本との文化や習慣の違いによる配慮が必要になります。本書で、1在留資格、2招聘と入国後の手続き、3労務管理について、学びましょう。
在留資格[第2章32ページへ]
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招聘と入国後の手続き[第2章54ページへ]
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労務管理[第4章123ページへ]
そもそも在留資格って何?
「採用したい外国人が、現在海外にいます。在留資格を取得することができれば、どんな職務でも働かせることができるのでしょうか?採用時に注意すべき点はありますか?」
在留資格とは
外国人が日本に入国後に在留できる身分または地位に基づく活動を類型化したもので、日本で就労できるものと、できないものがあります。また、在留資格ごとに日本で行うことのできる活動範囲や期間等があり、それを超えて就労させると、雇用主は「不法就労」の罪に問われてしまいます。採用時には在留カードの確認が重要です。
在留カードの確認[第2章45ページへ]
どのような申請・手続きが必要なの?
「日本で就労できる在留資格を確認したら、どんな申請・手続きが必要になりますか?労働契約はいつ締結すればよいのでしょうか?」
在留資格認定証明書の交付申請・手続きは
就労ビザ取得には、職務内容の詳細を決定した上で、当該外国人との労働契約を締結しておかなければなりません。海外から外国人を日本に招聘する場合は、受け入れ企業の人事担当者等の職員が、就労ビザ取得のために「在留資格認定証明書」の交付申請を行うのが一般的です。
労働契約の締結→就労ビザ取得[第2章56ページへ]
留学生の新卒採用、中途採用の違いは?
「留学生の新卒採用や外国人の中途採用を視野に入れています。外国人を海外から受け入れる場合と何か違うのでしょうか?」
雇用パターンの違い
外国人を雇用するパターンによって、申請・手続きが共通する部分と異なる部分があります。例えば、留学生は在留資格の変更申請が必要になりますし、中途採用した外国人が勤務先を退職した際は、活動機関に関する届け出手続き等をしておく必要があります。外国人本人が行う手続きもありますが、事業主側でも確認しておくとよいでしょう。
よくある雇用パターン5
・外国人を日本に招聘したい
・外国人留学生を新卒採用したい
・日本で就労中の外国人を中途採用したい
・外国人をアルバイト・パートとして雇用したい
・外国人技能実習生を受け入れたい
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[第3章69ページへ]
労務管理は日本人とすべて同じ?
「外国人にも日本の労働基準法が適用されるということですが、労務管理について、日本人とすべて同じであればよいでしょうか?」
外国人労働者の労務管理
日本人と同様、法令を遵守した労務管理が求められる一方、特別な配慮も必要です。例えば、日本語教育の実施、職務内容・待遇、就業規則や社会保険の説明など、日本人には当たり前なことでも、外国人には分からないこともあります。十分なコミュニケーションを取り、外国人労働者の理解を得ることが大切です。
日本語教育、就業規則、社会保険[第4章123ページへ]
CONTENTS
第1章 外国人雇用とは
1 今、なぜ外国人雇用なのか
1:外国人労働者数は過去最高に
2:企業における雇用状況
[1]外国人を雇用する事業所
[2]外国人労働者の従事する産業
[3]外国人労働者の在留資格
[4]外国人労働者の国籍
3:外国人労働者とは
2 入管法の改正(2019年4月1日施行)
3 外国人雇用のポイント
第2章 外国人雇用の基本知識
1 在留資格
1:在留資格
2:在留期間
3:不法就労で事業主も処罰の対象に
4:就労に制限がない外国人
[1]就労に制限がない在留資格
[2]就労の制限がない法的地位
(1)特別永住者
(2)在日米軍の家族
5:一部就労制限がある外国人
[1]在留資格に基づく就労活動のみ可能
[2]指定書記載機関において在留資格に基づく就労活動のみ可能
[3]指定書により指定された就労活動のみ可能
6:就労活動ができない外国人
7: 在留資格・法的地位の確認方法
[1]在留カード
(1)在留資格(2)就労制限の有無(3)資格外活動許可欄(4)在留期間(満了日)
[2]パスポート
[3]特別永住者
[4]在日米軍家族
8: 2019年4月の在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の新設
2 就労を目的とした外国人の招聘と入国後の手続き
