問題を解いて実力をチェック IoTの問題集




序章
IoTの本質と価値

結局IoTで何ができるのか

私は2016年ごろから日経BP社の「技術者塾」や日本経済新聞社の「テクノロジーインパクト」などさまざまな所でIoT(Internet of Things)に関する講演や講座を行ってきました。そこでたくさんの人から「IoTで何ができるのか?」という質問を受けました。

その度に私はこう回答しています。「まず、IoTで何ができるのかという考えを捨てることが大切です」と。IoTは技術です。技術がビジネスを生み出すのではありません。人がビジネスを創造するのです。従って、人がビジネスと新しい価値を創造し、そこにIoTをどう活用していくのかを考えなければなりません。
とはいえ、何もないところから創造するのはとても難しいことです。いくつかの有名な事例を挙げましょう。旭酒造(本社山口県岩国市)は、IoTなどで収集したデータに基づいて造った日本酒「獺祭」で、これまでにない高い品質の酒造りに成功しました。売り上げも大きく伸ばしています。IoTを使って作業の効率を改善すると同時に、新しい品質を創り出す事例です。
旭鉄工(本社愛知県碧南市)は、IoTデバイス(制御装置)である「Arduino」を使って生産現場の工程状況の「見える化」と効率改善を実現。これにより、残業代を大幅に減らしつつ、「働き方改革」にも成功しています。IoTは、新しい価値を創り出すと同時に、働き方改革という現代における最も大きな課題を解決する可能性を秘めています。
既に日本でもこうした理想的なIoTの活用事例は生まれているのです。逆に見れば、まだIoTを活用できていない企業は、これらの企業に大きく後れを取っているといえます。

世界のビジネススピードはどんどん進化している

IoTや人工知能(AI)といった新技術を取り入れる際にはさまざまな困難があります。しかし、だからといって世界の優秀な企業は待ってはくれません。
シンガポールは「スマートネーション構想」でIoTを活用した街づくりを採用し、ドイツでは「インダストリー4.0」の考え方に基づいてバリューチェーンの最適化を目指しています。米国では民間主導でさまざまなIoTプロジェクトが着実に進んでいます。中国では生産技術が急速に進化し、大量生産と同時に品質の向上を実現しようとしています。
3Dプリンターでクルマの量産化が始まり、スマートグリッドによって途上国での電力安定化と再生エネルギーの活用が進んでいます。日本でも、データに基づいた農作物の育成・加工を行うことで、これまでにない品質の食べ物を量産する例が出てきました。世界は待ってはくれません。前に進むしかないのです。

IoTは本当に価値があるのか

IoTは良い意味で幻滅期に差し掛かっているといえます。半導体の小型化や蓄電池の効率化、3Dプリンターの登場など、急速に進む技術進化の中で大きな期待を背負ったIoTですが、なかなか思うようには導入できていない企業が多くあるためです。
IoTが十分に浸透し切れていない理由は、企業ごとにいくつかの理由があると思います。その理由で共通しているのは、「積極性の欠如」と「改善への理解欠如」、「人材教育の不足」です。
積極性の欠如とは、そもそもやる気がないという意味です。IoTという新しい技術を取り入れることは、チャレンジです。チャレンジにはリスクが少なからず伴います。そのリスクを恐れて「石橋を叩いて渡らない」というのがこれに該当します。
改善への理解欠如とは、プロジェクトを小さく始めて改善を繰り返しながら理想の形を創り出すという考え方が理解できないことです。IoTでは現場への影響を考慮しつつ、現場の声を十分に聞き入れる必要があります。加えて、いきなり大きな規模で始めようとすると、どうしても実施に慎重になって企画の段階から前に進みません。リーン開発の考え方のように、技術進化やビジネススピードが高速化した現在においては「継続的な改善活動」を通じて徐々にブラッシュアップしていくという考え方が主流です。
ただ、前述の2つは「気持ち」と「考え方」の問題なので、トップダウンで意識改革を進めれば解決可能です。そう考えると、残る人材教育の不足こそが、企業単体では解決しにくい大きな問題といえるでしょう。

