スペイン語作文の方法 表現編




はじめに

本書は日本人を対象としたスペイン語作文の自習書です.既刊の『スペイン語作文の方法(構文編)』の続編になります.『構文編』では,スペイン語で文を書く際に必要な構文の知識を補強して,スペイン語での作文能力を高めることに主眼を置きました.この『表現編』ではもう一歩進んで,適切な語彙や表現を選択した上でスペイン語の文を書くことを目標にしています.前編と同様にある程度のスペイン語の学習歴がある方を対象にしていますが,初級文法の学習と並行して本書を利用されても,役に立つと思います.一

人でも多くの読者が正確に自分の考えをスペイン語で表現できるようになることを願っています.

著者は長年にわたって勤務校でスペイン語作文の授業を担当しておりますが,受講生からの質問や作文例などが本書の成立に大きく寄与しています.拓殖大学スペイン語学科の卒業生および在学生のみなさん,どうもありがとう.君たちがいなければ,作文の参考書を書くことにはならなかったと思います.また,本書の執筆に際して,『構文編』に引き続きスペイン語文を母語話者の観点からチェックしてくださったConcepción Ruiz Tinoco氏とMario García-Page Sánchez氏,CDの録音にご協力いただいたLuis Cebollada氏とYolanda Fernández氏,索引の作成を含め編集の労をとってくださった第三書房の広沢浩一氏に,書面を借りて心からお礼を申し上げます.

2006年 夏
小池和良

本書の使い方

本書の姉妹編である『スペイン語作文の方法(構文編)』では動詞を中心にして,スペイン語の基本的な165の構文を学習しました.『構文編』では,日本語をスペイン語に翻訳する際に,文法や構文の誤りのない文を作ることを目標に掲げました.『構文編』で述べたように,スペイン語の文法規則に従った構文を使わなければ,スペイン語として意味の通じる文を作ることはできません.その意味で正しい構文を習得することは不可欠です.しかし,いくら文法的に正しい構文を駆使してスペイン語を書いても,正確に自分の意図が伝達できないことがあります.文法的に正しい文を作ったのに,言いたいことがうまく言えないという経験を外国語の学習者の大半が持っているはずです.これは語彙の選択のミスに起因することが多いのです.文脈に応じた適切な語彙を使わなければ,日本語の意味するところは伝わりませんし,また誤解を招いたりします.外国語で作文するむずかしさは,状況に応じて適切な語彙を選択することの困難さにあります.母語の影響で誤った語を使ってしまうこともありますし,スペイン語の語のもつ意味を正しく理解していないために生じるミスもあります.ところが,適切な語彙を選定するためには,豊富な語彙力や語感が要求されるのです.しかもこれは短期間で習得できるものではありません.文法規則の数と比べたら,辞書に載っている単語は廃大な数になります.そして一つの意味だけをもつ語は意外と少なく,二つ以上の意味をもつ語(多義語)のほうが多いのです.
この『表現編』では,まず適切な語彙を選択する力をつけて(第1章~第3章),様々な概念をスペイン語で表す能力をつける(第4章~第7章)ことに主眼をおいた練習をします.そして最終章(第8章)ではスペイン語の表現力を向上させるために必要ないくつかの注意点を学びます.

さて,本書の使い方ですが,『構文編』の場合と同じく,ヒントを参考にして,なるべく辞書の助けをかりずに課題文をスペイン語に訳してみてください.そして自分の訳を解答例と比べて,ミスをチェックし,できれば課題文の解答例を付録のCDを聞いて暗記してください.次に練習問題(合計417題あります)を同じ要領で訳してみてください.ただ,本書の利用法はこれだけはありません.課題文が難しいと感じる人,あるいは解説を読むのが面倒な人は,解答例のCDを繰り返し聞いてから,課題文に挑戦されてもかまいません.また,第1章から始めるのではなく,どの章から始めてもかまいません.ただ,第1章で扱っている知識はスペイン語を書く際にとても重要ですので,一度はじっくり読んでください.
本書の139の課題文はCDに収めてありますので,繰り返し聞いて,実際に声に出して音読してみてください.作文の教材にCDによる音の情報をつけるのは,耳から情報を得ることが外国語の習得には不可欠であるという理由によります.聞き流すだけでもかまいませんから,何度もCDを聞いて139の課題文をスペイン語で言えるようにしてください.音読することによって,また繰り返し聞くことによって無意識のうちにスペイン語の表現が身についていくはずです.