1:上陸の条件
[1]在留資格への該当性と上陸許可基準への適合性の確認
[2]在留期間への適合
[3]上陸拒否事由への非該当
[4]有効なパスポートとビザの所持
2:在留資格認定証明書の申請から在留カードの交付まで
[1]在留資格認定証明書の申請
[2]在留資格への該当性と上陸許可基準への適合性の確認
[3]帯同家族の確認
[4]提出書類
[5]審査期間
[6]有効期限
[7]在外日本公館でのビザ申請
[8]上陸申請・上陸許可
[9]在留カードの交付
(1)成田空港、羽田空港、中部空港、関西空港、新千歳空港、広島空港、福岡空港からの上陸
(2)その他の空港からの上陸
3:入国後の手続き
[1]住居地の届け出・住民登録
(1)成田空港、羽田空港、中部空港、関西空港、新千歳空港、広島空港、福岡空港から上陸した中長期在留者
(2)その他の空港から上陸した中長期在留者
[2]在留カードの記載内容に変更が生じた場合の届け出
(1)住居地(2)住居地以外
[3]再入国許可
(1)みなし再入国許可(2)再入国許可
[4]在留期間を延長するときの届け出:在留期間更新許可
[5]日本での活動内容を変更するときの届け出:
在留資格变更許可申請
第3章 雇用パターン別 必要な確認事項と手続き
1外国人を日本に招聘したい
1:募集
[1]職位・職種
[2]給与
[3]在留資格の検討
(1)在留資格「経営・管理」
(2)在留資格「企業内転勤」
(3)在留資格「技術・人文知識・国際業務」
(4)在留資格「高度専門職」
[4]帯同家族の確認
2:採用・内定、受け入れの準備
[1]就労ビザの取得を前提とした契約
[2]在留資格認定証明書交付申請
3:入社後~住民登録、在留期間更新許可申請(本人・帯同家族)
2 外国人留学生を新卒採用したい
1:募集
[1]職種・学歴要件
[2]給与
[3]在留資格の確認
2:採用・内定、受け入れの準備
[1]入国管理局の変更許可を前提とした契約
[2]在留資格変更許可申請
[3]帯同家族の在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請
3:入社後~在留期間更新許可申請(本人・帯同家族)~
4:ミスマッチを避けるために~インターンシップ〜
5:留学生のインターンシップと入国管理手続き
3 日本で就労中の外国人を中途採用したい
1:募集
2:採用・内定、受け入れの準備
[1]入国管理局の変更許可を前提とした契約
[2]活動機関に関する届け出、契約機関に関する届け出
[3]在留資格变更許可申請
3:入社後
[1]就労資格証明書交付申請(任意)
[2]在留期間更新許可申請(本人・帯同家族)
4 外国人をアルバイト・パートとして雇用したい
包括許可の資格外活動許可を取得した外国人の場合
1:募集
[1]在留資格の確認
[2]職務内容
[3]労働時間
2:採用・内定、受け入れの準備
[1]パートタイム雇用契約書の締結
[2]資格外活動許可申請3:入社後~在留期間更新許可申請、資格外活動許可申請~
ワーキング・ホリデーで在留する外国人の場合
1:募集
[1]在留資格の確認
[2]職務内容
[3]労働時間
2:採用・内定、入社後
[1]パートタイム雇用契約書の締結
[2]在留期間満了日までの雇用終了
5外国人技能実習生を受け入れたい
第4章 労務管理の基本と実務
1募集基本解説実務解説
1:募集方法
[1]職務内容の明確化
[2]採用計画
2:募集内容の決定
[1]対象
[2]手段
3:労働条件の検討
[1]募集事項の明示
[2]外国人労働者の差別禁止
[3]文化慣習等への配慮
4:募集開始
[1]ハローワークの利用
[2]募集手段ごとの工夫
[3]問い合わせへの対応
2 選考・面接
基本解説
実務解説
1:選考
[1]履歴書
[2]面接シート
[3]試験
2:評価
[1]公平な採用
[2]面接での評価
[3]客観的な指標の確認
[4]職場への適応
Q&A:在留カードで確認すべき点
Q&A:ビザの取得や在留資格の変更を行う場合の所要期間
Q&A:在留資格で就業可能か定かでない場合
3 受け入れ準備
基本解説
実務解説
1:健康診断の実施
[1]健康診断実施義務
[2]受診の際の配慮
2:労働条件の説明
[1]労働条件の説明
[2]試用期間
[3]時間外労働・休日労働
[4]契約の更新
3:住居の確保、研修等の職場への受け入れ準備
[1]住居
Q&A:社宅での話し声がうるさい
[2]旅費
[3]生活関連(家族など)
[4]研修、
4:行政関係等の手続き
[1]住民登録
[2]銀行口座開設
5:社内での受け入れ教育
[1]社内の受け入れ体制