IoTにおける人材教育の不足

IoTは「第4次産業革命」のきっかけとなる技術として大きな注目を集めました。同時に、企業にとっては大きな戸惑いがありました。
IoTは新しいビジネスや生産現場の効率改善に直結し、大きな価値を生み出すという期待があります。しかし、その一方で技術に関して非常に幅広い知識が必要となります。加えて、IoTはビジネスと密接に深く関わるため、技術者だけではなく、それを採用する企業や企画に携わる経営者層にもIoTに関する知見と理解が必要です。
つまり、多くの人が、日々の業務をこなしながらIoTという新しく幅広い知識を学習しなければならないのです。この問題はいまだに解決できていません。この大きな問題を解決する助けになればと思い、2017年に書籍『IoTの全てを網羅した決定版IoTの教科書』(日経BP社)を執筆しました。IoTという幅広い技術を1冊の本にまとめるのに非常に苦労しました。しかし、苦労の甲斐あって、初心者にも読みやすく、短い時間で体系的にIoTを学べると好評をいただいています。
ただし、学習方法としては教科書を読んで知識を得るだけでは不十分です。加えて、講座を受講した人などから「学んだ内容を本当に理解できているかどうかを確かめるものが欲しい」という要望がありました。教育というのは、授業とテストによって成り立つものです。そのテストに相当する「問題集」がないことは確かに問題でしょう。そこで、日経BP社と協議した結果、本書を出すことになりました。

本書の使い方

本書は、IoTに関する知識や考え方をどこまで理解できているかを確認するための問題集です。解答を間違えても気にする必要はありません。重要なのは、「解説」をしっかり読んで理解することです。
問題は、IoTのプロジェクトを企画・実施するに当たって重要なキーワードや考え方を問うています。各章はその分野のスペシャリストが執筆を担当しており、彼らのノウハウが解説に詰まっています。解説をよく読むことで効率良くポイントを学ぶことができます。間違えた問題は定期的に見直すことで、知識がしっかりと身に付くはずです。
本書は『IoTの教科書』と同じ章立てで作りました。そのため、両方をそろえて学ぶとさらに理解が深まり実力を高めることができます。

監修・執筆
伊本貴士

伊本 貴士 (著, 監修), 末石 吾朗 (著), 江崎 寛康 (著), 森 崇人 (著), 中山 祐輝 (著), 林 憲明 (著)
出版社: 日経BP (2018/6/15)、出典:出版社HP

contents

序章

第1章 戦略とマネジメント
問題1
問題2
問題3
問題4
問題5
問題6
問題7
問題8
問題9
問題10
問題11
問題12
問題13
問題14
問題15
問題16
解説

第2章 産業システム
問題17
問題18
問題19
問題20
問題21
問題22
問題23
問題24
問題25
問題26
問題27
問題28
問題29
問題30
解説

第3章 法律
問題31
問題32
問題33
問題34
問題35
問題36
問題37
解説

第4章 ネットワーク
問題38
問題39
問題40
問題41
問題42
問題43
問題44
問題45
問題46
問題47
問題48
問題49
問題50
問題51
問題52
問題53
問題54
問題55
問題56
問題57
問題58
解説

第5章 デバイス
問題59
問題60
問題61
問題62
問題63
問題64
問題65
問題66
問題67
問題68
問題69
問題70
問題71
問題72
問題73
問題74
問題75
問題76
解説

第6章 プラットフォーム
問題77
問題78
問題79
問題80
問題81
問題82
問題83
問題84
問題85
問題86
問題87
問題88
問題89
解説

第7章 データ分析
問題90
問題91
問題92
問題93
問題94
問題95
問題96
問題97
問題98
問題99
問題100
問題101
問題102
問題103
問題104
問題105
問題106
問題107
問題108
問題109
問題110
問題111
問題112
解説

第8章 セキュリティー
問題113
問題114
問題115
問題116
問題117
問題118
問題119
問題120
問題121
問題122
問題123
問題124
問題125
問題126
問題127
問題128
問題129
問題130
解説

謝辞
answer

伊本 貴士 (著, 監修), 末石 吾朗 (著), 江崎 寛康 (著), 森 崇人 (著), 中山 祐輝 (著), 林 憲明 (著)
出版社: 日経BP (2018/6/15)、出典:出版社HP