翻訳のプロセス
単純に考えると,日本語をスペイン語に訳すには「日本文→和西辞典で不明な単語を調べる→スペイン文」という手順に従えばいいようですが,そんなに話しは簡単ではありません.日本語をスペイン語に訳すには
1) 日本語の意味を確認する.
2) 構文を決定する.
3) 適切な語彙や表現を選定する.
4) 性・数一致などの文法事項を確認する.
というプロセスが必要になってきます.

1) 日本語をスペイン語に翻訳する際の最初のプロセスは,日本語で書かれている内容を正確に理解するということです.言うまでもないことですが,各単語を和西辞典で調べて,それに対応するスペイン語に置き換えれば,スペイン語として理解可能な文ができ上がるわけではありません.まずその文脈における日本文の意味をよく理解してください.個々の語や語句の意味をばらばらに確認するのではなくて,文の中で用いられている意味を確認してください.この確認を怠ると正確な翻訳はできません.

2) 日本語の意味を確認した後,実際の翻訳の作業に移ります.まず構文の決定です.日本語で書かれた内容を伝達するのに適切なスペイン語の構文を選択しなければなりません.『構文編』で学習した知識がこの時に役立ちますスペイン語の構文のストックが豊富にあれば,適切な構文を選択できる可能性が高くなります.この時に元の日本語をどのように加工したら,スペイン語に訳すことができるかを考えてください.また,修飾語句を取り払って日本語で書かれた文を簡素化して検討することも必要です.

3) 次のプロセスは,どのような語彙や表現を使うかということです.構文の決定と語彙の選択は密接な関係にありますので,双方の知識が増えていくと,相乗効果でスペイン語の作文能力が磨かれます.さて,適切な構文で文を作っても,語彙の選択を誤ると内容が正しく伝わりません.語彙力をふだんから養っておく必要があるのはこのためです.語彙的な誤りや発想の違いによる誤りを避けるには,スペイン語の母語話者がもっている語感や発想を獲得する必要があります.より多くの外国語の表現を覚えて,適切にそれを取り出す訓練をすることです.語彙を増やしたり語感を磨くには,スペイン語に接する時間を増やす以外に方法はありません.しかしただスペイン語を読めば進歩が望めるわけではありません.スペイン語で書く能力を養うためには,スペイン語で書かれた文を作文の観点から観察するということが必要です.スペイン語で書かれた文章から,作文に役立つと思われる構文・語彙・表現などを自分で拾ってまとめるということも一つの方法だと思います.また単語の意味を独立して記憶するのではなく,より大きな単位である語句に注目することも重要です.各単語がどのような語と結合するのかという語のネットワークを意識するようにしてください.語のネットワークを記憶するという意味では,短文を記憶することはとても有効な学習方法だと言えます.

4) 最後にケアレスミスがないかどうか,書いたスペイン語をチェックします.動詞と前置詞の支配関係や性・数一致などの文法事項を,音読しながら確認してみましょう.音読することによって,スペイン語として不自然な語順や訳が見つかるものです.