[2]指導担当者の教育
6:助成金
[1]雇用調整助成金
[2]トライアル雇用助成金
[3]その他の助成金
Q&A:外国人労働者の処遇ルール
Q&A:入社時の研修受講拒否
4 入社後の労務管理
基本解説
実務解說
1:就業規則および諸規定の作成と周知
[1]就業規則の作成
[2]就業規則の周知
Q&A:母国語での就業規則は必要か
Q&A:就業規則について「聞いていない」と言われた
2:労働保険・社会保険の手続き
[1]労働保険(雇用保険・労災保険)
[2]社会保険(健康保険・厚生年金保険)
3:外国人雇用状況の届け出
4:給与
[1]給与
[2]税金
5:継続的な教育・研修
[1]日本語および日本文化に関する教育
[2]職務に関する研修
6:心のケア、安全配慮義務
[1]環境への適応、
[2]安全配慮義務
7:ハラスメントの防止
[1]ハラスメント
[2]相談、対応
Q&A:ハラスメントへの対応策
8:受け入れる企業側の意識
9:評価と処遇
[1]公平な評価
[2]配慮とフォロー策
[3]評価後の処遇
10:外国人労働者の雇用労務責任者の選任
11:安全衛生教育
[1]安全衛生教育の理解
[2]身体の安全または衛生に関する教育
[3]労働災害防止:
Q&A:分かりやすい掲示とは
12:健康診断の実施等
[1]健康診断の実施
[2]健康指導、健康相談とは
[3]労働安全衛生法等関係法令の周知
13:休職
[1]休職制度
[2]休職時の取り扱い
Q&A:休職制度の設計
Q&A:休職からの復職
5 退職・解雇
基本解説
実務解説
1:留意事項
2:退職
[1]就業規則の定め
[2]定年退職
3:解雇
[1]就業規則の定め
[2]懲戒解雇
[3]解雇予告
Q&A:解雇予告手当の支給
[4]再就職支援
4:退職時の手続き
[1]退職証明書
[2]離職時の雇用保険手続き
[3]離職時の外国人雇用状況の届け出
[4]厚生年金保険の脱退一時金
[5]住居、備品等の取り扱い
[6]住民税の支払い
[7]退職金の支払い
[8]退職所得の受給に関する
[9]退職後の連絡
[10]退職後の競業避止義務等
Q&A:退職後の競業行為
第5章 外国人労働者をめぐるトラブルQ&A
Q1:外国人労働者の本採用拒否
Q2:プロジェクトが軌道に乗った後の雇止め
Q3:入社前研修への参加拒否
Q4:失踪した外国人労働者の社宅
Q5:職場帰りの事故.
Q6:セクハラ相談への対応
Q7:在留カードの盗難
Q6:一時出国中のパスポートと在留カードの紛失
Q9:就労ビザの更新忘れ
Q10:新たな部署で仕事をする場合の在留資格
Q11:国内転職のため退職する場合の会社の手続き
Q12:同性婚による配偶者の在留資格
Q13:在留資格「家族滞在」の高校生の採用
Q14:永住許可申請のための身元保証
Q15:在留カードの真偽を確かめる方法
Q16:仲介業者への依頼
Q17:残業代の支払い請求
Q18:給与制度の見直しに伴う賃金の減額
Q19:転職した元従業員による機密情報の漏えい
Q20:労働審判
付録英文雇用契約書(和訳付き)
凡例
本書における主な法令名の略称は以下のとおり。
・出入国管理及び難民認定法⇒入管法
・外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律⇒技能実習法
・出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令⇒上陸基準省令
・出入国管理及び難民認定法別表第1の2の表の高度専門職の項の下欄の基準を定める省令⇒高度専門職省令
・出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規定に基づき同法別表第1の5の表の下欄に掲げる活動を定める件⇒特定活動告示
・外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針⇒外国人指針
・労働基準法⇒労基法
・労働基準法施行規則⇒労基則
・労働契約法⇒労契法
・労働者災害補償保険法→労災保険法
・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律⇒男女雇用機会均等法
・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律⇒労働者派遣法
・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律⇒労働施策総合推進法
・働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律⇒働き方改革関連法