小池 和良 (著)
出版社: 第三書房 (2006/9/25)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の使い方

第1章 述部の選択
1. 述部のタイプ
2. 単純述部と複合述部の使い分け
2.1. 意味の相違
2.2. 構造の相違
2.3. 修飾形式の違い
2.4. 文体的な変化

第2章 複合述部
1. 名詞的述部
表現1 (~に)呼びかける [] ◆の述部
表現2 (~を)最優先する [] ◆ 表現3 (~より)優先される[] 表現4 手腕にたけている[] 表現5 高所恐怖症である[] 表現6 (~する)責務がある[] 表現7 全盛を迎える[] ◆ の述部
表現8 用心する [] ◆ の述部
表現9 生活を営む[] ◆ の述部
表現 10 全精力を注ぐ [] ◆ の述部
表現 11 確証がある(ない)[] ◆ の述部
表現 12 衝撃を与える
表現 13 ざっと目を通す[] 表現 14 発展をとげる [] ◆ の述部
表現15 火災に遭う[] 表現 16 (~から)独立する
表現 17 延期される
表現 18 (~という)噂が流れる

2. 形容詞的述部
表現 19 (~したくて)うずうずしている
表現 20 無傷ですむ
表現 21 中立を貫く
表現 22 必要になる
表現 23 明白になる

3. 前置詞句述部
表現24 施行される
表現 25 合意に達する
表現 26 口実にする
表現 27 (~の)支配下にある
表現 28 時代を迎えている
表現 29 流通を開始させる [<poner(se) + 前置詞句>] ◆ <poner(se) + 前置詞句>の述部
表現 30 停電になる
表現 31 競売にかける
◆ <他動詞 + 前置詞句>の述部
表現 32 解明されていない

第3章 コロケーション
1. スペイン語のコロケーション

2. <動詞 + 名詞>のコロケーション
表現 33 役割を果たす
表現 34 身を危険にさらす
表現 35 危機に直面している
表現 36 問題に直面する
表現 37 信号を無視する
表現 38 記録を更新する
表現 39 悪循環を断つ
表現 40 耳をすます
表現 41 クーデターを起こす
表現 42 傲慢な態度をとる
表現 43 銀行引き落としにする
表現 44 結果をもたらす
表現 45 措置を講じる
表現 46 エレベーターに乗る
表現 47 表現
表現 48 関心が高まる
表現 49 潮が引く

3. <名詞 + 形容詞>のコロケーション
表現 50 体が丈夫でない
表現 51 圧倒的多数で
表現 52 大失敗をしでかす
表現 53 確固とした証拠

4. <副詞 + 形容詞><動詞 + 副詞>のコロケーション
表現 54 全く食い違っている
表現 55 悲しいことに〜で有名です
表現 56 正面衝突する

5. 日本語のコロケーションを訳す
表現 57 融通がきかない
表現 58 実験に成功する

第4章 機能表現
表現 59 ~が最新の研究で明らかになった
表現 60 ~する意向である「意志・意図] ◆意志や意図を示す表現
表現 61 希望を抱く「願望・希望・期待] ◆願望・希望・期待の表現
表現 62 ~しなければならない [必要・義務] ◆必要・義務の表現
《コラム》 必要・義務の表現の否定形
表現 63 ~せざるをえない
表現 64 必要以上に心配する
表現 65 ~するのがむずかしい
《コラム》「~するのが困難な・容易な」の訳し方
表現 66 (~する)可能性がある[可能・不可能] ◆可能・不可能の表現
表現 67 発言から推測すると~と考えられる
表現 68 徐々に増加している[進行・継続] ◆進行・継続の表現
表現 69 (~に)似ている[類似] ◆類似の表現
表現 70 (~において)見解が異なる[相違] ◆相違の表現
表現 71 感情に流される「感情表現1] 表現 72 がっかりする[感情表現 2] ◆喜怒哀楽の表現
表現 73 性格を表現する
◆性格の表現
表現 74 お腹が出る[身体特徴] ◆身体特徴
表現 75 ~に両肘をついて[姿勢・動作・しぐさ] ◆身体の動きを示す表現

第5章 数量表現
表現 76 出国者数
表現 77 数億の人々
◆不定の数量
表現 78 貯水率60パーセント
◆パーセント
表現 79 投票率[率・指数] ◆率・指数
表現 80 3分の2の日本人 [分数] ◆分数
表現 81 毎月 0.2 パーセントずつ [小数] 表現 82 65 歳以上の人口[~以上~以下・~未満] ◆以上・以下・未満
表現 83 4の2乗 [累乗] 表現 84 5人に1人の若者[~につき・〜あたり] ◆「~につき」「~あたり」
表現 85 心拍数が毎分 33 回 [回数] 表現 86 21年連続で[連続] 表現 87 4倍 [倍数] ◆倍数の表現
表現 88 賛成票84で採択する
表現 89 世界第2位である[序数1] ◆序数
◆序数を使った表現(順序・順位)
表現 90 60回目の原爆記念日 [序数2] 表現 91 アルファベット順に
表現 92 世界で初めて[初めて・最初の] ◆「初めて」「最初の」
表現 93平均 1.34 人 [平均] ◆平均を示す表現
表現94 最大の輸出国[最大・最小・最高・最低・最悪] ◆最大・最小・最高・最低・最悪
表現 95 最低気温は~だった[気温] ◆気温の表現
◆気象の表現
表現 96 時速18キロ [速度] 表現 97 8対1の比率で[比例・比率・割合] ◆比例・比率・割合を示す表現
表現 98 半減する[増減] ◆増減の表現
表現 99 〜する消費者も少なくない

第6章 時間・日付の表現
表現 100 午後5時から9時の間に[時間帯・一定の期間] ◆時間帯や一定の期間を示す表現
◆一日の時間
表現 101 これから 20 年間に
表現 102 今年の上半期 [期間] ◆期間を示す語句
表現 103 今月中に
表現 104 今年になって
表現 105 10年ぶりに
表現 106 結婚して50年になる
表現 107 ~したのは 12 年前です
表現 108 〜から3日後まで
表現 109 1990年 11月3日に[年月日・日付・曜日] ◆日付・曜日・月・季節の表現
表現 110 毎月第三月曜日
表現 111 48歳で[年齢] ◆年齢の表現

第7章 幾何学的表現
表現 112 長さ 25 メートル [寸法] ◆大きさ
表現 113 6階建て以上の建築物 [高さ] 表現 114 この川は浅い [深い・浅い] 表現 115 周囲の長さ約235 キロ [外周] 表現 116 身長 170.7 センチである[身長・体重・胸囲] 表現 117 最大 40 トンの荷重 [重さ] 表現 118 タバコの形をした[形状] ◆形の表現 (図形)
表現 119 総面積は 788 平方キロメートルである[面積] 表現 120 14億立方キロメートル [容積・体積] 表現 121 人口密度は~である[人口密度など] 表現 122 路地の突き当たりに [位置関係] ◆位置を示す表現
表現 123 東京の南方海上に[東西南北] ◆東西南北
表現 124 東経141度21分に[緯度・経度・海抜など] 表現 125 東京と札幌間の距離は[距離] 表現 126 反時計回りに[方向] 《コラム》 色の表現と性数一致

第8章 表現力の向上をめざして
表現 127 (~と)矛盾する
表現 128 詰めかける
表現 129 目標の達成はほど遠い
表現 130 アルコール飲料を飲み過ぎると~だ
表現 131 見逃さない
表現 132 本気で〜する
表現 133 (~に)間に合う
表現 134 (~の)途中にある
表現 135 テロの標的となる
表現 136 (…の)ついでに~した
表現 137 試合後の記者会見で
《コラム》 関係節か過去分詞か?
表現 138 深刻な問題である
◆ser の文体的バリエーションとして使われる動詞
表現 139 (~の)署名がある

練習問題解答例

スペイン語索引
日本語索引

小池 和良 (著)
出版社: 第三書房 (2006/9/25)、出典:出版社HP